【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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いつもご愛読ありがとうございます!

突如として報じられた、アメリカNo.1ヒーロー「スター・アンド・ストライプ」の来日。
前世の記憶がオーバーホール編で途切れている直哉にとって、ここから先は一歩先も見えない「未知の戦場」です。

⚠︎今回作品を読む前に前書き1の※、前書き2の※に目をを通してからの作品視聴を強く推奨します。
今回はスターの個性関連でオリジナル設定で真改造されているため、その点についての重要な話となります!

※1.戦闘描写の関係上、スターが来日してくるまでの過程を少し事前に報道してたり、スターが到着するまでに時間的猶予があるような描写を意図的に混ぜ込んでいます。
ご理解ください。
※2.また、上記同様戦闘描写の関係上、スターアンドストライプの個性に大幅に改変が含まれており、原作とは全く別物の今作用に真改造された新秩序になっております。
元々スターの個性の新秩序は自認の名を一致させなければいけないので、子供ではなくフルネームで呼ばなければ恐らく制限を課すことができない点や、制限に関しても2つ以上をかけられない(1つは自身に回しているため基本的にフリーに使えるのは1つだけ)という部分に関しても原作と乖離がありますので、その点をオリジナル要素として、ご理解いただけますと幸いです。


最強の個性「ニュー・オーダー(新秩序)」を持つスターと、規格外の怪物・死柄木弔。 

圧倒的な破壊の余波が空間を揺らす中、直哉は「ただの観察者」でいられるのか。

「怖さと、行くかどうかは別の問いや」

甚爾との死闘を経て、何かが決定的に変わった直哉。

足場なき数千メートルの高空で、彼は自らの術式を、そして「生き様」をどう設計するのか。

激動の第51話、開幕です!

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。

評価付与、感想は直哉が強者と渡り合うことで更なる強さを得ます!


第51話:黒デク編「新秩序 vs 設計図」

ニュースの衝撃

 

 朝のニュースが、食堂の空気を一変させた。

 

 「アメリカNo.1ヒーロー、スターアンドストライプ来日」

 

 アナウンサーの声が響いた瞬間、喧騒に満ちていた食堂が静まり返る。食器の音が止まり、誰かが「マジか」と呆然と呟いた。

 

 直哉はトレーを持ったまま、テレビ画面に映る巨躯を冷ややかに見つめた。

 

(……スターアンドストライプ、やて。ハハッ、とんでもないんが来おったな)

 

 前世の記憶に、微かな引っかかりがある。あの個性の規模——『ニュー・オーダー』。触れた対象に「名前」を告げ、強制的な「ルール」を刻む。その出力は、紛れもなく現生における最高クラス。

 そして——直哉にとって、これこそが最大の懸念だった。

 

(……この先の展開を、俺は知らへん。俺の持っとる『設計図(シナリオ)』はオーバーホールまでや。それ以降はAFOがラスボスになること以外、断片的な情報が多くて何もかもが霧の中や。……スターが何をし、誰に敗れ、どう果てるんか。俺の知識にはあらへん)

 

 今までは「知っている」という優越感があった。だが、ここから先は正真正銘の未知だ。

 

「すごい……」

 

 上鳴が画面に釘付けになりながら零した。

 

「あれだけの人間が来ないといけない状況、ってことだよな」

 

 切島の声は、いつもの快活さを失い、低く沈んでいる。

 

「そうだろうな」

 

 轟が短く応じた。

 

 直哉は優雅に席に座り、懐から扇子を取り出した。

 

(……来た。前世の俺が読んでへんかった、あの先が今ここで動いとる。……ハハッ、愉快やな。どう動くか高みの見物と決め込むか。それとも——俺もその『設計』に噛みついてみるか)

 

 

 昼休み。直哉は屋上に出て、『空写』を最大限に展開した。

 

 距離優先モード。460メートルの輪郭。

 

(……どこに居る。どこに潜んどる)

 

 スターアンドストライプの気配を探す。当然、この程度の射程に収まっているはずがない。だが——東の方向に、確かな「余波」を感じ取った。

 

 個性の出力が極限に達した人間が、遠方に存在する場合に残る空間の「滲み」。これは、直哉が最近になってようやく掴み始めた感覚だ。

 

(……あの規模は、反吐が出るほどデカいな。……術式に近い設計をしとる個性や。「概念にルールを刻む」操作は、呪術の『縛り』と構造が酷似しとる。出力だけやない、設計の精度が『特級』や)

 

 直哉は思考を研ぎ澄ませた。

 

 あの個性が戦場に投下された時、世界はどう書き換えられるのか。

 

(……『ニュー・オーダー』が支配する戦場に、俺が踏み込んだとして……俺の術式は、あいつのルールに屈するんか? 個性ではない『術式』に、あいつの命名が届くかっちゅう話や。……分からへんな。せやけど——見てみたい。……ハハッ、最悪やな。俺が「見たい」なんていうガキみたいな好奇心に突き動かされるとはな)

 

 生存への執着でも、効率的な設計でもない。ただ純粋に、その極致を目にしたい。

 

(……これが、甚爾くんとの戦いで何かが狂ったっちゅう証拠か。……不細工やけど、嫌いやないわ)

 

 

 翌日の昼。屋上には砂藤力哉がいた。

 

 欄干に背を預け、どこか遠い空を眺めている。

 

「禪院」

 

「なんや?」

 

「スターアンドストライプの件、どう思う?」

 

 直哉は砂藤の隣に並び、相変わらずの懃懃無礼な態度で応じた。

 

「……強い人間が来たと思っとる」

 

「それだけか?」

 

「……それだけやない」

 

 砂藤が、不審そうに直哉の横顔を覗き込んだ。

 

「なんか——行きたそうな顔してるぞ、お前」

 

「……そうかもしれへんな」

 

「……珍しいな。禪院が『行きたい』なんて言うのは」

 

「言った覚えはないけど」

 

「顔が言ってたよ」

 

 直哉は扇子をパチンと開き、冷めた笑みを浮かべた。

 

「……あの個性の設計を、近くで見てみたい。それだけや。俺の術式と、どこかで接続できる予感がある。……お前ら凡夫には理解できん領域の話やけどな」

 

「……怖くないのか?」

 

「あんでもありな個性…実力は凄まじいかもしれへんな。せやけど、怖さと『行くかどうか』は別の問いや。俺の設計に、恐怖は組み込み済みやさかい」

 

「……そういうとこだよ、お前は」

 

 砂藤が呆れたように、だが少しだけ誇らしげに笑った。

 

「……まあ、行くなら生きて帰ってこいよ」

 

「当たり前やな。俺がこんなところでくたばる不細工な設計をするわけないやろ」

 

 

 その夜。直哉は相澤の部屋の前に立っていた。

 

 ノックをする。

 

「……禪院か。今夜も出るつもりか?」

 

 扉越しに、低く鋭い声が届く。

 

「——はい。スターと死柄木が接触する。俺はそこに行きます」

 

 重苦しい沈黙の後、扉が開いた。

 

 現れた相澤の目は、いつも以上に鋭く直哉を射抜く。

 

「……理由を言え…いくらお前でも、スターアンドストライプの戦闘に直接介入するのは許可できん」

 

「あの個性の設計を拝見したい。それだけやない……俺の術式の次の段階に、接続できるかもしれへん。今の俺の『空写』なら、戦場の外縁に踏み込める判断ですわ」

 

「生存率の見立ては?」

 

「低くはないです。死柄木と正面から当たれへんことくらい、俺が一番分かってます。スターの補佐として動いて、設計を観察して、撤退する。……完璧な撤退戦の設計ですわ」

 

 相澤は、直哉の目をじっと見つめた。

 

「——お前が『行きたい』と言ったのは、今夜が初めてだな。あの異様なオーラを放っていた夢から、何かが変わったか?」

 

「……はい」

 

 相澤は、それ以上何も問わなかった。

 

「……お前にはもはや何を言っても聞かんか…反転術式の回復もある。問題はない思うが、万が一戻らなかったらその時は除籍扱いだ。だから生きて帰れ。それだけだ。報告は朝に聞く」

 

「はいですわ」

 

 廊下を歩く直哉の足取りは、かつてないほど軽い。

 

(……行くで。前世の俺すら知らんかった、『未知』の設計図のその先へな)

 

 直哉は扇子をパチンと開き、冷めた笑みを浮かべた。

 

 

 

空写からの鏃の連続起動を推進力に変え、直哉は東へと跳んだ。空写を距離優先で展開し、460メートルの輪郭を維持したまま地表を滑る。

 

その後に空虚呪法で空間を固定し、足場を作りながら移動してゆく。

 

 急激に空間の「余波」が肌を刺す。大気が悲鳴を上げている。

 

(……ハハッ、始まっとるわ。この震え、ただの『個性』がぶつかり合っとる規模やないぞ)

 

 直哉は廃ビルの屋上へ駆け上がり、空写を精度優先に切り替えた。

 

 直後、視界の先——高度数千メートルの光景に、思考が一瞬停止した。

 

 空軍の戦闘機編隊。その一機の上に、星条旗を纏った巨躯が仁王立ちしている。スター・アンド・ストライプ。彼女から放たれる出力は、これまで見てきたどのプロヒーローとも次元が違った。

 

(……何や、あれ。概念が肉体を持って動いとるようなもんやないか。……反吐が出るほど美しい設計やな)

 

 対するは死柄木弔。

 

 その気配は、もはや「崩壊」そのものが空間を歩いているような不気味な質を帯びていた。機体に触れるたびに世界が塵へと還っていく。

 

(……さて。この足場のない地獄で、どう『設計』するかや。……行くで)

 

 直哉は空中機動の設計を組んだ。

 

 『空虚呪法』で空中の一点を固定。踏み込み、背後に『鏃』を叩き込む。その反動で弾かれるように上昇。また固定点を踏み、また『鏃』の反動。

 

 空中に、一瞬だけ生成される「見えない足場」の連鎖。

 

(……固定点は生成速度を優先しとるから一秒も持たへん。踏んだ瞬間に崩れる。やけど、次を踏む前に崩れればええだけの話や。……それだけのことやろ?)

 

 高度が跳ね上がる。雲を突き抜け、スターの背後へと肉薄した。

 

(……『計算する対象』が、目の前におるわ)

 

「——誰だ、お前」

 

 空間を割るようなスターの声。

 

「雄英の学生ですわ。禪院直哉といいます。……計算させてください」

 

「計算? 子供が来る場所じゃない!」

 

「あなたの個性の設計を、間近で読みたいんですわ。……それだけのために、この死地を選びましたわ」

 

 スターが一瞬、動きを止めた。死柄木との交戦の合間に、直哉を真正面から射抜く。

 

「……頭がおかしいのか、子供」

 

「計算は、正気のうちにやるものですわ」

 

 一瞬の沈黙の後、スターが——豪快に笑った。

 

「気に入った。だが邪魔をしたら消す。——ならば試してやろう。どこまでやれるか、お前のその『設計』とやらを見せてみろ!」

 

 刹那、スターの拳ではなく、「言葉」が直哉に向かって放たれた。

 

六 『ニュー・オーダー』連発

 

「——この子供の速度を半分にすると私が決めた」

 

 世界が変質した。空気の密度が重く粘り、体の動きが鈍る。術式による拘束ではない。物理法則そのものが無理やり書き換えられた感触だ。

 

(……ッ、これが『ニュー・オーダー』か。理不尽極まりないな!)

 

 直哉は空写を精度最大に絞り、スターを全方位から読み解く。気配の質、呼吸、重心——投射呪法の『フレーム』で世界を1/24秒に刻み、次のコンマ数秒を強引に先行する。

 

 スターの剛腕が空を裂く。直哉は右に跳んだ。鈍った体を引きずるように、だが判断だけで回避を成立させる。空虚呪法で右斜め上に固定点を作り、踏んで急加速。

 

(……固定点を蹴った瞬間、ルールの外に出られる。……ハハッ、面白いわ!)

 

「——面白い。速度制限の外に出るのか。ならば——この子供の跳躍力をゼロにすると私が決めた」

 

 直後に重力が牙を剥いた。足に力が入らなくなり、空中の固定点から足が離れた瞬間に墜落が始まる。

 

(……ッ!! まぁ、そう来るわな!)

 

 落下しながら、空虚呪法を前方に展開。空中に三つの「固定節」を連続生成した。それを足場ではなく「壁」として利用し、右腕の『鏃』を駆動し叩き込んで反動で横へ飛ぶ。

 

「——なるほど。跳躍を反動で補うか」

 

「跳べへんなら飛べばええだけの話ですわ」

 

「生意気だ。——この子供の視界を暗くすると私が決めた」

 

 視界が漆黒に染まった。

 

 直哉は即座に思考を切り替える。目ではなく空写で空間を「視る」。スターの気配、密度、予測軌道——。

 

(……空写は『目』やない。凡夫と一緒にせんといてくださいわ)

 

「——まだ動くのか。目が見えないのに」

 

「俺の空写は、視覚よりずっと広いですわ」

 

 視界が戻る。スターがルールを解除したのだ。

 

「——認めてやろう。一つ目の計算は合格だ」

 

 

 

「——次はどうする?」

 

 スターの気配が一段階上がった。

 

「——この空域では重力が三倍になると私が決めた」

 

(……ッ、身体が千切れそうやな!)

 

 急激な重力に引きずり下ろされる体。直哉は空虚呪法で固定点を連射した。三点、五点、七点——。足場を強引に連続展開し、重力に抗って高度を維持する。

 

(……ハハッ、呪力の消耗がエグいわ。やけど、まだ動ける。まだ回せる!)

 

「——固定点の持続時間を一秒にすると私が決めた」

 

 足場が次々と崩れ始める。踏んでは崩れ、次を踏んではまた崩れる。

 

「——追い詰められてきたか」

 

「……まだ、動けますわ」

 

「——この子供の個性の精度を半分にすると私が決めた」

 

(……ッ!全てではないが空写がぶれた……!)

 

 スターの気配の輪郭が滲み、投射呪法のフレームが狂う。先読みの精度が致命的に落ちた。だが、直哉の口角は吊り上がったままだ。

 

「——精度が半分になった分、俺の判断の頻度を二倍にしますわ。……設計の話ですよ、これは」

 

 スターの追撃が来る。精度が落ちた空写で、0.1秒先を強引に読んだ。

 

 左下へ『落下の情』瞬間的に展開してで滑り込み、頭上を抜ける腕をオート迎撃で相殺した。そのまま零駒を高速で駆使して三連続を側面に叩き込んだ。

 

 スターがわずかによろめく。

 

「——ほう。今の状況で当てるか」

 

「……俺の攻撃、効きましたわ」

 

「効いた、とも言う。……よし。計算の二つ目——合格だ」

 

 

 スターの気配が変わった。余裕が消え、真の「強者」としての質が空間を支配する。

 

(……来る。……本物や)

 

「——この子供の心臓を止めると私が決——」

 

(……ッ!! 舐めんなよ!)

 

 直哉は刻まれる瞬間、反転術式を心臓へと全力で走らせた。強制的な停止ルールに対し、生命の修復エネルギーをぶつけて押し返す。

 

「——再生系の個性か! 自己修復をリアルタイムで走らせているのか!…私みたいに個性の幅が広いじゃないか!」

 

「スターほどじゃないですわ。…要は 『ニュー・オーダー』が届く前に、修復で塗りつぶせばええだけや!」

 

「——ならば」

 

 スターが、今度は複数を同時に刻んだ。

 

「——この子供の左腕の機能を止めると私が決めた」

 

「——この子供の呼吸を三割に制限すると私が決めた」

 

「——この子供の空写の射程を五十メートルに縮めると私が決めた」

 

(……ッッ!! 三つ同時は不細工やな……!)

 

 左腕が死に、肺が灼けるように狭まる。空写の輪郭も急激に収縮した。

 

 反転術式の出力を三分割——いや、不可能だ。直哉は瞬時に優先順位を「設計」した。

 

(……呼吸は最優先や。左腕は捨て。空写の50メートル? ……ハハッ、殺し合いの距離ならそれで十分やろ!)

 

「——まだ、動きますわ」

 

「しぶとい!」

 

「——この子供に触れたものを全部崩壊させると私が決めた」

 

(……ッ! それは死柄木の真似事か!?)

 

 踏んでいた空虚呪法の足場が崩壊し、足場を失う。直哉は落下しながら、空虚呪法を瞬間的に展開してできた僅かな空間の固定点を利用しつつ、右腕だけで『鏃』を下方に展開した。反動で体を弾ませ、左腕をだらりと下げたまま空中を駆ける。

 

「——片腕で空中を動くか!」

 

「左腕は諦めましたが、右腕はまだ生きてますわ!!」

 

 スターが最後の一手を構える。その気配の「質」が、直哉の50メートルの空写を埋め尽くした。

 

「——この子供を私の真下に固定すると私が決め——」

 

(……遅いわ!)

 

 直哉はルールが確定するコンマ数秒前、落花の情で横へ滑り抜けた。「真下」という座標から物理的に逃走する。

 

「——読んだか!!」

 

「刻まれる前に0.2秒。……俺には、それだけあれば十分ですわ!」

 

 

限界は疾うに超えていた。

 

 呼吸は浅く、死んだ左腕が重く垂れ下がる。空写の射程は50メートルまで削られ、呪力残量も60%を切った。

 

(……ハハッ、不細工極まりないな。ボロボロやないか。……せやけど、まだや。計算は終わってへん。一つだけ、この女に叩き込んどかなあかん設計がある)

 

 直哉は決めた。

 

「——スター」

 

「何だ」

 

「一発だけ、俺の『本気』を入れさせてください。……あなたのその理不尽なルールで、受け止めてほしいんですわ」

 

 スターが空中で静止した。

 

「……本気? 今までのは遊びだったとでも言うのか」

 

「逃げながら計算(サンプリング)してただけですわ。今までの攻撃はただの補助。……俺の最大出力の設計を、その身で読んでほしいんですわ」

 

 スターはしばし直哉の目を覗き込み、不敵に口角を上げた。

 

「……面白い申し出だ。いいだろう、来い。子供の全力、受けてやろう」

 

 直哉は右腕を突き出し、空写を精度優先へ。間合い、わずか7メートル。

 

 投射呪法のフレームが世界を24等分に刻み、その極小の一コマへ「最大」を詰め込んでいく。

 

(……左腕が無くても、右腕一本あれば十分や。……刻むで、俺の最高傑作を)

 

 深淵から響くような詠唱が、高空に木霊した。

 

「——瞬刻(しゅんこく)、」

 

 スターの目が鋭く細まる。

 

「——二十四節(にじゅうよんせつ)、」

 

 直哉の右腕に、視覚化されるほどの密度で呪力が圧縮されていく。

 

「——積層の理(せきそうのことわり)——」

 

 24層のフレームが重なり、爆発的な圧力を生む。

 

「——極ノ番・積層残影24葉・『重(かさね)』!!」

 

 一点に収束した576発分の衝撃が、スターへと奔った。

 

「——ッ!!!」

 

 スターが咄嗟にルールを刻む。

 

「——この一撃の威力を、半分にすると私が決めた!」

 

 ルールにより威力が半減。それでもなお、暴虐なまでの衝撃波がアメリカNo.1の肉体を強引に押し流した。

 

 スターが数メートル後退し、空中で体勢を立て直す。

 

「——ッ……」

 

 直哉の右腕は軋み、骨が悲鳴を上げていたが、反転術式が即座にそれを「修復」という設計で上書きした。

 

 静寂。

 

「……今のは、何だ」

 

「極ノ番・積層残影24葉・重ですわ。24のフレームを積み重ねただけの、単純な設計ですわ…こう見えても奥義やったんやけど…スターが規格外だと改めて思いましたわ」

 

「……半分に削ってなお、私を押し戻すか。……もし威力を削がねば、もっと押せたか」

 

「もっと、どころやないですわ。……ま、今の俺ではこれが限界ですけど」

 

 スターが笑った。それは、最初の嘲笑とは違う、対等な戦士に向ける敬意の混じった笑みだった。

 

「子供にしては、大したものだ。……それで? 計算の結果はどうだった」

 

 直哉は荒い呼吸を整えながら、懃懃無礼に、だが確信を持って告げた。

 

「……『ニュー・オーダー』の構造、読み切りましたわ。一つの『名前』という根から、無数のルールを枝分かれさせる設計。……せやけど、それだけやなかった。スター、あなたの感情の速度が、そのまま個性の密度になっとった。……俺の心臓を止めようとした時の刻み方、あれがあなたの『最大』や」

 

 スターが微かに目を見開く。

 

「……気づいたか」

 

「感情が燃料(エネルギー)で、設計が方向を決める。……それがあなたの本質ですわ。感情と設計が一体になった時、出力は最大化する」

 

「……お前は、感情を設計の後ろに隠して生きてきた人間だな」

 

「……ハハッ、バレましたわ」

 

「それが弱さかは断じない。だが——」

 

 スターの声が、遺言のような重みを持って響いた。

 

「——感情なしの設計は、その設計図が崩れた時に、何も残らない。……覚えておけ」

 

「……はいですわ」

 

 

「——死柄木が来ますわ。南東。崩壊の波が上昇してきとる」

 

「どこだ?」

 

 

「30メートル先、右斜め下。……迎撃の設計、組めますか?」

 

 スターが即座に動いた。

 

「——この方角を、私が先に押さえると私が決めた!」

 

 死柄木の上昇ルートを物理的に封鎖。怪物が舌打ちして軌道を変える隙に、直哉は戦場から距離を置いた。

 

 死柄木の冷徹な視線が一度だけ直哉を射抜いたが、すぐにスターへと戻った。

 

(……ハハッ、無視か。ええよ、今の俺にはお前を殺す設計図はあらへんしな)

 

 直哉はスターの隣へ戻り、最後の手助けを申し出た。

 

「……役に立ちますわ、俺の索敵」

 

「ああ、助かるよ。……ゼンイン・ナオヤ、お前の空写で私の役に立て。邪魔をしない限り、そこにいることを許そう」

 

 スターの気配から、余裕の質が消え、引き返せない「決断」の静けさが漂い始めた。

 

「……スター」

 

「分かっているんだろう。お前には」

 

「……気配の質が変わりましたわ。綺麗やけど……不細工な結末になりそうや」

 

「下がれ。ここからは私の戦いだ。お前が関わる場所じゃない」

 

「……はいですわ。……計算させてもらって、おおきに。勉強になりましたわ」

 

「礼はいい。……生きろよ、ゼンイン・ナオヤ」

 

「当たり前ですわ。……さいなら」

 

 『空虚呪法』で足場を展開しつつ戦場を離脱し、建物の陰で空写を広げ続けた。

 

 スターの気配が、急速に「何か」へと昇華されていく。消耗ではなく、人生のすべてを賭した決断の質。

 

 しばらくして、その巨大な気配が消えた。静かに、だが鮮烈に。

 

 直哉は扇子を開いた。

 

 左腕の機能も、呼吸も、反転術式で元通りだ。右腕の骨の軋みだけが、あの一撃の証として残っている。

 

(……スターアンドストライプ。……あんた、最後まで綺麗な設計やったわ。雅やった)

 

 ノートを取り出し、震える手で今夜のサンプリング結果を書き殴る。

 

 ①『ニュー・オーダー』の全ルールを看破。空写と投射呪法で0.2秒を先読みすれば、理不尽すら捌ける。

 

 ②『重(かさね)』の直撃。次なる課題は、ルールを刻まれる前の「速度」か「偽装(フェイク)」か。

 

 ③「感情が燃料、設計が方向」。俺の設計には燃料が足りへん。……感情を設計の『後ろ』から『前』へ持ってくる方法を考えなあかん。

 

 ④領域展開の設計思想。一つの根から複数の効果を引き出す「縛り」の重層化。

 

(……帰るか。反吐が出るほど、得たものはデカいわ)

 

 雄英の門で待っていた相澤に、直哉はいつもの不遜な笑みを向けた。

 

「生きてましたわ。傷は修復済み、右腕に少し無理をさせただけですわ」

 

「……スターに強化したあの『重(かさね)』を入れたのか?」

 

「半減されましたけどね。ま、数メートルは押しましたわ。……彼女の気配、消えました」

 

 相澤が目を閉じ、短く「そうか」と言った。

 

「……報告は朝だ。休め」

 

「はいですわ」

 

 部屋に戻り、窓から東の空を眺める。

 

 あの凄まじい「余波」は、もうどこにも無い。

 

(……感情が燃料、か。俺の感情(燃料)は、まだ設計図の裏に隠しとる。……せやけど、今夜であの女に見せつけられたわ。……ハハッ、俺もいつか、あんな綺麗な設計ができるようになるんかな)

 

 扇子を閉じ、電気を消した。

 

 闇の中で、直哉の瞳だけが、新たな領域を見据えて冷たく光っていた。

 




ついに死柄木との初交戦。今の直哉では「倒せない」という冷徹な判断を下しつつも、スターの隣で戦場を駆ける姿は、まさに特級の資質を感じさせる機動でした。

スターの最期を「綺麗だと思った」と綴った直哉の独白。
雅(みやび)や不細工といったこれまでの価値観を超えて、一つの「完成された設計」に対する敬意が、彼の内側に芽生えたのかもしれません。

**「空中機動のロジックが格好良すぎる!」「スターと直哉のやり取りに痺れた」**など、皆様の熱い感想をぜひ【感想欄】にお寄せください。
お気に入り登録や評価付与も是非していただければとても嬉しいです!
よろしくお願いします!

スターが残した「一つの概念から複数のルールを引き出す」というヒント。
これが直哉の目指す「10秒の壁」、そしてその先の「領域」にどう作用するのか……。

もしこの圧倒的な強者たちとの戦いに痺れたり、読後感を感じてくださったなら評価付与をいただけると本当に嬉しいです!
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