【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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死柄木弔との死闘、そしてスター・アンド・ストライプという規格外の「最強」を間近で見た夜から、数日が過ぎた。

 雄英高校は、表面上は平穏を取り戻しつつある。しかし、その内側では、来たるべき「超常解放戦線」との決戦に向け、生徒たちそれぞれの戦いが始まっていた。

禪院直哉もまた、その一人である。
 彼は、前世で自身を縛り付けた「凡夫」という呪縛を、今世で積み上げた「設計(ロジック)」によって解き放とうとしていた。呪力の常駐化、反転術式の精度向上、そして「空写」の拡張——。寝る間も惜しんで訓練に没頭する彼の姿は、周囲からは強靭な意志の表れに見えた。

しかし、その「設計」は、あくまで直哉自身の内側から見たものでしかない。

 夕暮れの廊下。

 訓練場へと向かう直哉の前に、一人の生徒が立ちはだかる。

 常闇踏陰。

 「闇」を個性とし、常にその境界線を歩き続ける彼は、直哉の中に潜む、本人さえも気づいていない「欠落」を、その鋭い審美眼で見抜いていた。

 「お前は——何のために戦う」

 常闇の静かな問いが、直哉のロジックで固められた内面を、静かに、しかし深く揺さぶり始める。

 それは、呪術の精度を競う戦いではなく、己の存在根拠を問う、終わりのない哲学の始まりだった。

常闇回なのでこんな感じで語ってみました…ではどうぞ!

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。

感想、評価付与は直哉が常闇からの問いに雅に答えてくれます!



最終決戦編
第56話;最終決戦編「常闇への開示・哲学の問い」


夕暮れの廊下は長い。

 

授業が終わった後、直哉は訓練場に向かう途中だった。常駐化の精度確認を今夜も続ける。昨夜の記録では崩れる回数が八回。前夜の十回から減っている。方向は正しい。ただ距離はまだ遠い。

 

(一回、たった一回縮めるために、どれだけの設計を組み直さなあかんのか。……ヘドが出るほど地道な作業やな。けど、これができなきゃ俺はまた「あっち側」へは行けへん)

 

廊下の窓から斜めに夕日が差し込んでいた。

 

「禪院」

 

声をかけられた。

 

常闇踏陰だった。廊下の壁に背をつけて立っていた。マントが夕日を吸って、その周囲だけわずかに暗い。黒影(ダークシャドウ)がマントの陰に静かに潜んでいる気配がある。

 

「常闇くん」

 

「少し話があるのだが——構わないか?」

 

直哉は訓練場への時間を確認した。数分なら問題ない。

 

「……構わへんよ。君の芝居がかった話、嫌いな方やないし」

 

二人で廊下の窓際に並んで立った。

 

外の運動場ではbクラスの生徒が走っている。遠くで部活の声がする。常闇はしばらく無言で外を見てから、直哉の方に視線を向けた。

 

「単刀直入に聞く」

 

「なんや?」

 

「お前は——何のために戦う?」

 

問いが来た。

 

切島には「なんで強くなりたいのか?」と青臭いことを聞かれたが、常闇の問いは形が違う。「強くなりたい理由」ではなく「戦う理由」。動機ではなく、戦場に立つことの根拠そのものを問うている。

 

「——俺自身に証明するためや」

 

「証明、か」

 

常闇が繰り返した。否定でも肯定でもなく、言葉の重さを確かめるように。

 

「何を証明する?」

 

「見えてへんかったものが、見えるようになること。……ただそれだけや」

 

「……続けろ」

 

直哉は少し脳内のロジックを整理してから話した。

 

「前の生活でな、俺は景色扱いされたんや。強い人間の戦場で、俺はその景色の一部やった。戦う相手としてすら認識されてへんかった。目線すら来なかった。……あの屈辱、君らみたいな『持ってる』人間には分からんやろな」

 

(甚爾くん。……あの人は俺を見てへんかった。ただの石ころと同じやった。……それが俺の、動かしようのないスタートラインや)

 

「それが——証明と、どう繋がる?」

 

「俺が見えてへんかったのは——その人に俺が見えてへんかったのと、同じ構造や。俺には、俺自身の『限界の輪郭』が見えてへんかった。景色扱いされて、プライドをズタズタにされて初めて、自分の設計の欠落がどこにあるかが見えてきたんや」

 

「欠落が見えれば——」

 

「補えますさかい。欠落が見えない状態では一生補えへん。見えた時に初めて、どこを埋めるかが決まる。……俺にとっての証明とは、見えてへんかった自分の輪郭を、一つずつ見えるようにしていくこと。……凡夫が唯一、化け物に近づく設計図や」

 

常闇がまた黙った。廊下に夕日が伸びていた。常闇の影が夕日の方向に細長く落ちている。

 

「なるほど」

 

短く言った。「なるほど」という言葉が、いつも仰々しい常闇から出ると少し意外な感じがした。しかし常闇はそれ以上飾らなかった。

 

「俺の個性はある意味で闇そのものだ」

 

「知ってるで。君のアイデンティティやろ?」

 

「闇の中では黒影は強くなる。光の中では制御が利く代わりに力が落ちる。俺はずっとその境界線を歩いてきた。力を求めれば闇に引き込まれる。制御を求めれば光に寄る。どちらを選んでも、どちらかを失う……その葛藤の中に俺はいる」

 

「そうやね」

 

「お前が言う『見えていなかったものを見る』という証明——それは、闇の中で見ようとすることと構造が似ている」

 

直哉は常闇を見た。

 

「闇の中では、目が慣れるまで何も見えない。しかし一度慣れれば——光の中では決して見えないものが見える。輪郭が鮮明になる。影と影のわずかな差が分かる。お前が言う『設計の欠落が見える』というのは——慣れた目で闇の深淵を覗くことと、同じではないか?」

 

直哉はしばらく考えた。

 

(闇……。……ハハッ、かっこいい言い方しよるな。要はどん底やろ)

 

「……そうかもしれへんな。俺はずっと、欠落が痛い場所から設計を見てきた。痛みが走る場所……そこだけが、見えてへんかった俺の輪郭を照らしてくれる。皮肉な話やけどな」

 

「痛みが照らす、か」

 

常闇が低く言った。短く息を吐いた。否定の笑いではない。何か、自身の闇と直哉の「欠落」が重なる部分を確かめたような、そんな吐息だった。

 

 

 

「しかし——俺にはまだ釈然としない点がある」

 

 常闇が続けた。

 

「何や?……まだ何か注文あるん?」

 

(こいつ、芝居がかった態度の割に、踏み込んでくる場所がえげつないな)

 

「お前が証明するのは、お前自身に対してだろう。他者に見せるためではない」

 

「そうやな。凡夫に理解してもらう必要なんてさらさらないわ」

 

「ならば——お前が証明を完了したと感じる基準は何だ。どこまで行けば、お前は己を証明したと言えるのか」

 

 問いが刺さった。

 

 直哉は即座に論理を返そうとして——口を閉ざした。

 

 答えが出なかった。

 

(……どこまで行けば? 甚爾くんに認識されたら? 呪力の常駐化を完璧にしたら? 、悟くんを、真希ちゃんを、宿儺を、あるいは死柄木…AFOを捩じ伏せたら? ……いや、どれも違う。それは単なる「結果」や。俺が求めてる「証明の終わり」は、そんな場所にあるんか?)

 

 どれも「節目」だ。「終わり」ではない。証明の終着点がどこにあるのかを、直哉は今まで考えていなかった。効率を上げるために「締め切り」を作り、「節目」を刻んできた。しかしその先に何があるかを——俺は、まだ見てへん。

 

「……今は答えられへんな。不本意やけど」

 

「答えられないのか」

 

「答えが出てへんですさかい。……俺の設計図の最終行は、まだ空白や」

 

 常闇が少し間を置いた。

 

「それは——正直な答えだ。お前という人間を、少しだけ理解した気がする」

 

夕日が沈み始めていた。廊下が急速に闇に呑まれ、常闇の影が溶けていく。マントの下で黒影(ダークシャドウ)が活性化し、わずかに身じろぎした気配がある。

 

「俺も同じ問いを持っている」

 

「同じ問い言うたら戦う理由ってことなん?」

 

「証明の終わりがどこかにあるのか、という問いだ。俺は闇を制御することを証明し続けている——自分に対して。黒影が暴走するたびに、俺は失敗を刻む。制御できたとしても、そこに完成があるとは思っていない。……俺は、終わりのない証明を続けている」

 

「……それは、しんどくないん?出口のない迷路を走っとるようなもんやろ」

 

「しんどい、という感覚とは少し違う。終わりがないことに——慣れた、という方が近い」

 

 直哉は少し考えた。

 

「俺は——終わりがないことに、まだ慣れてへんかもしれへんな。常に『次』を埋めんと気が済まへん質や」

 

「お前は締め切りを意識している。それは無理にでも終わりを設定しようとしているということではないか?」

 

「……締め切りは終わりやないな。終わりではなく——次の設計に入るための節目や。区切りを入れんと、凡夫の設計はすぐに緩んでまうさかいな」

 

 常闇が短く息を吐いた。今度は明確に、何か気に入った、という感じの吐息だった。

 

「それは——上手い言い方だな。深淵を渡るには、相応の足場が必要ということか」

 

「……一つ聞いてもええか?」

 

 直哉が、不意に問いを返した。

 

「何だ?」

 

「常闇くんは——なぜ俺にこれを聞いたん?有象無象に構うタイプやないでしょ、君も」

 

 常闇がしばらく黙った。

 

「お前を見ていると——何かを追っている感じがする。しかし何を追っているかが、外からは全く見えない。……それが、不可解で気になった」

 

「気になったから聞いた、と。……シンプルやな」

 

「そうだ」

 

「切島くんも似たようなことを言うてたな。なんで強くなりたいのかって」

 

「……あいつらしい問いだ」

 

 常闇が低く笑った。声ではなく、仮面のような目の辺りがわずかに緩む。

 

「常闇くんは——俺の設計の『外側』を見てるな」

 

「外側?」

 

「俺は設計の内側からしか見てへん。欠落がどこにあるか、何を補うべきか。それが俺の視点や。でも常闇くんは外から『俺が何を追っているか』を見ようとしとる。……俺自身には、全く見えてへんかった視点やな」

 

「……それは——光の外から深淵を見ている、ということかもしれないな。フッ——面白い言い方だ」

 

廊下に夜が来ていた。

 

 訓練場に着いた頃には、外は完全に暗くなっていた。

 

 常駐化の訓練を始めながら、常闇との会話を反芻した。

 

(「どこまで行けば証明したと言えるのか」。……チッ、余計な宿題を出しよって。この問いは、設計の根拠に関わる。終わりが分からんまま走り続けるのは、出口のないトンネルを爆走しとるようなもんや)

 

 「見えていなかったものを見る」という証明。そのゴールが自分でも曖昧なまま、俺はただ「昨日の自分」を追い越すことだけに執着していた。

 

(超常解放戦線が終わった後、俺は何を証明しようとしとるんや。……「あっち側」へ行ったその後に、俺は何を見る?)

 

今夜はそこまで辿り着けなかった。

 

訓練を続けた。常駐化が崩れる回数——七回。前夜の八回から、また一歩縮めた。

 

(一回ずつや。設計を煮詰めれば、必ず数字は応えてくれる。……それでいい)

 

深夜。ノートを開いた。

 

『第五十二夜。方向、南南西。雄英内部。生存確認。考えを改めて再脱出する可能性を含めて引き続き監視継続。』

 

『備考:常闇踏陰と廊下で対話。戦う理由は「己への証明」と回答。対して「証明の終わりはどこか」という問いを突きつけられる。現時点で回答不能。保留ではなく「設計の根拠として解答を導き出すべき問い」として記録。』

 

『常闇は俺の設計の外側を観測している。内側に閉じこもる危険性を再確認。「締め切りは節目である」という言語化の定着。……常駐化、崩れる回数七回。』

 

ペンを置いた。

 

扇子を取り出した。バサリと開き、熱を帯びた脳を仰ぐ。

 

(「どこまで行けば証明したと言えるか」。……いつか、甚爾くんが見てたのと同じ景色を俺が掴んだ時、その答えが見えるんやろか。……それとも)

 

今夜は答えが出なかった。

 

でも——問いの輪郭は、かつてないほど鮮明になった。

 

(……それで今夜は十分や。寝るわ)

 

扇子を閉じた。




今回は、直哉と常闇という、一見接点のなさそうな二人の対話を通じて、直哉の「戦う理由」と、その「証明」の曖昧さを浮き彫りにする回となりました。

切島との会話では「強くなりたい理由」という動機を問われましたが、常闇はさらに踏み込み、「戦うことの根拠(証明の終わり)」を問いました。

 直哉はこれまで、「凡夫」からの脱却、甚爾への執着、死柄木への対抗といった「節目」を設定することで、自身の設計を進めてきました。しかし、常闇の「どこまで行けば証明したと言えるのか」という問いに対し、直哉は答えを出すことができませんでした。

「この話、後で効いてきます」


これは、直哉が自身の設計の「内側」に囚われ、その「外側」にある、自分自身が本当に求めている「何か」を見失っていることを示唆しています。常闇は「闇に慣れた目」で、直哉のその「見えていない欠落」を指摘しました。

常闇自身も「終わりのない証明」を続けていると語り、直哉の「締め切りは節目だ」という言語化を肯定しました。二人は異なる「闇」を抱えながらも、己を証明し続けるという共通の地平に立っていることが、この対話で明らかになります。

「問いが鮮明になった。それで今夜は十分や」

 直哉は、答えが出なかったことを敗北と捉えず、新たな「設計の課題」として受け入れました。彼がこの問いの答えを見つけた時、彼の「設計」は真の意味で完成に近づくのかもしれません。

一歩ずつ、しかし着実に前進する直哉の物語。次回の展開も、どうぞお楽しみに。


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