【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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なあ、あんた。「離島」っちゅーのはええ響きやと思わんか?

余計な呪いも、騒がしい都会のノイズも届かへん。

そこにあるのは、ただ純粋な自然のフレームと、そこに生きる不細工な人間たちの営みだけや。

那歩島。

この島で、俺の「空写(くうしゃ)」は230mを規定しとる。

精度を優先すれば、半径230m以内の気配は羽虫の羽ばたき一つまで俺の脳内にパッキングされる。

……けどな、逆を言えば、230メートルの一歩外側は「未知」や。

その一歩先から、バケモノが空を飛んでやってくる。

AFOの設計思想が混じった、反吐が出るほど厚みのある個性の層。

ナイン。あいつの纏う嵐は、俺のフレームを物理的に削りにきとるわ。

一発の重みで勝てへんのなら、設計でハメ殺す。

それが、禪院家の……いや、俺の戦い方や。

マホロくんの「未来視」と俺の「空写」。

重なるはずのない二つの視界が交わったとき、この島の230mがどう書き換わるか……。

高みの見物といこうや。


キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。


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第81話:映画編 ヒーローズライジング「那歩島——230mの戦場」

南の島の空気は、静岡とも雄英とも違う質をしていた。

 

 塩気が強い。湿度が高い。風が違う方向から来る。投射呪法のフレームで空気の流れを読む癖のある直哉には、場所が変わると最初の数時間、そういう細かいことが気になる。慣れるまでの時間が必要だ。 

 

 那歩島。

 

 南の離島。人口は少ない。ヒーローが常駐していない地域——だからこそ、ヒーロー活動推奨プロジェクトの対象になった。A組とB組が合同で、島のヒーロー活動を一定期間担う。

 

 直哉はフェリーの甲板に立って、島が近づいてくるのを眺めていた。

 

 港が見える。小さな集落。丘の上に灯台。海の色が、本州とは違う青をしている。

 

「禪院、もう空写してんの?」

 

 切島が横に来た。

 

「しとるわ。……つーか、いちいち話しかけんといて。ノイズや」

 

「何か分かったか?」

 

「島に百三十人前後。漁師が多いわ。ヴィランの気配はない——今のところな」

 

 切島くんは「さすが」と言った。直哉は「当然や」とは言わなかった。空写230m。精度優先モード。島の端から端まではカバーしきれない。今見えているのは、港周辺の気配だけだ。

 

「全部は見えてへん。230mしか届かへんからな。……ほんま、不便な島やわ」

 

「それでも十分すごいって」

 

「十分やない。足りてへん——それが現状や。君らの『個性』みたいに、脳死で使ってりゃええってもんやないねん」

 

(……ったく、どいつもこいつも『すごい』だの『さすが』だの。基準が低すぎて反吐が出るわ)

 

 直哉は鼻で笑い、フェリーが港に近づいていくのを眺めた。波の音が大きくなった。

 

 島でのヒーロー活動は、最初の二日間は穏やかだった。

 

 迷子の捜索。落とし物の対応。漁師の船の修理を手伝う。老人の荷物を運ぶ。直哉はその全部を、空写で島の気配を読みながらこなした。

 

 感知した気配に異常があれば動く。なければ待つ。

 

 それが直哉の那歩島での設計だった。

 

 三日目の午前中、直哉は島の東側の海岸沿いを歩いていた。空写を距離優先に切り替えようとして——できないことを改めて確認した。距離優先モードはまだ確立していない。精度優先の230m。それが今の全部だ。

 

「?…誰…」

 

 背後から声がした。

 

 振り返ると、小さな女の子が立っていた。八歳か九歳くらい。黒髪で、目が大きい。その後ろに、もう少し年下の男の子がいた。

 

「……なんや。迷子か? 交番ならあっちやで。俺、忙しいねん」

 

「ヒーローの人?」

 

「ヒーロー科の学生や。プロやない。……見る目ないな」

 

「でも強いの?」

 

 直哉は少し考えた。

 

「君らみたいな雑魚とは、住む世界が違う程度には強いわ」

 

「そう。どうせヒーローに任せるなんて碌なことにならないけど、そこまで言うんだったらやってみなさいよ」

 

 女の子はそう言って、直哉の隣に並んで歩き始めた。断る間もなかった。後ろの男の子も、おずおずとついてくる。

 

「名前はなんや?」

 

「キナコ。こっちはマホロ、弟」

 

「禪院直哉や。覚えんでええよ。君らみたいなガキと長く関わる気はないからな」

 

「ぜんいん?」

 

「そうや。読みにくいやろ?俺も最初はそう思っとったわ」

 

 マホロは無言のまま直哉を見上げている。人見知りらしい。でも逃げない。

 

「個性は?」

 

 直哉が聞くと、キナコちゃんが「個性の話、するの?」と少し驚いた顔をした。

 

「観察する癖があるんや。……ま、役立たずなら早めに知っておきたいしな」

 

「キナコは噴出。マホロは未来視」

 

 直哉の足が、わずかに止まった。

 

 未来視。

 

 空写と根が近い——いや、方向性が違う。空写は「今ある気配・呪力の質」を読む術式だ。未来視は「まだ起きていない出来事」を見る個性。根は近いが、機能が違う。

 

「マホロくん。未来視はどんな風に見えるんや?」

 

 マホロが初めて口を開いた。

 

「……映像みたいな。でも、全部見えるわけじゃない。断片的で」

 

「どれくらい先が見えるんや?」

 

「数秒から、数分。長くは見えない」

 

「使うと消耗しとるか?」

 

「頭が痛くなる」

 

「……なるほどな。燃費の悪い設計やな。ま、ガキの個性の限界か」

 

(未来視、か……。俺の空写で『今』を読み、こいつの目で『次』を拾う。……面白い。少しは使い道があるかもしれんな)

 

 キナコちゃんが「なんで詳しく聞くの?…まさかヒーローに勧誘とかしないでしょうね?」と言った。

 

「設計に使えるかどうか、確認してただけや。君らの『ガキ特有の無能さ』を補うためのな」

 

「難しいこと言う人だね、禪院さんは」

 

「よく言われるわ。君らには一生理解できんやろけどな」

 

 三人は海岸沿いをしばらく歩いた。波の音だけが続く。

 

 五日目の夕方。

 

 直哉は島の高台から、空写を展開していた。

 

 精度優先。230m。港の方向——漁師たちが船を戻してくる時間帯。島の西側——集落の中心。東側——岩場。

 

 全部を一度に読めるわけではない。方向を切り替えながら、順番に読む。

 

 異常はない。

 

 今のところ。

 

 直哉は扇子を開いて、海を見た。夕陽が水平線に近づいている。島の空気が少し冷えてきた。

 

 空写を南方向に切り替えた瞬間——

 

 何かが引っかかった。

 

「……」

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

 気配。島の外——230mの端、ギリギリのところ。海の上。複数人。個性の質が——バラバラだ。一つ一つが違う個性を持っている。普通の漁船や観光船の乗客とは、質が違う。

 

 犯罪者の気配、ともまた違う。

 

 もっと——整った何かがある。目的のある動き。方向性のある意志。

 

「……本命やない。けど——繋がってる何かやな。……虫唾が走るわ」

 

 直哉は立ち上がった。

 

 相澤先生に連絡を入れた。

 

「島の南方向、230mの端に異質な気配がありますわ。複数人——個性の質がバラバラです。ヴィランの可能性があります」

 

 相澤の声が返ってきた。「詳しく言え」

 

「一人ずつの個性の質は読めますが、全体の人数と距離が正確に掴めへん。230mの端やさかい、精度が落ちてます。……やっぱ不便やわ、この島」

 

「動くか?」

 

「様子を見ますわ。こちらに向かってくるなら、港に入る前に接触して、身の程を教えてやります」

 

「分かった。他の連中にも警戒を伝える」

 

 通話を切った。

 

 直哉はもう一度、南方向に空写を展開した。

 

 気配は、島に向かって動いていた。

 

 嶋田と大島が上陸したのは、日が落ちてからだった。

 

 港の外れ。人目の少ない岩場。直哉は空写でその動きを追いながら、先回りして待っていた。

 

 二人が岩場に上がった瞬間、直哉は動いた。

 

「……不細工なツラ下げて、何しに来たんや。観光なら他所へ行き」

 

 呪力で強化した足で岩を蹴る。高速接近。空写で二人の個性の動きを先読みしながら間合いを詰める。

 

 嶋田が個性を発動する0.3秒前——鏃を射出。嶋田の腕に直撃する。個性の発動が止まる。

 

 大島が反応する。個性——火炎放射系。炎が走る軌道を空写が読む。直哉は軌道から半歩外れながら、零駒で大島の足元に固定節を生成。大島の足が止まる。

 

 鏃を連射。二発、三発。大島が倒れる。

 

 嶋田が立ち直ろうとする。直哉は密着して、極ノ番の積層残影6葉を叩き込んだ。

 

 衝撃が入る。嶋田が吹き飛んで岩場に倒れた。

 

 全部で、二十秒かかった。

 

 直哉は二人を見下ろして、扇子を開いた。

 

「……前座にもなりゃせんな。反吐が出るわ」

 

 呟きが波音に消えた。

 

 これは本命ではない。空写で感じた「繋がってる何か」は、まだ来ていない。嶋田と大島は、その前に送り込まれた先行部隊だ。

 

 何かが来る。

 

 直哉は空写を全方向に展開しながら、立ったまま待った。

 

 天候が変わったのは、それから三十分後だった。

 

 雲が出た。急速に。南の島の夜空が、あっという間に厚い雲に覆われる。風が強くなる。波の音が大きくなる。

 

 直哉は空写の精度を最大限に上げた。

 

 来る。

 

 気配が——一つ。

 

 海の上から。空中を移動している。個性の質が——重い。いや、重いというより、多い。一人の人間から出てくる気配が、幾つもの層になって重なっている。

 

「……」

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

 一人の人間に、複数の個性の気配が重なっている。それぞれが別の質を持っている。天候操作——嵐の気配。細胞の活性化——生命力の増幅。そして——もっと別の何か。

 

「AFO(オール・フォー・ワン)の設計やな」

 

 直哉は静かに言った。

 

 前世の記憶。呪術廻戦の世界とヒーローアカデミアの世界は別物だが、「一人が複数の力を持つ」という設計は共通している。そしてこの個性の質の積み重なり方は——誰かから与えられたものだ。本来一人が持つべき個性ではない。

 

 ナインが島に降りてきた。

 

 直哉は230mの精度優先で、ナインの全身を読んだ。

 

 個性の層が、五つ以上ある。それぞれが独立して機能している。切り替わるたびに、気配の質が変わる。

 

「……複数個性の切り替わりに、必ず一瞬の隙があるわ」

 

 直哉は扇子を開いた。

 

「それを空写で拾えれば——入れる。不格好な継ぎ接ぎやな、ほんま」

 

 ナインが直哉に気づいた。

 

「学生か?」

 

「そうや。……で、君は化け物か? それとも、ただの欲張りなアホか?」

 

「邪魔をするな。目的は島の子供たちだ」

 

「子供を目的にするヴィランと、穏やかに話せる気がせえへんわ。趣味悪いねん」

 

 ナインの周囲の天候が動いた。嵐の前兆——風が渦を巻く。

 

 直哉は空写でナインの個性の動きを追った。天候操作の予備動作——肩の動き、呼気のリズム、気配の質が「嵐」に向かって収束していく。

 

 直哉は先に動いた。

 

 鏃…呪力エネルギーを鋭利な銃弾状に変形して三連射。ナインの上半身に向けて。

 

 嵐の壁が展開される——でも直哉の鏃の射出は、壁が完成する0.1秒前だった。三発のうち一発が抜ける。ナインの肩を掠めた。

 

「……精度が高い」

 

 ナインが言った。

 

 直哉は扇子を構えた。

 

「極ノ番…積層残影・6葉!」

 

 極ノ番の6葉が炸裂した。

 

 ナインが嵐の壁を前に展開する。6葉の衝撃が壁に吸収された。ナインは動じない。

 

「威力が足りない」

 

「分かっとるわ、そんなこと。……挨拶代わりや」

 

 直哉はすでに後退していた。落花の情で建物の壁を蹴り、空中に跳ぶ。

 

 嵐の壁が直哉のいた場所を薙いだ。当たらない。空写で0.3秒前に読んでいた。

 

「……読んでいるのか」

 

「全部見えとるわ。君の不細工な設計図も、その切り替わりの綻びもな」

 

 でも、と直哉は内心で思った。

 

(……6葉では壁を抜けんか。やっぱ出力不足やな。クソが、術式の完成が待ち遠しいわ…)

 

 設計が必要だ。

 

 直哉は空写でナインの個性の切り替わりを読みながら、後退を続けた。

 

「……まず切り替わりの隙を探す。入れる場所を見つける。それが今夜の設計やな」

 

 島の中央部、A組とB組が集まっている建物に、直哉は戻った。

 

 相澤先生が状況を把握していた。緑谷たちの顔に緊張がある。

 

「ナインと接触したわ」

 

 直哉は簡潔に報告した。

 

「個性は複数。天候操作をメインに使っとる。嵐の壁で防御してくるから、俺の6葉じゃ抜けられんかった。……ま、出力不足やな」

 

「お前は無事か?」

 

「傷はないですわ。全部読んでから動いてたさかいな。……あんな鈍い攻撃、当たる方が難しいわ」

 

 相澤先生が「空写か」と言った。「有効だったか?」

 

「切り替わりの隙は確認できました。入れる場所はある——ただし、壁の中まで詰めないと届かへんわ。そのための設計が必要や」

 

 緑谷くんが「切り替わりの隙?」と聞いた。

 

「ナインは複数の個性を持っとる。切り替えるたびに、一瞬だけ個性の気配が薄くなるんや。0.2秒か、それ以下やな。そこに鏃を差し込めば、壁の内側に入れる」

 

「0.2秒って……分かるの、そんなに細かく!?」

 

「空写で読んでるさかいな。……緑谷くん、君みたいに頭でっかちには理解できん領域やろけど」

 

「……すごいよ」

 

「活かし切れてへんから、すごくはないわ。君らに評価されるほど落ちぶれてへんしな」

 

 相澤先生が全員を見回した。

 

「今夜は守りを固める。ナインの目的は子供たちだ——キナコとマホロを最優先で守れ。明日、改めて設計を立て直す」

 

 直哉は頷いた。

 

 窓の外で、嵐が強くなっていた。

 

 夜が深まった。

 

 直哉は建物の屋上に出て、空写を展開していた。

 

 ナインの気配は島の外縁にある。今夜は仕掛けてこない——子供たちの居場所を探しながら、機を待っている。

 

「……設計を立てるわ」

 

 直哉は扇子を開いた。

 

 空写230mの精度優先。それが今の全部だ。

 

 ナインの複数個性の切り替わりを読める。0.2秒の隙を空写で捉えられる。でも——その0.2秒の隙に鏃を差し込んで壁の内側に入るためには、230m圏内にいなければならない。

 

 ナインに230mまで近づくためには、嵐の中を動かなければならない。

 

 嵐の中を動くためには——嵐の動きを読みながら、いくつかの技を組み合わせて、気流の隙間を縫っていく必要がある。

 

「……嵐も、気配の流れや。空写で読めるか——試してみんと分からへんな」

 

 直哉は自分の空写の限界と、ナインの嵐の規模を照らし合わせた。

 

 これは——できる。設計が立つ。

 

「嵐の流れを読みながら、気流の隙間を鏃の反動推進で抜ける。230m圏内に入ったら、切り替わりの0.2秒を待つ。隙が生まれた瞬間に全力で詰める——そこから極ノ番6葉の連打やな」

 

 設計が、フレームの中で組み上がっていく。

 

「今の俺には6葉しかない。せやけど——6葉を限界まで連打すれば、蓄積で削れるわ。一発で決めるやり方やなく、重ねていくやり方や」

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

(……ったく、泥臭い真似させおって。俺の優雅な設計が台無しやわ)

 

 ナインの気配が、島の外縁でゆっくりと動いている。

 

「明日——設計を全部出すわ」

 

 独り言が夜風に消えた。

 

 禪院直哉は、次の設計をすでに始めていた。




(……チッ、砂が扇子に入りよった。これやから南の島は嫌いやねん。
 ナイン、とか言うたか。
 あいつの「嵐の壁」、思ってた以上に重厚な設計図描いとるわ。
 俺の「6葉(ろくよう)」を真っ向から受け止めて平然としとる。
 前世の俺やったら、ここで『術式が通じへん』って喚いて醜態さらしてたんやろな。
 ……今の俺は、そんなに安っぽうないで。
 0.2秒。
 個性が切り替わる瞬間に生まれる、針の穴のような気配の空白。
 普通なら見逃す、あるいは「ノイズ」として処理されるその一瞬を、
 俺の空写は確実に捉えとる。
 あいつがどれだけ神様気取りで天候を弄ぼうが、
 フレームの中に閉じ込めてしまえば、ただの「攻略対象」や。
 デクくんや勝己くんみたいに、ボロボロになりながら突っ込む趣味は俺にはない。
 俺は、俺が描いた最短のレールを、優雅に滑り抜けるだけや。
 ……まあ、あの姉弟を守るっちゅー『余計なタスク』のせいで、
 設計図に少しだけ変な「余白」ができてもうたけどな。
 明日の夜明けまでに、反動推進のシミュレートを終わらせるわ。
 嵐の隙間を縫って、230mの死地へ踏み込む。
 ……期待しといてや、マホロくん。
 君が見た「未来」より、俺が描く「設計」の方が、よっぽど洗練されとることを証明したるわ。)
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