【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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「開戦」の合図は、空気が砂へと変わる音だった。

 死柄木弔。かつてスターアンドストライプをも飲み込んだ「崩壊」の権化が、今、完成体として目の前に立つ。触れれば終わり。掠めれば死。そんな絶望的な戦場において、禪院直哉は扇子を広げ、静かに術式を回し始めた。

 『空写』距離優先700メートル。

 精度と距離を刹那の間に切り替え、脳を反転術式で焼きながら、彼は戦場の全てを「箱」の中に閉じ込める。

 「——緑谷くん、右や」

 それは、前世の彼が決して選ばなかった道。誰かの「目」となり、誰かの「手」を生かすための設計。

 死柄木の理不尽な再生能力に対し、直哉とデクの即興にして至高の連携が、絶望の弾幕を切り裂いていく。

 「景色」を見る側から、戦場を「観測」する側へ。

 不完全な領域を抱えたまま、直哉の「最高設計」が今、試される。

※最終決戦編の書き方を描きたい展開を加味して流れをオリジナルで製作しているため、今後の内容は原作とかなり決着までの形式・時系列が違う可能性があります。ご注意ください。

評価付与、感想は直哉の!そして私のテンションアップに繋がります!うぉぉぉ!迅速に書き上げます!


第60話:最終決戦編「死柄木戦・空写の目として」

 

 

——天空の要塞、雄英。

 

 物間の“ワープ”によって分断された戦場の一つ。本来、俺の1番の役割はAFOの足止めやったはずやが……運命の悪戯か、あるいは俺の『設計』の狂いか。

 

 今、俺の目の前には、完成へと近づく『絶望』そのもの——死柄木弔がおる。

 

 相澤先生と物間くんが必死に“抹消”を維持しとるが、奴の膨張する肉体までは止めきれない。

 

「——抹消(まっしょう)で個性を封じられた死柄木相手に、緑谷くんがここまで苦戦しとるんは、奴の『肉体そのもの』が既にルールを逸脱しとるからや。

 『危機感知』だけやと情報過多で脳が死ぬ。だから、俺がその濁流を『空写』で濾過(ろか)して、最短の回答だけを叩き込んでやっとるんや。

 ……感謝しなさいな。俺がおらんかったら、この浮遊要塞はとっくに砂の城になってたで。」

 

『空写』を広げた瞬間、全てが視界に流れ込んできた。

 

距離優先モード。半径700メートルの輪郭。

 

戦場は、呆れるほどに広い。

 

その中心で、死柄木弔が動いていた。崩壊の気配が空間そのものを侵食し、砂へと変えていく。スターとの三つ巴で一度体験した気配だが、今日のは密度が違う。あの時よりもさらに、完成という名の絶望に近づいていた。

 

(……本番や。出し惜しみしとったら、一瞬で景色にされるで)

 

緑谷くんの気配は南東。OFAの出力が跳ね上がり、黒鞭がのたうつように展開されている。奴は『浮遊』で高度を取り、死線を見極めていた。

 

A組の面々の気配がそれぞれの方向へと散り、後方支援ラインには相澤先生の気配がある。

 

直哉は『鏃』を足先で起動させるようにして加速、爆ぜるような速度で建物の屋上へと跳躍した。

 

空中で『空写』を精度優先に切り替える。死柄木の微細な呪力変化を絞り込み、崩壊の「次の軌道」を逆算した。

 

(左に動く……次の崩壊は、緑谷くんの右側から来る!)

 

「——緑谷くん、右や!」

 

直哉の声が響くと同時に、緑谷くんが右側へ弾かれた。刹那、さっきまで奴がいた場所を、無慈悲な崩壊の波が通り抜けていく。

 

「よく見えるよ、禪院くん!」

 

「……そうか。なら、もっと踊れや!」

 

連携が始まった。

 

直哉は『空写』の精度優先と距離優先を、脳が悲鳴を上げる速度で切り替え、戦場全体をスキャンし続ける。

 

死柄木の崩壊は、「五本の指が触れた場所から広がる」という物理的な制約を持つ。直哉はその指先の微細な角度、筋肉の弛緩すらも逃さず追っていた。右手の中指がわずかに浮く——脳内の設計図が、即座に崩壊の到達角を弾き出す。

 

「——上や。黒鞭で横に逃げろ」

 

緑谷くんが黒鞭を建物の残骸に絡め、身体を横へ流す。崩壊の奔流がその頭上をかすめていった。

 

「——死柄木が後退した。けど、それは囮や。左後方に崩壊のトラップを仕込んどる」

 

「後方にも気をつけるよ!」

 

「ああ、そうだ。……今や、入るぞ」

 

『変速』が発動し、緑谷くんの速度が段階的に、かつ異常に跳ね上がる。

 

「——セカンド。真正面の崩壊が展開される直前、一瞬だけ隙ができる。……今や!」

 

緑谷くんがギアを上げ、弾丸となって突進した。死柄木が掌を広げるより速く、極大の衝撃がその胸に突き刺さる。

 

「——ッ!」

 

死柄木が後退した。だが、欠損した右腕は瞬く間に膨れ上がり、再生していく。

 

(……チッ、再生速度が異常やな。緑谷くん一人の出力では削り切れへんか)

 

「緑谷くん、今の一撃は届いとった。でも再生が早すぎる。このまま消耗戦に持ち込んでも、こっちの脳が先に焼き切れるわ」

 

「分かった。急所を叩く!」

 

「崩壊の核がどこにあるか、まだ読み切れてへん。……もう少し、俺に情報を集めさせてくれや!」

 

五分が経過した。

 

直哉は『空写』で情報を緑谷に供給し続けながら、自身も高速移動を絶やさない。死柄木の「感知範囲」のキワを常に走り抜け、索敵の精度を維持する。

 

だが、そこに——理不尽なまでの悪意が飛来した。

 

死柄木の首が、不自然な角度で直哉の方向を向いた。

 

(……気づかれたか。流石にこの距離でスキャンし続けりゃ、目立つわな)

 

崩壊の波が扇形に展開される。建物の外壁が、まるで古びた紙細工のように砂となって崩れ落ちた。

 

直哉は『落花の情』で迫り来る崩壊の波をオートで迎撃し、空中に『空虚呪法』の固定点を生成。そこを『鏃』の反動で蹴り上げ、強引に上昇した。崩壊の扇形、その上端のわずかな隙間を潜り抜ける。

 

「——禪院くん!」

 

「心配しとる暇があるなら動け! 続けてくれ!」

 

死柄木の視線が直哉に吸い寄せられ、緑谷くんへの警戒がコンマ数秒、散った。

 

緑谷くんはその隙を逃さない。

 

蓄積された『発勁』を全解放。OFAと組み合わせた超重質の一撃が、死柄木の胴体を正面から捉えた。

 

「——ぐ、……ッ!!」

 

流石の死柄木もよろめく。直哉が囮となって注意を引いた一瞬が、緑谷の大技をねじ込んだ。

 

(これや。これが、俺がいる意味や)

 

「——手応えはあったわ。俺も『鏃・12連』で追撃入れるで」

 

空中から十二本の『鏃』を鋭利な高速弾として叩き込む。全力ではない。着地を狩るための嫌らしい牽制だ。

 

死柄木は崩壊でそれを打ち消したが、一瞬だけ着地の体勢が崩れる。

 

「——今や、緑谷くん! 入れろ!」

 

「『デラウェア・スマッシュ』!!」

 

衝撃波が炸裂し、死柄木の身体が吹き飛んだ。

 

息を整えながら、直哉は『空写』で死柄木の再生プロセスを観察する。

 

欠損した部位が、不気味な脈動を伴って戻っていく。その再生の「質」を、ドブカスなほど冷徹に読み解いた。

 

(……早い。でも、単調やな。パターンが見えたわ)

 

「緑谷くん、一つ分かったことがあるで」

 

「何?」

 

「死柄木の再生は、崩壊が触れた箇所から順番に戻っとる。……つまりやな、同時に複数箇所をズタズタにすれば、再生の優先順位がバグる。再生が追いつかへん局面が作れるはずや」

 

「複数箇所を同時に……それって」

 

「緑谷くんのその個性なら、黒鞭と変速を組み合わせりゃ、四方八方から同時に叩き込めるやろ?」

 

「……やってみる!」

 

緑谷くんが動いた。『浮遊』で空高く舞い上がり、六本の黒鞭を四肢のように展開。そこから『変速』でオーバードライブへと突入する。

 

六本の黒鞭が、死柄木の全身六か所を同時に捉え、力任せに引き裂いた。

 

「——ッ!!?」

 

死柄木の再生が——止まった。六か所同時に修復しようとして、呪力(リソース)の分配が追いついていない。

 

「——今や。一気に沈めるぞ!」

 

直哉は懐の扇子を、舞うように翻した。

 

「瞬刻、二十四節、積層の理——」

 

詠唱が空気を震わせる。

 

24層分の不可視の衝撃が、直哉の拳に凝縮されていく。

 

「『極ノ番ー積層残影24葉・重』!!」

「OFA100%!ユナイテッド・ステイツ・オブ・SMASH!!」

 

と緑谷も技名を咆哮し、それと完全に重なるタイミングで、直哉の極ノ番が死柄木の心臓部へと到達した。

 

その時、直哉の拳に黒い稲妻が迸った。

 

(黒閃…ハッ!…初手から景気やんけ)

 

「——ガ、ハ……ッ!!!」

 

死柄木の巨体が、大質量兵器を叩き込まれたかのように吹き飛ぶ。

 

崩壊した地面を何度も跳ね、数百メートル先まで転がっていった。

 

(……倒しきれへんかったか。化け物め。でも、ここまで削りゃあ十分やろ)

 

直哉は自身の右腕を確認した。極ノ番『積層残影24葉・重』の反動でボロボロになった筋肉を、即座に反転術式で修復する。

 

(……さて、次や。俺の『設計』は、まだ終わってへんで)

 

 

 

直哉は素早く『空写』を距離優先モードへと切り戻した。半径700メートル。

 

戦場全体を、網膜に焼き付けるように再確認する。

 

死柄木の気配——後退しているが、依然として強大な生命力を維持している。見る間に再生が進んでいた。

 

1-Aの面々の気配——全員の生存を確認。数名に負傷が見られるが、戦闘継続に支障はない。

 

そして、南の方向に動く轟の気配があった。

 

(……熱量が変わったな。炎の出力が、さっきまでの比やない)

 

轟くんが荼毘と接触したのだ。直哉は一瞬だけそちらに意識を向けたが、すぐに視線を外した。 

 

(……あれは、俺が入る戦場やない。あいつらの、家族の「設計」や)

 

即座に死柄木へと意識を戻す。

 

「緑谷くん、死柄木は後退中や。今すぐには来えへん。でも——30秒以内に再生が完了するで」

 

「30秒……」

 

「今のうちに呼吸を整えろ。俺は反転術式で傷を修復するわ」

 

「禪院くんも、傷は大丈夫?」

 

「『極ノ番』の反動だけや。もう修復した」

 

「……空写と戦闘を同時に続けて、疲弊してない?」

 

緑谷くんの真っ直ぐな懸念に、直哉は少しだけ思考を巡らせた。

 

(……脳への負担は、正直笑えんレベルやな。でも、まだ動ける。反転術式を脳へ直結させて、焼き切れる端から修復しとるさかいな)

 

「——無理はしてへん。全部、設計通りや」

 

死柄木が戻ってきた。

 

欠損した肉体は完全に元通りになり、先ほどの一撃によるダメージは霧散していた。

 

(……やっぱり、正面から倒し切るのは無理筋やな)

 

直哉は冷徹に現状を天秤にかけた。

 

今の戦力配置では、直哉と緑谷くんが死柄木を完全に沈めるのは不可能だ。削ることはできても、再生速度を上回る破壊を永続させるリソースが足りない。

 

(……この戦場での俺の役割は、『削る』ことやない。『他の戦場を生かす時間を稼ぐ』ことや)

 

「緑谷くん」

 

「うん」

 

「俺らだけでは、今ここで死柄木を倒しきるんは難しいわ」

 

「……分かってる」

 

「でもな——俺らがここで削り続けることで、他の戦場の時間を稼げる。轟くんの場所も、他の連中の場所も。俺らが死柄木を引き付けてる間だけ、あいつらは自分の戦いに集中できるんや」

 

「そのために……空写で全体を見てるんだね」

 

「そうや。戦場の『目』として機能する。それが今日の俺の設計や」

 

「——でも」

 

緑谷くんが言葉を継いだ。

 

「禪院くんの戦場は、別にあるんでしょ。前に言ってた」

 

「そうや」

 

「いつ行くの?

「AFOとの直接接触の局面が来た時や。……そこが、俺の終着点やからな」

 

「……そのために今は、僕の目になってくれてるんだ」

 

「今の設計は、そうやと言うとるやろ」

 

緑谷くんは、少しだけ目を細めて微笑んだ。

 

「……ありがとう、禪院くん」

 

「礼はいい。死柄木が来るぞ。構えや!」

 

「——うん!」

 

激化する死柄木との交戦。その最中も、直哉は『空写』を維持し続けた。

 

精度優先で死柄木の指先を読み、距離優先で周囲の状況を監視する。

 

脳への負担が蓄積し、切り替えの速度がわずかに鈍るのを感じるたび、反転術式による「脳直結」の出力を強めた。神経回路が強引に冷却され、強制的にクリアな視界が戻ってくる。

 

「——死柄木が右手の五本指を全部使うぞ。大規模な『崩壊』が来るわ。後退せえ!」

 

「全部!? それって——」

 

「広域展開や! 今すぐ高度を取らんと、範囲内に呑まれるぞ!」

 

緑谷くんが『浮遊』で大きく上昇し、同時に『煙幕』を展開した。直哉のアドバイス通り、視界を遮断しながら危機感知を頼りに最短距離で範囲外へ逃れる。

 

直後に放たれた崩壊の波。地面が砂へと還り、巨大な建造物が跡形もなく瓦解した。

 

だが、緑谷くんには届かない。

 

「——助かったよ」

 

「ええな。煙幕の展開速度、上がっとるわ」

 

「禪院くんに教えてもらってから、煙幕と危機感知の組み合わせを練習してたからね」

 

「……そうか。無駄にならんで良かったわ」

 

直哉は足元に『鏃』を撃ち込み、その反動で崩れかけの建物の頂部へと移動した。

 

『空虚呪法』で足場を固定し、『零駒』を展開。先読みで移動しつつ崩壊の余波が自分の方へ広がらないよう、空間の物理法則を強引に固定して食い止める。

 

(——俺が、『目』になれる)

 

その確信が、今日初めてはっきりと輪郭を持った。

 

半径700メートルの盤面。死柄木の殺意の軌道を全て読み、緑谷くんに流し、自分も最適解で動く。

 

(これが、俺の役割や。設計の目。戦場の目。……でも、目だけでは終わらへん。俺の戦場は、この先にあるんやから)

 

二度目の後退局面。

 

死柄木が一旦距離を取り、態勢を立て直している。

 

緑谷くんが直哉の横に降り立った。

 

「禪院くん、顔が真っ白だよ」

 

「脳が熱持っとるだけや。反転術式で制御しとる」

 

「休める?」

 

「今は無理やな。でも——次の波まであと30秒ある。その間に整えるわ」

 

直哉は目を閉じ、反転術式を全力で脳内へ流し込んだ。

 

過熱していた神経回路が、氷水を流し込まれたように冷えていく。30秒。それだけで、『空写』の解像度が劇的に回復した。

 

「——戻ったわ」

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫や」

 

緑谷は、なおも心配そうに直哉を見つめている。

 

「……こんな状態で、まだAFO戦もあるんでしょ?」

 

「ああ」

 

「……無理しないで。本当に…本来は僕がやるべき戦いだったんだから」

 

「無理はしてへん。設計通りや。……まあ、ドブカスな設計やけどな」

 

緑谷くんが、少しだけおかしそうに笑った。

 

「ドブカスでも……禪院くんの設計通りなら、僕は信頼できるよ」

 

「——そうか」

 

二人は並んで、崩壊の主が再び動き出すのを待った。

 

 




60話をお読みいただき、ありがとうございます。

 今回は、直哉のサポート能力が完全に「戦略級」へと昇華したエピソードでした。

 死柄木の崩壊は、本来「避けることすら困難な広域攻撃」ですが、直哉の『空写』による先読みと、デクの『危機感知』、そして直哉の的確なナビゲーションが合わさることで、完璧な回避とカウンターを実現しています。

 特に印象的なのは、直哉が自分の役割を「削る」ことではなく「他の戦場のために時間を稼ぐこと」と定義した点です。かつて自分の強さだけを誇示していた彼が、戦場全体の勝利リソースを計算し、自分をその歯車の一つとして最適化する……。この精神的な進化こそが、彼を「凡夫」から「設計者」へと変えたのだと感じます。

 そして、ついに披露された極ノ番。デクの「ユナイテッド・ステイツ」に合わせた同時攻撃は、再生をも一時的に沈黙させるほどの威力を見せました。

 「俺の戦場は、別にある」

 死柄木との激闘の裏で、直哉が見据えるのは巨悪の根源・AFO。
 脳への負荷が蓄積する中、彼は自らの「戦場」に辿り着くことができるのか。
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