【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
ヒーロー科の連中は、どいつもこいつも「根性」だの「限界突破」だの、暑苦しい言葉を並べ立てよる。
反吐が出るわ。戦いっちゅーのは、もっと洗練された「設計」の上に成り立つもんや。
ナイン。あの継ぎ接ぎだらけの怪物の「個性」を、俺の空写は一粒残らずパッキングした。
天候、細胞、空間……どれだけ強力な手札を持ってようが、切り替える瞬間に生まれる「0.2秒の綻び」までは隠せへん。
その一瞬の空白に、俺の極ノ番を叩き込む。
……ま、俺一人じゃ出力が足りんのは事実や。
癪やけど、あのデクくんのデカい一撃を、俺の合図で「設計」の中に組み込んでやるわ。
「今」と言ったら動け。それだけでええ。
無能な味方をどう使いこなすかも、上の人間に求められる資質やからな。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。
評価付与、感想、お気に入り登録は直哉が雅にセンスを仰ぐエネルギーになります
夜明け前に、直哉は屋上を下りた。
一晩中空写を展開していた。ナインの気配は島の外縁を動き続け、夜明け近くになって一度止まり——また動き始めた。子供たちの居場所を探している。まだ見つけていない。
それだけ確認できれば、今は十分だ。
建物の中に入ると、相澤が起きていた。直哉と目が合って、「状況は?」と聞いた。
「ナインは外縁を動いとります。今夜は仕掛けてきませんでした。子供たちの居場所はまだ掴まれてへんと思いますわ」
「お前は一晩中外にいたのか?」
「空写で監視しとりました。反転術式で体の消耗は補えますさかい、問題ないですわ」
相澤は「無理をするな」とは言わなかった。直哉が「無理」と「設計の範囲内」の区別を自分でつけていることを、相澤は知っている。
「今日の設計は?」
「ナインに直接仕掛けます。俺が前に出て、空写で複数個性の切り替わりを読む。緑谷くんたちが火力で詰める設計が一番効率がいい」
「お前一人で前に出るのか?」
「空写230mの精度優先は、俺が動きながら展開するのが前提ですわ。誰かと並走すると、その間の抜けた気配が干渉して読みにくくなる。一人の方が精度が上がります」
相澤は少しの間、直哉を見た。
「……緑谷たちとの連携は?」
「合図を出しますわ。俺が『今』と言った瞬間に全力で動いてもらう——それだけ決めておけば十分です。あとは空写で読んだことをその都度伝えますわ」
「分かった。ただし——撤退の判断は俺がする。逆らうな」
「分かっとります」
朝食の時間、A組とB組が集まった。
緑谷が全体の状況を話した。ナインの目的はキナコちゃんとマホロくんの個性を奪うこと。子供たちを守りながら戦う必要がある。プロヒーローへの救援要請は出しているが、来るまでに時間がかかる。
直哉は端の席で、不味そうにパンを齧りながら聞いていた。
「おいドブカス野郎、てめぇ昨日ナインとやり合ったんだろ?」
爆豪が鋭い視線を向けてくる。直哉は扇子で口元を隠し、鼻で笑った。
「接触しただけや、爆豪くん。本格的にやり合うのは今日からや。……爆豪くんは朝からうるさいんよ」
「あぁん!? ぶっ殺すぞ!!」
「切島くん、この荒れ狂う個性をどうにかしてや。朝から耳障りやわ」
切島が「まあまあ!」と間に入り、「それで、ナインの個性、読めたんだろ?」と身を乗り出す。
「複数個性の切り替わりの隙は確認できたわ。そこを狙えば入れる」
「入れる?」
「嵐の壁の内側に、や。外からじゃ俺の6葉では壁を抜けられへん。密着すれば話は別やけどな」
砂藤が「密着って、嵐の中を突っ切るってことか?」と言った。
「そうや。嵐の気流を空写で読みながら、隙間を縫って入る。……ま、並の人間なら肉片も残らんやろけど、俺には設計図が見えとるからな」
「……できるの、それ?」
「設計は立った。昨夜確認したわ」
砂藤は「そうか」と言った。余計な心配をする顔ではない。砂藤は直哉の「設計が立った」という言葉の重さを、なんとなく理解している。
緑谷が直哉を見た。
「禪院くん——僕と連携してほしい。君の目が必要なんだ」
「知っとる。緑谷くんの過剰な火力と、俺の先読みを合わせる。それが一番効率がいい設計やからな。……緑谷くん、俺の指示に遅れるなよ?」
「……うん、分かった!」
「俺が『今』と言った瞬間に動け。それだけ頭に入れておいてくれ」
緑谷は頷いた。真剣な顔だった。
ナインが動いたのは、午前の半ば過ぎだった。
直哉の空写が先に感知した。
「来る——南方向。一人。ナインやわ。……ようやくお出ましやな」
相澤の指示が飛んだ。子供たちの守りをB組と一部のA組が担う。緑谷・爆豪・轟・直哉が前に出る。
直哉は建物の外に出た。
空は晴れていた。でも、南の空に分厚い雲が集まり始めている。ナインが天候操作を準備している気配が、空写に流れ込んでくる。
「個性の切り替わりを読む——準備はできとるわ」
直哉は扇子を開いた。
ナインが現れた。
昨夜より、気配が重い。複数個性の層が、昨夜より厚く積み重なっている。
「また来たか、学生」
「来てやったわ。……その継ぎ接ぎだらけの気配、今日も吐き気がするわ」
直哉はナインを空写で読みながら、優雅に前に出た。
最初の一手は、直哉から動いた。
投射呪法で地面を蹴る。高速接近。同時に空写でナインの個性の動きを追う。
天候操作の予備動作——ナインの呼気が変わる。気配が「嵐」に向かって収束する。0.3秒。
「鏃——三連射」
鏃を鋭利な槍の形状で高速射出した。三発。連続して。
嵐の壁が展開される直前——一発が壁の薄い部分を抜けた。ナインの左肩に当たる。
「……」
ナインは動じなかった。でも、気配が一瞬だけ乱れた。
そこだ。
「切り替わり——今や!」
個性が「天候操作」から「細胞活性化」に切り替わる瞬間、気配の層が薄くなった。0.2秒。
直哉は鏃の反動推進を使った。足元に鏃を射出し起爆——衝撃で空中に跳ぶ。嵐の壁が薄くなった場所を空写で読みながら、その隙間に身体を滑り込ませた。
嵐の壁の内側に入った。
「——」
ナインの顔が、わずかに変わった。
直哉は密着距離から扇子を構えた。
「瞬刻、二十四節、積層の理…」
「——極ノ番・積層残影・6葉!」
6葉が炸裂した。
嵐の壁がない。直撃する。ナインの胸部に衝撃が入った。ナインの身体が後ろに押される。
でも——倒れない。
細胞活性化で自己強化している。6葉の衝撃を、強化された肉体が受け止めた。
「6葉か…少々火力不足に見えるが?
」
「そうや。今の俺には6葉しかないねん。不便やろ?」
「その通りだ。威力が足りない」
「知っとる——せやけど、重ねれば削れるわ」
直哉は後退しながら、もう一度空写を展開した。
ナインが細胞活性化から天候操作に切り替える——その0.2秒を読む。
切り替わりの瞬間に、また壁の薄い場所が生まれる。直哉は鏃の反動推進で跳んで、その隙間を抜ける。
「瞬刻、二十四節、積層の理」
密着。極ノ番・積層残影・6葉。
また入った。
「……同じ手を繰り返すのか」
「繰り返せる手なら、繰り返す。それが設計や。……君には学習能力がないんか?」
ナインが天候操作を全開にした。嵐が強くなる。風が建物を揺らす。
直哉は嵐の気流を空写で読んだ。風の渦の方向。強い流れと弱い流れ。嵐は気まぐれに動いているように見えるが——ナインの意志で動いている。
「嵐も、気配の流れや——読めるわ」
気流の隙間を縫いながら、直哉は動き続けた。
十分が経った。
ナインは倒れていない。でも——直哉の極ノ番6葉が、確実に蓄積していた。
ナインの気配が、最初より少し重くなっている。複数個性の切り替えのリズムが、わずかに乱れ始めている。
直哉は反転術式で自分の傷を修復しながら、空写を維持した。
嵐の風が横から来た。空写で読んでいたが、回避が間に合わなかった。直哉の身体が横に吹き飛ぶ。
建物の壁に叩きつけられた。
衝撃がある。肋骨に来た。でも——反転術式が即座に動く。骨の歪みが修復される。三秒もかからない。
「——それが反転術式か」
ナインが静かに言った。
「そうや。すぐ再生できるんよ。便利やろ?」
(しれっと反転術式について言及してきとる…ってことはやはりヴィラン連合に情報が漏れとるな…予測通りやわ)
「それがどうした。以前俺の肉体は健在だ」
「それは見れば分かっとるわ。……君の歪な身体もな」
直哉は壁から離れた。傷は消えている。消耗はある——反転術式の維持にも呪力を使う。でも、まだ動ける。
「……お前は、何者だ」
「雄英1年A組の学生ですわ。……ま、君らみたいな底辺とは出来が違うけどな」
ナインは答えなかった。
直哉は空写でナインの次の個性の動きを追った。
——切り替わる。天候操作から、別の個性へ。
「何や——初めて感じる気配やな」
新しい個性の層が表に出てくる。攻撃個性だ。
「これはまずいな……」
直哉は瞬時に判断した。新しい個性の性質を空写で読もうとするが——切り替わったばかりで気配が安定していない。
ナインが腕を伸ばした。
何かが来る。直哉は空写の断片的な情報を頼りに、横に跳んだ。
空間に、裂け目のような何かが走った。直哉のいた場所の地面が、えぐれた。
「——空間系の個性か。……趣味悪いわ」
直哉は空中で鏃の反動推進を使って距離を取った。
新しい個性。読み切れていない。距離を取る必要がある。
でも——距離を取ると、空写の精度が落ちる。
「……設計を変えるわ。緑谷くん、来い!」
直哉は後退しながら、緑谷に向かって声を張り上げた。
「緑谷くん——来い! ぼーっとすな!」
緑谷はすぐに動いた。跳躍しつつ、空中を移動してくる。
「今、ナインが新しい個性を使い始めたわ。読み切れてへん——俺が読む時間を作るさかい、その間に緑谷くんが注意を引くんや」
「分かった!」
緑谷が前に出た。OFAのオーラが噴き出す。ナインの注意が緑谷に向く。
直哉は空写を全力で展開した。
ナインの新しい個性——空間を裂く。気配の質を分析する。発動の予備動作は——ナインの右腕が動く直前、指先の気配が鋭くなる。
「……読めたわ。不細工な動きやな」
0.15秒。天候操作よりも隙が短い。でも——ある。
「緑谷くん——俺が『今』と言ったら右に跳べ。一拍おいてから全力で前に出るんや。……ミスったら死ぬで?」
「今?」
「まだや」
直哉は空写でナインの右腕の動きを追った。
指先が鋭くなる——今だ。
「今——!!」
緑谷が右に跳んだ。空間の裂け目が緑谷のいた場所を走る。
一拍。
「前に出ろ!」
緑谷が前に出た。ナインの個性が切り替わった直後——0.2秒の隙。緑谷のOFAが炸裂した。
ナインの身体に直撃する。
ナインが後退した。初めて、大きく後退した。
直哉はその隙に密着距離まで詰めた。
その最中にも詠唱を唱え、確実な一撃にするために効力を上げにかかった。
「瞬刻、二十四節、積層の理」
「極ノ番・積層残影・6葉!!」
6葉が入った。
ナインがまた後退する。今度は、膝をついた。
「……」
でも——立ち上がった。
細胞活性化で回復している。
「強い……!」
緑谷が直哉の横に来た。
「緑谷くん——今の動き、及第点やわ。俺のリードがあってこそやけどな」
「禪院くん——ありがとう。『今』、完璧だった!」
「……緑谷くんの動きがマシやっただけや。勘違いすんな」
「でも、あの隙は禪院くんが読んでくれなかったら分からなかった」
「……当たり前や。俺が読む。緑谷くんが打つ。それが今の設計の一番効率のいい形や」
ナインが立ち上がった。気配が変わった——また別の個性に切り替わろうとしている。
「まだ来るわ。……しつこい男は嫌われるで」
直哉は空写を展開した。
戦闘が続いた。
直哉は空写でナインの複数個性の切り替わりを追い続けた。6葉を連発し、緑谷に合図を出し続けた。
反転術式が傷を修復し続けた。
でも——消耗が蓄積していた。
(……チッ、空写に極ノ番、反転術式の同時並行か。呪力がゴリゴリ削れるわ。ほんま不細工な戦い方やで、俺も)
限界が、じわじわと近づいてきていた。
「……」
直哉は一瞬、空写の精度を下げた。
ナインの気配が、薄くなる。
「……まだや。まだ下げるな。てめぇ、ここで脱落したらそれこそドブカスやろ」
直哉は空写を戻した。精度優先230m。
ナインが天候操作を全開にした。嵐が激しくなる。
「……嵐の中でも読めるわ。それが空写の強さや」
直哉は嵐の気流を縫いながら、動き続けた。
でも——ナインも、消耗している。
複数個性の切り替えのリズムが乱れてきた。直哉の6葉の蓄積が効いている。
「……削れてるわ。あと少しや」
ナインの気配が、また切り替わった——天候操作から細胞活性化へ。0.2秒の隙。
「今や——緑谷くん!」
緑谷が動いた。OFAの火力が炸裂する。
直哉が密着から6葉を叩き込む。
ナインが——また膝をついた。今度は、すぐには立ち上がらなかった。
「……」
「もう少しやな。君の不細工な人生、ここで終わりや」
直哉は呟いた。
でも——その時だった。
ナインの気配が、急変した。
「——何や、これ…?」
直哉は空写を最大限に展開した。
ナインの身体から、巨大な気配が噴き出している。
「まずい!——島全体に嵐を展開する気やわ。……極地やな」
直哉は緑谷に向かって叫んだ。
「緑谷くん——離れろ! 今すぐや!!」
緑谷が反応した。黒鞭で建物に飛びつき、距離を取る。
直哉は鏃の反動推進で後退した。
次の瞬間——島全体を巻き込む嵐が、展開された。
嵐の中で、直哉は建物の影に入った。
空写を展開する。ナインの気配——嵐の中心にいる。距離が開いた。
「……本気を出してきたな。……キモいわ」
直哉は反転術式で消耗を補いながら、状況を整理した。
デクが建物の壁に張り付きながら、直哉の横に来た。
「禪院くん——どうする?」
「嵐の規模が変わったわ。さっきの設計じゃ入れへん——読み直す。……緑谷くん、焦るなよ」
「時間は?」
「少し待てや。空写で嵐の流れをパッキングする。……ノイズが多すぎてイラつくわ」
直哉は空写を嵐の気流に向けた。
ナインの意志が嵐を動かしている。
「……入れる。設計が立つわ」
でも——今日はここまでや、と直哉は判断した。
消耗が限界に近い。呪力の残量が心許ない。
「緑谷くん」
「なに?」
「今日はここまでにするわ。……これ以上やると俺の顔色が悪くなる」
緑谷は一瞬、直哉を見た。
「……禪院くんが、そう言うなら。無理はさせられない」
「ナインは削れとる。蓄積は入ったわ。でも俺の消耗も限界に近い——精度が落ちた設計図なんて、紙屑以下やからな」
「分かった。撤退しよう」
相澤の声が来た。「全員、建物に戻れ」
直哉は最後にもう一度、空写でナインの気配を確認した。
「明日やな。……相当削ったはずや…首を洗って待っとけよ。複数の個性持ちとかAFOみたいなことしてんのが気色悪いねん。…徹底的に潰したる」
直哉は扇子を閉じて、建物に向かった。
夜。
直哉は部屋の隅で、壁に背中を預けていた。
(……6葉じゃ足りへん。一発の重みがなさすぎるわ。ほんま不細工やな、俺)
呟きが暗い部屋に落ちた。
獄の番の完成図の24葉があれば——一発で終わらせられた。
「……ま、今の俺の全部は出したわ。設計は正しかった。……俺なりによーやったんやない?それなりに戦えていい運動にもなったしな。良いサンドバッグがいて良かったわ」
直哉は扇子を開いた。
「明日——続きをやるわ。ナインは削れとる。今日の蓄積がある。あと少しや」
切島が部屋に入ってきた。「禪院、大丈夫か?」
「大丈夫やわ。……切島くん、勝手に入ってこんでや」
「ごめんごめん…悪かった。それにしても凄かったぞ、今日! 緑谷との連携も、かっこよかったぞ!」
「かっこよくはない。設計通りに動いただけや。……あと、緑谷くんへの指示が完璧やっただけやわ」
「それがかっこいいんだって!」
直哉は切島を見た。
切島は本気でそう思っている顔をしていた。直哉は「ふん」と鼻を鳴らした。
「明日も頼むぜ、禪院!」
「分かっとるわ。……とっとと寝ろや、暑苦しい…」
切島が出ていった。
直哉は扇子を閉じて、目を閉じた。
明日——設計の続きを出す。6葉の全部を出し切る。
ナインはまだ立っている。でも——削れている。
あと一日あれば、設計が完成する。
(……チッ、反転術式を回しすぎて頭が重いわ。
呪力の消費が計算ギリギリや。あの嵐の規模、完全に設計の外側を狙いにきとる。
ナイン。あいつ、最後はなりふり構わず島全体を飲み込みよったな。
不細工な足掻きや。けど、その焦りこそが「削れてる」証拠や。
俺の「6葉」は、一撃じゃあいつを殺せへん。
けどな、一発一発が確実に、あいつの細胞と精神の「継ぎ目」を広げとる。
デクくんも、案外ええ動きしよるわ。
俺の「今」の合図に、一分の遅れもなく反応しやがった。
……ま、俺のリードが完璧やったから当然の話やけどな。
切島くんが「かっこいい」だの何だの抜かしてたけど、反吐が出るわ。
俺はただ、勝てる設計を引いて、その通りに身体を動かしただけや。
そこに感情なんか一ミリも挟まってへん。
……明日や。
明日の夜明けまでに、あいつの新しい「空間個性」も含めた、完璧な終局図を書き上げる。
蓄積はもう十分や。
次は、あの嵐の壁ごと、あいつの存在をフレームから消したるわ。)