【完結予定】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
カレンダーをめくる速度は、俺の投射呪法より速いかもしれんな。
18歳やった俺も26歳。世間じゃ俺もしっかりヒーロー扱いされとるわ。
前世の俺が見たら、鼻で笑うやろうな。
「ヒーローごっこか?」って。
せやけど、今の俺にはこの場所がしっくりきとる。
扇子を仰いで、1000メートルの空写で街の「設計」を読み解く。
事件が起きる前の澱みを叩き潰し、誰よりも速く現場に立って、誰よりも雅に終わらせる。
それが、俺がこの8年で積み上げてきた「新しい術式」の完成形や。
今夜は久しぶりに、あのドブカス……もとい、元クラスメイト共と顔を合わせる。
8年分の「燃料」がどれほど燃えとるか、空写で品定めしたるとしましょうか。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。
お気に入り登録、感想、評価付与は直哉がより八年間研鑽した強さを見せてくれるかもしれません…?
ヒーロービルボードチャートの発表は、毎年この時期の風物詩だ。
テレビの前に国民が集まり、SNSは沸き立ち、解説者の絶叫が響く。
直哉はその喧騒を、事務所のソファで仰向けになりながら眺めていた。
扇子をゆるりと動かし、風を起こす。
テレビ画面には、今年のチャートが映し出されていた。
第1位:ルミリオン(通形ミリオ)
「三年連続! ルミリオン選手、不動のNo.1!!」
直哉は細めた目で画面を見つめる。
(ミリオくんが一位か。三年連続。まぁ妥当やな)
透過の設計を極めた人間が前線で動けば、止められる相手はほぼいない。空写で読んでも「どこから出てくるか」の先読みが難しい——直哉がそう感じる相手は、この世界で一握りだ。
ミリオはその一握りに入る。
「認めたくないが本物や」——評価録に書いた言葉は、8年経っても変わらない。
第2位:ショート(轟焦凍)
「ショート選手、昨年の4位から一気に2位へ! 急上昇!!」
直哉の扇子がふと止まる。
(轟くんが2位か)
最終決戦前の屋上で「おんなじだ」と言い合ったあの夜から、8年。
あの時の轟の気配と、今の気配——向いている「方向」は同じだが、その「密度」がまるで違う。8年分の積み重ねが、気配の重みとなって表れている。
「感情と設計が同時になった」という評価。その設計が、さらに磨き上げられた証拠だ。
(——そうやな。轟くんは2位が似合う)
(1位は似合わへん。轟くんの設計は「No.1を目指す」もんやなく、「No.1に並ぶ」もんや。2位いうのは、あのアホみたいに真っ直ぐな奴らしい位置やな)
第3位:最速ヒーロー・ナオヤ(禪院直哉)
「三年連続3位! 禪院直哉選手! 現場への到着と解決速度はリーグ圧倒的No.1! 今や子供たちの憧れのトップ3に!!」
画面に映る自分の顔を見る。
「最速ヒーロー・ナオヤ」。和装を基本とした着流し風のコスチュームに、手には扇子。
(——雅やないツラやな)
(自分の顔を見てつくづくそう思うわ。前世の「最速の術師」は、投射呪法の精度ゆえの呼び名やった。今世の俺が「最速」なのは、空写1000メートルで事件を読み、鏃と投射呪法、空虚呪法の機動の組み合わせで「誰よりも速く」着くからや。着いて——終わる。それが俺の設計や)
直哉の事務所は、雄英から二駅の場所にある。
こじんまりとした空間だ。大きくする気はない。必要なのはノートと扇子、そして空写を広げるための「外」だけだ。
「禪院先生、今日のスケジュール確認してください」
マネージャーの坂本が呆れ顔で言う。
「見てますわ」
「テレビ見てるじゃないですか」
「両方見とりますわ。……チャート3位、おおきに」
「今年も同じ順位でしたね。来年は2位を目指しますか?」
直哉は少しだけ間を置いた。
「——2位はいらんですわ。轟くんの場所やさかいな。設計として3位が今の俺の場所や。それより上は、まだ設計が届いてへんか、俺の燃料が足りてへんいうことや」
「先生の『燃料』の話は相変わらず難しいです……。あ、夜は元クラスメイトとの同窓会ですからね」
「知ってますわ。切島くんが先週からうるさかったさかいな」
午前中、直哉は事務所の屋上に出た。
空写を広げる。距離優先モード。1000メートルの輪郭。
街の全体が見える。個性の動き、感情の密度、空気の変化。
「今日は静かやな」
緊急の気配はない。空写を畳み、一冊のノートを取り出した。
「良い設計を持て」——伏黒甚爾
ノートの最初のページにあるこの言葉は、今も色褪せていない。
現在の手札(8年後版):
* 空写: 1000m安定。脳直結・反転術式との長時間並走も完成。
* 鏃・零駒・落花の情・空虚呪法: 反射の段階。考えずとも動く。
* 反転術式・脳直結: 完成。自己修復は呼吸と同速。他者応用は訓練中。
* 極ノ番・24葉・重: 右腕への負荷消失。その他6葉、12葉、18葉、24葉も使用負担が軽減。火力の調節も向上。
* 領域展開・万象剥離・極彩断層:呪力消耗20%以内に改善。
——8年前、AFOを倒した後で「次の設計を始める」と書いた。
その次の設計が、今ここにある。
扇子を開くと、春の風が吹き抜けた。
午後、雑誌のインタビューがあった。
「禪院選手、現場解決率98.7%という驚異的な『最速』の秘訣は?」
「『速い』のは設計の結果であって、目的やないですわ。1000メートルの空写で、事件が起きる前の『空気』を読む。先読みの精度が上がれば、自ずと到着は速くなる。それだけですわ」
「残りの1.3%は?」
「俺の設計の限界や。……設計の限界を認識してへんヒーローは、ドブカスやと思いますわ。限界を知らんと次の設計が組めへんさかいな」
記者が「ドブカス……?」と困惑する。
「……失礼。設計として問題がある、という意味ですわ。雅やない語彙でしたな」
「異名の『ナオヤ』。本名を使われるのは珍しいですが」
「前世でも禪院直哉、今世でも禪院直哉や。別に名前を作る必要なんてないですわ」
「前世……?」
「……個人的な話ですわ。気にせんといて」
夜、居酒屋の個室にかつての1-Aのメンバーが集まった。
「チャートお疲れ! 禪院、3位おめでとう!」
切島が8年前と変わらぬ、誰かのための熱を持った声で叫ぶ。
「おおきに。切島くんも相変わらずやな」
「轟くん、2位おめでとうやな。……今年も『おんなじだ』とは言わへんのか」
轟は短く頷き、直哉を見返した。
「……言わない。今は違う場所にいる」
「そうやな。8年前とは違う設計になっとるな、お互い」
砂藤が苦笑いする。
「禪院、今年も『3位で十分』って言うのか?」
「言うで。砂藤くんは12位が似合う設計や。安定しとる」
「褒めてるのか貶してるのか分かんねえよ!」
「褒めとるわ。砂藤くんにしては上出来やろ」
「飯田くん、今夜は仕事の話は無しやで。眼鏡が光る前に酒飲めや」
「あ……すまない! ついデータの話を!」
廊下で、爆豪と二人きりになった。
「——ドブカス野郎」
「爆豪くん。相変わらず雅やない挨拶やな」
「今年のチャート……俺は何位だったか分かるか?」
「……教えてくれるか」
「——6位だ」
直哉は扇子を畳み、爆豪の右腕に視線を落とした。
最終決戦のダメージ。そこからの復帰。
「……右腕の状態か。設計として聞いとる。爆豪くん設計の問題やなく、右腕の問題やろ」
「……関係ねえ。俺は1位を取る。それだけだ」
直哉はしばらく爆豪を見つめた。
(爆豪くんは今でも「俺のため」に戦っとるな)
「それが爆豪くんの設計の燃料や。本物やということや。……俺には、そんな不格好で熱苦しい燃料は持てへんさかいな」
「……ドブカス野郎が、褒め方くらい覚えろ」
「設計として正しいことしか言わへんさかいな」
舌打ちして去る爆豪の背中を見る。
(爆豪くんは今でも「1位を取る」ために動いとる。俺とは違う。せやけど——本物や)
帰宅した直哉は、いつものようにノートを開いた。
緑谷追跡記録——今日、同窓会で直接確認した。生存。
(この記録も8年や。デクくんは雄英の教師。もう追跡する必要はないが、名前を変える気にはなれへん。あの夜から始まった習慣が、今の俺を作っとる)
今日の整理:
* チャート3位: 8年前の「頂点は俺や」への答え。今の設計の現在地。
* 轟くん2位: 磨かれた設計。8年分の積み重ね。
* 爆豪くん6位: 右腕の影。だが「1位」の燃料は本物。
* 「最速」: 目的は「先読み」。ようやく言語化できた。
* 切島くん: 変わらぬ「誰かの方を向いた」気配。
ペンを置き、扇子を開く。
——8年前、確かに、「次の設計を始める」と書いた。
その設計が、今ここにある。
でも——まだ、次がある。
「良い設計を持て」。その言葉の先に、道は続いている。
電気を消し、静寂の中に身を沈める。
「頂点は俺や。……まだまだ、先があるわ」
同窓会、案外悪くない夜やった。
2位の轟くん、6位の爆豪くん。
数字だけ見れば順位はついとるが、空写で読んだ奴らの気配は、どれも「本物」の熱を持っとった。
特に爆豪くん。
右腕の負傷を抱えながら、それでも「1位」という燃料だけでエンジンを回し続けとる。
俺には持てへん、泥臭くて、雅やない、けど圧倒的に強い燃料。
それを「本物や」と認めてしまう自分がおるのも、8年という月日のせいかもしれんな。
俺のノートには、今も「緑谷追跡記録」の文字が残っとる。
デクくんは教師になって、もう追跡する対象やなくなった。
けど、俺の設計が始まったあの夜の記録は、消す必要がない。
3位という場所。
これが今の俺の「現在地」や。
「良い設計を持て」
甚爾くんの言葉を胸に、俺のペンは止まらへん。
600メートル、1000メートル……その先に広がる、まだ見ぬ景色の設計図。
それを描き切るまで、俺の扇子は止まらんわ。