【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
バスの中は賑やかだった。
USJへ向かうバスの車内、A組の面々がそれぞれ喋っている。切島が「実践訓練楽しみすぎる!」と言い、上鳴が「救助訓練か、地味そうだな」と言い、芦戸が「でも本格的な施設らしいよ?」と言い返している。
直哉は窓際の席で腕を組み、外の景色を眺めていた。
隣に蛙吹が座っていた。
「禪院ちゃんって、バスでも喋らないのね」
「喋る必要がない時は喋らん」
「合理的ね」
「そうや」
「今日の訓練、楽しみ?」
直哉は少し間を置いた。
「……まあ、な」
「意外。楽しみなのね」
「救助訓練自体には興味はない。ただ、面白いことがあるかもしれんと思っとる」
「面白いこと?」
「それだけや」
蛙吹がそれ以上聞いてこなかった。直哉は再び窓の外に視線を戻した。
(……今日、来る。大体そういう流れになる。心の準備は要らんけど、確認だけはしておく)
黒霧。死柄木弔。そして脳無。
三つの脅威を、直哉はもう一度頭の中で整理した。
USJに到着した。
施設の入口に、宇宙服のような格好をした人物が待っていた。
「諸君を歓迎します!! 私が本日の担当教師、13号です!!」
「13号だ!!」麗日が興奮した。
直哉は13号を正面から見た。宇宙服型のコスチューム。その内側に何があるかは、直哉の知識の中にある。
(……ブラックホール個性や。指先から全てを吸い込む。制御を誤れば人を殺す。それをこの人は知っとる)
13号が説明を始めた。
「今日は諸君に、救助ヒーローとしての基礎を学んでもらいます!!だがその前に、一つ話をさせてほしい!!」
「僕の個性はブラックホール。指先から全てを吸い込む。どんな物質でも細かく分解して吸収する、一見強力に見える個性だ!!だがこの個性は、使い方を誤れば人を殺す!!僕は過去に何度も、その一歩手前まで来たことがあります!!」
「すごい個性だ……」緑谷が呟いた。
「個性とは才能だ!!だが才能は、方向を誤れば命を奪う力になる!!だからこそ、君たちにはヒーローとしての在り方を……」
直哉は13号の話を聞きながら、内心でその言葉を受け止めた。
(……個性は凶器になる、か。呪術の世界では呪力が凶器になる。同じ話や)
(……俺の場合は凶器として使うことを前提にしとる。それがこの世界では問題になるかもしれんけど、俺には関係ない話や。強くなるためなら凶器であってかまわん)
13号の言葉が続く。
「……だからこそ、諸君には今日の訓練で、救う力の意味を学んでほしい!!」
(……救う力、か)
直哉はその言葉を、ただそのまま受け取った。
否定もしない。肯定もしない。ただ自分には関係のない言葉として、静かに置いた。
その時だった。
噴水の中央に、渦が生まれた。
霧の中から、男が歩いてきた。
くすんだ青い髪。首から手足まで、無数の手が貼り付いている。
(……死柄木弔)
直哉はその男を正面から見た。
(……弱い)
それが、直哉の第一印象だった。
気配が薄い。殺気はある。だがその殺気は、前世の記憶にある呪詛師や特級呪霊のものとは質が違う。子供が「殺してやる」と叫ぶのと、本物の殺者が無言で踏み込んでくるのでは、まるで別物だ。
(……前世の甚爾くんや悟くんの気配を知っとる俺からすれば、こいつの殺気は玩具みたいなもんや)
そして死柄木の後ろ、黒霧の奥に、巨大な影があった。
(……脳無や。あれが対オールマイト用の存在か)
気配の密度が、他の全てのヴィランとは桁が違う。施設全体が、その存在に圧迫されているような感覚。
(……これは、正面から受け止めたら終わる。今の俺では)
相澤先生が前に出た。
「全員下がれ!!」
「先生!!」緑谷が声を上げた。
「13号、生徒を頼む!!」
相澤先生が単独でヴィランの群れに突っ込んでいく。直哉はその背中を見送りながら、内心で一言だけ思った。
(……無茶やけど、あの人はそれができる)
13号が生徒たちを出口へ誘導し始めた時、黒霧が動いた。
直哉は投射呪法で黒霧の動きを追った。
(……転送の準備をしとる。クラスを散り散りにする気や)
「みんな逃げ——!!」
緑谷が叫んだ次の瞬間、直哉は黒い渦の中に引き込まれた。
気がついた時、直哉は廃墟のような区画に一人で立っていた。
周囲に瓦礫。崩れかけた建物。薄暗い空間。
直哉は静かに呪力を全身に巡らせながら、周囲を確認した。
(……転送された。各区画に散り散りや。他のやつらは別の場所におるはずや)
廃墟の中から人影が現れた。武器を持ったもの、個性を発動しているもの、複数のヴィランだ。
「一人か」
「ガキじゃねえか」
「やっちまえ」
直哉は彼らを見て、無表情のまま言った。
「……ご苦労なことや」
「あ?」
「こんな廃墟でガキを囲んで。ヴィランいうもんは、もっとマシな仕事をせんのか」
「てめえ……!」
「怒るなや。事実を言うとるだけや」
一人が突っ込んできた。
直哉は投射呪法を起動した。一秒を二十四のコマに分割。相手の全動作がコマ単位で見える。
最小限の動きで躱し、呪力を乗せた掌底を脇腹に叩き込んだ。一撃で相手が崩れ落ちる。
「なっ!!」
「次」
二人目が炎を纏った両拳で飛びかかってきた。一歩引いて軌道を外し、背後に回り込んで首元を制圧する。
「三人目は?」
残りのヴィランたちが、一歩引いた。
「……なんだこいつ」
「ガキじゃねえぞ」
「個性は何だ!!」
「増強系や」直哉は答えた。「それだけや」
「増強系でそんな動きができるかよ!!」
「できるな。やり込めば」
(……遅い。前世の記憶にある呪霊の方が、よほど厄介やった。人間は動きに限界がある。読みやすい)
複数が同時に突っ込んできた。
直哉は投射呪法全開で、全員の動きを計算しながら動いた。数秒だった。廃墟に、直哉だけが立っていた。
満足はしていない。
(……これは雑魚や。本物はまだそこにいない)
直哉は廃墟を出た。
中央広場に近づいた時、直哉は死柄木の声を聞いた。
「なんか……つまんないなあ」
駄々をこねる子供のような声だ。
「オールマイトを殺しに来たのに、来てくれないし。雑魚ばかりだし。つまんない」
(……やっぱり弱い。声を聞いただけで分かる)
直哉は死柄木の前に立った。
死柄木が気づいた。
「あ、学生。一人?」
「ああ」
「怖くないのか?」
「怖い?」
直哉は少し間を置いてから、率直に言った。
「怖いとは思わんかった。正直に言うけど、君、死柄木弔っていうんやっけ?死柄木君から感じる気配は弱い。殺気があることは分かる。ただ、その殺気に重みがない」
「……何で名前がバレてんだよ…それに」
「本物の殺意を持った存在と向き合ったことがある。死柄木君のそれは、それとは別物や。怖いというより——」
直哉は死柄木の目を見た。
「——君は自分が何者かまだ分かってへんやろ」
死柄木の目が細くなった。
「……なんでおまえにそんなこと言われなきゃいけないんだよ」
「事実を言うとるだけや。怒るなよ」
「怒ってねえよ!」
(……怒っとるやないか)
直哉は内心でそう思いながら、死柄木を観察し続けた。
首元の手。全身に貼り付いた手の数々。
(……あれは何や? お守りか? それとも自分を抑えるためのものか?…何だったか思い出せへん)
「死柄木君、その手は何や」
「……関係ないだろ」
「まあそうやな」
直哉は淡々と続けた。
「ただ、見ておったら分かる。君死柄君は精神的に安定しとらんな。あの手がないと落ち着かんのやろ。それで人を殺したいと思っとる」
「……っ」
「強者が持つ殺気と、不安定な人間が持つ殺気は違う。死柄木くんは後者や。君自身は気づいてへんかもしれんけど」
「黙れよ!!」
死柄木の声に、初めて本物の感情が乗った。
(……やっぱり精神が脆い。核心に触れると崩れる。こういうタイプは前世にもおった。呪いを抱えた術師によく似とる。ただしそれは強さとは別の話や。精神が脆いまま力だけ持っても、いつか自分で自分を壊す)
「黙れって言うたら黙ると思うか」
「……殺す」
「殺せるならやってみろ。それだけや」
死柄木が踏み込んできた。
直哉は投射呪法を起動した。一秒を二十四のコマに分割。死柄木の指先の動き、足の重心、全身の軌道をコマ単位で把握する。
(……五本指が揃って触れた場合に崩壊が発動する。それを念頭に動く)
死柄木の手が地面を掠めた。コンクリートが砂のように崩壊していく。
直哉は跳躍して崩れる地面から逃れながら、瓦礫の上を移動した。
「なんで避けるんだよ!!」
「当たったら困るからや。当然やろ」
「ふざけるな!!」
「ふざけてへん。至って真剣や」
(……感情的になっとる。こいつは感情が動くと動作が乱れる。読みやすい)
直哉は死柄木の踏み込むタイミングを投射呪法で読み、一瞬の隙を突いて肩口に呪力を乗せた掌底を叩き込んだ。
「っ!!」
死柄木が吹き飛んだ。首元の手が一本落ちた。
「拾えよ」
「……っ、うるさい!!」
死柄木が手を拾いながら直哉を睨んだ。
「おまえ、性格悪いな」
「そうか」
「そうだよ!!」
「死柄木君にだけは言われたくはないな」
直哉は静かに言った。
「死柄木君は今日オールマイトを殺しに来た。失敗する。それは計算で出とる。君の精神が安定してオールマイトと同じ高さに立てる日が来るかどうかも、今の君を見る限りは怪しい。それが俺の正直な評価や」
「……」
死柄木が黙った。
その目の奥に、怒りとは別の何かが揺れた。
(……傷ついとるな。それだけ核心に近いということや。強者にはこういう言葉は効かん。強者は自分の立っている場所を知っとるから、他人の評価で揺れへん。こいつはまだ、自分の立っている場所が分かっていない)
「……うるさい」
死柄木が静かに言った。今度は叫ばなかった。
「おまえみたいな学生に、何が分かるんだよ」
「本物の強者がどういうものかを、俺は知っとる。死柄木君はまだそこにいない。それだけの話や」
「……殺す。絶対に殺す」
「今日は無理やろ。オールマイトが来る」
直哉はそう言いながら、背後から脳無の気配が近づいてくるのを感知した。
(……来た)
振り返ると、巨大な体が立っていた。
脳無が直哉を見ている。理性のない目。ただ眼前のものを排除しようとする本能だけがある。
(……これが本物の脅威や)
直哉の中で、何かが静かに切り替わった。
死柄木への余裕は消えた。投射呪法を全力で起動する。一秒を二十四のコマに分割。脳無の全身の気配、筋肉の収縮、足の重心を全てコマ単位で把握し始める。
「そいつはオールマイトのために作ったんだよ」死柄木が後ろから言った。
「でも今は君が目の前にいるから、来ちゃうかもね」
直哉は答えなかった。
脳無が動いた。
速い。その巨体に似合わない速度で突っ込んでくる。
直哉は横に跳んだ。脳無が拳が空を切り、地面を抉った。陥没したコンクリートから土煙が上がる。
(……威力が、次元が違う。死柄木とは完全に別の話や)
直哉は着地しながら拳が地面を叩いた場所を見た。
(……あれを正面から受けたら圧し潰される。まず避けることを優先する)
脳無が振り返る。理性のない目が、直哉だけを捉えている。
連続した打撃が来た。一発目。二発目。三発目。毎回、拳が通り過ぎる度に風圧が直哉の体を叩く。
(……軌道は読める。投射呪法が機能しとる。ただし——)
直哉は避けながら、攻撃のタイミングを探った。
(……一度当ててみる。呪力を乗せた一撃がどこまで通じるか確認する)
脳無が一瞬動きを止めた瞬間、直哉は踏み込んだ。
呪力を全力で右拳に集中させ、脳無の胴体に叩き込んだ。確かな手応えがあった。
脳無は揺れた。わずかに。だが倒れない。
(……通じん。完全には)
直哉は拳の感触を確認した。ゼロではない。だが今の自分の呪力ではこの出力が限界だ。
脳無の反撃が来た。今度は速度が上がっていた。
直哉は躱しながら、少しずつ後退した。
(……攻撃を当てた分、意識を向けられた。激しさが上がっとる)
脳無が直哉の肩を掴もうとした。直哉は身を沈めて逃れたが、指先がコスチュームの端を引っ掛けた。布が裂ける音がした。
(……今のは危なかった)
直哉は距離を取りながら、自分の状態を確認した。
呼吸は整っている。だが呪力の消耗が進んでいる。投射呪法を全力で維持し続けることのコストが、じわじわと体に響いている。
(……時間が経てば経つほど不利になる。脳無は疲れん。俺は疲れる)
「ねえ」死柄木が観察するように言った。「もう限界なんじゃないの?」
「まだや」
「でも消耗してるじゃん。見れば分かるよ」
「……お前には関係ない話や」
直哉は脳無は再び向き合いながら、内心で認めた。
(……今の俺では脳無を倒せない。それは事実や。感情でも言い訳でもない、純粋な実力の差や)
(……反転術式があれば消耗を回復できた。拡張術式があれば攻撃の精度を上げられた。簡易領域があれば、もっと広い範囲で対処できた。今の俺にはそれがない)
脳無が再び突進してきた。
直哉は今度、逃げずに立った。
(……一度だけ、正面から受けてみる。今の俺の限界を正確に知るために)
呪力を全身に展開し、脳無の拳を真正面から受け止めた。
衝撃が全身を走った。
足が地面を削りながら後方に数メートル滑った。膝が笑う。骨が悲鳴を上げる。
「……っ」
直哉は歯を食いしばった。
(……これが、対オールマイト用の力か)
倒れない。だが、体の芯まで衝撃が届いた。
(……前世でもこういう感覚があった。格上の存在と戦う時の感覚や。自分の限界の外にあるものと向き合う感覚。これが本物の戦いや)
直哉の中で、何かが静かに燃えた。
恐怖ではない。渇望だ。
(……こいつを倒せる力が欲しい。今すぐではなくていい。いつか必ず、この出力を超える呪力を手に入れる。それまで俺は積み上げ続ける)
「ねえ」死柄木が少し感心したような声で言った。「あれを受けて立ってるじゃん。さっき君のこと弱いって言ったけど、訂正する」
「訂正は不要や」
「え?」
「俺は今日、脳無を倒せなかった。その事実は変わらん。訂正されるような話やない」
直哉は静かに言った。
「お前は俺を認めようとしたかもしれんけど、それは俺への評価やない。今日の俺の実力への評価や。俺はまだそこに足りてへん。それだけや」
死柄木がしばらく直哉を見た。
「……君、変な人だな」
「そうか」
「でも——」
死柄木が何かを言いかけた時、施設の上空から音がした。
「私がここに来たということは!!」
直哉は反射的に上を見た。
オールマイトが降ってきた。
その着地の瞬間、施設全体の空気が塗り替えられた。ヴィランたちの動きが止まる。脳無でさえ、一瞬動きを止めた。
(……来た)
直哉は静かに息を吐いた。
消耗した体に呪力を巡らせ直す。
(……これが壁の向こう側にいる人間の、存在そのものの力か。脳無さえ止まった)
「禪院少年!!」オールマイトが直哉に気づいた。「無事か!!」
「……問題ない、です」
「下がれ!!あとは私に任せろ!!」
「……はい」
直哉は素直に後退した。
(……今日の俺では、ここが限界や。認める)
拳を一度だけ握った。
(……脳無に通じなかった。死柄木を制圧できなかった。それが今日の俺の結果や)
オールマイトが脳無に向かって動き始めた。その速度は直哉が避け続けた脳無の速度をさらに上回っていた。
(……あれが本物の壁の向こう側や)
直哉はその戦いを見ながら、静かに自分の中で刻み込んだ。
反転術式を習得する。拡張術式を再現する。簡易領域を確立する。
今日の限界が、明日の目標になる。
それだけが、禪院直哉の変わらない渇望だった。
直哉のヒロアカの原作知識は
インターン編くらいまでと考えてます。
あとはAFOとか特定のことを多々知ってる程度です。
呪術廻戦から直哉以外で原作キャラを登場させますか?(呪術側オリキャラ含めて)
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登場させる
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登場させない
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それよりドブカス(人の心とかないんか?)