【完結予定】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。   作:まだら模様

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世界25ヶ国同時テロ。

 そんな大層な看板を並べられても、俺のやることは変わらへん。

 エンデヴァーさんは「世界を救え」と言う。緑谷くんは「みんなを助ける」と青臭い理想を吐く。

 けどな、俺の空写が捉えられるんは、今この瞬間、俺の周囲230mにおる奴らの呼吸と、個性の火種だけや。

 世界なんて広すぎるもん、俺の設計図には描ききれへんわ。

 オセオンの街は、石畳の匂いと得体の知れん殺意で満ちとる。

 クレアさんの「透視」は壁の向こうの形を見るけど、俺の「空写」は壁の向こうの絶望を読む。

 どっちが上とかやない。俺は俺の読める範囲で、一番効率のええ勝ち筋を引くだけや。

 ……指名手配されたデクくんの気配が、射程の外へ消えていく。

 届かへんもんに手を伸ばすほど、俺はロマンチストやない。

 今は目の前の雑魚を片付けて、次の「設計」を立てる時間を稼ぐわ。

 ええな、爆豪くん、轟くん。

 君らの背中は、俺の230mが保証してやるさかい。

キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。

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第87話:映画編 ワールドヒーローズミッション 「オセオン——世界規模の設計」

飛行機の中で、直哉は空写を展開していた。

 

 意味はない。機内の気配を読んでも、戦闘には役立たない。ただ——癖だ。新しい場所に移動するとき、直哉は空写を展開して「今いる空間の質」を確かめる。

 

 機内。エンデヴァーが通路側の席で腕を組んでいる。緑谷が窓の外を見ている。爆豪が目を閉じている。轟が何かを考えている顔をしている。

 

 それぞれの個性の気配が、230mの精度優先の中に収まっている。

 

「——オセオンまで、あと二時間か」

 

 直哉は扇子を開いた。

 

(……個性終末論? 爆弾? ほんま、不細工な連中が考えそうな理屈やわ。無能な奴ほど、自分たちの手に負えへんもんを消したがる。……反吐が出るな)

 

 直哉はそれを、淡々と整理した。

 

 感情は動かない。設計の問題として処理する。25か所の爆弾を回収するために、世界中のプロヒーローと雄英の生徒たちが各地に散らばっている。直哉たちはオセオン担当だ。

 

「世界25か所——俺の空写230mで、どれだけカバーできるかや」

 

 独り言だった。

 

 答えは出ている。一か所の建物の内部を読むのがやっとだ。世界規模のミッションに対して、直哉の空写はあまりにも小さい。

 

 でも——今の直哉に使える設計は、その230mの中にある。

 

 それが全部だ。

 

 オセオンの街は、直哉の想定より雑然としていた。

 

 人口密度が高い。路地が入り組んでいる。

 

 直哉は街を歩きながら、空写を展開していた。精度優先230m。周囲の気配を読む。ヒューマライズの構成員の気配——個性の質が鋭い。

 

「エンデヴァーさん」

 

 直哉はエンデヴァーに向かって言った。

 

「南東方向、230mの端に、訓練を受けた人間の気配が三人います。ヒューマライズの構成員やと思います。……ま、一般人のゴミみたいな気配とは明らかに質が違いますわ」

 

 エンデヴァーが直哉を見た。

 

「確証はあるのか?」

 

「気配の質が一般市民と違います。個性の構えができとります——戦闘準備の状態ですわ。……ま、俺の空写が読み違えるはずがないさかい」

 

「クレア」

 

 エンデヴァーがオセオンのプロヒーロー、クレア・ボヤンスに声をかけた。クレアの個性は透視だ。

 

「確認します」

 

 クレアが目を細めた。数秒後。

 

「……三人います。武装しています。禪院くんの言う通り」

 

 エンデヴァーが「行くぞ」と言った。

 

 直哉はその後に続きながら、クレアを横目で見た。

 

(空間を見る透視か。……便利な個性やな。俺の空写と合わせれば、逃げ回るネズミを効率よく潰せる設計が組める。……道具としては悪くないわ)

 

「……この二つが組み合わさったら、かなり情報量が上がるな」

 

 直哉は小さく呟いた。

 

 ヒューマライズの支部への突入は、あっさり終わった。

 

 エンデヴァーの炎が入口を制圧し、緑谷と爆豪と轟が内部を制圧した。直哉は空写で内部の気配を追いながら、構成員の動線を爆豪と轟に伝えた。

 

「右の廊下に二人。左の部屋に一人——左の方が個性の気配が強い。轟くん、君が行け。爆豪くんは右や」

 

「言われなくても分かってんだよ、ドブカス野郎!」

 

 爆豪が吼えながら右に向かった。轟が「分かった」と言って左に向かった。

 

 制圧が終わった後、エンデヴァーが言った。

 

「禪院。その索敵——精度はどれくらいだ?」

 

「230mの精度優先なら、人一人の動作の次の手まで読めます。……ま、230mを超えたら方向と生存の有無くらいしか分からへんノイズになりますわ。俺の今の限界です」

 

「建物全体をカバーできるか?」

 

「この規模なら。でも——街全体となると無理ですわ。俺の設計の外側です」

 

 エンデヴァーは「そうか」と言った。

 

 直哉は内心で少し苦い感触を持った。

 

(230m。……狭い。那歩島でもそうやった。世界規模のミッションとか言うわりには、俺の見える世界はこれっぽっちか。……笑えんな)

 

 支部の情報解析中に、緑谷が事件に巻き込まれた。

 

 直哉が空写で緑谷の気配を追っていた。街の中心部で緑谷の個性の気配が急激に乱れた。

 

「緑谷くんが動いた——宝石強盗への対応か。……ったく、お節介な奴やな」

 

 直哉は空写を街の方向に向けた。緑谷の気配。そして——知らない気配が一つ、緑谷と絡み合っている。

 

「少年——か」

 

 気配が逃げている。緑谷が追っている。そして警察が近づいてくる。

 

 次の瞬間、緑谷の気配が「拘束された」質に変わった。

 

「……指名手配? ほんま、不細工なことしよるわ、あのアホ」

 

 直哉は扇子を閉じた。

 

(……助けに行く? 230mの外や。俺が今動いても、時間の無駄でしかない。……設計として——今は待つのが正解やわ)

 

 緑谷からの連絡が来たのは、それから数時間後だった。

 

 ロディという少年と共に逃走しながら、解除キーの存在を伝えてきた。

 

「バカかあいつは!」

 

「…でも動くしかない」

 

 爆豪が怒鳴り、轟が冷静に返す。エンデヴァーが「フレクトの本拠地に向かう」と判断した。

 

 直哉は地図を眺めながら、空写でオセオン全体の気配を読もうとした——読めない。

 

「……今回のミッションで、俺の空写の射程の小ささが一番よく分かるわ。……ほんま、自分の才能のなさに嫌気がさすな」

 

 直哉は静かに言った。

 

 切島が別のチームにいて、砂藤もどこかで動いている。

 

「それが今の全部や。……ま、今の俺にできる最高効率の設計を組むだけやけどな」

 

 ロディの操縦する飛行機でフレクトの本拠地に向かう途中、直哉は機内で空写を展開し続けていた。

 

「……強い個性の気配が、幾つかありますわ」

 

 直哉はエンデヴァーに報告した。

 

「数はどうだ?」

 

「はっきりとは読めへんですわ。まだ射程の端。……ま、近づけば一人残らず丸裸にしてやりますけどね」

 

 飛行機が高度を下げていく。

 

 大きな水流の気配。鋭利な金属の気配。そして——二つの気配が、全く同じ質を持っている。

 

「……」

 

 直哉は扇子を止めた。

 

「双子がいます。個性の質が全く同じ二人——蛇腹剣系の個性ですわ」

 

「双子?」

 

「気配の質が全く一緒や。個性も同じ——見分けがつかへん。……不気味やな。俺の空写をバグらせる気か」

 

「それ、お前の空写で読めるのか?」

 

「質は同じや。でも——身体の動きの癖は、違うかもしれへん。……ま、俺の目が節穴やないこと、証明してやりますわ」

 

 爆豪は「ふん」と言った。

 

(どちらがどちらか読み分けられるか——設計を立て直す必要があるな。……面白いわ、俺の設計をどこまで狂わせてくれるんか試してやる)

 

 本拠地に降り立った瞬間、ヒューマライズの戦闘員が動いた。

 

 直哉は空写で全方向の気配を読みながら、空虚呪法で空間に固定点を作りつつ建物の壁を蹴った。

 

「……今夜は、この230mが戦場や。……雑魚はすっこんでろや」

 

 直哉は扇子を開いた。

 

 ベロスとシデロが現れた。

 

「爆豪くん、轟くん——二人はこっちにこいや。俺が読む」

 

「なんでてめぇに仕切られなきゃいけねぇんだよ、ドブカス野郎!」

 

「仕切っとるんやない、設計しとるんや。……勝たせてやるって言うてんのに、贅沢やな」

 

 直哉は空写でベロスの弓の構えを読んだ。射出の0.3秒前——「右に跳べ」

 

 爆豪が右に跳んだ。矢がその場所を貫く。

 

「轟くん——シデロの鉄球は左から来る。0.2秒後や」

 

 轟が氷の壁を左に展開した。鉄球が砕ける。

 

 ベロスとシデロを制圧するまで、十五分かかった。

 

 本拠地の内部に入ったところで、分断が起きた。

 

 双子——サーペンターズが現れた。

 

 空写で気配を読む。全く同じ個性の質。全く同じ身体の大きさ。

 

(……あー、ほんまに瓜二つやな。個性の質だけ読んどったら、どっちを倒せばええか分からへんわ)

 

 直哉はその二つの気配を、精度優先で丁寧に追った。

 

 微妙に——違う。

 

「……身体の癖が違うわ」

 

 個性の質は同じだ。でも、呼吸のリズム、重心の位置、肩の角度。

 

「爆豪くん——俺がこっちの一人を引き受ける。お前はもう一人を頼むわ。……ま、君が手間取っとる間に、俺が先に終わらせたるけどな」

 

「あぁん!? 言い上がったなドブカス野郎!!」

 

 爆豪が叫びながら突っ込む。轟がレヴィアタンの方向に向かった。

 

 直哉は扇子を構えた。

 

 空写を、目の前の一人に絞って向けた。

 

「設計を変える。こいつの『癖』を読む——それが今夜の俺の設計や」

 

 サーペンターズの一人が、蛇腹剣を展開した。

 

(お前の不細工な動きの癖、全部暴いてやるわ)

 

 直哉は空写で、その剣の動きを追い始めた。




(……チッ、双子やて? 冗談やないわ。
 個性の質が完全に一致しとる。空写のノイズが重なって、一瞬、一人の人間が分裂しとるんかと思ったわ。
 ヒューマライズ、底の知れん気味の悪い連中や。
 爆豪くんは力押しで片付ける気満々やけど、この双子の蛇腹剣、ただの刃物やない。
 空間を埋め尽くすような手数の多さ……ま、普通の人間の目やったら、一秒で肉片にされとるやろな。
 けど、俺には「癖」が見える。
 左側の奴は、剣を振る直前に右の広背筋が僅かに強張る。
 右側の奴は、重心を乗せるタイミングが呼吸一つ分だけ早い。
 同じ個性、同じ顔。
 それでも、積み上げてきた「不細工な生の時間」まではコピーできへんみたいやな。
 設計を変えるわ。
 個性の質で読むんやなくて、その肉体が刻んできた「淀み」を狙い撃つ。
 ……見てろや。
 どれだけ数が増えようが、俺のフレームの中に収まっとる限り、逃げ場なんてどこにもないさかい)
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