【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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今話より今まで力への渇望を軸に考えており、鳴りをを潜めていた直也が前世の片鱗を見せ始めます。
つまりはドブカスです
ドブカス感がうまく出せれば良いなあ…
評価付与、感想は励みになります!


第8話:第二種目騎馬戦『泥に咲くは、選ばれし俺一人』

 

騎馬戦の説明が終わった瞬間、グラウンドは熱に包まれた。 

 

「一緒に組もうぜ!」

 

「個性的に相性良さそうな人探さないと!」

 

「チーム作んないと負けるって!」

 

うるさい。

 

禪院直哉は、その喧騒から三メートルほど離れた場所に立って、目を細めていた。

 

感情はない。あるとすれば、動物園の檻の前に立ったときに覚える、あの微かな倦怠感だ。象を見ても、ライオンを見ても、「ああ、いるな」以上の感想が生まれない、あの無感動。今の一年生全員の光景が、それに似ていた。

 

「一緒に頑張ろう」か。

 

直哉は顎に指を当てながら、ゆっくりと視線を巡らせた。

 

個性の把握は済んでいる。この世界に降り立ってから、観察だけは怠らなかった。甚爾くんの隣に立つための、最低限の準備として。だから今この瞬間も、直哉の目は感情ではなく、純粋な「計算」として周囲を処理していた。

 

騎手に必要なのは、移動力。安定性。そして何より——意志の薄さ。

 

賢い馬は要らない。賢い馬は余計なことを考え、余計なことを言う。「なんで私がそんな扱いを」と思い始めた瞬間、馬は馬ではなくなる。必要なのは、言葉を飲み込んで走れる程度の、適度な自我の欠如だ。

 

直哉の視線が、一人の男子で止まった。

 

砂藤力道。障害物競走十五位。個性は「剛力」——読んで字のごとく、筋力を爆発的に増幅させる。身体能力は高く、無口で、目立たない。今も誰かと交渉するわけでもなく、腕を組んで静かに佇んでいる。

 

ちょうどええ。

 

直哉は歩み寄った。砂藤が気づいて、ぱっと顔を上げる。直哉の顔を見て、一瞬だけ目が泳いだ。美しいものを前にしたときの、あの生理的な反応。直哉はとっくに慣れていた。むしろ、それを利用してきた。

 

「砂藤くん、やったっけ」

 

柔らかい京言葉で、直哉は微笑んだ。

 

「……ああ、禪院か。なんだ」

 

「チーム、一緒に組まへん? 君の剛力、足に使ったら速そうやなと思って」

 

砂藤が少し考える素振りを見せた。断る理由もない、という顔だった。

 

「……まあ、いいぞ」

 

「おおきに」

 

直哉は微笑んだまま、心の中でその言葉を無音で処理した。

 

(協力ではなく——使わせてもらう、が正確やけどな)

 

 

次の「馬」を探しながら、直哉はさりげなく周囲を流し見た。

 

そのとき、背後から声がかかった。

 

「禪院くん!一緒に組もうよ!」

 

透明な空気が喋った——ではなく、葉隠だった。声の方向からおおよその位置は分かるが、姿は見えない。直哉にとっては今更の感覚だったが、初対面の人間には相当に奇妙な光景だろう。

 

「葉隠ちゃん」

 

直哉は振り返り、声の方向へ視線を向けた。

 

屋内対人戦闘訓練で一度チームを組んだことがある。あのときの葉隠は、陽気で動き回って、うるさいくらいに明るかった。直哉が何も言わなくても独自に動いて、なんとなく成果を出した。透明という個性の使い方を、それなりに心得ていた。

 

だから直哉は、あの訓練のあとで葉隠を「使えるかもしれない駒」として記憶の棚に入れていた。「友人」としてではなく、純粋に「将来役立ちそうな道具」として。

 

そういうことだ。それだけのことだった。

 

「禪院くん、また一緒に戦おうよ! あの訓練楽しかったじゃん!」

 

葉隠の声は弾んでいた。チームメイトとして、仲間として、当然のように声をかけてくる。

直哉はその声を聞きながら、内心で静かに選別を完了させた。

 

「ええよ」

 

と、微笑んだ。

 

「一緒に組もか」

 

葉隠が「やった!」と跳ねるような気配がした。透明な体が、嬉しさで揺れているのが声から伝わってきた。

 

直哉はその様子を見ながら、言葉を続けた。

 

「せやから葉隠ちゃん、今日は俺の右馬やってくれるかな」

 

一拍、間があいた。

 

「……右馬? 私が?」

 

「うん。君は透明やろ。偵察と目くらましだけしとったらええ。声で合図くれたら、俺が判断する。それ以外は動かんでええよ」

 

また、間があいた。

 

今度は少し長い間だった。

 

「……禪院くん、私に馬やれって言ってる?」

 

「そう」

 

直哉はあっさりと答えた。葉隠の戸惑いを、意に介する様子もなく。

 

「葉隠ちゃんの透明、騎手より馬の方が活きるやろ。相手から見たら右側に何もおらんように見えるんやから、側面のガードとして最適や。これ、結構考えた結果やで? 褒めてええと思うけど」

 

「……そ、そっか」

 

葉隠の声から、弾みが消えていた。

 

直哉はそれに気づかないふりをして、あるいは本当に気づかずに、すでに視線を別の方向へ向けていた。

 

(もう一人、要るな)

 

 

峰田実を見つけるのに、時間はかからなかった。

 

障害物競走十八位。個性は「もぎもぎ」——体の表面にある粘着性の球体を飛ばす。遠距離から相手の動きを制限できる。それだけでなく、あの男は妙に人懐っこく、騒がしく、誰とでも話せる。チームのノイズにはなるが、それはそれで有用だった。ノイズが一人いると、相手の注意がそちらへ向く。

 

直哉が近づいていくと、峰田は最初からにやにやしていた。

 

「禪院! チーム探してんの? オイラも探してたんだよねー! 一緒に組もうぜ!」

 

「ええよ。そのために来たんや。」

 

「マジ!? やった! オイラ、禪院と一緒に戦ってみたかったんだよなー。障害物競走の動き、めちゃくちゃキモくて(褒め言葉)かっこよかったし」

 

「……まあええわ」

 

キモい、か。

 

直哉は薄く笑った。投射呪法を使った動きが、この世界の人間にはそう映るらしい。「コマ飛び」のような不自然な動きとして。それが呪術の産物だとは、誰も気づかない。

 

「峰田くん、今日は俺の左馬で頼むわ」

 

「左馬ね——え、馬?」

 

「うん」

 

「オイラが馬なの?」

 

「うん。遠距離から相手の動きを止めてくれたら、俺が残りを処理するから。君の個性、そういう使い方が一番合理的やと思って」

 

峰田が頭をかいた。

 

「……まあ、禪院がそう言うなら。でもオイラ、一応自分でも戦えるんだけど」

 

「知っとるよ」

 

直哉はあっさりと言った。

 

「でも今は、俺が勝つための配置が優先や。君個人の見せ場より、チームの勝利の方が大事やろ?」

 

峰田が「うーん」と唸った。反論する言葉を探しているようだったが、見つからない様子だった。

 

「……まあ、そうだけどさ」

 

「おおきに」

 

直哉は微笑んで、それだけ言った。

 

こうして、チームが揃った。

 

騎手・禪院直哉。前馬・砂藤力道。左馬・峰田実。右馬・葉隠透。

直哉の目から見れば——剛力の脚、粘着の制圧、透明の撹乱。三つの道具が、それぞれの役割を持って揃った。それだけのことだった。

 

 

「騎馬戦、スタート!」

 

ミッドナイトの声が響いた瞬間、グラウンドが爆発した。

 

最初に動いたのは、ほぼ全員が一方向へだった。緑谷出久。1000万ポイントのハチマキ。当然の帰結として、群衆が一点へ向かって殺到していく。

 

滑稽やな。

 

直哉は動かなかった。

 

砂藤の肩の上で、直哉はただ静かに全体を見渡していた。戦場の地図を頭の中に描くように。どのチームが、どの方向へ、どの速度で動いているか。それを眺めながら、直哉は計算していた。

 

1000万ポイントのハチマキを奪うのは——今は不可能だ。緑谷のチームには常闇がいる。

 

ダークシャドウという個性は、接近戦での制圧力が高い。さらに発目明のサポートアイテムがある。現状の直哉の技術では、正面からねじ伏せるのは難しい。

 

だから緑谷は、今は放置する。

 

狙うのは——中位だ。確実に取れる点数を積み上げて、終盤に備える。

 

(悟くんやったら、一人で全員ぶっ飛ばして終わりや。甚爾くんやったら、馬なんか最初から使わへん。この状況を「戦場」じゃなくて「狩り場」として処理する)

 

……それに比べて、俺は何をしてるんや。

 

砂藤の肩の上で、直哉は静かに歯を食いしばった。

 

道具を使わないと動けない。まだ、そういう段階だ。投射呪法は使え、呪力総量も前世並みだが黒閃はまだ掴めていない。呪力の核心には、まだ届いていない。

 

——焦るな。今できることをやれ。

 

「砂藤くん、右斜め前。心操くんのチームを狙う。行って」

 

 

「了解」

 

砂藤が動いた。剛力で地面を蹴る脚力は、単純な速度として申し分なかった。

 

 

心操チームへ向かう途中、直哉の視界に小大唯のチームが入った。

 

あれが先やな。

 

「砂藤くん、右に変更」

 

「……急だな」

 

「ええから」

 

砂藤が舌打ちを飲み込む気配がした。しかし黙って向きを変えた。

 

(ええ馬や。黙って走る)

 

小大唯のチームとの距離が縮まる。小大の個性は「大小自在」——物体の大きさを変える。無機物限定。生物には使えない。つまり、直哉自身に直接作用することはない。

 

(これなら怖がる必要、あらへんわ)

 

「峰田くん、右側の馬の足元」

 

「え、今?」

 

「今」

 

峰田が反射的に球体を飛ばした。粘着球が小大チームの右馬の足元に張り付き、一瞬だけ動きが乱れた。

 

その一瞬で十分だった。

 

直哉は砂藤の肩から身を乗り出し——接触した。

 

右手の指先が、小大チームの騎手の腕に触れた。コンマ一秒。それだけで十分だった。投射呪法が発動する。相手の体の動きが「刻まれ」る。次の二十四分の一秒間、相手は今の姿勢から一ミリも動けない。

 

その間に、直哉はハチマキを抜き取った。

 

「……え? え?」

 

小大唯が状況を把握できないまま、直哉のチームはすでに離れていた。

 

奪ったハチマキを指先でくるりと回しながら、直哉は呟いた。

 

「止まって見えるよ、君ら」

 

誰に言うでもなく、独り言のように。

 

「……いや、元から止まってるんか。そういうポイント帯やしね」

 

ハチマキを首に巻きながら、直哉は次の獲物を探した。

 

「禪院くん今の何!? どうやってハチマキ取ったの!?」

 

葉隠が興奮した声で叫んだ。

 

直哉はさらりと答えた。

 

「タイミングの話やよ。相手が一瞬硬直した隙に取っただけ」

 

「でも相手、硬直してたように見えなかったんだけど……」

 

「見えなかっただけや」

 

「……禪院くん、なんか変わった?」

 

直哉は葉隠の声の方向へ、一瞬だけ視線を向けた。

 

「変わってへんよ」

 

「でも、なんか……」

 

「葉隠ちゃん」

 

直哉の声が、少しだけ低くなった。柔らかい京言葉はそのままで、しかし温度だけが数度下がった。

 

「喋りながら走れるんやったら、それでええけど。でも今は戦闘中やよ。余所見してたら、俺の足元が疎かになる。分かる?」

 

間があった。

 

「……わかった」

 

葉隠の声から、また何かが消えた。

 

直哉はそれに気づきながら、気づかないふりをして、次の方向へ視線を向けた。

 

(友達のつもりやったんやろな。悪いとは思うけど——そんな感傷、今は要らん)

 

 

戦場の様相が変わったのは、開始から五分が経過したあたりだった。

 

爆豪勝己が、個性を全開にし始めた。

 

爆破の音が戦場を割る。芦戸三奈の酸が霧状に広がり、切島鋭児郎の硬化した体が壁になる。爆豪チームが、周囲を薙ぎ払うように鉢巻を奪い続けていた。

 

轟焦凍は逆に静かだった。静かなまま、氷の道を敷いて高速移動し、飯田天哉の機動力と八百万百のサポートを組み合わせて、精密に鉢巻を回収していく。

 

(威勢だけはええね)

 

直哉は爆豪のチームを横目で見ながら、内心で小さく鼻を鳴らした。

 

(でも所詮は砂遊びや。本物の「あっち側」を知らんガキが、主役面して——反吐が出るわ)

 

爆豪の爆破は確かに強い。轟の個性も規格外だ。この世界の基準で言えば、間違いなく上位に位置する。

 

でも直哉の目には——まだ届かない。

 

甚爾くんの「力」に比べれば。悟くんの「無限」に比べれば。真希ちゃんの「格」に比べれば。

 

この程度の火花は、綺麗なだけで、怖くない。

 

「砂藤くん、爆豪くんのチームから離れて。今は当たらんでええ」

 

「……逃げるのか」

 

砂藤の声に、微かな不服が滲んだ。

 

「逃げるんやない。優先順位の話や」

 

直哉は静かに言った。

 

「今の俺らのポイントで個人戦に残るためには、中位のハチマキをあと二枚取れば十分や。爆豪くんのチームと当たったら、ポイントを奪えるかもしれんけど、時間と体力を消耗する。割に合わん」

 

「……合理的だな」

 

「そう。合理的に考えたら、答えは一つや」

 

砂藤がそれ以上何も言わなかった。

 

直哉は前を向いたまま、心の中でだけ付け加えた。

 

(爆豪くん。轟くん。——君らに今当たっても、俺は満足せん。本物の強さと戦うんやったら、もっと先でええ。まだ俺は、そこまで仕上がってへん)

 

その事実が、どうしようもなく腹立たしかった。

 

 

戦場の中盤で、直哉のチームは角取ポニーのチームと正面から鉢合わせた。

角取の個性は角砲(ホーンホウ)——頭部の角を飛ばして操作できる。それが四本、空中を舞っていた。

 

「砂藤くん、止まって」

 

直哉が言った瞬間に、角が直哉めがけて四方向から迫ってきた。

 

(投射呪法——足裏呪力展開——)

 

砂藤の足が地面に吸いつくように安定した瞬間、直哉は上体だけをしなやかに傾けた。

 

一本目が右耳をかすめた。二本目が左肩の前を通り過ぎた。三本目は——直哉は砂藤の肩を踏み台にして一瞬だけ立ち上がり、真上へ通過させた。四本目だけは、直哉の手が角を掴んで止めた。

 

止めた角を、そのまま投げ返した。

 

ハチマキに届きはしなかった。でも、それで十分だった。角取が反射的に自分の角を操作して軌道修正した、その一瞬の隙に——峰田が粘着球を正確に角取の手に当てた。

 

「今や、砂藤くん」

 

砂藤が地面を蹴った。剛力の推進力で一気に間合いを詰める。直哉の手が伸びて——角取のハチマキを抜き取った。

 

「ありがとうな」

 

直哉は去り際に、当然のように言った。

 

感謝ではなく。まるで自動販売機にお礼を言うような、そういう「ありがとう」だった。

 

「……ッ、返シテテクタサーイ!」

 

角取が叫んだが、直哉のチームはすでに遠ざかっていた。

 

 

「すご……」

 

峰田が思わず声を漏らした。

 

「禪院、今の動き、人間か?」

 

「人間やよ」

 

「嘘だろ。あの角、当たってなかった? 全部?」

 

「当たってへんよ」

 

直哉はあっさりと答えた。

 

「見えるんや、軌道が。なんとなく。それだけの話」

 

「なんとなくで全部躱すのおかしいだろ!!」

 

峰田の叫びを、直哉は聞こえないふりをした。

 

(見えるんや——「刻まれた」から。接触した瞬間に、相手の意図が読める。どこへ動こうとしているか。何をしようとしているか。投射呪法の応用や。まだ粗削りやけど、戦闘で使えるレベルにはなってきた)

 

(でも、まだ足りない。黒閃を経験した術師の呪力と比べたら、今の俺はまだ子供や)

 

その自覚が、直哉の胸の底で静かに燃え続けていた。

 

 

残り二分。

 

直哉チームの現在のポイントは——初期三百九十点から、奪取した分を加えて、個人戦進出ラインを超えていた。

 

(ここまでは、計算通りや)

 

直哉は戦場を見渡した。

 

爆豪チームが、まだ暴れていた。轟チームが、静かに順位を固めていた。緑谷チームは——1000万ポイントのハチマキを抱えながら、なんとか逃げ続けていた。

 

心操人使のチームが、静かに、しかし確実に上位のハチマキを削り取っていた。物間寧人のチームも、B組らしい堅実な戦い方でポイントを確保していた。

 

(個人戦には残れる。それで十分や、今は)

 

直哉はそこまで考えて、ふと——轟焦凍と目が合った。

 

轟の方は、直哉を「見ていた」というより「視界に入れていた」程度かもしれない。でも直哉には分かった。あの目は、単なる戦況確認ではなかった。

 

(轟くんと感じてるんやろな。何かが、違う、って)

 

轟が直哉から視線を外した。

 

直哉も、視線を外した。

 

(面白いな。……でも今は、まだ関係ない)

 

「砂藤くん、終盤や。無駄に動かんでええ。今のポイントを守ることだけ考えて」

 

「分かった」

 

「葉隠ちゃんは右側の警戒を続けて。透明は最後まで仕事があるよ」

 

「……うん」

 

葉隠の声は、最初よりずっと静かになっていた。

 

直哉はその声を聞いて——何も言わなかった。

 

言う言葉がなかったのではなく、言う必要がないと思っていた。葉隠が何を感じているかは分かる。でも、それを「気にする」という選択肢が、直哉の中にはなかった。

 

(馬が傷ついても、レースは続く。それだけの話や)

 

「峰田くん、残り時間、アンカーの役割や。誰かが突っ込んできたら球体で足止めして」

 

「りょーかい。……なあ、禪院」

 

「何」

 

「チーム組んで、どうだった?」

 

直哉は一拍だけ間を置いた。

 

「便利やったよ」

 

峰田が「便利」という言葉に、少し引っかかった様子を見せた。でも直哉はそれ以上何も言わなかった。

 

便利だった。それは本心だった。

 

砂藤の脚力は安定していて、文句を言いながらも指示に従った。峰田の粘着球は、遠距離制圧として十分に機能した。葉隠の透明は、右側面の威圧として相手の選択肢を狭めた。

 

全員、役割を果たした。

 

それ以上でも、それ以下でもない。

 

(友情とか、絆とか、そういう青臭いもんで動いてるつもりは一切ない。俺が動いてるのは、ただ一点——「あっち側」へ届くための、最短距離や。それだけや)

 

残り三十秒を切った。

 

爆豪チームが、最後の猛攻をかけていた。轟チームは安全圏に入っていた。緑谷チームは——奇跡的に1000万ポイントを守り続けていた。

 

直哉のチームは、静かにその光景を見ていた。

 

嵐の外側で、ただ計算を続けながら。

 

終了の笛が鳴った。

 

歓声と落胆の声が、グラウンドに混ざり合って響いた。

 

直哉は砂藤の肩から降りながら、戦場を見渡した。

 

個人戦への進出が確定した。それは良かった。

 

でも——

 

(全然、足りん)

 

爆豪くんの爆破を、一度も直接受けていない。轟くんの氷を、一度も正面から受け止めていない。

 

「避けた」のではなく、「避けなければならなかった」のだ。今の自分の呪力では、真正面からぶつかるには——まだ足りない。

 

その事実が、直哉の喉の奥に刺さった棘のように、じくじくと痛んだ。

 

「皆んな、お疲れ様だ」

 

砂藤が、ぼそりと言った。

 

「ああ」

 

直哉はそれだけ答えた。

 

峰田が「やったー! 個人戦行けるじゃん!」と叫んでいた。葉隠が「よかった……」と小さく呟いていた。

 

直哉はその声を聞きながら、すでに次のことを考えていた。

 

個人戦。一対一。誰と当たるか分からないが——どんな相手であれ、今日の騎馬戦でできなかったことを、そこで試す。

 

(甚爾くん。悟くん。真希ちゃん。……俺は、あっち側へ行く)

 

(まだ届かへんけど。今は、まだ。でも——)

 

直哉は空を見上げた。

 

青い空が、どこまでも広がっていた。

 

その広さが、直哉には憎らしかった。

 

まだ自分が、その果てに届いていないことが。

 

「禪院」

 

砂藤が呼んだ。

 

「何」

 

「……お前、なんか、変な奴だな」

 

「そう」

 

「褒めてねえよ」

 

「分かってる」

 

直哉は空から視線を下ろして、薄く笑った。

 

美しい笑顔だった。そしてその笑顔の奥に、何も映っていなかった。

 

「——個人戦、楽しみにしといて」

 

誰に言うでもなく、そう呟いた。

 

その言葉が誰かへの激励でも、チームへの感謝でもないことは、直哉本人だけが知っていた。

ただ、自分自身への言葉だった。

 

(楽しみにしとけ、直哉。ここからが、本番や)

 




生き残ったチームはチーム、緑谷チーム、爆轟チーム、轟チーム、直哉チームです。
ざっくりな描写ですいません。
皆さんがドブカスエナジーを摂取できるような作品をかけていたら幸いです。

(8話)今回のような直哉のドブカス感の方が良い?

  • 今回の直哉(ドブカス感強化)
  • 1〜7話の純粋に力に貪欲な直哉
  • もっとドブカス(人の心とかないんか?)
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