【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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【再会の火花、あるいは前進の証】
決戦の熱が冷めやらぬ雄英高校。

禅院直哉は、相変わらずの「ドブカス」な矜持を抱えながら、戦後の穏やかな、しかしどこか所在ない時間の中にいた。

空写の精度を確認する彼のもとに現れたのは、爆豪勝己。

かつて直哉が「最強の爆弾」と定義し、その背を追った少年は、直哉の顔に宿った「設計外の変化」を鋭く見抜く。

交わされるのは甘っちょろい労いではない。互いの生存と実力を認め合う、ひりつくような「事実確認」だった。

そして翌日、直哉は一通の手紙の主――ラビットヒーロー・ミルコのもとを訪ねる。

「なれるか」という能力の問いを終え、「なりたいか」という意志の問いへ。

これは、かつて孤独に完璧を求めた男が、不完全な「弱さ」を抱えたまま、次なる一歩を踏み出すための再会の記録である。

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。

評価付与、感想、お気に入り登録は作者と直哉が満足して筆が達筆になったり加速したりします!

評価が120〜130を超えたら映画編も番外編で作るかもしれないです!


第68話:幕間「爆豪との事後・ミルコへの訪問」

 

訓練場の端で『空写』の精度確認をしていた時、背後から鋭い足音が近づいてきた。

 

 迷いのない、地を削るような足運び。振り返らなくとも誰か分かる。だが、今日の音にはいつもの刺々しい怒りではなく、別の重みが混じっていた。

 

「——おい、ドブカス野郎」

 

「爆豪くんやんか、どないしたん?」

 

「…AFO戦はどうだった?」

 

 直哉は僅かに動きを止め、それからゆっくりと扇子を開いた。

 

「設計通りやった。……それ以外に何があるんや?」

 

「…嘘をつくな」

 

「嘘ついてへんけど。完璧な布陣、完璧なタイミング。俺の設計が正解やったというだけのことや」

 

「……表情が違えんだよ。いつものてめぇのすましたツラと」

 

 直哉は扇子を動かす手を止めた。

 

「……どう違うって言うんや?」

 

「知らねえよ!…とにかく違うんだよ。何かあっただろ、ドブカス野郎…!」

 

(……いつもこう言う時は鋭いわ。爆豪くんは)

 

 直哉は目を細め、静かに夜風を仰いだ。

 

「——設計通りやったのは本当や。でも、設計の外のことも起きたな。……燃料の話や」

 

「燃料?」

 

「ドブカスな感情が、今回の戦いの一番の手札やったわ。……爆豪くんを最強の爆弾やと定義した時以上の熱が、俺の中にあった。それだけや」

 

 爆豪が盛大に舌打ちをする。

 

「感情が手札とか気色悪いこと言うな。反吐が出るんだよ!」

 

「爆豪くんはずっとそうやってきたやろ。否定はさせへんで」

 

「……俺とお前は違う!」

 

「どう違うって言うんや?」

 

「……俺は最初からそういう設計だ。てめぇみたいに計算ずくで動いてねえんだよ」

 

「俺も最終的には……そういう設計やったということが分かったんや。認めとうないけどな」

 

 

「——AFO、どうやって倒した?」

 

 爆豪が腕を組み、射抜くような視線を向けてくる。

 

「呪術の極地…領域展開を使ったわ」

 

「あの変な空間か。……見てたか、って顔だな。ちらっとな。お前が悠々と歩いてた。全部透かしてやがったな。あれは何なんだ」

 

「術式の効果や。俺の領域の内側では、俺以外の全てが俺の設計に従う。一秒間に24回、俺が認めた真実だけがそこにある」

 

「……それを使ってAFOを始末したのか?」

 

「ぶっ飛ばすというより——全部剥がした。奴が奪って、積み重ねてきた『歴史』を全部引き剥がして、ただの老人に還元した。それだけのことや」

 

 爆豪が少しの間、沈黙した。

 

「……剥がした、か」

 

「せやね」

 

「捨て台詞は」

 

(……なんで爆豪くんが、そんなことまで知っとるんや?)

 

「荼毘戦が片付いた後、緑谷から聞いた。『歴史がゴミ箱行き』だのなんだの、随分とお前らしい性格の悪い台詞だったそうじゃねえか」

 

「『あなたの積み重ねてきた歴史(レイヤー)、全部ゴミ箱行きですわ。——ほな、お疲れさん。』

やな。一文字も間違えんといてや」

 

 爆豪が、ふんと鼻を鳴らした。

 

「……『ほな、お疲れさん』か。クソが」

 

「……どういう意味や?」

 

「ドブカス野郎らしいって言ってるんだよ、くそが。回りくどい褒め言葉は持ってねえ」

 

 直哉は、思わず小さく笑った。

 

「……そうか。なら、それで十分やわ」

 

 

「——ドブカス野郎、てめぇは結局ヒーローになるのか?」

 

「またそれか。……まだ分からんな」

 

「また『分からん』かよ」

 

「緑谷くんにも同じこと聞かれたわ。緑谷くんも大概しつこいけど、爆豪くんも大概やな」

 

「デクが聞いたのか」

 

「せやね。『禪院くんは今日ヒーローだった』……やて。笑わせよるわ」

 

「……そうだろうな」

 

 爆豪の返しは短かった。だが、その短さには、かつての蔑みも、否定の色もなかった。

 

「爆豪くんには、どう見えた。俺がヒーローに見えたか?」

 

「俺には関係ねえ」

 

「関係ない、ということは否定はしないということやな。……あんたも随分と丸なったんやない?」

 

「……ドブカス野郎が。揚げ足取るな。爆破すんぞ!」

 

「取ってへんけど。事実の指摘や」

 

 爆豪が踵を返し、去り際に立ち止まった。

 

「——一つだけ言っておく」

 

「なんや?」

 

「AFO戦、てめぇの『空写』の情報なしでやってたら、デクの動きは半分以下になってた。お前が目になって、奴の欠陥を埋めた。……あれは、デカかった」

 

 直哉は扇子を閉じ、その背中を凝視した。

 

「……爆豪くんが俺を評価するなんてな。明日には槍でも降るんちゃうか」

 

「評価じゃねえ。事実の確認だ。勘違いするな」

 

「そうか」

 

「——ドブカス野郎のくせに使えたな、と言ってんだよ!」

 

「……おおきに。爆豪くん言われると、えらい響くわ」

 

「礼を言うな。反吐が出る。……また鍛えとけ。領域があるからって俺に勝てると思ってあぐらかいてるんじゃねえぞ…!」

 

「してへんけど」

 

「するなって言ってんだよ!!」

 

(……爆豪くんは、ああいう言い方しかできへんな。……でも、ちゃんと伝わったわ。俺の設計が、あいつの隣に立つことを許されたんやな…まあ爆豪くんには負ける気がせへんから…『あっち側』からのんびり高みの見物させてもらうわ…せいぜい足掻いてはよう強くなって俺を楽しませてや)

 

 

 

 

 翌日、直哉はミルコの入院先の病院を訪ねた。

 

 面会申請を出し、消毒液の匂いが漂う廊下でしばらく待つ。

 

「——入っていいぜ、禪院」

 

 病室の扉を開けると、ミルコがベッドに腰かけていた。義手の調整中だったらしく、右腕の先端を弄っている。元々失っていた左腕と合わせ、両腕が金属の輝きを放っていた。

 

 だが——その眼光は、少しも衰えていなかった。

 

「——来たか、雄英の小僧。……いや、禪院」

 

「来ましたわ、ミルコ。……元気そうで何よりですわ」

 

「当たり前だ。これしきでへばる私だと思うなよ」

 

 直哉は椅子を引いて、ベッドの横に座った。

 

「手紙のやり取り、ありがとうございましたわ。あれが……今回の戦いで、俺の最後の一押しの一つにになりましたわ」

 

(本当は女に礼をするなんて死んでも嫌なんやけど…ミルコには今回の恩もあるし、『あっち側』に近いそれなりの強さも持っとる…それを考えたら、ここで恩を売っとくのも悪くないやろ)

 

「そうか」

 

「『弱さでもあるかもしれねえけどな』という言葉。……正しかったですわ。感情を先に出さないことが、どれほどの欠陥(エラー)やったか、今回はっきり分かりましたわ。自分のドブカスな本心から逃げとるうちは、あんな化け物には勝てませんでしたわ」

 

 ミルコが、値踏みするように直哉を凝視する。

 

「……で、その弱さは克服したのか」

 

「克服というより——受け入れたんやと思いますわ。……弱さを持ちながら、ドブカスなまま前に出た。それが今回の、俺の設計の完成形やったですわ」

 

(本来は受け入れ難いものやけどな…弱さを受け入れるとか、今でも反吐が出とるわ)

 

「弱さを持ちながら前に出る——それで十分だ。立派な戦いだったぜ、禪院」

 

「……そうですわな。あんたに言われると、否定できへんですわ」

 

(まぁ、この話については合わせとくのが一番収まりが良い設計になりそうやし、同意しとこか)

 

「——一つ聞くぜ」

 

「ええですよ。どうぞ」

 

「お前、ヒーローになるのか?このまま」

 

 直哉は視線を落とし、少しの間を置いてから答えた。

 

「……まだ分かりませんわ」

 

「正直だな」

 

「爆豪くんにも緑谷くんにも、同じことを聞かれましたわ。……みんな、俺をヒーローという枠に押し込みたがって、ほんまにお節介な奴らですわ」

 

「それでいい」

 

 ミルコの意外な言葉に、直哉は顔を上げた。

 

「……え」

 

「分からないなら分からないでいい。『なりたい』と決めてから動くやつもいれば、動いた後に気づくやつもいる。……私は後者だったぜ、禪院」

 

「ミルコが?」

 

「地下ファイトで暴れてた頃は、ヒーローになんざ興味もなかった。ただ脚が強かったから戦ってた。強い奴を蹴り飛ばすのが、最高に気持ちよかったからやってた。……それだけだ。気づいたらこのザマ(ビルボード5位)だ」

 

「……それは、随分とドブカスなルートですわな」

 

 ミルコが、牙を見せて豪快に笑う。

 

「そうだ。だが——後悔はしてない。こちとらいつ死んでも後悔ないよう、毎日死ぬ気で生きてきたさかい」

 

 直哉は目を見開いた。

 

「……ミルコ。今、俺の言葉、移りましたわ」

 

「……うるせえ。手紙で書きすぎなんだよ、お前。……ま、お前もそのうち気づくさ。自分がヒーローだったかどうかなんてな。現場の感覚が一番正しいんだよ」

 

 

 しばらく言葉を交わした後、直哉は席を立った。

 

「——今日は来てくれてよかった。礼を言うぜ、禪院」

 

「俺も、ミルコの生存をこの目で見られてよかったですわ」

 

「お前は——変わったな。最初の手紙の頃とは、顔つきが違う」

 

「そう見えとりますか?」

 

「ああ。最初は『なれるかどうか分かりません』……能力の限界に怯えてる顔だった。だが今は『なりたいかどうか分からない』……意志の話をしてる。……大きな前進だぜ、小僧」

 

 直哉は扉の取っ手に手をかけ、少しだけ考えた。

 

「……鋭いですわな、ミルコ。俺の空写でも、心の機微までは見えへんのに」

 

「空写よりは鈍い自信があるがな。……お世辞はいい。——また手紙を書くぜ」

 

「ええ。……俺からも、次なる設計図を送らせてもらいますわ」

 

「じゃあな、小僧」

 

「失礼しますわ、ミルコ。……お大事にな」

 

(……変わった、か。……『なれるか』から、『なりたいか』へ。……確かに、俺の物語は、能力の証明を終えて次の段階へ進んどるんやな)

 

七 夜の記録

 

 自室に戻った直哉は、使い古されたノートを開いた。

 

今日の整理:

 

① 爆豪くんとの会話。「ドブカス野郎のくせに使えたな」と言われた。評価ではなく「事実の確認」。……爆豪くんなりの、最大限の譲歩やったんやな。よく見とるわ、ほんまに。

 

② ミルコへの訪問。「弱さを持ちながら前に出る」ことの肯定。……あの人の「さかいな」は、不覚にも少しわろてしもうたわ。

 

③ 「なれるか」から「なりたいか」へ。能力の問いから、意志の問いへの移行。……設計者として、これは大きな仕様変更やな。

 

④ ヒーローになるかどうかは保留。……けど、弱くなるつもりはない。それだけは、何があっても揺るがへん事実や。

 

 ペンを置き、扇子を広げる。

 

 爆豪は「また鍛えろ」と言い、ミルコは「また手紙を書く」と言った。

 

 どちらも、「次」を前提とした言葉だ。

 

(……そうやな。まだ、先がある。……俺の雅な設計は、まだ終わらへんっちゅうことや)

 

 直哉は満足げに扇子を仰ぎ、電気を消した。




第67話、完結お疲れ様でした。

直哉の精神的な成長が、爆豪とミルコという「強さ」を象徴する二人との対話を通じて、鮮やかに描き出された回でした。

特に爆豪とのシーンでは、直哉がAFOに放った「ゴミ箱行き」という毒舌を、爆豪が「お前らしい」と受け入れる場面にグッときました。二人の関係は、馴れ合いではない、プロフェッショナル同士の奇妙な信頼関係へと変質していますね。

そしてミルコとの再会。

彼女が指摘した「『なれるか』から『なりたいか』への変化」は、この物語における直哉の最大の転換点です。

前世では「呪力があるかないか」という受動的な属性に縛られていた彼が、今世では「自分はどうしたいのか」という能動的な意志の壁に直面している。

それは、彼がようやく「禅院家の直哉」という役割から脱却し、一人の人間としての人生を歩み始めた証拠でもあります。

「まだ先がある」

その言葉とともに扇子を閉じる直哉の横顔には、かつての焦燥ではなく、心地よい夜風を受け入れる余裕が宿っているように見えました。

素敵な更新をありがとうございました!
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