【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
「届かへん」と分かっとる場所に、突っ込む勇気があるか?
……ハッ、俺に言わせればそれは勇気やなくて、ただの無計画(ドブカス)や。
I・アイランド、セントラルタワー。
システムが死に、ヴィランが蔓延るこの巨大な檻で、俺は自分の「射程」を測り続けとった。
一秒を24に割って、敵の意志の先を読み、懐に潜り込んで拳を叩き込む。
泥臭い、ドブカスに地道な作業や。
爆豪くんや緑谷くんが派手に火花を散らしとる影で、俺は自分の術式の「外縁」を見つめていた。
どこまでが俺の領域(テリトリー)で、どこからが「設計外」なのか。
その境界線が、今夜、200階のタワーの中で剥き出しになる。
……ええよ。
完璧な設計図を完成させるためには、まず自分の「無力」を正確に読み解かなあかんからな。
禪院直哉の、限界への挑戦。
あんたも、その一秒をフレームに収めなはれ。
そんな形で二人の英雄の第二話です!お楽しみいただければなと思います!
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。
お気に入り登録、感想、評価付与は直哉が当時(映画時)のことを改めて思い出し、改めて鍛錬に励む力への貪欲な力への渇望が見れるかも…?
セントラルタワーの内部は、外から見るよりずっと複雑だった。
直哉は非常階段の踊り場に立ち、上から聞こえてくる足音の数を数えていた。投射呪法の高速起動で相手にバレないように偵察を行った。一人ではない。三人——いや、四人。それが三フロア上を移動している。
(……浅ましい足音や。鼠が一匹迷い込んだだけで、この狼徨いよう。余裕の欠片もない設計図やな)
フロアの制圧は終わった。ホールのヴィランの手下は全員、直哉と残組のA組メンバーが静かに処理した。今は封鎖されたタワーの下層部を直哉一人で制圧している。
一人で来たのは、自分の判断だ。
「上が騒がしくなってきたわ」
直哉は呟いた。
爆豪達が上に向かってから三十分が経つ。断続的に爆発音が聞こえていた。それが今、急に増えた。どこかで状況が動いている。
直哉は階段を一段一段、上がり始めた。
三十階のフロアで、最初の本格的な戦闘があった。
廊下の角を曲がった先に、ヴィランの手下が五人固まっていた。直哉が気づいたのと、向こうが気づいたのがほぼ同時だった。
「ガキが一人——」
言い終わる前に、直哉は踏み込んだ。
投射呪法のフレームを最大限に展開する。1/24秒の単位で世界を分割する。五人の動きが、コマ送りのように見える。
直哉は半歩横にずれながら、男の腕に触れた。
1秒フリーズの強制。
男の腕が完全に止まった。1秒のフリーズ。その隙に当て身を入れて倒す。
残り四人が一斉に動く。直哉はコマ割りを展開しながら、次のフリーズ対象を選ぶ。
(……一秒後の自分の姿も描けへんのか? 救いようのない頭やな)
個性「電撃放射」——放電の予備動作が始まっている。直哉は放電が走る0.1秒前に腹部に触れた。フリーズ。電撃が止まる。膝を入れて崩す。
再度対象に触れフリーズを強制。左は受け流す。
左からの打撃が肩をかすめた。痛みはある。でも骨には届いていない。反転術式がない今、回復は自然治癒に任せるしかない。
かすめた勢いを逃がしながら、直哉は左の男の首元に手を当てた。フリーズの強制。当て身。
全部で十二秒。
直哉は肩を一度回した。反転術式があれば今頃もう治っている。ないものねだりをしても仕方がない。
「……投射呪法のフリーズがなければ、どちらかに当たっとったわ。危ない危ない」
口調とは裏腹に、その瞳には焦りの色など微塵もない。
しかし——相手をフリーズさせるための射程は、「触れる距離」しかない。
直哉は廊下を進みながら、自分の術式の限界線をもう一度確認した。フリーズの強制を入れるためには、必ず間合いに入る必要がある。
だから直哉は、投射呪法で先手を取り高速で動くことで自分の足で詰める。
それが今夜の設計だ。
五十階で、切島くんと合流した。
切島くんは廊下の真ん中で三人のヴィランと戦っていた。
「禪院!」
「後ろや、切島くん。隙だらけやで」
直哉は間合いを詰めて対象に強制フリーズを入れた。固まった男を切島くんが振り向きざまに横から叩き飛ばす。
「すげ——何それ!」
「個性の応用ってやつや。説明しても君の頭じゃ理解できんやろから、後でな」
「助かった!」
切島くんの剛鉄化と、直哉のフリーズは相性がよかった。
切島くんは受けながら押す。その隙に直哉が横や後ろからフリーズ入れる。
「禪院ってさ」
三人を片づけながら、切島くんが言った。
「いつもどこにいるか全然分からないよな。さっきも下のフロアで動いてたって、飯田が言っててよ」
「必要なところにいるだけや。……君らみたいに、がむしゃらに走るだけが能やないさかい」
「それって、分かってて動いてるのか? 全体の状況を?」
「大体はな。完璧やないけど」
「それって…すごいじゃんか!」
「……褒めても何も出えへんで。フレームを読む癖があるだけや」
七十階で、状況が変わった。
大柄な男。個性は「金属操作」——廊下の壁の金属パネルが、男の意志に従って蠢いている。
直哉は高速起動で男の動きに対して牽制をしようと動いた。
(……フリーズを入れるには、間合いに入る必要がある。でも廊下全体が金属で塞がれとるな。突っ込めば叩き込まれる。フレームを叩き割る衝撃波でも威力が足りへん。逆に押し返されるわ……癪やな、この距離じゃ俺の手が届かへんのか)
「……」
ーもう少し火力の出る技があれば。
直哉は一歩引いた。
「逃げるか?」
「まさか。……その不細工な壁、俺の好みに合わんから壊そうと思てな」
直哉は扇子を開いた。
男が金属の壁を直哉に向けて押し出す0.2秒前、男の肩と腕の微細な動きに予備動作が現れる。それを細密なコマ割りで鍛えてきた直哉の目が見逃すはずもなく、横に跳ぶ。
「——面白い動きをする」
男が金属を再形成する。三方向。全部は躱せない。
左と右は躱す。上は——
直哉は上から来る金属の板の手前で空気をフリーズさせたフレームを作りそれを破壊した。それによる衝撃波に便乗する形で直哉は呪力で強化した脚力で跳躍し、上空に躍り出た。
男の懐まで一気に詰める。
触れた。1秒フリーズの強制。
「——個性は関係ない。意志の動きを読めれば、全部俺のフレームに収まるんや」
直哉はフリーズ解ける前に、男の首元に当て身を入れて意識を落とした。
立ち上がって、息をついた。
肩がまた痛む。袖が少し切れている。
「……今のは際どかったわ」
(……もっと火力のある技があれば、あの廊下は五秒で終わっとった。自分の足で稼がなあかんようじゃ、設計としては二流やな)
九十階で、切島と再び合流した。
「禪院! 生きてた」
「生きてるわ、切島くん。君こそ、随分とボロボロやな」
「なんとか。でもきつくなってきたぜ…」
「ここまできたんやから気張りや。まだ終わってへんで」
「分かってるよ。そういや上から音がしてるな…緑谷たちが上階で動いてるみたいだ」
「知っとる。オールマイトも来とるな。……フロアの振動の質が変わったわ。あの暴力的な衝撃、プロの仕事やろ」
直哉は廊下の先を見た。タワー全体が、静かに揺れている。
「切島くん」
「どうした?」
「君は九十階より上に行かんでええ」
「え——どうしてだ?」
「さっきは確かに鼓舞するために気張りやと言ったわ。せやけど、正直君は消耗しすぎや。これ以上上に行っても、無様に足を引っ張るだけやろ。……俺の視界にノイズを入れんといてや」
「でも——」
「君がここにいることで、下から来る雑魚を抑えられる。それが今の君の役割(デザイン)や」
切島くんは少しの間、黙った。
「……禪院って、なんかそういうの上手いよな。みんなが何をすべきか、さっと決める感じ」
「……設計の癖や。これ以上言わせんといて」
百二十階で、直哉は足を止めた。
上からの振動が、急激に大きくなった。建物全体が揺れている。
直哉はフレームで読もうとした。
読めない。
規模が大きすぎる。
「……届かへんな」
静かに言った。
最上部にいるウォルフラムに届く前に、この金属の渦に叩き潰される。
今の直哉では、届かない。
(……広範囲で情報を読み取れる技があれば、この距離からでも戦場全体を暴けた。……俺の眼が、まだ未完成な証拠やな)
「もっと火力の出る技があれば、この距離から固定を叩き込めたんやけど……」
壁の振動が伝わってくる。
「今夜の設計は、ここまでやわ」
直哉は踵を返した。
悔しいとは、思わなかった。
ただ——「見えた」と思った。今の自身に必要な要素のかけら。それらが「ないこと」の不便さが、具体的な形になった。
島の封鎖が解除されたのは、直哉が九十階まで戻ってきたときだった。
「やった!」
「そうやな」
「デクたちが?」
「緑谷くんとオールマイトやろ。規模から見て、あの二人の仕業やわ」
切島くんは「さすがだ」と言って、笑った。
「禪院、お前上まで行ったの?」
「百二十階までな。……俺の手が届く場所と届かない場所の、境界線を確認しにな」
「それって——悔しくない?」
直哉は少し考えた。
「悔しい? まさか。……次に何をすべきか分かったんや。これ以上の収穫はないわ」
「……禪院って、本当に変わってるよな」
「そうか?」
「悪い意味じゃなくて」
「……分かっとるわ」
切島くんが「禪院」と言った。
「今日、一緒に動けて良かった。お互い様じゃん」
「……お互い様、か。面白いこと言うな、切島くん」
お互い様。
前世の俺なら、鼻で笑って切り捨てた言葉や。でも、今世の設計には、こういう「不確定な要素」も組み込んでいいのかもしれん。
ホールに戻ると、A組のメンバーたちが集まっていた。
「おい、てめぇ! どこほっつき歩いてやがったドブカス野郎!」
振り返ると、爆豪くんがボロボロの姿で仁王立ちしていた。
「下層の掃除や。爆豪くんこそ、随分と雅じゃないツラしとるな。少しは鏡見たら?」
「あァ!? ぶっ殺すぞてめぇ!」
直哉は扇子を開いた。
「二人で——か」
出久くんとオールマイトの共闘。
その歪なようで完璧な設計図の秘密が、直哉にはまだ分からなかった。
階段の方から、出久くんが下りてきた。
「禪院くん——無事?」
「無事や。……そっちこそ、見るに耐えん姿やな、緑谷くん。少しは自分を労わったらどうや?」
「あはは、なんとか……」
「オールマイトは?」
「先に下ってるよ」
直哉は「そうか」と言って、視線を外した。
深夜。
直哉はまたテラスに出ていた。
(……強制フリーズのの射程は『触れる距離』。……これが今夜の最大の欠陥(ノイズ)や。もっと破壊力のある技があれば……)
「今夜見えたものを、一つずつ設計するわ」
直哉は手すりに手を置いた。
(……帰ったら、情報取得系の拡張術式の鍛錬に入る。火力を出す技の設計も始める。一連の技の構造を作る。……俺の設計図を完成させるために、足りんもんは全部奪い取ったるわ)
「今夜のI・アイランドは——俺の設計の外縁を、全部照らしてくれたな」
直哉は扇子を開いた。
禪院直哉は、次の設計をすでに始めていた。
(……ふぅ。結局、百二十階が俺の「止まり木」やったわけや。
上がどれだけ震えとったか、あんたも感じたか?
オールマイトと緑谷くんが二人で「設計の外」をぶち壊しとった、あの野蛮な振動。
正直、今の俺にはあれに割り込む手段も、横から『投射呪法』を差し込む隙間もあらへんかった。
……ドブカスに、遠い距離やわ。
でもな、切島くんと「お互い様」なんて言葉を交わして、自分の足で階段を下りる時、不思議と嫌な気分やなかった。
「届かへん」場所が見えたっちゅーことは、そこまでの「道」をこれから描けるっちゅーことや。
空写(くうしゃ)で戦場を先読み…丸裸にし、投射呪法で加速して、鏃(やじり)で相手を穿ち貫き、零駒(ぜろこま)で相手が認識するすら前にそのコマを俺が終わらせる。
今夜、俺が『持っとらんかった』全部が、これからの俺の強さの血肉になる。
……見てなはれ。
次、俺が設計図を広げる時は、この世界の誰一人として、俺のフレームから逃げられへんようにしてやるわ。
……あ、そうそう。爆豪くんには『ドブカス野郎』呼ばわりされたままやったな。
アイツの口、いつか『空虚呪法』で永遠に閉じたろか。
ほな、また次の設計で会おうな。)