【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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なあ、あんた。

「完璧な設計図」を自負しとる人間にとって、一番肝が冷えるんは何やと思う?

……答えは簡単や。「自分の知らん線」が、勝手に書き足されとる時や。

前世の記憶っちゅーのは便利なもんやが、万能やない。

今回俺の手元に届いたんは、その記憶のグリッドから完全に抜け落ちた、海に浮かぶ人工島「I・アイランド」への招待状やった。

科学の粋を集めた、個性社会の結晶。

そこは俺の術式(ルール)が通用せえへん、いわば「設計の外側」や。

そこに何が待ち構えとるんか、あるいは俺が何を「持っとらん」のか。

……ええでしょう。

1/24秒のフレームですら捉えきれん、計算外の夜。

禪院直哉が、初めて自分の「射程の限界」を突きつけられた時の記録……。

あんたも、その目で値踏みしなはれ。

始まりました映画編。まさか書くとは思っていませんでした!


キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。

お気に入り登録、評価付与、感想は直哉が扇子を仰いで雅に笑みを見せてくれます!


第75話:映画編 二人の英雄「I・アイランド——設計外の島」

封筒の紙質が、普通と違った。

 

 禪院直哉がそれに気づいたのは、実家から転送されてきた郵便物の束を寮の自室で開いていた夜のことだ。分厚いクリーム色の封筒。エンボス加工の島の紋章。裏に小さく刷られた英字——《I-Island Research Exposition》。

 

 静岡の実家から一言添えられていた。

 

 『I・アイランドへの出資継続の御礼として、プレオープン招待状を一枚いただきました。せっかくですから直哉が行ってきなさい』

 

 直哉は封筒を机に置いて、少し考えた。

 

 I・アイランド。前世の記憶を遡っても、この名前は出てこない。前世の俺はヒーローアカデミアの世界についての知識を持っているが——劇場版の細部まで全部覚えているわけやない。「I・アイランド」という名前には、どこか聞き覚えがある気もするが、詳細は霧の中だ。

 

(……前世の知識が通じへん場所、か。ドブカスに不透明な設計図やな。……ま、ええわ。予定調和のなぞり書きほど退屈なもんはないさかい)

 

「……設計の外側に踏み込む機会は、むしろ歓迎や」

 

 直哉はそう呟いて、封筒を引き出しの中にしまった。

 

 I・エキスポのプレオープン当日。

 

 直哉は一人でゲートをくぐった。ヒーローコスチュームではない。ヒーロースーツではないが、前世と同じいつもの和装に扇子。これで十分だ。

 

 島の規模は、想定よりはるかに大きかった。

 

 ゲートを抜けた瞬間、視界が開ける。海上都市特有の、水平線に向かって広がる人工の地平。島全体が一つの巨大な研究施設であり、同時に観光地でもある。

 

「ほーん、雅やないか」

 

 直哉は扇子を開いて、ゆっくりと歩き出した。

 

 人の流れを読む。警備の配置を確認する。建物の構造を頭の中でトレースする——これは習慣だ。前世から引き継いだ、呪術師としての癖。設計なしに動かない。動く前に、まず読む。

 

 最初の展示棟に入ると、個性増幅デバイスの試作品が並んでいた。ガラスケースに収められた各種サポートアイテム。直哉は足を止めて、一つ一つを眺めた。

 

「個性を外から強化する、か。……ドブカスに他力本願な設計やな」

 

 呟きは観覧客の声に紛れて消えた。

 

(……術式の観点から見れば、これは「呪具」に近い発想やな。……せやけど、個性を増幅したところで、それは元の個性の延長線上に過ぎん。術式は次元が違う。この世界のどんな機械も、俺の『投射呪法』に干渉することなんてできへんわ)

 

「設計の根が、そもそも違うんや」

 

 誰に向けたわけでもなく、直哉はそう言った。

 

 展示棟を出て、広場のベンチに腰を下ろしたとき、聞き覚えのある声がした。

 

「……あァ? なんでてめぇがここにいるんだ、ドブカス野郎」

 

 振り返ると、爆豪勝己が立っていた。隣に切島鋭児郎がいる。二人とも私服で、爆豪は仏頂面のまま直哉を見下ろしていた。

 

「体育祭優勝者への招待状が来たんやろ、爆豪くん。俺は出資者枠や」

 

「出資者だァ?」

 

「実家がこの島に金出しとるんや。そのご縁で一枚もろただけや」

 

 爆豪は「…チッ…相変わらず上から目線な野郎だ」と鼻を鳴らして隣に腰を下ろした。特に追い払う気もないらしい。切島くんは「すごいな禪院の家! 雅だな!」と素直に感心している。

 

「他のやつらも来とるんか?」

 

「クソナードと、あと何人か来てるらしい。夜のパーティーで集合ってことになってるはずだ」

 

「夜までまだまだ時間は残っとるな」

 

「俺はもう少し見て回る。一人でな。てめぇに付き合う義理はねぇ」

 

「好きにしたらええ。俺も一人の方が気楽やしな」

 

 爆豪はそう言った後に去っていった。切島くんと二人で別の方向に歩いていく。直哉は扇子を閉じて、立ち上がった。

 

 午後の時間を、直哉は一人で使った。

 

 展示棟を一つ一つ回りながら、観察を続ける。個性増幅デバイスの理論構造。サポートアイテムの設計思想。そして——島全体のセキュリティシステムの概要。

 

 これは観光ではなかった。

 

 投射呪法のフレームで、直哉は島の構造を読んでいた。1/24秒の分割で認識する世界は、細部が違って見える。カメラの死角。非常口の位置。セキュリティルームがおそらく最上階ではなく中層部にあること。

 

「——前世でも、こういう場所に来たことはなかったわ…」

 

 美術館のような展示棟の一角で、直哉は足を止めた。「無個性研究支援コーナー」という小さなコーナーがあった。

 

 そこに一人の少女がいた。

 

 ブロンドの髪。白衣の裾がわずかに揺れている。無個性なのだろうということは、コーナーの説明からすぐわかった。

 

(……設計だけで戦う人間、か。……ドブカスに泥臭い、でも純粋な設計図やな)

 

 直哉は扇子を開いた。

 

 前世の俺は「投射呪法」という術式を持っていた。技術と設計の塊だ。だがあの少女は、そういう「持ち込み」が一切ない。

 

「それはそれで、ある種の『雅』やな」

 

 直哉は呟いた。少女がふと顔を上げて、直哉と目が合った。

 

「あの、何か質問はありますか?」

 

「いや——見てただけや。面白い設計やと思って」

 

「設計?」

 

「あなたの研究の話や。個性の代わりに技術で補う発想——俺の術…個性の考え方と根が近いんよ」

 

「術?…ええと、私はメリッサ・シールドです」

 

「禪院直哉や。……ええ名前やな、メリッサちゃん」

 

 握手を交わした。

 

 夜のパーティーは、想定通り豪華だった。

 

 直哉は一人でグラスを持ち、壁際から全体を眺めていた。

 

 出久くんとメリッサちゃんが話している。爆豪くんが不機嫌そうに食い物にかじりついている。

 

(……平和な景色やな。今んところは何もなくて退屈や。……ん?)

 

 直哉は投射呪法のフレームで、高速で動いて状況を把握していた。

 

 どこかが——変だ。

 

 パーティースタッフの動きの中に、1/24秒のズレがある。

 

 高速で動く中で、直哉は確かにそのズレをコマの間から読み取っていた。

 

「……」

 

 直哉は扇子を静かに閉じた。

 

(……今構想しとる拡張術式があれば、この違和感の正体も一秒で暴けるんやけどな。……今の俺にはまだ、そこまでの『眼』はないか)

 

 そう思った瞬間だった。

 

 ホール全体の照明が一瞬揺れ、無機質なアラートが鳴り響いた。

 

 島全体のセキュリティシステムが、ハッキングされた。

 

 混乱は一瞬で広がった。

 

 プロヒーローたちは個性を封じられた状態で人質として押さえられる。

 

 直哉は素早く壁際を離れた。

 

 直哉は高速で頭を回して今の現状を整理する。ヴィランの数——ホール内だけで恐らく十人以上。 

 

「……なるほどな。不恰好な…幼稚な茶番やわ」

 

 扇子を胸ポケットに収め、パニックの人混みに紛れながら爆豪くんたちが固まっている柱の陰に移動した。

 

「状況は読めとる。ヴィランがシステムをハッキングして島全体を封鎖したわ。プロは全員拘束具で置物状態や。……俺たちはまだ認識されてへん、今のところはな」

 

 飯田くんが「禪院くん! 状況把握が早いな」と小声で言った。

 

「どうする?」

 

「セントラルタワーのシステム中枢を叩くしかないわ。ただし、全員で突っ込んでも余計に目立つだけや。少数精鋭で静かに動くべきやろ」

 

「誰が上に行く?」

 

「俺はここで残る組に入るわ。お前らの背中を掃除しといたる」

 

 爆豪が「はあ? てめぇみたいな性格の悪い野郎が下で何するんだ」と低い声を出した。

 

「フロアのヴィランは俺が全部引き受けたる。爆豪くん、君は上に行けや。……君の火力がないと、上の設計図は壊せんやろ」

 

「……ハッ。後で泣き言抜かすなよ、ドブカス野郎!」

 

 爆豪は反論しなかった。直哉の「読み」だけは、認めているからだ。

 

 フロアの制圧は、静かに行われた。

 

 直哉は一人で、ホールの裏側の廊下に移動した。

 

(……交代のタイミングは、15秒。……醜くて動きも鈍いわ。あくびが出る。俺のフレームなら、その間に百回は殺せるわ)

 

「フレームに収める——」

 

 直哉は静かに踏み出した。

 

 1/24秒の単位で世界を分割しながら動く。ヴィランが振り向く0.3秒前に間合いに入り——触れた。

 

 投射呪法の1秒のフリーズ

 

 相手に24コマ分の動きを強制することにより、ヴィランの身体が一瞬、完全に動きを失った。

 

その隙に後頭部に当て身を入れて意識を落とす。

 

「……フリーズの強制だけで、的はどうとでもなるわ…そもそも投射呪法の高速移動のみでも問題なさそうやしな」

 

(……せやけど、これだけや。……今の俺には、投射呪法以外の技がない。近距離が主体にならざるおえないから射程が短いんや、俺の術式は)

 

 三十分後。

 

 直哉はホールの一角に戻り、壁に背中を預けていた。

 

 フロア内のヴィランは、直哉が把握した限りでほぼ全員制圧済みだ。

 

 上からの爆発音が聞こえた。爆豪が暴れている。

 

(……今の俺には、まだ拡張術式も反転術式もない……あるんは、投射呪法、そしてそれを利用したフリーズと、フレームを破壊することで起こせる衝撃波、そして俺の脚だけや)

 

 それで今夜はここまでやれた。

 

 でも——リーダー格のウォルフラムには届いていない。

 

「……設計の外縁、か。まだ目指す俺の設計には遠いわ…全然足りへん」

 

 呟きは、上からの爆発音に消えた。

 

 響香ちゃんが近くに来た。

 

「禪院、大丈夫? 怪我はない?」

 

「大丈夫や。消耗もしてへん。……響香ちゃんの方こそ、耳は大丈夫なんか?」

 

「全然大丈夫。……禪院、上に行かないの?」

 

 直哉は一瞬考えた。

 

「俺の手が届く場所は、ここまでや——『今夜は』な」

 

 響香ちゃんは「そっか」と短く言って、また離れていった。

 

 建物全体が微かに揺れた。オールマイトが、出久くんが戦っている。

 

 直哉はただ、下のフロアから、届かないはずのその振動を、静かに受けていた。

 

 島の封鎖が解除されたのは、それから一時間後だった。

 

 直哉はホールの外、島の縁に近いテラスに出ていた。

 

 風が、潮の香りを運んでくる。

 

「……広範囲で情報を読み取れる技があれば、もっと速く対応できたはずや」

 

 呟きが漏れた。

 

(……それがあれば敵の動きを事前に読めとった。どこに誰がおるか、次に何をしようとしとるか、全部先に分かっとったはずやわ。拡張術式があれば、俺はより高みへと…今の壁をさらに破れるはずや)

 

 今夜の直哉は、すべて「届く距離まで自分で行く」しかなかった。

 

 それが、今の現状であり、自身の現状を呪うように呪詛を吐くしかなかった。

 

「……I・アイランド。前世の知識にない、不透明な場所やったわ」

 

 直哉は海を見たまま、静かに言った。

 

 予測できない事態に、今の不完全な術式だけで対処した。それは設計として、悪くはなかった。

 

(……でもな、次はあらへん。今夜見えた『外縁』を、一つずつ越えていく。それが俺の次の設計図や。……拡張術式、反転術式、それより先の技術も……全部、俺のものにしたるわ)

 

 設計はまだ、始まったばかりだ。

 

「帰ったら——始めるか。究極の術式構築(デザイン)を」

 

 誰にも聞こえない声で、直哉はそう言った。

 

 禪院直哉はしばらくの間、遠い水平線の向こうにある、完成されるべき自分の未来を見つめていた。




(……ふぅ。I・アイランドの潮風、ドブカスに鼻につく匂いやったわ。

 結局、あの夜の俺にできたんは、手が届く範囲の雑魚を「固定」して回る、地べたを這いずるような泥臭い工作だけや。
 爆豪くんや緑谷くんが、あの高いタワーの頂上で「個性の火花」を散らしとった時、俺はただ下のフロアで、自分の術式の「短さ」を噛み締めとった。
 あんた、これ読んで「直哉も大したことないな」と思うたか?

 ……ハッ、勝手に言いなはれ。

 俺にとって、あの夜の敗北感(ルビ:ノイズ)は、最高の収穫やったんやさかい。

 届かへんなら、伸ばせばええ。

 見えへんなら、暴けばええ。

 空を写し、固定を射抜き、空間そのものを駒にする。

 あの時感じた「足りないもの」の正体が、今の俺の『空写』や『鏃』…『零駒』の原型(プロトタイプ)になったんや。

 設計図っちゅーのは、一度破れてからが本番や。

 次に俺があの島に行く時があれば、島ごと一秒で『固定』したるわ。

 ……さて。

 あんたの人生の設計図には、今夜、何が書き足された?

 俺の背中を追うんなら、せいぜい「一秒の遅れ」も許さんように気張りなはれ。

 ほな、またな。)
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