【完結予定】転生って人の心とかないんか?―有象無象のヒーローごっこ、三歩下がってついといで。 作:まだら模様
メンツは爆豪くんと砂藤くんと俺。
8年前、雄英の廊下や寮の共有スペースで、当たり前のように顔を合わせていた連中や。
当時は「ドブカス」だの「雅やない」だのと毒づき合いながら、それでも俺の設計のどこかに、こいつらの存在が深く組み込まれとった。
26歳になった今、居酒屋の個室で向き合ってみれば、変わったものと変わらんものが面白いほど浮き彫りになるわ。
爆豪くんの右腕に残る、癒えへん傷跡。
切島くんが向けてくる、お節介なほどの熱。
砂藤くんがくれる、相変わらずの全肯定。
今夜は、俺の「反転術式」を爆豪くんに提示する話。
そして、俺がなぜ「3位」に留まり続けとるのか——その燃料の正体について、少しだけ腹を割って話してきたわ。
キャラの語彙などの崩壊、ストーリー崩壊などの可能性ございます。
ご注意ください。
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同窓会の翌週。切島から「爆豪と砂藤も来るから飲みに行こう」と連絡があり、直哉は「ええで」と即座に返した。
切島からの誘いを断ったことは、この8年間一度もない。それがいつの間にか、直哉の設計のルーチンとなっていた。
居酒屋の個室。砂藤が先に来ており、爆豪は少し遅れて現れた。
「——ドブカス野郎、遅せぇんだよ!」
爆豪が開口一番、切島に噛みつく。
「俺に言うのかよ」
「てめぇが呼んだんだろ」
直哉はそれを眺めながら、扇子を広げて風を起こした。
8年経っても、この四人の気配の「組み合わせ」は変わらない。
切島が全体を支え、砂藤が場を落ち着かせ、爆豪が前を向いて牽引する。直哉はその全てを空写で読み解く。
「——禪院」
爆豪が席に着きながら、直哉を睨んだ。
「爆豪くん。なんや、2位になった轟くんのことでも気にしとるんか?」
「……知ってんのか。てめぇは同窓が上がってきたこと、なんとも思わねえのか?」
直哉は少し考えた。
「嬉しいわ。本物が上がってくるのは設計として正しいさかい」
「……てめぇ、本当に欲がねえな」
「欲がないわけやない。ただ、1位になる設計図を俺は今持ってへん。それが見えへん限りは、3位が俺の妥当な場所や」
爆豪は黙り込み、砂藤が静かに口を開いた。
「禪院のその言い方、8年変わらないな」
ビールが運ばれ、四人で乾杯を交わす。
切島が真っ先に切り出した。「爆豪、右腕はどうなんだよ?」
「……問題ねえ」
「問題ねえって言って何年だよ?」
直哉は空写で爆豪の気配を精密に読み取った。
右腕——左に比べて気配の「密度」が微かに薄い。完全には戻っていないのだ。8年前の傷が、今も爆豪の設計を阻んでいる。
「——少し、落ちとるな」
直哉の一言に、場が凍りついた。
「……空写で読んだのか」
「せや。密度が違う。事実の確認や、怒っても変わらへん」
「……そうか。まだなんだな」
砂藤の言葉に、爆豪は「ああ」と短く認めた。
「——俺には反転術式がある」
直哉が淡々と言い放つ。
「他者への応用は訓練中やが、試験的に使ってみる価値はあるかもしれへん」
「……てめぇ、俺に施しを与えるつもりか?」
「施しやない。爆豪くんが1位を取る設計を、俺は見たいんや。君の設計が右腕のせいで止まっとるなら、俺の設計で手伝える可能性がある。それだけや」
(それに一人でも強者はおった方がええ。その方が俺も楽しめるさかい。何よりも、爆轟くんみたいな『あっち側』立てるかもしれへん人材、逃すわけないやろ。ついでに反転術式のアウトプットの完成にも一役買ってもらうわ)
爆豪は絶句した。切島が小声で「お前、すごいこと言ってるぞ」と驚いている。
「…考えといてやる」
爆豪は短く言い、視線を逸らした。
爆豪と砂藤が席を立ち、切島と二人きりになった。
「——禪院。楽しいか、今?」
「楽しい、か。設計が動いとる時の感触は——悪くないな。それを楽しいと呼ぶなら、そうやろうな」
「それを聞きたかったんだよ。お前、ちゃんと生きてるなって確認したくなるんだよな」
「俺が生きとるか確認するのが、切島くんの設計か。一人で全部やる俺の設計を、外側からずっと見とったんやな」
「ああ。でも今はスタッフも三人いるだろ? それは大きな変化だよ」
直哉は扇子を仰いだ。
「……言われてみれば、変化やな。切島くんは相変わらず、燃料供給量Sの評価通りや」
「なんだよその評価! 見せろよ!」
「保留やな」
戻ってきた爆豪が、再び直哉に問うた。
「…ドブカス野郎。本当は、満足してねえんだろ?3位なんかに」
「満足とは違う。1位になるための燃料が、俺の中にはないんや。俺の燃料は『全員が景色を見続けること』と『あっち側』立つことや。1位でも3位でも、それは変わらへん。順位自体に固執はしとらんしな」
「……理解できねえ。俺は1位を取ることが燃料だ」
「知っとる。だから、爆豪くんがその燃料で1位を取る設計を完成させた時、俺はそれを見たい。それが今の俺の燃料の一部やからな」
爆豪は言葉を失い、切島が「爆豪、嬉しいって言えよ」とはやし立てた。
「ドブカス野郎が、黙れや!!」
怒鳴る爆豪だったが、その気配にトゲはなかった。
帰り際、砂藤と二人きりになった。
「禪院。爆豪の右腕、本当にやるのか?」
「リスクはあるが、手伝える可能性があるならやるわ。爆豪くんが1位を取れない設計は、見ていられへんさかい」
砂藤は少しだけ笑い、いつもの一言をくれた。
「……それでいい。禪院はあの最終決戦後から、そういう奴だよな」
「今日も来たな。変える理由はない、か」
「ああ。……禪院、お前が見続ける『景色』の中に、俺も入ってるか?」
直哉は少し考え、答えた。
「当然やな。砂藤くんが輪郭から外れたら、俺が真っ先に気づくわ」
「頼んだ」
短く、確かな設計の確認だった。
帰宅した直哉は、ノートに「生存確認」を刻む。
今日の整理:
* 爆豪くんの右腕:空写で確認。反転術式の提案をした。
* 切島くんの問い:俺の「楽しい」を言語化した。設計の外側を見てくれる存在の重要性。
* 「爆豪くんが1位を取る設計を見たい」:今日初めて明確になった自分の燃料。
* 砂藤くんの「それでいい」:8年変わらぬ設計の安定感。
扇子を閉じ、夜の闇に沈む。
「俺は今日も、ちゃんと生きとった。それだけで十分や」
居酒屋の脂臭い空気の中で、不器用な連中と設計を突き合わとる。
26歳にもなって何やっとるんや、と前世の俺なら嘲笑ったかもしれへんな。
せやけど爆豪くんに「お前の1位が見たい」と言い切った時、俺の中の燃料が明らかに一段階、強く燃えたのを感じたわ。
自分のための1位やなく、俺が見続けたい景色のための1位。
それが、今の俺の「設計」にとって必要なパーツなんやなと確信したわ。
爆豪くんの右腕、そして奴の1位への執念。
俺の反転術式がどこまで通じるか分からへんが、最高の設計を用意して挑むつもりや。
次は、あの「不器用な1位」への挑戦の始まり。
……まあ、俺の術式を素直に受け入れるまで、もう一揉めありそうやけどな。
※ エリちゃんがいるだろというツッコミは無しでおねがいします。
あえてエリちゃんの巻き戻しは使用していない、爆豪が回復自体を拒否していたというオリジナル設定という解釈です。