【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
前回、最強のスナイパー・レディナガンを独力で退けた直哉。
圧倒的な勝利の裏側で、彼が感じていたのは「かつての自分」にはなかったはずの、確かな「死の恐怖」でした。
甚爾との対話を経て、直哉の「設計」はどう進化したのか。
そして、原作の主役である緑谷出久の機会を奪ったことに対する、彼なりの冷徹な自己分析。
戦いの余韻に浸りながら、直哉がノートに刻む「二つの設計」の正体とは。
A組の仲間たちとの、少しだけ距離の縮まった対話と共にお送りします。
キャラの語彙、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。
評価付与、感想は直哉の強さがより際立ちます!投射呪法が強くなっていきますよ!
「昨夜23:47、空写にてレディ・ナガンの気配を南南東方向に感知。緑谷出久との接触を防ぐ目的で、相澤消太の許可の下、単独出撃。00:13、交戦開始。00:18、目標を昏倒。安全な場所へ移動させた後、撤退。負傷:左耳にかすり傷(反転術式にて完治済み)。」
簡潔を通り越して、他者の介在を拒絶するような報告だった。直哉はそれを相澤の机の上に無造作に置いた。主人はまだ来ていない。
(……わざわざ報告書まで書かせるなんて、野暮な男や。死なずに帰ったんやから、それでええやろ)
廊下を歩きながら、直哉は昨夜の戦闘を頭の中で反芻した。
(弾道は、すべて読み切れた)
(零駒で詰め、空虚呪法で固定し、極ノ番で終わらせた)
(完璧な、設計通りの勝利や)
(……やけど。設計通りやったのに、一発だけ「響いた」感覚が残っとるわ)
至近距離から直接向けられた、あの漆黒の銃口。空写で弾道は見えていた。躱(かわ)せるという確信は、論理のレイヤーに存在していた。だが、それとは別の身体の奥底から、「当たれば終わる」という暴力的な死の予感がせり上がってきたのだ。
(あの感触は、甚爾くんの時と同じ種類やった)
夢の中で幾度となく味わわされた絶望。設計の正しさなど、理不尽な死の前には無意味だと突きつける身体レベルの認識。
(せやけど、手は止まらへんかった)
それが、昨夜手に入れた最も価値ある「検証結果」だった。
朝食の席、不意に隣に切島鋭児郎が座ってきた。
「禪院、昨夜どこか行ってたろ」
直哉の箸が、わずかに止まった。
「……なんで分かったんや?」
「朝の空写の時間がいつもと違った。気配の感じがさ」
「鋭いな、切島くん」
(……どんだけ俺を観察しとるんや。気持ちの悪い男やな)
「たまに分かるんだよ、なんとなく」
切島は無頓着に箸を動かしながら続けた。
「で、何かあったのか」
「ちょっと出た。もう終わったことや」
「怪我は?」
「特に無いし、平気やよ」
(……うるさい奴やな)
切島は少しの間を置いてから、「そうか」とだけ言った。それ以上、野暮に踏み込んでくることはなかった。直哉はその「察しの良さ」に、内心で毒を吐く手を止める。
しばらく二人で無言のまま、安っぽい食堂の飯を口に運んだ。
「——なあ、切島くん」
「ん?」
「怖い、という感情を戦闘中に抱くのは、普通のことやと思うか?」
切島が少し、動きを止めて考えた。
「そりゃそうだろ。怖くない方がおかしいんじゃないか」
「俺は今まで、怖さを感じる前に設計で処理しとった。でも昨夜は、処理の前に『それ』が来たんや」
「それって、問題なのか?」
直哉は、目の前の凡庸な味噌汁の湯気を見つめた。
「問題というより——確認やな。怖さが来ても、手が止まらへんかった。それが分かったから、むしろ収穫やった」
切島が、直哉の横顔をじっと見た。
「……お前って、自分のことを実験台にしてるよな、たまに」
「実験やない、設計の検証や」
「同じじゃねえか」
「……まあ、似たようなもんか」
切島が、快活に笑った。
「でも——怖かったんだろ。それでいいんだよ、別に」
直哉は、扇子を開こうとした手を止めた。
「……そうやな」
(……「それでいい」なんて、出来損ないに言われる筋合いはないんやけどな)
そう毒づく代わりに、直哉は短く同意した。不思議と、その言葉を跳ね除けるほどの不快感は湧いてこなかった。
昼休み。
屋上で「空写」を広げながら、直哉は昨夜の残滓を頭の中で弄んでいた。
緑谷出久は、昨夜も南南東に向かっていた。レディ・ナガンの潜伏先。だが、直哉が先に「処理」を終えたため、緑谷が到着した時には、そこには虚無しか残っていなかったはずだ。
(……緑谷くん、どこで嗅ぎつけたんや。空写もどきの勘か、あるいは別の泥臭いルートか。原作の知識から察するに…歴代の継承者の個性?やったっけな…どっちにしろ、不気味な奴やな)
同じ方向へ向かっていても、その動機は真逆だ。
直哉の前世の記憶が告げている。緑谷出久という男は、「敵を倒す」ことよりも「敵をも含めて救う」という、反吐が出るほど甘ったるい設計で動く。
(……俺がナガンを昏倒させたことで、緑谷くんの『救済ごっこ』の機会を奪ったわけやな。設計を壊された緑谷くんは、今頃どんな顔して走っとるんやろ。……ま、知ったこっちゃないけどな)
「設計として正しい選択」と「誰かの機会を奪うこと」。直哉にとって、それは矛盾せず両立する。だが、その事実が胸の奥にわずかな不快感を残した。直哉はその問いを思考の隅に保留し、ノートにペンを走らせた。
「緑谷くんの設計と俺の設計の比較:」
緑谷出久は、感情を燃料にする。届かなければならないという強迫観念が、設計の限界を超えた加速を生む。あの無様な必死さは、論理だけでは出力できない。
俺は、設計を動力にする。感情はゴミ箱に入れるか、設計の後に置く。昨夜の戦闘が証明した通り、「怖い」というノイズが走っても、俺の術式(システム)に狂いはなかった。
この差は、土台の有無である。俺には禪院家で積み上げた前世の論理がある。緑谷出久は、毎回その場で自分を燃やして出力を作る。効率が悪く大きな差が出る要因となっている。
ペンを止める。
(……どっちが強いかやなくて、どっちが今の局面(ゲーム)に向いとるか。昨夜のナガン相手なら、俺の勝ちや。……けど、相手が原作のスターアンドストライプみたいな規格外の化け物やったら?)
直哉は少しだけ不快そうに目を細め、一筆書き加えた。
「設計の優劣は局面で変わる。今は俺の設計を磨くことだけを考えればええ。」
午後の廊下。不意に麗日お茶子とすれ違った。
「あ、禪院くん」
「……お茶子ちゃん」
「なんか、今日の顔はいつもと違う気がするんやけど……何かあった?」
直哉は扇子をパチンと閉じ、適当な嘘を並べる。
「昨夜、少しばかり夜遊びに出ただけや」
「……大丈夫やった? 怪我とかは……」
「大丈夫や。かすり傷があったけど、反転術式ですぐ治したさかい。跡も残らへん」
「そっか……」
麗日は、直哉の瞳の奥を覗き込むようにじっと見つめた。
「禪院くんって、一人で抱え込みすぎるところあるよね。……でも、こうやって話してくれるから、うちは安心できるかなって」
直哉は言葉を失った。
(……「抱え込む」? 勘違いも甚だしいわ。単に君らに話しても理解できへんから言わんだけやろ)
そう毒づくつもりが、口から出たのは別の言葉だった。
「……俺は、話すのが得意やないんやけどな」
「得意じゃなくてもいいんだよ。うちに向かって話してくれてる、それが嬉しいんやから」
麗日はふわりと微笑み、そのまま去っていった。
(……「ここにいる」という確認を、ここの連中はしたがるな。切島くんも、この女も。……俺は、確認される側の人間になった、ということか)
それが何を意味するのか、直哉にはまだ理解できなかった。だが、少なくともその確認は、前世の禪院家で受けたどの評価よりも、嫌な気はしなかった。
その夜。
直哉はいつものようにノートを開いた。
緑谷追跡記録。今夜の緑谷は北。生存確認。
(……まだ走っとるわ。アホな子やな)
ここ最近の状況・整理:
①戦闘の総括。甚爾くんとの戦いを経て、俺は「死」のノイズすら設計に組み込めるようになった。
②緑谷くんの機会を潰した件。正しい選択に犠牲はつきものである。保留。
③二つの設計の優劣。感情駆動と論理駆動。局面への適合性を検証し続ける必要がある。
④「ここにいる」ことの確認。……ま、悪くはない。
扇子で顔を仰ぎ、直哉は静かに息を吐いた。
「……領域への足掛かりの訓練、0.2秒の壁……。やることは山積みやな」
電気を消し、闇の中で思考を閉じる。明日の自分が、さらに完成された設計図を描けるように。
ご覧いただきありがとうございました!
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派手な戦闘はありませんでしたが、直哉にとって非常に重要な「事後整理」の回でした。
切島くんやお茶子ちゃんから「確認される」ことで、自分が独りではないことを自覚しつつも、「それが何かはまだ分からへん」と突き放すあたりが、いかにも直哉らしいなと感じていま
また、直哉がデクの「感情駆動の設計」を認めつつ、自分の「論理駆動の設計」と比較するシーンは、今後の二人の関係性(あるいは衝突)を暗示する重要なポイントとして書きました。
**「切島くんの鋭さに驚いた!」「直哉が少しずつ優しく(?)なってる……?」**など、皆さんの感想や、この二人の設計の比較についてのご意見をぜひ【感想欄】や【評価】で聞かせていただけると嬉しいです!