【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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いつもご愛読ありがとうございます!

3秒の壁を越え、順調に見えた直哉の訓練。
しかし、その先に待っていたのは「6秒」という冷徹な停滞でした。

空間の表層に触れるだけでは届かない、その先の深淵。
焦燥を捨て、呪力を「浸透」させることで見えてきたのは、世界のもう一つのレイヤー——。

「触れる」から「掴む」へ。
1/24秒で世界を刻む男が、ついに「10秒間の支配」へと手を伸ばします。

相澤消太が驚愕し、切島鋭児郎がその微かな笑みに気づく。
直哉が独り、夜の屋上で掴み取った『領域』の輪郭とは。
才能が加速し、結戦へのカウントダウンが始まる第53話、開幕です。

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。

評価付与、感想は直哉の当社呪法のキレが増して24fpsなんかでは速さが留まらなくなるかもしれません!


第54話:黒デク編「領域への足掛かり、10秒の輪郭」

3秒を越えてから、二週間が経った。

 

 直哉は屋上で、手垢のついた訓練記録をめくった。

 

 3秒→3.5秒→4秒(安定)→5秒(壁)→5.2秒→5.3秒→6秒(壁)

 

 伸びては止まり、僅かに後退しては再び這い上がる。一直線ではない、泥臭い試行錯誤の足跡。

 

(……6秒で止まっとる。今夜もや。……「染み込ませる」操作自体に淀みはないはずやのに、7秒の背中がカスほども見えへん)

 

 直哉は目を開けた。夜の静寂。頬を撫でる空気は、冬の予感を孕んで冷たい。

 

(……3秒から6秒の間で、手応えの質が変わったんは分かっとる。3秒は『世界のレイヤーに触れた』感触。6秒は『触れ続けて離さない』感触。……やけど、それだけじゃ足りへんのや。……『触れとる』だけじゃなくて、もっとこう、根こそぎ『掴む』ような……) 

 

(しかもこのまま領域の特訓を続けとったら術式が焼き切れて脳が持たんくなるわ…引き続き脳自体を反転術式で回復し続ける…これが後の俺だけの『設計した理想の領域』に活きてくるはずや…!)

 

 

 翌日の昼休み。直哉は屋上で空写を展開し、昨夜の残滓を追った。

 

 「触れる」から「掴む」へ。その決定的な差異は何か。

 

(……布を染めるんやったら、表面に色が乗るだけじゃ意味あらへん。繊維の奥の奥まで、染料が『浸透』せなあかん。……今の俺の呪力は、空間の『表層』を撫でとるだけや。……もっと、深層へ)

 

 だが、密度を上げれば空間に弾かれ、速度を上げれば表層で滑る。

 

 直哉は顎に手を当て、思考のフレームを組み替えた。

 

(……速度でも密度でもない。……『時間』か? 投射呪法は速さが精度を生む。やけど、領域を染めるんは——速度やなくて『持続』が精度を保証するんかもしれへんな。……焦らんと、ただ一定の圧で浸透し続ける。……ハハッ、俺に一番向いてへん作業やな)

 

 

 その夜。直哉は屋上で目を閉じた。

 

 「染み込ませる」。空間の繊維に対し、呪力を静かに、かつ執拗に流し込む。

 

 6秒。いつもの限界点。いつもの「表層」の感触。

 

(……ここで焦んな。設計を崩すな。……ただ、浸透し続けろ。……もっと、奥へ)

 

 密度も速度も維持したまま、ただ「持続」という重圧をかける。

 

 6.5秒。

 

 その瞬間、指先から「違う感触」が脳に走った。

 

(……ッ、これか)

 

 空間の繊維の、さらに一段奥。それまで触れていたのは単なる薄皮に過ぎなかったと思い知らされる、圧倒的な「深層」の重なり。

 

 7秒。

 

「……っ」

 

 声が、呼気が漏れた。

 

 初めて7秒を越えた。だが、そんな数字はどうでもいい。今触れたこの感触——フレームとフレームの隙間に、別の時間が澱のように溜まっているこの重層感こそが、領域の核だ。

 

 

 そこから先は、加速した。

 

 「深層」への扉を見つけたことで、操作の解像度が跳ね上がった。

 

 翌日、8秒。

 

 三日後、9秒。

 

 そして五日後——10秒。

 

 直哉は目を開けたまま、しばらく立ち尽くした。

 

 10秒間、世界の色が変わっていた。「俺の設計に従っている」という不遜な自負が、さらにその先へ変質した。

 

(……『従っとる』んやない。……『俺のもの』になっとるんや)

 

 3秒は「干渉」。10秒は「所有」。

 

 世界の一部を、自分の手の内に収めているという万能感。空写を同時展開すると、10秒の間だけ、空間の気配から「余計なノイズ」が完全に消えていた。

 

(……これが広域に展開できれば、戦場の『外側』を構築できる。内側の俺からは外が読めるが、外の奴らからは俺の設計が見えへん、不均等な檻。……ハハッ、これが領域展開の産声か)

 

 

 放課後。直哉は職員室ではなく、無人の教室にいる相澤を訪ねた。

 

「相澤先生」

 

「……来たか。顔が違うな」

 

「10秒、到達しましたわ」

 

 相澤の眉が、僅かにピクリと動いた。

 

「……昨夜か?」

 

「はいですわ。安定値はまだ8秒程度ですが……昨夜、確かに10秒の向こう側を掴みましたわ」

 

「その内側で、何が見えた?」

 

 直哉は扇子を弄びながら、言葉を選んだ。

 

「空間が『俺の所有物』になる感触です。外から気配を悟られず、俺の設計の内側と外側が完全に断絶される。……領域展開の片鱗やと判断しとります」

 

 相澤は教壇に背を預け、天井を仰いだ。

 

「……正直、1年でここまで来るとは思っていなかった。お前の学習曲線は異常だ」

 

「俺も、今世でここまで早く辿り着けるとは思ってませんでしたわ」

 

「焦るなよ。まずは10秒を安定させろ」

 

「はいですわ。……ただ、急ぎますわ。焦りとは、また別の理由で」

 

 相澤は直哉をじっと見据えた。

 

「……理由は、分かっている」

 

「……はいですわ」

 

 決戦の足音は、もうすぐそこまで来ている。二人を繋ぐのは、言葉以前の「戦士」としての危機感だった。

 

 

 廊下で切島と上鳴に捕まった。

 

「禪院、また屋上? 最近、取り憑かれたみたいに特訓してるよな」

 

「訓練や。止めると死ぬタチなもんで」

 

 切島が、覗き込むように直哉の顔を凝視した。

 

「……何かあったか? なんか、いい方向に顔が違うぞ」

 

「……やっぱ分かるもんなんか?10秒、来ましたわ」

 

「え、何が? 息止め?」

 

 上鳴がボケるのを無視し、直哉は切島の視線に応えた。

 

「ずっと越えられへんかった壁を、昨夜ようやく壊しましたんや」

 

「……嬉しいか?」

 

 切島の問いに、直哉は一瞬、言葉を失った。

 

(……嬉しい? 俺が? そんな、凡夫みたいな感情が……)

 

「……どうやろなあ?感情があるかどうかは知らんけど、設計図が綺麗に繋がったことへの満足感はありますわ」

 

「それ、嬉しいってことだよ」

 

「……そうなんか?」

 

「そうだよ。お前がそういう、ちょっとだけ不遜さが抜けた顔をする時は、だいたい嬉しい時だ」

 

 切島に笑われ、直哉は鼻を鳴らした。

 

「……なら、そういうことにしときましょ。訓練に戻るわ」

 

 

 その夜。直哉は再び屋上に立った。

 

 表層から深層へ。焦らず、一定の圧で。

 

 7秒、9秒……10秒。

 

「……再現成功や」

 

 空間が、直哉の設計という色に染まる。

 

 11秒。

 

「……」

 

 昨日より1秒、世界を長く所有した。

 

 再現確認:10秒安定。本日最大12秒。

 

(……焦らず浸透させる操作は定着した。次は、この支配領域の『範囲』の拡張や。今は俺の周囲1メートル……これを拡げていかんと、本当の意味での『檻』にはならん)

 

 扇子を仰ぎ、夜風を吸い込む。

 

(……今夜の緑谷くんは北か。……あいつも泥水の中で必死こいて走っとる。その姿は滑稽やけど…俺も、止まっとるわけにはいかんのや)

 

 12秒。

 

「……来い、もっと先や」

 

 空間が歪み、直哉の呪力が夜の闇に溶けていく。

 

 屋上の星空は、昨日よりも少しだけ近く、そして自分の支配下にあるように感じられた。

 

(……脳を反転術式で治癒することにも慣れて来とる…ようやくここまで来たわ。……いや、ここからや)

 

 直哉はノートを閉じ、電気を消した。闇の中でも、その瞳には12秒の残光が宿っていた。




ついに到達した「領域」10秒の大台。
3秒の時点では「干渉」に過ぎなかった力が、10秒を超えたことで「支配(俺のもの)」へと昇華されるカタルシス……!
空間そのものを自分の設計図に書き換えるこの感覚こそ、まさに領域展開の原形と言えるでしょう。

相澤先生に放った「急ぎますわ」という言葉。
焦りではなく、迫りくる決戦の足音を正確に聞き取っているからこその決意が、直哉をさらなる高みへと押し上げています。

次なる課題は、この絶対空間の「範囲拡張」。
**「直哉の領域が完成したら、AFOでも手出しできないのでは?」「切島くん、相変わらずいい奴すぎる……!」**など、皆様の感想をお待ちしております!

この回を見て研鑽してるな!とかより強くなって行ってると感心をしたら是非お気に入りに登録、感想、評価付与などをお願い致します!
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