【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
最終決戦の熱が去り、日常へと向かう雄英高校。
禅院直哉は、己の『雅な設計』がもたらした結末を報告するため、二人の先達のもとを訪ねる。
一人は、かつて蛇腔病院のインターンでその背中から「技術」を盗んだ、不器用な情熱の象徴・エンデヴァー。
そしてもう一人は、入学当初の居場所のなかった頃から、直哉の歪な才覚を「生徒」として見つめ続けてきた担任・相澤消太。
彼らに告げるのは、単なる戦果の記録ではない。
神野の屈辱から始まり、クラスメイトとの日々を経て、AFOを討ち果たすに至った「燃料の内訳」。
それは、孤独な設計者が初めて口にした、他者との繋がりの独白でもあった。
「……ヒーローだった」
その一言が、直哉のこれまでの全てを肯定し、新たな設計図への一歩を刻んでいく。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性がございます。
ご注意ください。
評価、感想付与はとても励みになります!直哉も張り切ってドブカスっぷりを出してくれます!
評価付与130突破くらいで映画版を番外編として追加で作るかも…?
病院の廊下で、エンデヴァーと出くわした。
全くの偶然だった。直哉は別の用件でこの病院を訪れており、エンデヴァーは轟燈矢——荼毘の病室の前に、重苦しい空気を纏って立っていた。
「——禪院」
エンデヴァーが先に、その低く重い声で名を呼んだ。
「エンデヴァーさん」
「お前が領域展開という技でAFOを止めたという話は聞いた」
「……えらい情報が広まっとりますな。耳が早いですわ」
「ある程度はな。詳細は知らんが——あの戦場にいた人間は何人か見ていた」
直哉は扇子を開き、ゆっくりと仰いだ。
(……おっさんも、ボロボロになりながら結局生きよったか。しぶといやっちゃな)
「——一つだけ言っておきたいことがありますわ、エンデヴァーさん」
「言え」
「冬季インターンでは、えらいお世話になりましたわ。あの時、横でエンデヴァーさんの動き方を観察させてもらいました。炎の制御、複数の個性持ちとの対峙の仕方——全部盗ませてもらいましたわ」
エンデヴァーが僅かに目を見開く。
「……盗んだ、か」
「はいですわ。盗んだのは俺の実力(センス)ですさかい、わざわざ『おおきに』なんて殊勝なことは言いませんわ。でも——役に立ちましたわ。今回の戦いで」
エンデヴァーは直哉をじっと見つめ、その眼光の鋭さに直哉は内心で舌を打つ。
「……正直なやつだな」
「設計の話ですさかい。事実を誤魔化しても、図面が狂うだけですわ」
「盗んで役立てた——それはお前の実力だ。礼なんぞいらん」
「そうですか。なら受け取りませんわ。雅やないしな」
エンデヴァーが、僅かに鼻で笑った。
「——焦凍は、お前と話したと言っていた。並行処理の話だったか」
「はいですわ。最終決戦前より少し前の日の屋上でな。轟くんが、エンデヴァーさんを観察しとったっていう話を聞きましたわ」
「あいつは——」
エンデヴァーが言葉を切り、病室の扉を見つめる。
「……俺よりいいものになる」
「そう思いますわ。俺の設計でも、轟くんの伸び代は計り知れんですわ」
(『あっち側』に来れるかどうかは、この先次第やけどな…俺個人としては強者が増えるに越したとはないわ)
「……お前はどうだ」
直哉は少し考え、不敵に口角を上げた。
「——俺は、俺にしかなれませんさかい。エンデヴァーさんとも、轟くんとも違う。世界で唯一つの雅な設計ですわ」
「そうだな」
エンデヴァーは廊下を歩き始めた。
「——お前の設計、見届けさせてもらう」
「……おおきに。エンデヴァーさん」
(……礼はいらん、か。相変わらず厳しいおっさんやな。でも、まっすぐすぎて眩しいわ)
翌日。直哉は相澤先生の待つ教室を訪ねた。
先生はいつも通りの場所に座り、書類に目を落としていたが、直哉が入った瞬間に顔を上げた。
「——禪院か」
「はいですわ」
「報告に来たか」
「ええ。これまでずっと報告し続けてきましたさかいな。けじめをつけに来ましたわ」
相澤先生が僅かに間を置き、顎で椅子を指した。
「……座れ」
「分かりましたわ」
直哉は椅子を引いて座り、居住まいを正した。
「——どこから話すつもりた?」
「領域展開の発動から話しますわ。あの最終決戦の戦場でトゥワイスもどきの増殖…サッドマンズパレードに対して初めて展開しました。その後、AFO戦に三つの効果を全部使いましたわ」
相澤先生は、一言も挟まずに黙って聞き入っている。
「——三つの効果の構造は、前に先生に『全体像が見えた』と言った時のままですわ。縛り(リスク)も想定通り。AFOの個性を全部剥がして、ただの老人に還元してやりましたわ」
「……消耗は」
「AFO戦後、呪力が残り10%を切りましたわ。でも反転術式は脳に直結させて維持できましたさかい、術式は焼けずに済みましたわ。その点は計算通りやった」
「よくやった」
「おおきに」
(……相変わらず、褒め言葉が短いな、この人は)
「……それだけか?」
「設計の報告は、それだけですわ。……せやけど」
「けと?何だ?」
「設計の外(イレギュラー)の話が、一つだけありますわ」
「——燃料の話ですわ」
「燃料?」
「今回の戦いで、俺を動かし続けた燃料の内訳ですわ。……神野の夜、あの15秒間の屈辱。それが一番デカかったんは事実ですわ。でも、それだけやなかったんですわ」
「……続けろ」
「切島くんが『ここにいる』と確認してくれた夜のことや。お茶子ちゃんが『話してくれてるから』と言ったあの廊下。常闇くんと哲学を語った時間。轟くんと訓練場で『おんなじだ』と言い合ったこと。……そして、緑谷くんと『約束』したあの前夜のことや」
「……それが全部、燃料になったのか」
「はいですわ。俺の設計の外で勝手に起きたことが、最終的には設計の一番の手札になっとりましたわ」
(毎度思うけど、ホンマに俺には似合わんもんやな…自ら言ってて本当に俺のセリフか?と常に脳が疑ってしまっとるわ…そういうタチやないやろ、俺は)
相澤先生はしばらく沈黙し、何かを噛みしめるように目を閉じた。
「——AFOはそれを知らなかったのか?」
「知りませんでしたわ。青山くんから俺の術式の情報は全部筒抜けやったはずです。……けど、燃料の内訳(こころ)までは把握できてへんかったですわ。それが、俺の最後の手札。……雅な隠し味ですわ」
「……なるほどな」
相澤先生が僅かに目を開く。
「——禪院」
「何でしょう?」
「お前は結局——ヒーローになったのか?」
直哉は、言葉を止めた。
「——先生には、どう見えたんや?」
直哉は、問いに問いで返した。
相澤先生は、しばらくの間、直哉を射抜くように見つめていた。
「……ヒーローだった」
短く、だが岩のように揺るぎない確信を込めて、そう言った。
(……あぁ、そうか。やっぱり、この人は全部見てたんやな)
緑谷に言われた時とも、ミルコに言われた時とも、爆豪に「使えたな」と事実確認された時とも、質の違う重みが胸に落ちる。
雄英に来たあの日から。術式の稚拙な説明をした時から。神野で膝をついた時から。蛇腔で死にかけた時から。「行くな」「生きて帰れ」……その全ての時間が、今のこの短い一言の背後に詰まっていた。
「……そうですか」
直哉は短く答えた。
「——先生にそう見えたなら、俺の設計は正しく外に伝わっとったということですわ。満足ですわ」
「ああ」
「——十分ですわ」
「……十分かどうかは、まだ分からんだろう。お前の人生はこれからだ」
「そうですわな。……でも、今日はこれで十分なんですわ」
(まあ、なんだかんだで合理性を重んじる相澤先生とは相性が良いんやろうな…俺の設計の中で最適なものを選び、デザインする…最も合理的な良い選択を選ぶ…どちらも同じようなもんやわ)
相澤先生が何か言いたそうな顔をしたが、結局、何も言わずにそれを受け入れた。
教室には、静かだが満ち足りた時間が流れていた。
「——相澤先生」
「何だ」
「俺、これからもここに居座ってええんやろか?」
相澤先生が、少し意外そうに眉を上げた。
「……どういう意味だ」
「設計の話ですわ。正直、『次の設計』はまだ真っ白で見えてへんですわ。でも——ここでなら、新しい図面が引ける気がしますわ。クラスメイトとか、先生とか、このクソ騒がしい場所とか……ここにいる方が、設計が動く気がしますわ」
(自分でもなぜこんな話を出したのかよく分からへん…この最終決戦を通して有象無象に対する価値観が多少は変わったんやろか…あまりそうには思えへんのやけど)
「……お前がそんな殊勝なことを言うとは、珍しいこともあるもんだ」
「俺も自分を疑いましたわ。ドブカスな本性が丸なったんやないかって」
「前は『ここにいる理由が分からない』という、居心地の悪そうな顔をしていたがな」
「いつ頃の話やったかもう覚えとらんですわ」
「入学した当初からずっとな」
「……なるほど…そうですわな。当時は景色扱いされるんが怖くてしゃあなかったですから。……でも、今は分かりますわ。ここにいる理由」
「何だ?」
「——燃料が、ここにあるさかいですわ」
(自分に合わないものを渾身の決め台詞で言っとる俺…ある種皮肉になっとる様が滑稽やけど…これはこれで一つの道…王道なんやろか?…ホンマによう分からんは、この手の話は)
相澤先生の口元が、ほんの僅かに動いた。
笑ったのか、それとも呆れたのか。直哉が確認する前に、先生はいつもの無表情に戻っていた。
「——続けろ。報告はこれからも続けろ」
「ほな、分かりました」
「術式の記録もだ。一文字たりとも疎かにするな」
「分かっとります。雅な記録を残させてもらいますわ」
「——以上だ。出て行け」
「おおきに。失礼しますわ」
直哉は立ち上がり、扉へと歩いた。
「——禪院」
背後から、呼び止められる。
「なんや?相澤先生…」
「……よく帰ってきた」
直哉は、数秒間足を止めた。
「——ええ。先生も、よく生きとりましたわ。……ほんまに」
(俺には似合わんセリフばっかり言っとる…キャラに合わなさすぎて反吐が出るわ…何よりも燃料は俺の設計を狂わす不確定なノイズ…ある種の雅でないとも捉えられる。俺のデザインを狂わす不恰好なもののはずなんなけどな…チグハグで歪、ホンマにイラつく矛盾や)
「……生意気なやつだ」
「生意気なのは分かっとります。それが俺やさかい」
扉を閉めた。廊下に出た直哉の顔には、隠しようのない雅な笑みが浮かんでいた。
自室に戻り、いつものノートを開く。
今日の整理:
① エンデヴァーさんへの挨拶。「盗んだのは俺の実力やから礼は言わん」と言い放ってやったわ。あのおっさんも「礼はいらん」やて。似た者同士、厳しいこっちゃ。でも「見届けさせてもらう」と言われた。光栄なことやな。
② 相澤先生への報告。燃料の内訳を全部吐き出した。初めて先生に「設計の外」を共有できた。
③ 「お前は結局ヒーローになったのか」→「……ヒーローだった」。先生の言葉は、重さが違うわ。俺の過ごしてきた雄英の時間が、全部報われた気がした。
④ 「続けろ」と言われた。居場所を、再定義できた日やな。燃料がここにある限り、俺の筆は止まらへん。
⑤ 「よく帰ってきた」「先生もよく生きとりましたわ」。……こんなセリフ、いつもの俺なら吐けるもんやないんやけどな。
万年筆を置き、扇子を広げる。
みんなが「次」を求めてくれる。みんなが「先」を見ようとしている。
(……そうやな。まだ、先がある。……俺の雅な物語は、ここからが本番やわ)
直哉は満足げに扇子を仰ぎ、静かに電気を消した。
69話、完結お疲れ様でした。
直哉の「報告」という行為を通じて、彼がどれほど多くのものをこの世界から受け取り、そして彼自身もまたこの世界に必要とされているかが浮き彫りになる、非常に密度と情緒の濃い回でした。
特に相澤先生とのシーン。直哉が自ら「ここにいていいですか」と問い、その理由を「燃料がここにあるから」と答えた場面には、目頭が熱くなりました。
かつては「景色扱い」を拒絶し、自分一人で完結することに執着していた直哉が、自分を動かす動力が「他者との時間」にあると認めた。これは、かつての「禪院直哉」では決して到達できなかった境地です。
エンデヴァーの「見届けさせてもらう」、相澤先生の「続けろ」。
二人の厳しい大人が、直哉の「次」を望んでいる。
それは直哉にとって、どんな賞賛よりも誇らしい「合格点」だったのではないでしょうか。
「先生も、よく生きとりましたわ」
嫌味の中に最大限の安堵と敬意を込めたこの台詞こそ、今の直哉にしか吐けない、最高に雅な親愛の形だと感じました。