【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
悪の象徴、オール・フォー・ワン。
数多の個性を奪い、積み重ね、歴史の裏側で糸を引いてきた怪物が、ついに直哉の『空写』700メートルの包囲網へと姿を現した。
「神野にいたね」
向けられた言葉は、かつて直哉が味わった「景色」としての屈辱を抉り出す刃。
青山優雅を通じ、直哉の術式の特性も、弱点も、その出自すらも、魔王は既に掌の上で転がしていると嘯(うそぶ)く。
だが、直哉の扇子は止まらない。
奪えない術式。個性の概念の外にある力。そして、AFOの計算には決して含まれない「設計外」の意志。
「知られとるのは、想定内ですわ」
情報戦、心理戦、そして術式の次元を超えた読み合い。
初めての正面接触。魔王の揺さぶりに対し、直哉が突きつける「設計者」としての回答とは。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
※最終決戦編の書き方を描きたい展開を加味して流れをオリジナルで製作しているため、今後の内容は原作とかなり決着までの形式・時系列が違う可能性があります。ご注意ください。
評価付与、感想は直哉の!そして私のテンションアップに繋がります!書きます書きます!
轟の戦場を背にした直哉は、即座に反転し、空中に固定点を生成した。
余韻に浸る時間は、今の俺には一秒も残っていなかった。
「さて……お次は、本丸(ほんまる)のお掃除やな」
轟の現場から戻り、本来の目的であるAFOの気配が漂う北西の方角へ——。
直哉は迷いなく『空写』を広域に投げ放ち、最短距離を弾き出した。
——名もなき街、住宅街の跡。
住民の避難が終わり、風の音さえ遮断されたような不気味な静寂がそこを支配していた。
ひび割れたアスファルトの上。電柱の影を背負い、まるで最初からそこにいたかのように佇む一つの影があった。
オール・フォー・ワン。
(……見つけた。おっさん、ええ位置で待っとるやないか)
直哉は懐の扇子をパサリと閉じた。
『空虚呪法・固定』
空中。AFOの進路場に近づく軌道に、不可視の『壁』を連続して生成。そこを足元に放った**『鏃』**の反動で蹴り上げ、爆ぜるような速度で跳躍した。
『投射呪法・積層』
先程、群子山へ向かった時と同じ——いや、それ以上の精度で加速を積層(レイヤー)させる。
高速機動で移動しつつ、直哉はAFOからある程度離れた距離に着陸した。
そしてAFOに近づくために歩き出して、しばらく経った後。
直哉自身が接敵する前に、『空写』が先にそれを捉えた。
距離優先モード。半径700メートルの包囲網。
北西の方向——その「歪み」の塊が、直哉の方へと真っ直ぐ向かってきていた。
(……来る。迷いなしやな)
直哉は即座に足場に複数の鏃を展開し、推進剤に使って弾丸のように移動した。最短距離で位置を変え、緑谷の防衛線とAFOの間を遮るポイントに割って入る。
空中で『空写』を精度優先に切り替えた。
AFOの気配が——網膜を焼くほどにはっきりと浮かび上がった。
数えきれないほどの「他人の個性」が、一つの肉体の中で醜く蠢き、重なり合っている。その絶望的なまでの密度。他の個性使いとは、もはや積んでいるエンジンの桁が違った。
(……多すぎるわ。正気の沙汰やない。でも——全部読める。時間さえあれば、一枚ずつ剥がして正体を見せたるわ)
『空写』はAFOの個性を、膨大な「情報の渦」として階層別に解体していた。積み重なった層が分厚すぎるだけで、一つ一つを識別すること自体は可能だ。
(これが、全部あのおっさんが「奪ってきた」歴史か。……悪趣味やな)
「——神野にいたね」
不気味に透き通った声が、鼓膜を震わせた。
AFOが直哉の前に立っていた。
原作の知識として知っていた姿。だが、実際に視線の先に捉えると、気配の質が生物の域を超えている。その肉体からは、「人間」という概念に収まりきらない不浄な何かが絶え間なく滲み出していた。
「覚えとってくれたんですか?…それはそれは…光栄ですわ」
直哉は懐から扇子を取り出し、パサリと開いた。ゆっくりと、挑発するように仰ぐ。
AFOが——愉快そうに、喉の奥で笑った気配がした。
「君のような個性…いや術式使いは、なかなか珍しいね。神野の戦場で君を感知した時から、ずっと気になっていたんだ」
「そうですか?俺は割と気にしてへんかったですが」
「それは嘘だろう。君の『空写』は、あの夜から僕の気配を追っていた。すぐ近くにいた時には特によく感じられたよ。…ずっと、私を探していたじゃないか?」
直哉の扇子が、一瞬だけ止まった。
(……全部知っとるな、このおっさん。どこまで筒抜けや?)
「……よく分かりましたね」
「まいた種が実った時ほど、喜ばしいことはないのさ。青山優雅くんから得た情報は、なかなか興味深かったよ」
「——青山くんの密告なら、百も承知ですわ。想定通りです」
「想定通り。なるほど。それが君の戦い方だね——全てを設計図の中に収める。敵に知られていようと、設計そのものは変えない」
直哉は扇子をパチンと閉じた。
「よく分析してはりますね。ストーカーですか?」
「感謝するよ。実に面白い被験体を提供してもらった」
「——被験体。雅(みやび)やない表現ですわ。もう少し語彙を磨かはったらどうです?」
AFOが一歩、前へ出た。
「一つ、確認させてほしいんだが」
「どうぞ」
「君の術式——『個性』ではないね?」
直哉は眉一つ動かさなかった。
「そうですわ」
「正直に言うね」
「隠す意味がないさかいな。あなたはもう知っとりますし——それより、『個性やない』と分かった上で次にどう動くか。あなたにとっては、そっちの方が重要やろ?」
AFOが——少しだけ、間を置いた。
「実に面白い。知られていても動じない。なぜか分かるかい?」
「…なぜですか」
「個性ではない『術式』は、私には奪えない。君はそれを知っている。だから知られていても平気なのさ」
「——正解ですわ。ええ点数あげます」
「でも」
AFOの気配が、凍りつくような殺意へと変質した。
「奪えなくても、消すことはできるよ」
「——できますか?」
「できないと思っているのかい?」
「あなたがどれだけの手札を持っとるか、今も『空写』で読ませてもらってますわ。確かに『消す』に近い個性がいくつか混じっとる。……でもな」
直哉は再び、ゆったりと扇子を開いた。
「術式は『個性』の概念の外側にある設計図や。『消す』系の個性も、個性の次元(ルール)で動く限り、術式には絶対に届きません。これはあなたも、まだ完全には検証できてへん仮説のはずですわ」
(これは文化祭時の相澤先生の個性:抹消でとっくの前に確認しとる。問題はないはずや)
AFOが——今度は少し長く、沈黙した。
「なるほど。君は私の手の届かない高みに、自分の術式を置いているというわけだ」
「そうですわ」
「だが——術式を使う『肉体』には、私の手は届く」
「そうですわ。俺の肉体には届く。そこが俺の『設計』における最大の弱点ですわ」
「それを、あっさりと認めるのか」
「事実やさかいな。隠すだけ無駄や」
直哉は『空写』を精度優先に固定し、常にAFOの筋肉の弛緩と発動の予兆を監視し続ける。扇子を仰ぐ動作だけは、優雅に止めなかった。
「弱点を認識した上で、設計(プラン)を組んでますわ。弱点があることと、負けることは、全く別の話ですわ」
「——実に君らしい物の言い方だ。青山くんの情報にもそう書いてあった。『設計型。弱点を認識した上で動く』とね」
「青山くんは、ほんまによく人を観察してはりましたね」
「彼には苦労させたよ」
直哉の動きが、わずかに止まる。
「——青山くんを『道具』として使った、ということですか?」
「協力してもらった、と言いたいところだが——正確には強制かな。かわいそうにね」
「——あなたは、そうやって下らん話を聞かせることで、俺を感情的にしようとしとりますね」
AFOが——今度ははっきりと笑った。
「鋭いね」
「『空写』は気配の質を読む術式やと言うたはずですわ。あなたが今、俺の反応をドブカスみたいに楽しんどることも、全部読めとります」
「一つ、聞かせてほしいんだが」
AFOが楽しげに続けた。
「どうぞ。気が済むまで」
「君の術式——『領域展開』に、手は届いているかい?」
直哉は少しだけ目を細めた。
「……なぜ、それを聞きますか?」
「君の『空写』が700メートルに達していること。複数の術式…性格には拡張術式や極ノ番を並行して動かせること。そして——神野の夜から今日まで、君の出力の『質』が明確に変化している。設計が次の段階に進んでいるんだ」
(……ほんま、全部知っとる。薄気味悪いおっさんやな)
「……よく観察してはりますね」
「まいた種の育ち具合は確認しておきたいものだよ」
「——俺は、あなたの『種』やありませんわ」
「そうか。では、君は何だい?」
直哉は少し考え、そして不敵に口角を上げた。
「——あなたの『設計』の外におる人間ですわ」
「ほう」
「あなたは全部の人間を、何かの『道具』か『障害』としてしか分類できん。俺はそのどちらでもない。俺はあなたの設計とは無関係に、俺自身の設計で動いとる。あなたが描いたシナリオの中に、俺の居場所なんて最初からない。……俺が今ここに立っとること自体、あなたの計算外や」
AFOが——少し間を置き、本日一番の深い感慨を漏らした。
「……実に、面白い。本当に面白いよ、君」
AFOの気配が、音もなく変質した。
澱んだ沼のように、複数の個性が水面下で蠢き始める。
「では、設計外の君に聞こうか。君は何のためにここにいる?」
「あなたと戦うためや」
「僕を倒せると思っているのかい?」
「思っとります」
「根拠は?」
「術式ですわ。あなたに奪えない術式が、俺にはある」
「……それだけかい?」
「それだけですわ。でも——それで十分ですわ」
(奪えんもんは、壊すしかあらへん……。おっさんの思考、透けて見えとるで)
AFOが個性を展開した。
直哉は『空写』の精度優先を維持し、その発動を全て先読みしていた。
射程延長、肉体強化、そして拘束系。三つの個性が、複合的な「罠」として同時に襲いかかる。
直哉は瞬間的にだけ『落花の情』を展開し攻撃をオートで迎撃させた後、即座にステップで後退しながら、『鏃』を間断なく叩き込んだ。一つ一つは決定打にはならないが、AFOの踏み込みを寸前で阻む嫌らしい牽制だ。
「——『設計外』か。なるほど。だが君、一つ聞いてもいいかい?」
AFOは深追いをしなかった。一定の距離を保ったまま、蛇のように言葉を這わせてくる。
「あの戦場で——『神野の15秒間』と、外の人間は呼んでいるらしいね。あの夜、君はどこにいた?」
直哉の動きが、僅かに止まった。
「——俺を試しとりますね」
「少し試したくなったのさ」
「神野の15秒間に俺がどこにいたか。……そんなもん、あなたに答える義理はありませんわ」
「そうだね。だが——君の術式は、あの夜から始まっている。私はそれを知っている。あの屈辱こそが、君を突き動かす唯一の燃料だ」
直哉の胸の奥で、黒い塊が微かに揺れた。
(……よう調べてはりますね。ほんまにドブカスやわ、このおっさん)
「——俺はあなたの『種』やないと言いましたわ」
「そうだったね。失礼したよ」
AFOが静かに後退した。
「ひとまずここまでにしよう。面白い相手には、じっくりと向き合いたいからね」
「——逃げますか?」
「逃げるのではない。次の局面に備えるのさ。君も同じだろう?…どうやら別の場所ではトゥワイス?かな…いやトガヒミコとも言えるか…なかなか面白いことになってそうじゃないか?」
直哉は答えなかった。AFOの歪な気配が、別の戦闘地での動きを鋭敏に感じ取ったからだ。
その隙をつくように、AFOは戦場に溶けるように遠ざかっていった。
直哉は素早く『空写』を距離優先モードへと切り戻した。
AFOとトゥワイス(トガヒミコ?)の気配を追う。
AFOは半径700メートルの包囲網の外縁へと向かっている。トゥワイスの方はまた本格的には動き出していないようだが、今の消耗具合では、これ以上のAFOを追跡するのは難しいと直哉は瞬間的に判断した。
(……あの人は、全部知っとったな)
青山くんの密告通り、術式の特性から『空写』の射程、複数運用の事実まで、AFOの手元には全てのデータが揃っていた。
(でも、知られとるから言うて何やねん)
「——知られとったところで、関係あらへん」
独り言が、冷えた夜空に消える。
(設計図を書き直す必要はない。奪われることと、知られることは別の話や。あのおっさんの手が届くのは『個性』の次元まで。俺の術式は、その外側にある)
ただ——直哉は扇子を広げ、ゆっくりと自分を仰いだ。
「——あの人は、『神野の15秒間』を知っとった」
あの夜の、アスファルトの冷たさ。景色として扱われた滑稽な姿。何もできなかった自分の無力感。
屈辱が燃料だという指摘は、確かに正しい。
(……でもな、おっさん。それだけやないんや。今の俺には、もっと沢山の『不純物』が混じっとる)
切島くんに存在を全肯定された夜。常闇くんと形而上学を語り合った日。轟くんと「同じだ」と言い合えた瞬間。そして、緑谷くんと交わした重たい約束。
(——全部が、俺の燃料や)
それに気づいた自分を、直哉は嘲笑う。
(ほんまに、ドブカスやな……。景色扱いされるのを嫌がってた俺が、いつの間にかこんなもん溜め込んで)
もしAFOが、直哉の燃料を「神野の屈辱」だけだと踏んでいるなら。
(——それは、あなたの設計図の致命的な見落としですわ)
直哉の瞳に宿る光は、もはや屈辱だけでは説明のつかない、静かな熱を帯びていた。
第62話をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、物理的な衝突以上にヒリつくような「対話の戦い」を描きました。
AFOというキャラクターは、相手の心を折り、支配することに悦びを感じる存在です。直哉の過去や術式の秘密を「知っている」と突きつけることで優位に立とうとしますが、直哉はそれを「事実」として淡々と受け流します。この「動じなさ」こそが、直哉がこれまでの訓練と対話で築き上げてきた、今の彼の強さです。
特に注目したいのは、AFOが直哉の燃料を「神野の屈辱」だけだと思い込んでいる点です。
直哉自身が内省した通り、彼の中には既に1-Aの仲間たちとの「ドブカスな感情(燃料)」が積み重なっています。これはAFOのような「他者を道具としか見なさない」存在には決して理解できない、そして計算できない不確定要素です。
「設計外の人間」
自らをそう定義した直哉。
魔王のシナリオを破綻させるのは、いつだってその台本に書かれていない、イレギュラーな存在の咆哮です。
次話、ついに本格的な開戦か、あるいはさらなる策謀か。