【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
スター・アンド・ストライプの壮絶な最期から一週間。
世界がその余波に揺れる中、直哉は一人、静かに便箋に向き合っていました。
相手は、蛇腔の死地を共に潜り抜けた「ラビットヒーロー・ミルコ」。
満身創痍でリハビリに励む彼女と、理想の設計を追い求める直哉。
正反対の性質を持つ二人が交わす言葉は、慰めではなく、互いの「在り方」を問う鋭い刃でした。
「感情が燃料、設計が方向」
直哉が導き出した答えに対し、野生の直感で生きるミルコが放った「ある指摘」とは——。
静かな夜に綴られる、二人の再起の物語。開幕です。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。
感想、評価付与は直哉の当社呪法がよりキレを増して最速の術師の異名をまさに指し示すことになります!
スター・アンド・ストライプがこの世を去って、一週間。
直哉は自室でノートを開いた。日々の殺伐とした訓練記録の頁に挟まれている、数枚の便箋。
前回ミルコに筆を執ったのは、緑谷が雄英を去った直後だった。以来、二人の間では細々としたやり取りが続いている。ミルコからの返信は、常に短く、装飾がなく、剥き出しの言葉だけが躍っている。それが直哉には、最高に「マシ」な暇つぶしだった。
先週届いた手紙を、もう一度読み返す。
『腕の調子は悪くない。リハビリは続けてる。戦場に戻るのは早くて来月だと言われたが、そんな気がしねえ。もう戻れる気がしてる。お前んとこは避難民の対応で忙しいんだろ。頑張れよ』
(……ハハッ、無茶苦茶やな。「リハビリ中」と「もう戻れる」が矛盾なく同居しとる。……あの女らしいわ)
直哉は薄く笑い、新しい便箋に向かった。今夜は、あの「空の出来事」について書かねばならない。
『ミルコへ
腕の調子が良いようで、安心しましたわ。「もう戻れる気がしてる」という言葉、信じることにしますわ。あなたがそう直感したなら、物理法則の方が折れるんでしょうさかいな。
スター・アンド・ストライプが亡くなりましたわ。改めて報告します。
俺は『空写』であの人の余波を感知してました。深夜二時過ぎ、東の方角の震えが、ふっと「消えた」んですわ。翌朝のニュースで確認した時刻と、完全に一致してました。
届かへん場所、俺の術式では介入できへん距離でした。……それでも、あの余波だけは、確かにこの肌で感じ取っとったんですわ。
あなたは、スターのことをどう思っとりますか?
あの人は最期に、自分の個性を自ら壊しました。AFOに奪われないために。俺はその選択をずっと反芻しとります。「感情が燃料で、設計が方向を決めた」……そんな、極限の設計やったと思っとります。
……あなたなら、どうしますか?
訓練の進捗も書いときますわ。
『俺の個性…術式の極地…領域の展開』が3秒まで伸びましたわ。「当てる」から「染み込ませる」へと設計思想を変えたら、分厚い壁が消えおった。今は10秒を目指しとります。空写の射程も460メートルまで届きましたわ。
また、身体の進捗でも聞かせてくださいな。
禪院直哉』
十日後、返信が届いた。
封筒に躍る字はいつもより巨大で、利き手ではない左手で無理やり捻り出したような、荒々しい力に満ちている。
直哉は、どこか楽しげに封を切った。
『直哉
スターの話、受け取った。
「余波が消えた」ってのは、理屈屋のお前らしい受け取り方だぜ。私はテレビの訃報を見ただけだが、お前が空写であの人の最期を少しでも「視ていた」ってのは……なんか、悪くねえな。届かなくても、見てたってことだろ。
自分の個性を壊す選択か。
私にそれができるかは分からねえ。だが、あの人がそうした理由は分かるぜ。「後悔残して死んでらんねえ」ってのが私の生き方だ。あの人も同じだったんじゃねえか? 最後に、自分が一番後悔しない道を選んだ。それだけだろ。
「感情が燃料、設計が方向」ってのはうまいこと言うな。だが私の場合は設計なんてほぼねえ。感情で動いて、感情で止まる。それで今まで死ななかったから、それで正解だと思ってるぜ。
お前は設計で動く人間だな。最初から分かってたぜ。蛇腔の時も、お前の動き方は他の奴らと全然違った。感情はあるんだろうが、それを絶対に先に出さない。それがお前の「強さ」だ。……だがな、同時にそれが「弱さ」になる局面も、いつか来るかもしれねえぜ。
3秒、460メートルか。伸びてるじゃねえか。
来月には戦場に戻る。会えたら私の蹴り技でも拝ませてやるよ。
ミルコ』
直哉は便箋を机に置いた。
『弱さでもあるかもしれねえけどな』という一行に、視線が釘付けになる。
(……ハハッ、ミルコはほんまに、心臓を直接掴むようなこと言いよるな。褒めながら、同時に欠陥を指摘しおる。……胸糞悪いけど、気持ちええわ)
「感情を先に出さない」ことが、弱さになる局面。
スターが見せた、あの空中を裂く速度。あれは精密な計算だけでは到達できない、理屈を超えた「熱」がもたらしたものだったのではないか。
(……ミルコも同じ種類の『速度』を持っとる。感情で動いて感情で止まる。設計に頼らず死ななかったのは、感情の密度が生存本能を凌駕しとるからか。……俺の設計は、あの女らの『熱』に追いついとるか?)
その問いに、今は蓋をした。
だが、来月には会える。その期待が、直哉の胸に微かな火を灯した。
『ミルコへ
返事、おおきに。左手の字、力強くて読めましたわ。
「届かなくても、見てた」という言葉、受け取りました。……ええ、俺は確かにあの時、あの人を見てましたわ。
「弱さでもある」という指摘、何度も読み返しました。正しいんでしょうな。感情を遮断することで、致命的に遅れる瞬間が、いつか来る。……今はまだどこかは分かりませんけど、確かに「そこ」に穴がある気がしとります。
「感情で動いて感情で止まる」……俺には到底真似できへん在り方ですわ。やけど、その野蛮な生き方の中に、俺の設計に足りへん「何か」がある気がしてならんのですわ。
来月の再会、少し楽しみにしとります。あなたの蹴り、この空写で余さずサンプリングさせてもらいますわ。
訓練は続けとります。また書きます。
禪院直哉』
投函の準備を終え、直哉はノートの最終頁を開く。
(……緑谷くんは北西。速度は安定。……生存確認。よし)
今夜の整理:
①ミルコの基準は「後悔の不在」。スターの自壊を、生存戦略ではなく「尊厳」の設計として受理。
②「感情の遮断」という俺の防壁が、いつか弱点になるという指摘。致命的な設計ミスの可能性。要検討。
③来月、ミルコと再会の公算大。直接の接触によるデータ収集を優先する。
ペンを止める。
(……ミルコの奴、手紙でも一切「不細工」にならへんな。感情で動くくせに、芯だけは岩より硬い。……俺の設計は、俺の『芯』なんか。それとも、芯が無いから、代わりに張り巡らせた蜘蛛の巣なんか)
その問いへの回答は、今夜も出なかった。
扇子を開き、夜風に当たった。
(……来月、文字通り会うことになるかもしれへんな……手紙の文字より、あの女の熱を直接サンプリングした方が、設計が早まる気がするさかいな)
電気を消した。
ご覧いただきありがとうございました!
ミルコからの手紙、しびれましたね……!
「感情を先に出さないことが弱さでもある」という言葉は、効率と精度を極めようとする直哉にとって、最も痛烈で、かつ最も必要な劇薬だったのかもしれません。
自分の設計は「芯」なのか、それとも「芯がない代わりの蜘蛛の巣」なのか。
自己の存在理由を問い直す直哉の姿に、彼が単なる「冷徹なエリート」から、さらに一皮剥ける予感が漂います。
そしてついに、来月の再会予告!
**「左手の字にミルコらしさを感じる」「直哉の情緒が少しずつ育ってる……?」**など、皆様の感想をお待ちしております!