【完結】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

83 / 105
「……反転術式、フル稼働や」

脳が焼けるような熱さも、呪力が底をつきかける不快感も、全部計算の内や。

ナイン……あの化け物は一晩かけて立て直してきおった。再生能力持ちはこれやから面倒くさい。

けどな、あいつの「全個性同時展開」は、一見隙がないようでいて、その実、リソースの分散や。

一点に集中できんようになった意志の綻び……嵐の「ムラ」。

空写230mの精度なら、その一瞬の凪を見逃さへん。

俺が道を切り開き、その最短ルートを緑谷くんが通る。

……へっ、爆豪くんが「護衛か」なんて抜かしてたけど、適材適所や。

泥臭い掃除は爆破野郎に任せて、俺らは一番美味しいところを「設計」通りに刈り取るだけや。

ええか、緑谷くん。

俺が「今」と言ったら、君の持てる全部を叩き込め。

0.1秒の迷いも、この設計図には不要や。


第83話:映画編 ヒーローズライジング 「6葉の全力——今持っている設計の全部」

 

 夜明けの前に、直哉は目を覚ました。

 

 反転術式が昨日の消耗を補い続けていた。完全ではないが——動ける。空写を展開すると、ナインの気配が島の外縁にある。昨夜と同じ位置。動いていない。

 

 眠っているか、回復しているか。

 

 どちらにしても——今日が最後になる。

 

 直哉はそう判断した。

 

 昨日の6葉の蓄積は、確実にナインに入っている。ナインの気配は昨日より重い。複数個性の切り替えのリズムが、さらに乱れている。削れている。

 

 でも——今日、直哉が出し切らなければ、逆転される。

 

 ナインも回復する。直哉の消耗も蓄積している。長引かせたくないと判断した時点で、有利は崩れる。

 

「今日、終わらせたるわ」

 

 暗い部屋で、直哉は静かに言った。

 

 夜明けと同時に、相澤が全員を集めた。

 

 状況の確認。プロヒーローへの救援要請は出しているが、到着にはまだ時間がかかる。今日も自分たちで対処する必要がある。

 

 相澤が直哉を見た。

 

「今日の設計はどうだ?」

 

「昨日の続きですわ。ナインは削れてます——今日、出し切れば恐らく沈みますわ」

 

「根拠は?」

 

「昨日の空写で読んだナインの消耗量と、俺の6葉の蓄積量を照らし合わせました。今日、同じ設計を続ければ届く。……ま、あんな不細工な継ぎ接ぎの身体が、俺の理論より頑丈なはずないですわ」

 

「お前自身の消耗はどうだ?」

 

「反転術式で補いました。動けますわ。……相澤先生、俺に『無理すな』なんて、らしくない言葉は言わんといてくださいね。設計の範囲内や」

 

 相澤は「分かった」と言った。それ以上は聞かなかった。

 

 緑谷が「禪院くん——昨日みたいにお願いね」と言った。

 

「今日は昨日より速く動くわ。合図の間隔も短くなる——ついてこいや、緑谷くん」

 

「ついていく!」

 

「俺の設計は完璧である必要があるわ!下手なミスは容赦せんで」

 

「任せて!」

 

(……熱苦しいな。この『任せて』とかいう根拠のない自信、ほんま虫酸が走るわ)

 

 爆豪が「俺は?」と言った。

 

「爆豪くんは別の動きをしてな。ナインの手下を抑えながら、俺たちが集中できる環境を作ってや」

 

「……あぁん!? 俺がてめぇの護衛か、ドブカス野郎!」

 

「護衛やない。戦場の設計や。爆豪くんの爆破がないと、雑魚の羽音がうるさくて読みにくくなる。……適材適所やろ?」

 

 爆豪は「ちっ」と言ったが、否定しなかった。

 

 ナインが動いたのは、朝の早い時間だった。

 

 直哉の空写が先に感知した。昨日より早い接近。

 

「来るわ——準備せえや」

 

 相澤の指示が飛んだ。子供たちの守りが固まる。爆豪が手下対応に向かう。直哉と緑谷が前に出た。

 

 ナインが島の中央部に降り立った。昨日より気配が重い。

 

「……少しは回復してきた、か」

 

 直哉は空写でナインの状態を読んだ。

 

 6葉の蓄積は残っている。でも、ナインも一晩かけて細胞活性化で回復した部分がある。

 

「計算より、時間がかかるかもしれへんな」

 

 直哉は緑谷に向かって言った。

 

「昨日より長くなるかもしれへん。それでも俺の『今』に反応できるか?」

 

「できる!」

 

「消耗しても止まるな——俺が『今』と言い続ける限り、お人形さんみたいに動き続けてくれや」

 

「分かった!」

 

 ナインが天候操作を展開した。嵐が始まる。

 

 直哉は空写を全力で展開した。

 

 最初の十分は、昨日と同じ設計だった。

 

 空写でナインの複数個性の切り替わりを読む。0.2秒の隙に鏃の反動推進で嵐の壁を抜ける。密着距離から極ノ番・積層残影の6葉を叩き込む。緑谷に「今」の合図を出す。

 

 繰り返す。重ねる。削り続ける。

 

 ナインの気配が、徐々に重くなっていった。

 

「……削れてる。計算通りや」

 

 直哉は空写を維持しながら、状況を把握し続けた。

 

 自分の消耗も把握していた。空写の維持。6葉の連打。反転術式。

 

(……呪力効率、最悪やな。24葉があればこんな無駄な往復せんでもええのに。……ほんま、自分の才能のなさに嫌気がさすわ)

 

 二十分が経った頃、状況が変わった。

 

 ナインの気配が、急変した。

 

 複数個性の全てが、一度に動き出した。切り替えではない——全部同時だ。

 

「——全個性を同時展開する気やわ。……必死やな」

 

 直哉は瞬時に後退した。

 

 ナインの身体から、巨大な気配が噴き出した。天候操作が島全体を覆う。細胞活性化が全開になる。空間を裂く個性も同時に展開される。

 

「削られ続けることへの、最後の反撃やな。不細工な足掻きや」

 

 直哉は嵐の中で、空写を最大限に展開した。

 

 全個性が同時展開されている。切り替わりの隙がない。

 

「……入れへんな。昨日の設計は、もうゴミ箱行きや」

 

 緑谷が横に来た。

 

「禪院くん——どうする?」

 

「読み直す——少し黙っててや」

 

 直哉は空写を絞った。ナインの全個性を同時に読もうとするのをやめた。

 

 天候操作の気配を精度優先230mで読む。

 

「……嵐の中に、ムラがあるわ」

 

 ナインが全個性を同時展開しているということは、一つ一つの個性への意志の集中が分散しているということだ。

 

「嵐の隙間が、昨日より広い。全個性を同時展開してる分、天候操作の精度が下がっとる。……馬鹿な男やな。欲張るから綻びが出るんや」

 

「それって——入れるってこと?」

 

「入れる。ただし——昨日とは違う入り方をするわ」

 

 直哉は空写で嵐の流れを読みながら、設計を組み直した。

 

 切り替わりの0.2秒を待つのではなく——嵐の大きなムラを直接抜ける。

 

「抜けられる。せやけど——一度しかない。全部をそこに集中するわ」

 

 直哉は緑谷を見た。

 

「緑谷くん——今から俺が嵐の中を突っ切る。ナインに密着した瞬間に、緑谷くんは全力で俺の後ろから来い。俺が『今』と言ったら、一切迷わずに打て。……いいか、半歩でも遅れたら、俺が死ぬ。……分かっとるな?」

 

「……一度しかないってこと?」

 

「俺の消耗が限界に近い。嵐を突っ切るのに全部使う。その後の6葉を入れたら——俺は終わりや。だからその一発で決めろ」

 

 緑谷は直哉の顔を見た。

 

「禪院くんが『終わり』って言うのは——」

 

「動けなくなるってことや。気絶はせえへんけど、あとの雑務は任せるわ。……情けない姿は見せたくないんやけどな」

 

「……分かった。信じる!」

 

「……当たり前や。誰に言っとんねん。」

 

 直哉は扇子を開いた。

 

 空写を嵐の流れだけに集中させた。他の全ての情報を切り捨てる。嵐の気流だけを読む。

 

 ムラがある。南西の方向。

 

「あそこや」

 

 直哉は鏃の反動推進を連続で使った。衝撃で跳ぶ。

 

 風の渦に入った。

 

 強い。身体が持っていかれそうになる。直哉は鏃を足先で爆破することによる高速起動や反動、投射呪法を駆使して気流の中の「固体」を片端から蹴り続けた。

 

 全部が見えている。

 

(……見える。見えるわ。風の隙間。意志の淀み。俺の設計図通りに世界が動きよる……!)

 

 ナインが直哉に気づいた。空間を裂く個性が発動した——でも、精度が落ちている。

 

 直哉はその隙間を抜けた。密着距離に入った。

 

「——」

 

 ナインの目に、初めて驚きの色が出た。

 

 直哉は全ての空写を切った。その分の呪力を全部——極ノ番に回した。

 

この獄の番の詠唱を改めて紡ぎ直す

 

「…瞬刻、二十四節、積層の理」

 

「極ノ番!」

 

この一瞬だけ、全ての音が静寂になった気がした。

 

『積層残影!6葉ぉぉお!!』

 

 6葉が炸裂した。今まで連射してきた6葉とは、質が違う。

 

 衝撃がナインの身体に入った。ナインが——吹き飛んだ。

 

「——今や——!!」

 

 直哉は最後の声を出した。

 

 緑谷が来た。OFAのオーラが爆発する。

 

 直哉の6葉の蓄積が積み重なったナインの身体に、緑谷の火力が直撃した。

 

 ナインが——倒れた。

 

 直哉は地面に膝をついた。

 

 空写が切れている。呪力が空になっている。

 

(……あー、格好悪い。地面に膝つくなんて、禪院の名が泣くわ)

 

「禪院くん——!」

 

 緑谷が来た。直哉の身体を支えた。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫や——気絶はしてへん。ただ、一歩も動きたくないだけやわ」

 

「ナインは——」

 

「倒れとる。もう動けへん……俺が、そう設計したんやからな」

 

 嵐が——止まり始めた。那歩島の空が、少しずつ晴れていった。

 

 爆豪が来た。直哉を一瞥して、「何やってんだ、ドブカス野郎」と言った。

 

「全部出したわ。……文句あるんか?」

 

「だから動けないのか。ハッ…無様だな」

 

「設計通りや。……爆豪くん、その無様な俺を支えるのが、敗北者の仕事やで」

 

 爆豪は「あぁん!? てめぇ!ぶっ殺すぞ!!」と言ったが、力強く直哉を助け起こした。

 

「……俺の設計に文句があるんか?」

 

「…ねぇよ。ただ——全部出し切ったなら、もう少しうまくやれってんだよ!」

 

「知らんわ。……もっと良いやり方があるんやったら君が考えてや、爆豪くん」

 

「死ね!!」

 

 爆豪は直哉の腕を乱暴に放して、離れていった。

 

 切島が来た。

 

「禪院——すごかった! 嵐の中を突っ切るの、見てたぜ!」

 

「見てたのか。……ま、俺の洗練された動きに見惚れるのは当然やな」

 

「かっこよかったぞ!」

 

「かっこよくはない。……ただ、合理的やっただけやわ」

 

「かっこいいんだって!」

 

 直哉は切島を見た。本当に、毎回、そう思っている顔だ。

 

「……おおきにな、切島くん。……君の馬鹿正直な声、少しは響いたわ」

 

「え——禪院が『おおきに…ありがとう』って言うの、初めて聞いたわ!」

 

「俺だって言うわ。……たまにはな」

 

 砂藤が来た。「禪院、立てるか?」

 

「なんとかな。……砂藤くん、俺に甘い顔せんといて。調子狂うわ」

 

「そうか」

 

 砂藤はそれだけ言った。

 

 緑谷が直哉の横に来た。

 

「禪院くん——『今や』、ありがとう」

 

「礼は要らへん。……緑谷くん、君の火力がなかったら設計が完成せんかっただけや」

 

「でも——言いたい。あの『今や』がなかったら、あの一発は入らなかった」

 

(……ほんま、人の懐に土足で入ってくる奴やな。……ま、嫌いじゃないけどな。口が裂けても言わんけど)

 

「今日の緑谷くんの『燃料』——俺には読めてたわ。……君、最後まで信じとったやろ。俺の設計を」

 

「……うん」

 

「その燃料が、あの一発を通したんや。……俺の設計だけじゃ、届かなかへんかった」

 

 緑谷は直哉の顔を見た。

 

「禪院くんが、そういうこと言うの——珍しいね」

 

「……気のせいやろ。さっさと帰る準備せえや」

 

 キナコちゃんとマホロくんが、島の中央部に来た。

 

 キナコちゃんが直哉を見つけて、走ってきた。

 

「禪院さん——大丈夫?ヒーローってどいつもダメかと思ってたけど。見直したわ」

 

「大丈夫や。キナコちゃん、俺を誰やと思っとる。……こんな嵐、俺の空写にかかればそよ風みたいなもんやわ」

 

 マホロくんが、おずおずと直哉の横に来た。

 

「……未来視で、少し見えてた。禪院さんが嵐を抜けるところ。……だから、大丈夫だと思ってた」

 

 直哉はマホロくんを見た。

 

「それは——『設計が正しい』という証明やな。……マホロくん、ええセンスしとるわ」

 

「え?」

 

「俺の未来が映ったということは、その未来に確度があったということや。……ま、俺の計算が狂うはずないけどな」

 

 キナコちゃんが「また難しいこと言ってる」と言った。

 

「よく言われとるわ」

 

 直哉は二人を見た。

 

「……君たちは、これからどうするんや?」

 

「島に残る」

 

「そうか。……また不審な継ぎ接ぎ野郎が来たら、俺を呼べや。……俺の指名料は高いけどな」

 

 キナコちゃんが笑った。

 

「…ふふっ。そこはヒーローなら無料で助けに来なさいよ!」

 

「とにかく…また来ることにするわ」

 

 島を去る前、直哉は一人で高台に上がった。

 

 空写を展開した。230m。今の直哉の全部だ。

 

「……全部、見えてるわ」

 

 あのiアイランドの時は、ただの投射呪法だけだった。那歩島では、空写と鏃と零駒と落花の情と、反転術式と術式反転(空虚呪法)と極ノ番『積層残影』6葉がある。

 

「でも——足りへん部分も、はっきり見えたわ」

 

 直哉は扇子を持ち直した。

 

 完成系の24葉があれば。空写の射程があと二倍あれば。

 

「空写の拡張。極ノ番の段階の向上——12葉、そして24葉へ。……ま、俺ならすぐやろな」

 

 那歩島の空が、青く広がっている。

 

「……次の設計は——もっと余裕を持って勝てるように作るわ。全部出し切らんでも届く、圧倒的なやつをな」

 

 風が来た。

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

「いい島やったわ。……ま、二度とこんな不味い飯は食べへんけどな。」

 

 独り言が風に溶けた。

 

 禪院直哉は高台を下りた。次の設計を、すでに頭の中で始めながら。

 




(……ったく、柄にもないことしたわ。
 呪力は空っぽ、足元もフラフラや。
 「全部出し切る」なんて、効率の悪い戦い方は俺の美学に反するんやけどな。
 ナイン。あいつの最後の一撃を、俺の「6葉」が、そして緑谷くんの火力が粉砕した。
 あいつが膝をついた瞬間、嵐が晴れていく景色は……まあ、悪くはなかったわ。
 爆豪くんには「もっと上手くやれ」なんて偉そうに言われたけど、反論できへんのが癪やな。
 実際、俺に「24葉」があれば、あんな綱渡りの設計なんて組まずに済んだんやから。
 ……キナコちゃんにマホロくん。
 あのガキ共に「すごかった」なんて言われて、鼻が高くなる自分がおるのが一番信じられへん。
 縁を作るのは設計か、か。メリッサちゃんの言葉が、妙に腹に落ちよる。
 今回の収穫は、ナインを倒したことやない。
 「今の俺の全部」の限界値が、はっきり数値化されたことや。
 空写の射程拡張、極ノ番の多層化……やるべきことは山積みやな。
 次は、全部出し切らんでも勝てる設計を。
 圧倒的な余裕を持って、敵をフレームの外へ追い出す。
 ……それが、禪院直哉の進むべき道や。)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。