【完結予定】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
空写を展開した瞬間、脳がバグを起こしたかと思ったわ。
双子のサーペンターズ。エナとディオ。
俺の「設計」は、相手の個性の質を読み、その火種が爆ぜる瞬間に合わせるもんや。
なのに、目の前におる二人は、呪力の流れも、個性の出力も、まるで鏡合わせみたいに一致しとる。
どっちがどっちか、空写のレーダーだけやと重なって見えよる。
……ハッ、不細工な嫌がらせやな。
けどな、魂の質は同じでも、肉体は別物や。
どっちの肩が先に跳ねるか。どっちの膝が先に沈むか。
個性の「質」で読めへんのなら、その不細工な「肉体の癖」を剥き出しにしてやるわ。
爆豪くん、お前はディオを叩け。俺がエナを解体する。
それと——今日、初めて試す「設計」がある。
6葉じゃ届かへんのなら、その先を叩き込む。
右腕がブッ壊れるかもしれへんけど、反転術式があるんや。
「無理」と「設計の範囲内」は別物やで。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。
お気に入り登録、感想、評価付与は作者、そして直哉の気分が上がりまくって…より筆に力が入るかも…?
蛇腹剣が三本、同時に来た。
直哉は空写でその軌道を読んだ。左から二本、右から一本。左の二本は牽制——本命は右の一本。
「——読めとるわ」
落花の情で一度オート迎撃した後に即解除。右に跳びながら、鏃を射出した。右の剣の刀身に直撃する。軌道がわずかに逸れた。残りの二本が追ってくる。空虚呪法で空中に固定節を生成——剣が固定節に引っかかって止まる。
直哉は着地しながら、扇子を開いた。
目の前のサーペンターズの一人——エナかディオか、まだ判別できていない——が剣を収めて次の構えを作った。
空写で読む。
個性の質は——やはり、もう一人と全く同じ。同じ個性。同じ出力。同じ気配の重さ。
(……チッ、ほんまに鏡合わせやな。反吐が出るわ。……けど、魂がコピー品でも、肉体の動きまで寸分狂わず一緒なんてあり得へん)
「右肩の動きが先に来るな、お前」
直哉は気づいた。
剣を振るとき、この男は右肩が先に動く。わずか0.1秒だが、右肩の気配が先行する。個性の質ではなく、身体の癖。
「——これや。設計、変更。……ゴミみたいな個性に頼るんやなくて、その不細工な肉体の癖を読ませてもらうわ」
直哉は空写の向け方を変えた。筋肉の収縮、重心の移動、呼吸のリズム。
蛇腹剣が再び来た。今度は五本。
右肩が動いた——0.1秒後に右の二本。左膝が沈んだ——左の剣が下から来る。
「全部見える。……鈍いわ、ノロマ」
落花の情で高速移動しながら、五本全ての軌道を回避した。鏃を二発射出して二本を弾く。空虚呪法で固定節を生成して一本を止める。残り二本は身体を傾けて通り抜けさせた。
無傷。
エナが——右肩から先に動く方がエナだ、と直哉は判断した——顔色を変えた。
「……読んでいるのか?」
「全部や。お前の次の呼吸の深さまでな」
廊下の向こうで、爆豪の爆破音が聞こえた。
もう一人のサーペンターズ——ディオ——と爆豪が戦っている。
「爆豪くん——ディオの癖は左膝が先に動く。右の奴と逆や」
廊下の向こうに向かって、直哉は声を投げた。
「聞こえてるか知らんけど——左膝が沈んだ瞬間が攻撃の予備動作や。そこに爆破を合わせえや。……それで仕留められへんのなら、君のセンス、疑うわ」
しばらくして、爆豪の爆破が一段大きくなった。
空写で感知できた——ディオの動きが乱れた。爆豪の攻撃が入った。
(……フン、言うた通りにしおって。素直やないな)
エナが構えを変えた。
今まで三本だった蛇腹剣が——五本になった。トリガーを使った気配ではない。純粋に本気。
直哉は空写を最大限に絞った。
右肩。左膝。首の向き。重心の位置。
五本の剣が動く前に、エナの身体のどこかが必ず先行する。
「——右肩と左肘が同時に動いた。右の二本と左の一本が来る。残り二本は——」
残り二本の予備動作を読もうとした瞬間、エナが動いた。
予備動作がない。
「——」
直哉は鏃の反動推進で後退した。五本の剣が直哉のいた場所を薙いだ。
一本だけ、かすった。左腕の袖が裂けた。
反転術式が即座に動く。傷は浅い。でも——予備動作なしの剣があった。
「……二本は読み方が違う。癖が別系統や。……おもろいことしよるわ」
エナは——五本の剣のうち、三本は「身体の癖から来る動き」で、残り二本は「個性の意志から直接来る動き」がある。
「設計を更新する。……肉体と意志、両方を同時に読ませてもらうわ。脳みそ、焼き切れるまで踊れや」
試した。
エナが動いた。五本。
身体の癖の三本——右肩と左膝が先行する。個性直接制御の二本——エナの視線が剣の方向を向く。
「全部見えた。……終わりや」
落花の情で回避しながら、鏃を二発射出した。個性直接制御の二本の刀身に当てる。弾かれた。空虚呪法で固定節を生成して身体の癖の一本を止める。
完全回避。
エナが——今度こそはっきりと、驚いた気配を出した。
十五分が経った。
エナを相手に、直哉は傷らしい傷を負っていない。
でも——削れてもいない。
「……6葉では削り切れへんか。……タフなだけの木偶人形やな」
直哉は扇子を持ち替えながら、状況を確認した。爆豪とディオの戦闘は長引いている。轟とレヴィアタンの巨大な気配もまだ消えていない。
緑谷の気配は——230mの端。フレクトの方向に向かっている。
「緑谷くんが動いたな。……ま、あのアホが負ける設計は立ててへんけど」
エナが構えを変えた。今度は——六本。
「トリガーか。……どこまでも不細工な真似を。薬なんかに頼って、それでもヒーローの敵を名乗るんか?ヴィランの名が泣くわ」
空写でエナの気配を読んだ。個性が強化されている。
直哉は空写を最大限に展開した。
右肩と左膝——身体の癖の四本。視線の方向——個性直接制御の二本。
「全部来る。……捌き切るのが精一杯か。……しゃあないな」
直哉は着地しながら、状況を分析した。呪力の消耗が速い。
「……このままでは長引くか。6葉では届かへん——次の手、試させてもらうわ。……ブッ壊れても、後で治せばええだけやしな」
直哉は扇子を握った。
12葉。
訓練で感触だけは知っている。実戦で使ったことはない。
エナがまた動く。六本の蛇腹剣が展開される。
直哉は空写を全力で展開した。右肩と左膝と首の動き、視線の方向。
「全部見えとる。無駄や」
六本が来る。
直哉は鏃の連続機動による立体機動で動きながら、今まで通り捌く。空虚呪法による固定節。槍の形状の鏃の射出による迎撃。
そして——エナが六本を収めて次の構えを作る、その0.3秒の間。
「今や。……沈めや。出来損ないが」
直哉は扇子を構えた。
「瞬刻、二十四節、積層の理」
直哉の口から滑らかな詠唱が紡がれる。
「——極ノ番!『積層残影』12葉!!」
六よりも、より多重に重なった12葉が炸裂した。
「ぐっ…!?」
6葉とは違う。衝撃の重さが、明らかに違う。エナの胸部に入った12葉は、エナを数メートル吹き飛ばした。
「……ッ、あー……重いな、これ」
直哉は右腕の感触を確認した。6葉とは比べ物にならない負荷。反転術式が動いて修復しているが——連射はできない。
エナが立ち上がった。
「……トリガー使用の個性は、回復も速い、か。……ほんま、しつこいな」
廊下の向こうで、大きな爆破音がした。爆豪が仕留めた。
爆豪が角を曲がって現れた。
「てめぇ——まだかかるのか。このドブカス野郎が」
「もう少しや。6葉よりも強化した12葉を入れた。削れとる。……あいつ、薬で無理やり繋いどるだけやわ」
「12葉? 初めて使ったやつか」
「ああ。右腕に負荷が残ってる——連打はできへん。……ま、あとは任せてもええんやけどな?」
「…俺が仕留める。テメェはせいぜいそこで大人しく見てろ!」
爆豪がすでに動いていた。
エナが六本の蛇腹剣を展開する。爆豪が爆破を連発しながら突っ込む。
「爆豪くん——右肩が動いたら左に跳べ。今——」
右肩が動いた。
「左や!」
爆豪が左に跳んだ。蛇腹剣が空を切る。
爆豪が着地と同時に爆破を炸裂させた。エナの正面から直撃する。
エナが——倒れた。
「……仕留めたな。……ま、俺の正確なナビがあったおかげやけど」
爆豪が「…チッ、クソが」と言った。
爆豪と直哉は廊下を進んだ。
「緑谷くんがフレクトと戦っとるわ」
「知ってるわ!んなこと!」
「フレクトの個性は反射——あらゆるエネルギーを跳ね返す、常時発動型の個性や。……俺の術式でも、物理的な接触が必要な12葉は相性が悪すぎる。設計が立たへん」
「分かってる。だからクソナードに任せるんだろ?そんなもんがなきゃ、俺がとっくに仕留めてたわ!クソが!」
直哉は少し驚いた。
「——分かってたか。……爆豪くんも、意外と周り見とるんやな」
「てめぇが空写で読んで「反射の個性」って言った瞬間に、あいつしかいないと思った。無個性だったやつが、超パワーの力技で押し込む——それが一番あの個性への答えになる」
直哉は爆豪を見た。
「……ハッ、不細工な戦い方やけど、あいつにはそれが一番似合っとるわ」
フレクトの戦闘室の手前で、直哉は空写を展開した。反射の個性のせいで、精度が落ちる。
「……個性の気配が反射されとるな。……ま、緑谷くんの気配は読める。ボロボロやけど、まだ折れとらん」
爆豪が扉の前で止まった。
「中に入るか?」
「……いや。俺の今の状態では、足手まといになるだけや。12葉を使った後の呪力じゃ、あの反射膜を確実に抜く設計が組めへん。……あのアホに任せえや。緑谷くんが突破する——それだけが今の設計の正解や」
爆豪は何も言わなかった。
扉の外で、二人は待った。
待っている間、直哉は右腕の感触を確かめ続けた。
(12葉……実戦でのフィードバックは十分やな。1発の重さを計算しながら、どこで使うかを決める——それがこれからの俺の設計や)
扉の向こうで、大きな衝撃音がした。
緑谷の気配が——消耗の底に達している。でも、止まっていない。
「——何かが起きてるわ。……あーあ、あんな出鱈目な出力……設計もクソもないわ」
巨大な力が炸裂した音。
直哉は空写でその衝撃の方向を読んだ。フレクトの気配が急激に弱くなった。
「……緑谷くんが通したな。……ほんま、無茶苦茶しよる」
扉が開いた。
緑谷が立っていた。ボロボロだ。それでも——立っている。
「——終わったか。……ほんま、見てられんくらい不細工な姿やな、緑谷くん」
緑谷が直哉と爆豪を見た。
「二人とも……大丈夫?」
「俺は問題ないわ。……緑谷くんほどボロ雑巾にはなってへんしな」
緑谷は「よかった」と言って、ゆっくりと膝をついた。
直哉は近づいて、緑谷の肩を支えた。
「反転術式が使えれば、君のそのボロボロの腕も治してやれるんやけどな。……生憎、俺の術式は俺にしか使えへん。……まぁ今の君ならボロボロな姿の方が似合っとるし、このままでええやろ」
「あはは…相変わらず禪院くんらしいね……支えてくれてありがとう」
「礼は要らへんわ。……設計通りや」
直哉は空写でロディの気配を追った。解除キーを持って走っている。
「ロディくんが動いとる。間に合うわ。……さあ、撤退の設計、組ませてもらうで」
三人は、その場で少しの間、動かなかった。
直哉は右腕の感触を確かめた。12葉の負荷が、少しずつ抜けていく。
(……ま、悪くない夜やったな)
(……あー、右腕がジンジンしよる。
12葉、想像以上やな。
6葉を連射する方が呪力効率はええけど、ここぞという時の一撃の重さが段違いや。
反転術式で無理やり繋いどるけど、今の俺やと一発撃つごとにリキャストタイムが必要になる。
実戦で使ってみて正解やったわ。これが今の俺の『全力の設計』の限界値やな。
廊下の向こうで、爆豪くんがディオを仕留めた気配がした。
あいつもあいつで、俺の出した「左膝」の情報を即座に爆破に変換しおった。
ドブカス野郎とか言うてくる割には、俺の設計図を一番信頼しとるんは、案外あいつかもしれへんな。
……さて、最後は緑谷くんや。
反射の個性、フレクト。
俺の12葉でも、あいつの反射膜を貫ける確率は五分五分……いや、今の呪力残量やとそれ以下か。
そんなギャンブル、俺の設計には組み込めへん。
せやけと、あの『無個性』やった緑谷くんが、100%の力を出し切って正面からねじ伏せる。
あのアホみたいな直向きさが、反射という理屈を物理で粉砕する。
……その未来だけは、なぜか確信が持てるわ。
設計の最後を他人に預けるなんて、俺らしくないけどな。
今夜だけは、特別や。
あいつが扉を開けて出てくるのを、ここで優雅に待たせてもらうわ。)