【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
最強のヒーロー、スターアンドストライプの死。原作における絶望的なこのシーンを、直哉はどう見つめ、その「設計」に何を刻むのか。
前夜、数千メートルの上空で彼女と並走し、その「最期」を肌で感じた直哉。
届かなかった刃、通じなかった固定、そして目の当たりにした「感情を燃料とした設計」の完成形。
敗北の静寂の中で、直哉がノートに記す「次」への仮説とは。
一人の「観測者」が、明確に「当事者」へと変貌していく、再生の記録です。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。
評価、感想付与は直哉の当社呪法がさらに研磨されてより速くなります!
翌朝のニュースが、食堂の空気を完全に凝固させた。
「アメリカNo.1ヒーロー、スターアンドストライプ——死亡」
アナウンサーの声が流れた瞬間、広大な食堂から一切の音が消えた。前日の「期待」や「興奮」とは真逆の、何かが決定的に損なわれたことを突きつける、重苦しく息苦しい静寂。
「……嘘だろ」
上鳴の声が、幽霊のように掠れていた。
「AFOと戦って、これかよ……」
切島が絞り出すように呟き、言葉を失う。轟は微動だにせず画面を見つめていた。その瞳の奥には、測り知れない何かが沈殿している。お茶子は、白くなるほど強く唇を噛み締めていた。
直哉はトレーを保持したまま、淡々とテレビ画面を眺めていた。
(……知っとったわ。昨夜、あの高空で気配が『消えた』瞬間にな。……それが今、電波に乗ってようやく『事実』として凡夫どもの耳に届いとる。……ハハッ、遅いねん。世界が変わるんは、いつだって一瞬やぞ)
砂藤が、気配を殺して隣に立った。
「禪院」
「なんや?」
「昨夜——行ってたんだろ。禪院のことだからなんとなく察しはつく」
直哉は箸を止めることなく、短く応じた。
「……そうやね」
「どうだった?」
「……デカかったわ。俺の設計では、到底倒せへん怪物やった」
砂藤はしばらく直哉の横顔を、値踏みするように、あるいは案じるように見つめた。
「……でも、生きて帰ってきた」
「そうや。確かに戻ってきたわ。」
「……なら、それでいい」
砂藤はそれ以上、無粋な詮索をすることなく黙々と飯を食い始めた。直哉もまた、静かに箸を動かす。
(……砂藤の分際で、ええこと言うやんけ。……せやな。生きて帰る。それが俺の最低限の『設計』や。……スター、あんたは最後まで雅やった。不細工な負け方かもしれへんけど、あんたの選んだ終止符(ラスト)は……嫌いやないわ)
直哉は最後の一口を飲み込み、静かに席を立った。
一限前。直哉は職員室の相澤のもとを訪れた。
「報告しますわ」
「聞く」
直哉は淡々と、昨夜の光景を「設計図」を読み上げるように伝えた。
空写で余波を追跡し、戦場となった高度数千メートルの上空へ侵入したこと。零駒を連鎖させた即興の空中機動。スターへの「極ノ番・積層残影24葉『重』」が、スターを後退させる程の攻撃になったこと。そして、スターの索敵支援を行い、彼女が「決断」した気配を察知して離脱したこと。
相澤は、一言も挟まずに聞き終えた。
「……スターの気配が消えた時刻は?」
「昨夜23時過ぎですわ。消え方は——酷く、静かでした」
相澤がわずかに目を閉じる。
「スターには、通じなかったか?」
「今の俺の術式では、スターを倒す設計が組めませんでした。あらゆる術式への「新秩序」での制限という性質に対し、俺の術式全般は後手に回ることが多かった…仮に攻撃当てることはできても、その先を維持させてもらえへんかった」
「分かった。お前が行ったことで、戦局に影響はあったと思うか?」
直哉は少し考え、自嘲気味に口角を上げた。
「俺が囮になった数秒で、スターさんが大技を叩き込める隙は作れましたわ。邪魔にはなってへんはずです。……やけど、あの人が最後に選んだ結末は、俺が居ても居なくても同じやったと思います」
「……そうか」
「はいですわ」
相澤はしばらく沈黙し、教え子の姿を直視した。
「——除籍にならなくて良かったな。よく生きて帰った。それだけだ」
「……おおきに」
昼休み。屋上で直哉はノートを開き、昨夜の戦闘記録を精査していた。
(……新秩序もイカレとったが、今は崩壊に対する設計を、根底から作り直さなあかん。空虚呪法の「固定」の術式は「消失」に脆すぎる。零駒も、触れられた瞬間に無に帰すんやったら、当てる意味すらあらへん)
では、何が「消えない」のか。
直哉はペンを走らせる。
(……物質を媒介にするから崩されるんや。空間そのものは、崩壊せえへん。スター戦で実践したように空虚呪法で『空間の層』そのものを固定できれば、死柄木の干渉を遮断できる可能性がある。……もうすでに一度、実践には使えとるから対策のための方向は見えたな)
「死柄木・崩壊への対抗設計(仮):空虚呪法による空間層の固定→崩壊の伝播を空間レベルで遮断。要検証。」
ペンを置き、扇子を広げる。
(……ハハッ、昨夜は数千メートルの空を駆けた。俺の設計は、あの異常な条件下でも確かに動いた。スターは倒せへんかったけど、一歩も引いてへんかった。……今日の空も、昨日と変わらず不気味に続いてるな)
午後の自習時間。直哉はスターが最期に放った気配を反芻していた。
AFOに個性を奪わせないために、自らの個性に「反逆」のルールを刻んで自壊させた、あの凄絶な最期。
(……「感情が燃料で、設計が方向を決める」。あの人の答えが、ようやく腑に落ちたわ。届かなければならないという強烈な『感情』が、個性を壊すという狂った『設計』を正解に導いた。……俺には、まだその『燃料』が足りてへんのかもしれへんな)
認めたくない事実だった。だが、直哉は迷わずノートに記した。
「俺の設計には燃料が足りない。認める。不細工な話やけど、ここを認めな設計が狂う」
夕方の屋上には、轟がいた。
「禪院」
「なんや?轟くん」
「昨夜、どこかに行ってたろ。……スターの件か?」
「……轟くんもよう見とるねえ…そうや。俺には、スターを止められへんかった。でもな、スターの戦い方を、誰よりも近くでサンプリングさせてもらったわ」
「どんな、戦い方だった?」
直哉は遠い空を見据え、一言ずつ選ぶように答えた。
「感情で加速して、設計で完璧に終わらせる人やった。……最後の選択が、雅(綺麗)やったわ。あの人が一欠片の後悔もしてへんことが、気配の質から伝わってきた」
「……綺麗、か」
「せやな。俺とは真逆の設計の人間やったけど……最後だけは、完璧に噛み合っとった」
轟は沈黙し、夜の帳が降り始める空を見つめた。
「……お前、死を怖がらないよな」
「怖いわ。阿呆か。昨夜も新秩序や崩壊来るたびに『終わる』と思ったわ」
「それでも行ったのか」
「行った。……見てみたかったんや。前世の俺すら知らんかった、あの『未知の先』を。俺の好奇心が、生存本能を上回った。それだけや」
「……そういうやつだな、お前は」
「ハハッ、最高の褒め言葉やな」
その夜、直哉は自室でノートを書いていた。
(……緑谷くんは南。気配が重いな。あいつも、自分の中の『燃料』と向き合っとるんやろな。……勝手にしとけ。俺は俺のやり方で進むわ)
今日の整理:
①スターの死を確定事項として受容。気配は「静か」だった。
②『消失』への回答——空虚呪法の空間固定。検証を急ぐ。
③感情(燃料)の欠乏を認識。設計を完成させるためのラストピース。
④空中機動の成功。数千メートルでも俺の術式は機能した。
扇子を開き、夜風を招く。
(……昨夜、俺はスターと戦った。届かなかったし、倒せへんかった。……せやけど、ずっと『後ろ』におった俺が、一歩前に出た夜やったことは確かや)
パチン、と扇子を閉じる。
(……次は、もう一歩。あいつらを追い越すための設計を作る番や)
電気を消した。
ご一読ありがとうございました。
スターアンドストライプという「巨大な設計」の終焉を、直哉の視点から描きました。
今回、直哉が砂藤くんや轟くんに漏らした「綺麗だった」という言葉。それは、完璧な設計が最期に放つ光への、直哉なりの最上級の敬意です。
一方で、己の術式が死柄木の「崩壊(消失)」に届かなかったという冷徹な事実。これに対し、直哉は絶望するのではなく「空間層の固定」という新たな設計図を引き始めました。
「感情が燃料で、設計が方向」。
この答えに辿り着いた直哉が、これからどのように「足りない燃料」を補い、死柄木という理不尽に立ち向かっていくのか。
次回からも、一歩ずつ、確実に「前」へ出る設計を積み上げていきます。