【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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第5話:USJ編「USJ、本物の殺意」

 バスの中は賑やかだった。

 

 USJへ向かうバスの車内、A組の面々がそれぞれ喋っている。切島が「実践訓練楽しみすぎる!」と言い、上鳴が「救助訓練か、地味そうだな」と言い、芦戸が「でも本格的な施設らしいよ?」と言い返している。

 

 直哉は窓際の席で腕を組み、外の景色を眺めていた。

 

 隣に蛙吹が座っていた。

 

「禪院ちゃんって、バスでも喋らないのね」

 

「喋る必要がない時は喋らん」

 

「合理的ね」

 

「そうや」

 

「今日の訓練、楽しみ?」

 

 直哉は少し間を置いた。

 

「……まあ、な」

 

「意外。楽しみなのね」

 

「救助訓練自体には興味はない。ただ、面白いことがあるかもしれんと思っとる」

 

「面白いこと?」

 

「それだけや」

 

 蛙吹がそれ以上聞いてこなかった。直哉は再び窓の外に視線を戻した。

 

(……今日、来る。大体そういう流れになる。心の準備は要らんけど、確認だけはしておく)

 

 黒霧。死柄木弔。そして脳無。

 

 三つの脅威を、直哉はもう一度頭の中で整理した。

 

 

USJに到着した。

 

 施設の入口に、宇宙服のような格好をした人物が待っていた。

 

「諸君を歓迎します!! 私が本日の担当教師、13号です!!」

 

「13号だ!!」麗日が興奮した。

 

 直哉は13号を正面から見た。宇宙服型のコスチューム。その内側に何があるかは、直哉の知識の中にある。

 

(……ブラックホール個性や。指先から全てを吸い込む。制御を誤れば人を殺す。それをこの人は知っとる)

 

 13号が説明を始めた。

 

「今日は諸君に、救助ヒーローとしての基礎を学んでもらいます!!だがその前に、一つ話をさせてほしい!!」

 

「僕の個性はブラックホール。指先から全てを吸い込む。どんな物質でも細かく分解して吸収する、一見強力に見える個性だ!!だがこの個性は、使い方を誤れば人を殺す!!僕は過去に何度も、その一歩手前まで来たことがあります!!」

 

「すごい個性だ……」緑谷が呟いた。

 

「個性とは才能だ!!だが才能は、方向を誤れば命を奪う力になる!!だからこそ、君たちにはヒーローとしての在り方を……」

 

 直哉は13号の話を聞きながら、内心でその言葉を受け止めた。

 

(……個性は凶器になる、か。呪術の世界では呪力が凶器になる。同じ話や)

 

(……俺の場合は凶器として使うことを前提にしとる。それがこの世界では問題になるかもしれんけど、俺には関係ない話や。強くなるためなら凶器であってかまわん)

 

 13号の言葉が続く。

 

「……だからこそ、諸君には今日の訓練で、救う力の意味を学んでほしい!!」

 

(……救う力、か)

 

 直哉はその言葉を、ただそのまま受け取った。

 否定もしない。肯定もしない。ただ自分には関係のない言葉として、静かに置いた。

 

 その時だった。

 

 噴水の中央に、渦が生まれた。

 

霧の中から、男が歩いてきた。

 

 くすんだ青い髪。首から手足まで、無数の手が貼り付いている。

 

(……死柄木弔)

 

 直哉はその男を正面から見た。

 

(……弱い)

 

 それが、直哉の第一印象だった。

 

 気配が薄い。殺気はある。だがその殺気は、前世の記憶にある呪詛師や特級呪霊のものとは質が違う。子供が「殺してやる」と叫ぶのと、本物の殺者が無言で踏み込んでくるのでは、まるで別物だ。

 

(……前世の甚爾くんや悟くんの気配を知っとる俺からすれば、こいつの殺気は玩具みたいなもんや)

 

そして死柄木の後ろ、黒霧の奥に、巨大な影があった。

 

(……脳無や。あれが対オールマイト用の存在か)

 

気配の密度が、他の全てのヴィランとは桁が違う。施設全体が、その存在に圧迫されているような感覚。

 

(……これは、正面から受け止めたら終わる。今の俺では)

 

 相澤先生が前に出た。

 

「全員下がれ!!」

 

「先生!!」緑谷が声を上げた。

 

「13号、生徒を頼む!!」

 

 相澤先生が単独でヴィランの群れに突っ込んでいく。直哉はその背中を見送りながら、内心で一言だけ思った。

 

(……無茶やけど、あの人はそれができる)

 

 13号が生徒たちを出口へ誘導し始めた時、黒霧が動いた。

 直哉は投射呪法で黒霧の動きを追った。

 

(……転送の準備をしとる。クラスを散り散りにする気や)

 

「みんな逃げ——!!」

 

 緑谷が叫んだ次の瞬間、直哉は黒い渦の中に引き込まれた。

 

 気がついた時、直哉は廃墟のような区画に一人で立っていた。

 

 周囲に瓦礫。崩れかけた建物。薄暗い空間。

 

 直哉は静かに呪力を全身に巡らせながら、周囲を確認した。

 

(……転送された。各区画に散り散りや。他のやつらは別の場所におるはずや)

 

 廃墟の中から人影が現れた。武器を持ったもの、個性を発動しているもの、複数のヴィランだ。

 

「一人か」

 

「ガキじゃねえか」

 

「やっちまえ」

 

 直哉は彼らを見て、無表情のまま言った。

 

「……ご苦労なことや」

 

「あ?」

 

「こんな廃墟でガキを囲んで。ヴィランいうもんは、もっとマシな仕事をせんのか」

 

「てめえ……!」

 

「怒るなや。事実を言うとるだけや」

 

 一人が突っ込んできた。

 

 直哉は投射呪法を起動した。一秒を二十四のコマに分割。相手の全動作がコマ単位で見える。

 最小限の動きで躱し、呪力を乗せた掌底を脇腹に叩き込んだ。一撃で相手が崩れ落ちる。

 

「なっ!!」

 

「次」

 

 二人目が炎を纏った両拳で飛びかかってきた。一歩引いて軌道を外し、背後に回り込んで首元を制圧する。

 

「三人目は?」

 

 残りのヴィランたちが、一歩引いた。

 

「……なんだこいつ」

 

「ガキじゃねえぞ」

 

「個性は何だ!!」

 

「増強系や」直哉は答えた。「それだけや」

 

「増強系でそんな動きができるかよ!!」

 

「できるな。やり込めば」

 

(……遅い。前世の記憶にある呪霊の方が、よほど厄介やった。人間は動きに限界がある。読みやすい)

 

 複数が同時に突っ込んできた。

 

 直哉は投射呪法全開で、全員の動きを計算しながら動いた。数秒だった。廃墟に、直哉だけが立っていた。

 

 満足はしていない。

 

(……これは雑魚や。本物はまだそこにいない)

 

 直哉は廃墟を出た。

 

 

中央広場に近づいた時、直哉は死柄木の声を聞いた。

 

「なんか……つまんないなあ」

 

 駄々をこねる子供のような声だ。

 

「オールマイトを殺しに来たのに、来てくれないし。雑魚ばかりだし。つまんない」

 

(……やっぱり弱い。声を聞いただけで分かる)

 

 直哉は死柄木の前に立った。

 

 死柄木が気づいた。

 

「あ、学生。一人?」

 

「ああ」

 

「怖くないのか?」

 

「怖い?」

 

 直哉は少し間を置いてから、率直に言った。

 

「怖いとは思わんかった。正直に言うけど、君、死柄木弔っていうんやっけ?死柄木君から感じる気配は弱い。殺気があることは分かる。ただ、その殺気に重みがない」

 

「……何で名前がバレてんだよ…それに」

 

「本物の殺意を持った存在と向き合ったことがある。死柄木君のそれは、それとは別物や。怖いというより——」

 

 直哉は死柄木の目を見た。

 

「——君は自分が何者かまだ分かってへんやろ」

 

 死柄木の目が細くなった。

 

「……なんでおまえにそんなこと言われなきゃいけないんだよ」

 

「事実を言うとるだけや。怒るなよ」

 

「怒ってねえよ!」

 

(……怒っとるやないか)

 

 直哉は内心でそう思いながら、死柄木を観察し続けた。

 

 首元の手。全身に貼り付いた手の数々。

 

(……あれは何や? お守りか? それとも自分を抑えるためのものか?…何だったか思い出せへん)

 

「死柄木君、その手は何や」

 

「……関係ないだろ」

 

「まあそうやな」

 

 直哉は淡々と続けた。

 

「ただ、見ておったら分かる。君死柄君は精神的に安定しとらんな。あの手がないと落ち着かんのやろ。それで人を殺したいと思っとる」

 

「……っ」

 

「強者が持つ殺気と、不安定な人間が持つ殺気は違う。死柄木くんは後者や。君自身は気づいてへんかもしれんけど」

 

「黙れよ!!」

 

 死柄木の声に、初めて本物の感情が乗った。

 

(……やっぱり精神が脆い。核心に触れると崩れる。こういうタイプは前世にもおった。呪いを抱えた術師によく似とる。ただしそれは強さとは別の話や。精神が脆いまま力だけ持っても、いつか自分で自分を壊す)

 

「黙れって言うたら黙ると思うか」

 

「……殺す」

 

「殺せるならやってみろ。それだけや」

 

 死柄木が踏み込んできた。

 直哉は投射呪法を起動した。一秒を二十四のコマに分割。死柄木の指先の動き、足の重心、全身の軌道をコマ単位で把握する。

 

(……五本指が揃って触れた場合に崩壊が発動する。それを念頭に動く)

 

 死柄木の手が地面を掠めた。コンクリートが砂のように崩壊していく。

 

 直哉は跳躍して崩れる地面から逃れながら、瓦礫の上を移動した。

 

「なんで避けるんだよ!!」

 

「当たったら困るからや。当然やろ」

 

「ふざけるな!!」

 

「ふざけてへん。至って真剣や」

 

(……感情的になっとる。こいつは感情が動くと動作が乱れる。読みやすい)

 

 直哉は死柄木の踏み込むタイミングを投射呪法で読み、一瞬の隙を突いて肩口に呪力を乗せた掌底を叩き込んだ。

 

「っ!!」

 

 死柄木が吹き飛んだ。首元の手が一本落ちた。

 

「拾えよ」

 

「……っ、うるさい!!」

 

 死柄木が手を拾いながら直哉を睨んだ。

 

「おまえ、性格悪いな」

 

「そうか」

 

「そうだよ!!」

 

「死柄木君にだけは言われたくはないな」

 

 直哉は静かに言った。

 

「死柄木君は今日オールマイトを殺しに来た。失敗する。それは計算で出とる。君の精神が安定してオールマイトと同じ高さに立てる日が来るかどうかも、今の君を見る限りは怪しい。それが俺の正直な評価や」

 

「……」

 

 死柄木が黙った。

 

 その目の奥に、怒りとは別の何かが揺れた。

 

(……傷ついとるな。それだけ核心に近いということや。強者にはこういう言葉は効かん。強者は自分の立っている場所を知っとるから、他人の評価で揺れへん。こいつはまだ、自分の立っている場所が分かっていない)

 

「……うるさい」

 

 死柄木が静かに言った。今度は叫ばなかった。

 

「おまえみたいな学生に、何が分かるんだよ」

 

「本物の強者がどういうものかを、俺は知っとる。死柄木君はまだそこにいない。それだけの話や」

 

「……殺す。絶対に殺す」

 

「今日は無理やろ。オールマイトが来る」

 

 直哉はそう言いながら、背後から脳無の気配が近づいてくるのを感知した。

 

(……来た)

 

 

振り返ると、巨大な体が立っていた。

 

 脳無が直哉を見ている。理性のない目。ただ眼前のものを排除しようとする本能だけがある。

 

(……これが本物の脅威や)

 

 直哉の中で、何かが静かに切り替わった。

 

 死柄木への余裕は消えた。投射呪法を全力で起動する。一秒を二十四のコマに分割。脳無の全身の気配、筋肉の収縮、足の重心を全てコマ単位で把握し始める。

 

「そいつはオールマイトのために作ったんだよ」死柄木が後ろから言った。

 

「でも今は君が目の前にいるから、来ちゃうかもね」

 

 直哉は答えなかった。

 

 脳無が動いた。

 速い。その巨体に似合わない速度で突っ込んでくる。

 

 直哉は横に跳んだ。脳無が拳が空を切り、地面を抉った。陥没したコンクリートから土煙が上がる。

 

(……威力が、次元が違う。死柄木とは完全に別の話や)

 

 直哉は着地しながら拳が地面を叩いた場所を見た。

 

(……あれを正面から受けたら圧し潰される。まず避けることを優先する)

 

 脳無が振り返る。理性のない目が、直哉だけを捉えている。

 連続した打撃が来た。一発目。二発目。三発目。毎回、拳が通り過ぎる度に風圧が直哉の体を叩く。

 

(……軌道は読める。投射呪法が機能しとる。ただし——)

 

 直哉は避けながら、攻撃のタイミングを探った。

 

(……一度当ててみる。呪力を乗せた一撃がどこまで通じるか確認する)

 

 脳無が一瞬動きを止めた瞬間、直哉は踏み込んだ。

 

 呪力を全力で右拳に集中させ、脳無の胴体に叩き込んだ。確かな手応えがあった。

 

 脳無は揺れた。わずかに。だが倒れない。

 

(……通じん。完全には)

 

 直哉は拳の感触を確認した。ゼロではない。だが今の自分の呪力ではこの出力が限界だ。

 

 脳無の反撃が来た。今度は速度が上がっていた。

 

 直哉は躱しながら、少しずつ後退した。

 

(……攻撃を当てた分、意識を向けられた。激しさが上がっとる)

 

 脳無が直哉の肩を掴もうとした。直哉は身を沈めて逃れたが、指先がコスチュームの端を引っ掛けた。布が裂ける音がした。

 

(……今のは危なかった)

 

 直哉は距離を取りながら、自分の状態を確認した。

 

 呼吸は整っている。だが呪力の消耗が進んでいる。投射呪法を全力で維持し続けることのコストが、じわじわと体に響いている。

 

(……時間が経てば経つほど不利になる。脳無は疲れん。俺は疲れる)

 

「ねえ」死柄木が観察するように言った。「もう限界なんじゃないの?」

 

「まだや」

 

「でも消耗してるじゃん。見れば分かるよ」

 

「……お前には関係ない話や」

 

 直哉は脳無は再び向き合いながら、内心で認めた。

 

(……今の俺では脳無を倒せない。それは事実や。感情でも言い訳でもない、純粋な実力の差や)

 

(……反転術式があれば消耗を回復できた。拡張術式があれば攻撃の精度を上げられた。簡易領域があれば、もっと広い範囲で対処できた。今の俺にはそれがない)

 

 脳無が再び突進してきた。

 

 直哉は今度、逃げずに立った。

 

(……一度だけ、正面から受けてみる。今の俺の限界を正確に知るために)

 

 呪力を全身に展開し、脳無の拳を真正面から受け止めた。

 

 衝撃が全身を走った。

 

 足が地面を削りながら後方に数メートル滑った。膝が笑う。骨が悲鳴を上げる。

 

「……っ」

 

 直哉は歯を食いしばった。

 

(……これが、対オールマイト用の力か)

 

 倒れない。だが、体の芯まで衝撃が届いた。

 

(……前世でもこういう感覚があった。格上の存在と戦う時の感覚や。自分の限界の外にあるものと向き合う感覚。これが本物の戦いや)

 

 直哉の中で、何かが静かに燃えた。

 

 恐怖ではない。渇望だ。

 

(……こいつを倒せる力が欲しい。今すぐではなくていい。いつか必ず、この出力を超える呪力を手に入れる。それまで俺は積み上げ続ける)

 

「ねえ」死柄木が少し感心したような声で言った。「あれを受けて立ってるじゃん。さっき君のこと弱いって言ったけど、訂正する」

 

「訂正は不要や」

 

「え?」

 

「俺は今日、脳無を倒せなかった。その事実は変わらん。訂正されるような話やない」

 

 直哉は静かに言った。

 

「お前は俺を認めようとしたかもしれんけど、それは俺への評価やない。今日の俺の実力への評価や。俺はまだそこに足りてへん。それだけや」

 

 死柄木がしばらく直哉を見た。

 

「……君、変な人だな」

 

「そうか」

 

「でも——」

 

 死柄木が何かを言いかけた時、施設の上空から音がした。

 

「私がここに来たということは!!」

 

 直哉は反射的に上を見た。

 

 オールマイトが降ってきた。

 

 その着地の瞬間、施設全体の空気が塗り替えられた。ヴィランたちの動きが止まる。脳無でさえ、一瞬動きを止めた。

 

(……来た)

 

 直哉は静かに息を吐いた。

 

 消耗した体に呪力を巡らせ直す。

 

(……これが壁の向こう側にいる人間の、存在そのものの力か。脳無さえ止まった)

 

「禪院少年!!」オールマイトが直哉に気づいた。「無事か!!」

 

「……問題ない、です」

 

「下がれ!!あとは私に任せろ!!」

 

「……はい」

 

 直哉は素直に後退した。

 

(……今日の俺では、ここが限界や。認める)

 

 拳を一度だけ握った。

 

(……脳無に通じなかった。死柄木を制圧できなかった。それが今日の俺の結果や)

 

 オールマイトが脳無に向かって動き始めた。その速度は直哉が避け続けた脳無の速度をさらに上回っていた。

 

(……あれが本物の壁の向こう側や)

 

 直哉はその戦いを見ながら、静かに自分の中で刻み込んだ。

 

 反転術式を習得する。拡張術式を再現する。簡易領域を確立する。

 

 今日の限界が、明日の目標になる。

 

 それだけが、禪院直哉の変わらない渇望だった。




直哉のヒロアカの原作知識は
インターン編くらいまでと考えてます。
あとはAFOとか特定のことを多々知ってる程度です。

呪術廻戦から直哉以外で原作キャラを登場させますか?(呪術側オリキャラ含めて)

  • 登場させる
  • 登場させない
  • それよりドブカス(人の心とかないんか?)
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