【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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 最強のヒーロー、スターアンドストライプの死。原作における絶望的なこのシーンを、直哉はどう見つめ、その「設計」に何を刻むのか。

 前夜、数千メートルの上空で彼女と並走し、その「最期」を肌で感じた直哉。

 届かなかった刃、通じなかった固定、そして目の当たりにした「感情を燃料とした設計」の完成形。

 敗北の静寂の中で、直哉がノートに記す「次」への仮説とは。

 一人の「観測者」が、明確に「当事者」へと変貌していく、再生の記録です。


キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。

評価、感想付与は直哉の当社呪法がさらに研磨されてより速くなります!


第52話:黒デク編「届かない戦場・スターの最後」

翌朝のニュースが、食堂の空気を完全に凝固させた。

 

 「アメリカNo.1ヒーロー、スターアンドストライプ——死亡」

 

 アナウンサーの声が流れた瞬間、広大な食堂から一切の音が消えた。前日の「期待」や「興奮」とは真逆の、何かが決定的に損なわれたことを突きつける、重苦しく息苦しい静寂。

 

「……嘘だろ」

 

 上鳴の声が、幽霊のように掠れていた。

 

「AFOと戦って、これかよ……」

 

 切島が絞り出すように呟き、言葉を失う。轟は微動だにせず画面を見つめていた。その瞳の奥には、測り知れない何かが沈殿している。お茶子は、白くなるほど強く唇を噛み締めていた。

 

 直哉はトレーを保持したまま、淡々とテレビ画面を眺めていた。

 

(……知っとったわ。昨夜、あの高空で気配が『消えた』瞬間にな。……それが今、電波に乗ってようやく『事実』として凡夫どもの耳に届いとる。……ハハッ、遅いねん。世界が変わるんは、いつだって一瞬やぞ)

 

 砂藤が、気配を殺して隣に立った。

 

「禪院」

 

「なんや?」

 

「昨夜——行ってたんだろ。禪院のことだからなんとなく察しはつく」

 

 直哉は箸を止めることなく、短く応じた。

 

「……そうやね」

 

「どうだった?」

 

「……デカかったわ。俺の設計では、到底倒せへん怪物やった」

 

 砂藤はしばらく直哉の横顔を、値踏みするように、あるいは案じるように見つめた。

 

「……でも、生きて帰ってきた」

 

「そうや。確かに戻ってきたわ。」

 

「……なら、それでいい」

 

 砂藤はそれ以上、無粋な詮索をすることなく黙々と飯を食い始めた。直哉もまた、静かに箸を動かす。

 

(……砂藤の分際で、ええこと言うやんけ。……せやな。生きて帰る。それが俺の最低限の『設計』や。……スター、あんたは最後まで雅やった。不細工な負け方かもしれへんけど、あんたの選んだ終止符(ラスト)は……嫌いやないわ)

 

 直哉は最後の一口を飲み込み、静かに席を立った。

 

 

一限前。直哉は職員室の相澤のもとを訪れた。

 

「報告しますわ」

 

「聞く」

 

 直哉は淡々と、昨夜の光景を「設計図」を読み上げるように伝えた。

 

 空写で余波を追跡し、戦場となった高度数千メートルの上空へ侵入したこと。零駒を連鎖させた即興の空中機動。スターへの「極ノ番・積層残影24葉『重』」が、スターを後退させる程の攻撃になったこと。そして、スターの索敵支援を行い、彼女が「決断」した気配を察知して離脱したこと。

 

 相澤は、一言も挟まずに聞き終えた。

 

「……スターの気配が消えた時刻は?」

 

「昨夜23時過ぎですわ。消え方は——酷く、静かでした」

 

 相澤がわずかに目を閉じる。

 

「スターには、通じなかったか?」

 

「今の俺の術式では、スターを倒す設計が組めませんでした。あらゆる術式への「新秩序」での制限という性質に対し、俺の術式全般は後手に回ることが多かった…仮に攻撃当てることはできても、その先を維持させてもらえへんかった」

 

「分かった。お前が行ったことで、戦局に影響はあったと思うか?」

 

 直哉は少し考え、自嘲気味に口角を上げた。

 

「俺が囮になった数秒で、スターさんが大技を叩き込める隙は作れましたわ。邪魔にはなってへんはずです。……やけど、あの人が最後に選んだ結末は、俺が居ても居なくても同じやったと思います」

 

「……そうか」

 

「はいですわ」

 

 相澤はしばらく沈黙し、教え子の姿を直視した。

 

「——除籍にならなくて良かったな。よく生きて帰った。それだけだ」

 

「……おおきに」

 

 

 昼休み。屋上で直哉はノートを開き、昨夜の戦闘記録を精査していた。

 

(……新秩序もイカレとったが、今は崩壊に対する設計を、根底から作り直さなあかん。空虚呪法の「固定」の術式は「消失」に脆すぎる。零駒も、触れられた瞬間に無に帰すんやったら、当てる意味すらあらへん)

 

 では、何が「消えない」のか。

 

 直哉はペンを走らせる。

 

(……物質を媒介にするから崩されるんや。空間そのものは、崩壊せえへん。スター戦で実践したように空虚呪法で『空間の層』そのものを固定できれば、死柄木の干渉を遮断できる可能性がある。……もうすでに一度、実践には使えとるから対策のための方向は見えたな)

 

 「死柄木・崩壊への対抗設計(仮):空虚呪法による空間層の固定→崩壊の伝播を空間レベルで遮断。要検証。」

 

 ペンを置き、扇子を広げる。

 

(……ハハッ、昨夜は数千メートルの空を駆けた。俺の設計は、あの異常な条件下でも確かに動いた。スターは倒せへんかったけど、一歩も引いてへんかった。……今日の空も、昨日と変わらず不気味に続いてるな)

 

 

 午後の自習時間。直哉はスターが最期に放った気配を反芻していた。 

 

 AFOに個性を奪わせないために、自らの個性に「反逆」のルールを刻んで自壊させた、あの凄絶な最期。

 

(……「感情が燃料で、設計が方向を決める」。あの人の答えが、ようやく腑に落ちたわ。届かなければならないという強烈な『感情』が、個性を壊すという狂った『設計』を正解に導いた。……俺には、まだその『燃料』が足りてへんのかもしれへんな)

 

 認めたくない事実だった。だが、直哉は迷わずノートに記した。

 

 「俺の設計には燃料が足りない。認める。不細工な話やけど、ここを認めな設計が狂う」

 

 

 夕方の屋上には、轟がいた。

 

「禪院」

 

「なんや?轟くん」

 

「昨夜、どこかに行ってたろ。……スターの件か?」

 

「……轟くんもよう見とるねえ…そうや。俺には、スターを止められへんかった。でもな、スターの戦い方を、誰よりも近くでサンプリングさせてもらったわ」

 

「どんな、戦い方だった?」

 

 直哉は遠い空を見据え、一言ずつ選ぶように答えた。

 

「感情で加速して、設計で完璧に終わらせる人やった。……最後の選択が、雅(綺麗)やったわ。あの人が一欠片の後悔もしてへんことが、気配の質から伝わってきた」

 

「……綺麗、か」

 

「せやな。俺とは真逆の設計の人間やったけど……最後だけは、完璧に噛み合っとった」

 

 轟は沈黙し、夜の帳が降り始める空を見つめた。

 

「……お前、死を怖がらないよな」

 

「怖いわ。阿呆か。昨夜も新秩序や崩壊来るたびに『終わる』と思ったわ」

 

「それでも行ったのか」

 

「行った。……見てみたかったんや。前世の俺すら知らんかった、あの『未知の先』を。俺の好奇心が、生存本能を上回った。それだけや」

 

「……そういうやつだな、お前は」

 

「ハハッ、最高の褒め言葉やな」

 

 

 その夜、直哉は自室でノートを書いていた。

(……緑谷くんは南。気配が重いな。あいつも、自分の中の『燃料』と向き合っとるんやろな。……勝手にしとけ。俺は俺のやり方で進むわ)

 

 今日の整理:

 

 ①スターの死を確定事項として受容。気配は「静か」だった。

 

 ②『消失』への回答——空虚呪法の空間固定。検証を急ぐ。

 

 ③感情(燃料)の欠乏を認識。設計を完成させるためのラストピース。

 

 ④空中機動の成功。数千メートルでも俺の術式は機能した。

 

 扇子を開き、夜風を招く。

 

(……昨夜、俺はスターと戦った。届かなかったし、倒せへんかった。……せやけど、ずっと『後ろ』におった俺が、一歩前に出た夜やったことは確かや)

 

 パチン、と扇子を閉じる。

 

(……次は、もう一歩。あいつらを追い越すための設計を作る番や)

 

 電気を消した。

 

 




ご一読ありがとうございました。

 スターアンドストライプという「巨大な設計」の終焉を、直哉の視点から描きました。
 今回、直哉が砂藤くんや轟くんに漏らした「綺麗だった」という言葉。それは、完璧な設計が最期に放つ光への、直哉なりの最上級の敬意です。

 一方で、己の術式が死柄木の「崩壊(消失)」に届かなかったという冷徹な事実。これに対し、直哉は絶望するのではなく「空間層の固定」という新たな設計図を引き始めました。

 「感情が燃料で、設計が方向」。

 この答えに辿り着いた直哉が、これからどのように「足りない燃料」を補い、死柄木という理不尽に立ち向かっていくのか。

 次回からも、一歩ずつ、確実に「前」へ出る設計を積み上げていきます。
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