【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
そこにあるのは、無敵の支配者としての顔を失った一人の老人の姿と、その傍らに立つ「設計外の人間」禅院直哉。
数多の命を駒として扱い、世界を一つの「設計図」に収めようとしたAFO。
対する直哉は、かつて神野で味わった「冷たさ」を熱に変え、今日この瞬間のために全てを積み重ねてきた。
これは、決着の後の物語。
勝者が敗者に投げかけるのは、嘲笑ではなく、自身の存在証明と、設計図には決して描かれることのなかった「燃料」の記録である。
最後のほんのわずかの間の記録です。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
※最終決戦編の書き方を描きたい展開を加味して流れをオリジナルで製作しているため、今後の内容は原作とかなり決着までの形式・時系列が違う可能性があります。ご注意ください。
評価付与、感想は直哉の!そして私のテンションアップに繋がります!
直哉もここで評価もらえたら多分ご満悦になります!
領域展開「墨色定着」が解除された後、AFOは瓦礫の地面に無様に転がっていた。
指先一つ動かさない。だが、死んではいない。
直哉は『空写』を展開した。精度優先モード。網膜に映る情報のノイズを削ぎ落とし、対象のバイタルにのみ焦点を絞る。
生きている。呼吸はある。だが、そこにあるのは数十の個性を積み重ね、存在そのものが圧力を放っていた怪物ではない。全ての個性を剥離され、ただの脆弱な肉体へと還元された老人が、泥に塗れて横たわっているだけだった。
(……ただの老人や。ほんま、しょうもないな)
かつて世界を支配せんとした気配の質は、見る影もなく変質していた。
直哉は静かに歩み寄り、その顔を覗き込む。
AFOが、濁った目を開けた。
「……」
声は出ない。喉は枯れ果て、支配者の威厳など微塵もない。湿った土のような、重苦しい沈黙が二人を包んだ。
直哉はしばらくの間、その無力な瞳をじっと見下ろしていた。
「……お前は」
AFOが、掠れた声を絞り出した。それは余裕に満ちた支配者の宣告ではなく、ただの老いた人間の、弱々しい問いかけだった。
「……何のために、戦った?」
直哉は思考を止めた。
何のために戦ったか。その問いを正面から受け取った彼は、すぐには答えなかった。
脳裏に去来するのは、神野の夜から始まった長い設計の記録だ。
(「景色扱いされたくない」……始まりは、そんなしょうもないプライドやった。けど、この戦いの終わりに、何が残っとる?)
「——景色やなかったと」
直哉は、静かに、だが確信を持って答えた。
「——俺自身に証明するためですわ」
AFOが、微かに目を細める。
「……景色、か」
「そうや。あんたの視界に映っても、意識の隅にも入らへん。そんな『有象無象』として処理されるんが、俺は何より反吐が出るほど嫌いや。あんたが今日、俺をただの『変数』と呼んだように——人間を道具として扱うあんたの設計(プラン)が、俺には我慢ならんかったわ」
「……それだけかい?」
「——それだけやないと、今日、あんたを叩き潰して証明できたわ」
AFOが黙り込む。直哉の言葉には、もはや揺るぎない熱が宿っていた。
「今日の燃料は、神野の屈辱だけやなかった。それ以外の余計なもんが、俺の中に積み重なっとったんや。あんたの精巧な設計図の外側で」
「……それが、君の答えか」
「…そうや」
AFOはしばらくの間、天井の崩落した虚無の空を見上げていた。
「……なるほど」
「なるほど、っていうのはなんの意図があるんや?」
「……最後まで、実に——」
「——まさか『面白かった』と言いたいんか?」
先回りされたAFOが、僅かに口角を上げた気がした。
「……そうだよ」
直哉は懐から扇子を取り出し、優雅に開いて仰いだ。
「——その豪胆ぶりには呆れたわ…せやけど、俺もそれなりに、楽しませてもらったわ」
それが、最期に交わした言葉だった。
AFOの意識は、底の見えない暗闇へと静かに落ちていった。
直哉はその場に立ち尽くしたまま、ゆっくりと目を閉じた。
脳裏に、あの「神野の夜」が鮮烈に蘇る。
肌を刺す地面の冷たさ。
爆豪の救出に来た人員全員が被害を受けていた。
直哉はその場にいた。術式も『空写』も『零駒』も持っていた。
なのに、何もできなかった。
誰かに「有象無象」と蔑まれたわけではない。ただ、自分の力が、自分の設計が、あの極限の局面には一歩も届かなかった。それが、直哉にとってはどんな罵倒よりも苛烈な屈辱だった。
(掌に残っとったあの冷たさが、今日まで俺を突き動かしてきた。設計の土台、その一番深い場所にずっとこびり付いとったんや)
だが、今は違う。
「景色ではない」と証明したいという衝動が、この地獄のような戦場で自分を突き動かし続けた。
あの夜の凍えるような冷たさが、今日の自分を焼き尽くすほどの熱へと変わった。
直哉はゆっくりと目を開け、現実の空気を感じ取った。
神野区。爆豪が攫われたあの夜。
あの戦場にも、直哉は確かにいた。だが、参加することは許されなかった。相澤に制止されたのだ。
『お前の力は今戦闘では使うな。次に備えてヴィランから逃走することを第一に考えろ』
今なら、あの判断が「正しい設計」であったと理解できる。だが、当時の直哉には、その合理性が耐え難かった。
有象無象の駒としてではなく、中心人物の1人としてヒーローが戦い、少年たちが足掻く様を見つつ、自らも独断行動で力試しを行っていた。
(……あの独断行動は結果的には正しい設計やった。せやけど、正しければええっちゅう話やない。ドブカスみたいな心に引っかかるものが、ずっと胸に支えとった)
しかし、蛇腔病院での戦いは違った。
あの夜、直哉は初めて、自分の設計が「他人の命」に、その最前線に届くという実体を得た。
極ノ番を敵に叩き込み、ミルコの腕の繋ぎ目を処置し、症状の悪化を防ぎ守り抜いた命が上げる「産声」を聞いた。
神野区での屈辱と、蛇腔での手応え。
「届かなかった」絶望と、「届いた」という確信。
その対極にある二つの経験が、今日の直哉というエンジンを回すための燃料になっていた。
スターアンドストライプ。
数千メートルの上空、死の境界線で、直哉は彼女の背を追った。
(あの人の気配が、『覚悟』に変わった瞬間……空写はそれを鮮明に読んどった。一切の迷いがない、後悔を断ち切った質や)
「後悔しない選択」をした彼女の最期。
感情が燃料となり、設計がその方向を決定づける。
自らの個性を壊してでもAFOの野望を挫くという、究極の「自己破壊的設計」。
『届かなくても、見てたってことだろ』
ミルコが手紙に記した、あの不器用な言葉が蘇る。
自分は届かなかった。それでも、彼女の最期を見ていた。その「弱さ」とも取れる優しさを抱えたまま、今日、直哉は前に出た。
スターの最後の設計を、今日の自分の設計へと接続する。
神野の屈辱も、切島の言葉も、ミルコの激励も。
その全てが、無駄な贅肉ではなく、自分をここまで運んできた必須の「燃料」だったのだと理解した。
直哉は再び『空写』を広げた。
距離優先モード。半径700メートルの輪郭をなぞる。
(緑谷くんの気配……南東。出力は落ちとるが、まだ戦っとる。轟くん、生存。切島くんは雄英か……生きとるな。砂藤くん、お茶子ちゃん、飯田くん……相澤先生も、後ろにおる。……全員、生きとる)
神野の夜から今日まで。
必死に追い続け、時に見失いそうになった気配が、今、自分の知覚の内に全て存在している。
「——全部、ここに繋がっとったんや…せやけど、ハハッ…俺の性格には合わなすぎて、拒否感が出とるわ…」
独り言だった。だが、言葉として吐き出さなければ、胸の奥が焼き切れてしまいそうだった。
「神野の冷たさも、神野の屈辱も、蛇腔の産声も、スターの最後の設計も、ミルコの手紙も、切島くんの言葉も——全部が、今日ここで使われるための燃料やったんやな」
扇子を閉じ、ふっと自嘲気味に笑う。
「——ドブカスやな。設計(プラン)の話やのうて、ただの感情の話やん。……けど、それが俺の設計の、一番肝心なとこやったんか…それはそれとして、こんなにもこんな王道なものが似合わんのも中々ないんやない?…少なくとも、俺とは真逆の性質で忌避感が凄いわ」
直哉は、意識を失ったAFOの傍らへと戻った。
静かな呼吸だけが、その老いた肉体の生存を告げている。
「——一つだけ、言い忘れたことがあったわ」
聞こえていようがいまいが、構わない。
「あんたが青山くんを通じて得た情報の中に、俺の『燃料』は入っとらへんかったな」
「空写の射程や術式の理屈は知っとった。けど——切島くんが『ここにいる』と言ったあの夜の温度は。ミルコの手紙も、常闇くんと交わした言葉も、轟くんの『おんなじだ』という呟きも。……あんたの設計図には、そんな不確定なもんは一行も書き込まれとらんかった」
「——それが、設計外の人間ということや」
(AFO…あんたの設計は完璧だった。だが、あんたが「無価値」として切り捨てたものこそが、俺をここまで連れてきた最後の手札だったわけや…俺すら直前まで気づいとらなかったんや…ある種の皮肉やな)
「——お疲れさん、ほな、さいなら。」
一拍の間を置き、直哉は背を向ける。
夜の空には、皮肉なほど綺麗な星が出ていた。
崩壊した街。かつての日常が戻るまでには、まだ果てしない時間がかかるだろう。
直哉は廃墟の壁に背を預け、愛用のノートを広げた。
『緑谷追跡記録——今夜、南東にて確認。OFAの出力収束。生存。引き続き監視継続。』
ページを捲る。そこには、今日の戦いの、そして自分自身の「清算」が記される。
今日の整理:
① 緑谷の視界となり緑谷と共闘して死柄木と交戦。一時的に退却させることに成功する。
② サッドマンズパレードの鎮圧。そしてAFOとの対峙。「景色ではない」と自身に証明。
③ 神野の屈辱。あの夜の冷たさが、今日、彼を焼き尽くす熱になった。
④ 届かなかった経験(神野)と届いた経験(蛇腔)。両方が設計の核。
⑤ スターとミルコの意志。感情が燃料となり、設計が方向を決めた。
⑥ 敵の計算外——設計図に描けなかった「感情」という名の手札。
ペンを置く。一呼吸。
『終わった』
その一行だけを、力強く書き足した。
扇子を開き、ゆっくりと夜風を呼び込む。
(……ようやく終わったんや。「景色やなかった」って、証明できたわ)
ふと、常闇の言葉が頭をよぎる。
『証明の先に、何がある?』
緑谷を連れ戻した夜に感じた、あの微かな温もり。
そして今、この知覚の中に広がる「全員、生きている」という絶対的な確信できる情報。
(証明は、もうええ。……その先は、まだ続いとるみたいやな)
扇子を閉じる。
星空の下、直哉はただ、静かに目を閉じた。
全員が生きている。
その事実だけで、今夜の報酬としては十分すぎるほどであるだろう。
…当の直哉本人はそのことを些細なこととして軽く処理をしていたが…
もはやいつも通りであり、それが返っていつもの安心感を感じさせるであろう夜の一幕であった。
65話、疲れ様でした。
これまでの物語で積み上げてきた「神野の屈辱」「蛇腔の産声」「スターの意志」といった全ての点が見事に一本の線に繋がった、集大成とも言えるエピソードでした。
「感情が燃料で、設計が方向を決める」
この定義が、直哉というフィルターを通して結実した瞬間でした。AFOが最後に漏らした「面白かった」という言葉は、彼が初めて直哉を一つの「個」として認めた証左かもしれません。
戦いは終わりました。しかし、直哉がノートに記した通り「証明の先」はまだ続いています。
この直哉はどこへ進んでいくのか…次回以降に期待です!
今回の話が刺さったり、心に残ったら是非評価付与、お気に入り登録、感想などをいただけると嬉しいです。
励みになります!