【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
轟焦凍の兄であり、AFOが遺した最悪の「怒り」の結晶、荼毘。
自らを燃料として燃やし尽くすその生き様は、合理的であることを美徳とする直哉の設計思想とは真逆にある、純粋な破壊の衝動だった。
かつて最終決戦前に、直哉は轟に説いた。「感情を燃料にし、設計を方向性にしろ」と。
今、目の前で繰り広げられる兄弟の決着は、まさにその言葉が現実のものとなる瞬間でもあった。
「これは、俺が入る戦いやない」
介入すれば、一瞬で終わらせる手立てはあったかもしれない。だが、直哉は動かない。
それは冷淡さゆえではなく、一人の人間が、自らの物語に決着をつける重みを知っているからこそ。
氷と炎が溶け合い、一つの「流れ」へと昇華するその果てに、直哉は何を見出すのか。
そして、700メートルの包囲網に、ついに「あの男」の気配が牙を剥く。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
※最終決戦編の書き方を描きたい展開を加味して流れをオリジナルで製作しているため、今後の内容は原作とかなり決着までの形式・時系列が違う可能性があります。ご注意ください。
評価付与、感想は直哉の!そして私のテンションアップに繋がります!迅速にぃ!描きまぁす!
——群子山(ぐんしやま)、山頂。
そこは荼毘(だび)の蒼炎によって、生物が生存できん焦土へと化していた。
木々は一瞬で炭化し、岩石はマグマのように溶け落ち、まるでこの世の終わりのような地獄絵図。
その中心で、轟焦凍が蒼炎と氷の狭間で、自分の命(設計)を削りながら耐えていた。
——天空の要塞、雄英。
その上空から、直哉は群子山へと意識を向けた。
「……ほう、荼毘の蒼炎、出力が上がっとるな。轰くん一人では削り切れへんか」
直哉は懐の扇子をパサリと閉じた。
『空虚呪法(くうきょじゅほう)・固定(こてい)』
空中の一点。雄英と群子山の間に、不可視の『壁』を生成。そこを足元に放った**『鏃(やじり)』**の反動で蹴り上げ、強引に加速した。
『投射呪法(とうしゃじゅほう)・積層(せきそう)』
1秒を24枚に切り分け、その1枚1枚に速度を積層(レイヤー)させる。直哉の身体は物理法則を置き去りにし、空間そのものを踏み台にして、一瞬で群子山の真上へ降臨した。
「……さあ、轟くんの現状、細胞レベルまで精査(スキャン)するわ」
『空写』で読み取った瞬間、直哉は全てを理解した。
距離優先モード、半径700メートルの包囲網。
その南の端で、轟の気配が、別の巨大かつ不吉な熱源と激突した。
荼毘。
前世の断片的だが強烈なキャラ性からくる知識が、その正体を冷徹に告げている。轟焦凍の兄であり、轟燈矢。AFOの奸計によって「怒り」そのものへと作り替えられた、哀れな焼却炉だ。
直哉は『空写』の意識を、荼毘の戦域へと一点集中させた。
(……でかい炎やな、ほんま)
気配の質が、通常の火力の概念を逸脱している。それは「燃やす」という物理現象を超え、周囲の存在そのものを強制的に「無」へと上書きするような、完成された拒絶の炎だった。
対する轟の気配も、一歩も退かずに拮抗している。
氷と炎が同時に螺旋を描く。かつて直哉が説いた「並行処理」の極致が、今、あの戦場を支配していた。
(……これは、俺が入る戦いやないわ)
その判断を下すのに、一秒すら必要なかった。
直哉は轟と荼毘の戦場から絶妙な距離を保ったまま、『空写』の維持に徹した。
(これはあの兄弟が、自分らでケジメをつける話や。外野の俺が余計な設計を差し挟んだら、全てが台無しになる)
口には出さなかったが、確信があった。
(俺が介入すれば、轟くんが「自分」で決着をつける機会を奪うことになる。今、轟くんは俺が教えた「感情を設計に組み込む」って作業を、命懸けで完遂しようとしとるんや)
(その神聖なまでの構築を邪魔する権限は、今の俺にはない。
だが——最後まで見届ける義務だけは、確かにある)
『空写』を通して伝わってくる荼毘の炎は、あまりにも壊れていた。
ただ燃やすのではない。燃え続けることで、自分自身を燃料として消費し尽くす自壊の構造だ。出力が上がれば上がるほど、肉体の崩壊が加速する。
(荼毘は最初から自分を使い捨てにする設計で動いとるんやな。……ドブカスや。これがAFOに植え付けられた「怒り」の正体か)
自分すらも燃えカスにして構わないという狂気。それはかつて対峙したスターアンドストライプの「感情」とは、根源的なベクトルが異なっていた。スターの感情は「守護」に向き、荼毘の感情は「灰」に向かっている。
(……せやけど、燃料の純度だけは本物やな)
対する轟の気配が、精度優先モードの中で鮮明に浮かび上がる。
(……変わったな。変わったわ、轟くん)
炎と氷が、今までにないほど一つの「奔流」として収束している。氷が強固な基盤(フレーム)を作り、その内側を炎が血管のように駆け巡る。対立していたはずの両極が、一つの美しい術式へと昇華されようとしていた。
(……ほんまに、やりやがった。感情を設計の一部にして、自分の力に変えよったわ)
轟たちの推移を見守りつつ、直哉は『空写』の意識の一部を別の方角へと割いた。
距離優先、北西の果て。
(……AFO)
その密度の歪みは、他とは一線を画していた。
複数の個性が、一つの器の中で泥濘のように渦巻く、不快極まりない気配。
前世の記憶に刻まれた「巨悪」の残滓が、700メートルの索敵網に深々と突き刺さる。
「——来るな…これは」
直哉の声が、低く鋭く漏れた。
AFOとの直接接触。奪う王と、剥がす者。
自らが選んだ最終戦場が、刻一刻と、確実に近づいている。
「——もうすぐや。覚悟はええか、おっさん」
その時、轟たちの戦場が激しく明滅した。
『大氷海嘯』——轟の全力が解放される。
(あれがアイツの解答か……!)
気配の密度が頂点に達し、氷が空間を凍結させると同時に、その芯にある炎が全てを優しく包み込んだ。二つの力はもはや争うことなく、一つの意志として荼毘を飲み込んでいく。
そして、荼毘の狂おしい炎の気配が、急激に減衰した。
静かに、積もった灰が雪に埋もれるように。
「——終わったな」
直哉は短く呟いた。
荼毘の気配は消えていない。辛うじて生きている。だが、あの呪われた戦いは、今ここで幕を閉じたのだ。
轟の気配もまた、静止していた。
枯渇し、疲弊しきっている。だが、その気配は大地に深く根を張っていた。
(……立っとるな。倒れずに、自分の足で。……上出来やろ、轟くん)
直哉は投射呪法で、音もなく移動を開始した。
かつては炎に包まれていたはずの戦場へ近づくにつれ、空気は急激に冷え込み、白一色の静寂が支配する空間へと変わっていく。
そこには、轟がいた。
膝をつき、肩を震わせ、周囲を厚い氷の層に閉ざした中心で。
直哉はあえて、それ以上は踏み込まなかった。氷の結界の外側、少し離れた位置で足を止め、ただ静かに視線を向けた。
轟が顔を上げ、直哉と目が合った。
「……見てたのか?」
「…見とったわ」
「……そうか」
会話はそれだけだった。
(……それだけで十分やろ。言葉にしな分からんような設計やない。轟くんの目に、俺が『見ていた』ことが刻まれた。それだけでええんや)
直哉は翻り、その場を離れた。
かつて最終決戦前の一幕で「感情を設計の一部にしろ」と説いた。
轟は今日、それを自らの戦場で、自らの命を燃やして完成させた。
(俺には、それを見届ける義務があった。……果たしたで、轟くん)
轟の戦場を背にした直哉は、再び『空写』を広域に展開した。
狙うのは、あの歪な呪力の塊。AFOの気配だ。
ここからではかなり距離があるというのに断片的な情報ですら、圧倒的な厚量を誇っている。
北西の方向。不吉な気配は確実に動いており、他の戦場へと牙を向けようとしていた。
(——あの男がいる場所に、俺が向かう番やな)
直哉は懐から扇子を取り出し、パサリと開いた。
ゆっくりと仰ぐ。焦げた臭いと冷気が入り混じった夜風が、頬を撫でていく。
(……荼毘と轟くんの戦いを見た。あれが『感情を燃料にした戦い』の本物やった)
荼毘の炎は「壊したい」という呪いのような燃料で、周囲も自分も灰に変えようとしていた。対する轟の炎は、その呪いを受け入れ、「交わりたい」という切実な願いを燃料に、新たな熱を生み出していた。
どちらも、目を逸らすことのできない、本物の感情だった。
(……なら、俺の燃料は何やろな?)
ふと、その問いが脳裏をよぎった。
最初は「景色扱いされたくない」という、ただそれだけの、身勝手で傲慢な動機だった。だが、今はどうだ。
(……切島くんに『ここにいる』と認められ、お茶子ちゃんには『話してくれている』と言われ、常闇くんとは哲学を語り合い、轟くんとは『同じだ』と笑い合った。……緑谷くんには、あんな約束までしてもうたわ)
気づけば、それら全てが、今の直哉を動かす熱源(燃料)として蓄積されていた。
(——ハッ、ドブカスやな。ほんまに…反吐が出るわ。自分自身にも、有象無象にもや)
「景色ではないと証明する」という純粋なエゴ以外の不純物が、これほどまでに積み重なっていたとは。
だが、その「不純物」こそが、今の直哉という設計図を最も強固に支える手札であることも、彼は自覚していた。
(……ええわ。全部持ってったる。ドブカスな感情ごと、あのおっさんを潰しに行ったるわ)
直哉の瞳に、かつてないほど冷徹で、かつてないほど熱い光が宿った。
第61話をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は「不干渉の美学」とも言える回でした。
直哉にとって『空写』は戦場を支配する武器ですが、同時にそれは、誰かの生き様を正しく観測するための「記録者の眼」でもあります。轟が「大氷海嘯」を放ち、荼毘の炎を包み込んだ時、直哉が感じたのは合理的な納得感以上に、何らかの感慨だったのではないでしょうか。
「見てたのか」「そうか」
この極限まで削ぎ落とされた二言の交換が、二人の間に結ばれた奇妙な信頼関係を物語っています。言葉を重ねる必要がないほどに、あの戦場での「答え」は明白だったのでしょう。
そして、物語はついに直哉の「最終設計」へと向かいます。
AFOの気配を捉えた直哉が自覚した、自分自身の「燃料」。
「景色扱いされたくない」という執着から始まった彼の歩みは、いつの間にか1-Aの仲間たちとの「約束」や「対話」という、かつての彼なら切り捨てていたはずの「ドブカスな感情」によって、より強固なものへと変わっていました。
果たしてその行方とは…? 次回もお楽しみに!