守護の騎士が至る道 作:匿名希望
ぼちぼち再開していきます!
2-1「導きの少年と悲しい別れ…?」
「ずいぶんと懐かしく感じるな」
今いる場所を踏み締めながら、ラキアは心からの言葉を口に綴る。
同時にここが夢幻だと気付くのに時間は必要なかった。
ラキアが目覚めた場所はなんと…
『はぴぱれ』
だったのだから。
久しく見ていなかったはぴぱれ、しかしそこはどこか空虚に感じた。幸果やショウマ、絆斗の姿もなく、はぴぱれに当たり前にあった騒がしさがまるでない。
誰もいないはぴぱれはここまで寂しいものだったのか…ラキアは孤独感を味わう。
当然だ。ここは楽園の幻と同じ類のまやかしなのだから。
「いるのはわかってる。さっさと出てきたらどうだ?」
この場所で意識が覚醒した時から感じていた何者かの気配。
仕掛けてくる気配が一切なかったから黙っていたラキアだったが、いつまでも付き合う暇はない。痺れを切らして声を上げた。
そしてついに、少年が現れた。
「だる。やっとお出ましか」
「えーっと、アハハ…ごめん」
バツが悪そうに笑い、謝るサルベージスーツの少年。
ラキアをこの世界に誘ったであろう本人。
「これはお前の仕業だな」
「うん。まあね。あー、そうだとも言えるし、そうでもないと言えるかな」
「煮え切らないな」
「話せないことが多いから…。これは君の記憶の景色なんだろ?俺、こんなの見たことないからすごいって思うよ!」
はぴぱれの内装、室内に置いてある品々を見て目を輝かせるその姿は、どこをどう見ても等身大の少年にしか見えない。
「おっと、その前に自己紹介だね!俺はレックス!」
「俺は…」
「ラキア・アマルガだろ?知ってる」
「だろうな。お前には聞きたいことが山ほどある。なんで俺をアルストに呼び寄せたんだ」
「俺ができなくなった事をしてもらう為に」
「ホムラを楽園に連れて行く、か」
「頼んだよ。ラキア」
レックスの姿が透けていく。
「おい!」
手を伸ばすも、レックスの姿は蜃気楼のように消え去った。
消える直前、レックスは笑っていた。
──────また話せるさ。
最後に、そう言い残して。
「肝心なこと、聞けなかったな…」
まあ、いいか。話せるならな。
目を閉じると、ラキアの意識もアルストへと帰る。
「よかった。大丈夫ですか?」
「ホムラ…?」
「はい」
ラキアが目覚めると、ホムラの顔が最初に目に入った。
どうやらホムラの膝の上で介抱されていたようで、とっさに身を起こす。
いったいどれくらい気を失っていたのかはわからないが、肌がひんやりと冷える程度の風が吹き、空は闇夜に、辺りは暗く静まっていた。
「ここは?」
見回す周囲には、草木が生い茂っていた。
どうやら深い森の中のようだ。
「わかりません」
「ニア達は?」
ホムラは申し訳なさそうに首を横に振る。
「そうか…」
「どこかのアルスに落ちたのは間違いないと思うのですが、どこかはわかりません」
となると、まずは…。
「爺さんを探すぞ。投げ出されたと言ってもそんなに距離は離れてない。近いはずだ」
「はい」
ラキアは真っ先にセイリュウを探すべく行動を開始した。
方角に目星を付けると、ホムラを連れて草木を掻き分けて森を進む。
道中、ラキアはただならぬ不安を感じていた。
(嫌な予感がする)
とてつもないくらい気味が悪く、悪い予感がする。この気持ちの悪さ、感じたことがある。
あの日、コメルがいなくなって、毎日探し回って、誰かに縋って、そんな日々を繰り返していたある日の朝、コメルが痛ましい姿で帰ってきたあの日の朝と同じ気持ち悪さだ。
どうか、どうかこの予感が外れてくれとただ祈る。
だが現実とはいつも非情なものだ。酷くて、苦いんだ。
森を進んだ先、見えたのはクレーンの残骸。
「!」
見間違うはずがない、セイリュウの爺さんの背中に乗せていた物だ。
見た途端、ラキアは駆け出した。ホムラを置き去り、ただ一刻も早く、大切な人の元へ行くために。
「爺さん!」
その奥で倒れていたのは、ボロボロに傷付いたセイリュウだった。
体に残る弾痕、痛々しい傷跡の数々。
「おい!しっかりしろ!爺さん!」
「おお…ラキアか」
力なく、セイリュウはラキアを迎える。
その声にいつもの騒がしさは微塵もなかった。
「ワシはここまでじゃ…ラキア…あとはお主、自らの手で…」
「縁起でもない事を言うな!」
「悲しむことはない…。また会える…エーテルの流れの中で…」
「爺さん!おい!」
指の隙間からまた…大切なものがすり抜けていく。
俺はまた失うのか、コメルやデンテのように。
やめろ…もう、俺の前からいなくならないでくれ。
誰も連れて行かないでくれ。
無情にもセイリュウの姿が粒子となって天へと還っていく。
ホムラもその光景にショックを受ける。
光が天へと還り、ラキアは腰を落とす。
「爺さん…アンタのこと、敬ってたよ」
──────まったく、やっと素直になりおったか。普段からそれくらい素直なら可愛げもあるんじゃがのお、ラキア。
「は?」
粒子が晴れていく。
そこに居たのは、小さなアルスだった。
「爺さん…なのか?」
「どうやらそのようじゃの」
「「………」」
しばし無言で見つめ合う2人。
しばらくすると、ラキアの目は冷たくなった。ヒューーーと今にも吹雪が吹きそうなほど絶対零度な目。
嫌な予感がしたセイリュウは何か言い分を並べようと口を開きかけるが、それよりも早くラキアが乱雑に頭を掴み、小さな体を吊し上げた。
セイリュウは悶絶し、ジタバタと暴れる。
「のおおおおおっ!やめるんじゃラキア!お主、年寄りはもっと労わらんかい!」
「だる。わかってやってたのか?」
「違う違う!まさかワシもこうなるとは思っとらんかったんじゃ!本当に最後かと思ったんじゃ!痛たたたっ!これ!早よぉ放せ!」
「なんだ。そうだったのか」
なら許すか、とラキアは小さくなったセイリュウを放り投げた。
「ワシをなんだと思っとるんじゃ!雑に放り投げおって!全くお主は…!」
悪ふざけだったなら雲海に捨てて行こうかと思っていたが、今の状況は爺さんにとっても想定外だったらしい。
「で、なんで縮んだんだ?」
「全身の代謝を最大限にして身体機能を維持した結果、幼生体にまで退行してしまったらしいのお」
「便利なもんだな、アルスってのは」
「全てのアルスにできる芸当ではないぞ」
「威張るな」
まったく、人騒がせな爺さんだ。
「まあ…その…なんだ…。生きてて良かったな。爺さん」
「お?なんじゃなんじゃ、普段ツンケンしとるのにデレおって。可愛い奴じゃの〜」
「だる。さっさとニアを探すぞ。行くぞ、ホムラ」
「は、はい!」
きっとニアとビャッコも然程離れていない場所にいるはずだ。
モンスターもいるかも知れない。急いで探さなければ。
爺さんの茶番で無駄な時間を使った。
でもその前に、1つだけやる事がある。
「あった」
セイリュウの爺さんの背中に乗せていた物が散乱する場所で、ラキアはボロボロになった小箱を見つけた。
よかった、無事だったな…小箱を手にしたラキアは安堵。直後、蓋を壊して開けると、その中には衣類が入っていて、ラキアは物陰で着替えた。
(やっぱりアルストの服装よりも人間界の服装の方が"義体"には合ってるな)
ラキアが着替えた服、それはかつて人間界で着用していて衣類だった。
人間界に来てすぐ、黒ずくめの服装から最初に着替えた格好だ。
〈聖杯の剣〉を腰に背負い、これで今度こそ準備万端。急いでニアを探そう。きっと近くにいるはずだ。
森を少し進むと、何処からか自然の音ではない何かがぶつかる音が耳に聞こえた。
「これは…聞こえたな、ラキア」
「ああ、戦闘の音だな。誰かが戦っている」
「近いです。行きましょう!」
2人と1匹は急ぎ音のする方へ駆ける。
駆け付けた先では、ニアとビャッコがモンスターとの戦闘の渦中だった。
戦っているのは…ワームイーター・グロッグ、湿地帯に生息するモンスターだ。
「ニア!」
「ラキア!?なんで…」
「お嬢様、今がチャンスです。反撃しましょう!」
「わかった!」
ニアがビャッコと共に攻撃を仕掛ける。
ラキアも聖杯の剣を構え、グロッグに炎の斬撃を放つ。
「爺さんは邪魔だから引っ込んでろ」
近くを飛んでいたセイリュウを適当に摘んだラキアは、ポイっと放り投げた。
「お主!年寄りは労われと何度言わせるんじゃ!」
「うるさい。だるい」
それにもう年寄りじゃないだろ。
「ラキア、私に武器を!」
「ああ」
ホムラに剣をパス、駆け出したホムラがグロッグを難なく一刀両断。
戦いは呆気なく幕を落とした。
「助かったよ。その…ありがとう」
「気にするな。俺も助けられたからな」
「そういえば、あの時助けてくれたデッカいアルスは?どこいったの?」
ニアは辺りをキョロキョロと見回す。
「これだ」
またしてもラキアはセイリュウを摘む。
「これ!ラキア!いったい何度言えば…!」
「ええ!?これがあのアルス!?嘘!なんでぇ!?」
「色々あった」
「これとはなんじゃ!これとは!」
今はそれよりも。
「爺さんは後回しだ」
「なに!?」
「落ち着いて話せる場所に移動するぞ。ここだとまたモンスターに襲われる」
ラキアの提案に皆は頷き、少し歩いた先の開けた場所で野営をする事になった。
そこで互いに知らぬ事を話し合う。
「───なるほど、その子と楽園にね」
「ああ、そうなった」
「ふーん」
ニアはホムラを見回すように見るが、ひとしきり見た後、今度はセイリュウへと目を向けた。
「それよりも、アンタなんだってね。助けてくれたの。ありがとう。ビャッコから聞いたよ」
「感謝申し上げます。アルス様」
「礼には及ばん。気にするでない」
「あと、ラキア、アンタだよ!」
ニアは話の矛先をラキアへと向けた。
「アンタの"アレ"なんなのさ。変身!とかやってたやつ」
実際に見たホムラとビャッコもラキアへと視線を向け、ただ1人、いや1匹、セイリュウだけが何の事かと疑問符を浮かべた。
「あれは…」
なんと説明したらいいものか。しばらく視線に晒されながら悩んだ末、ラキアは…。
「だる」
放棄してその場に寝転んだ。
「おい!答えろって!」
「疲れた。だるい」
「はあ?」
「そのうち説明する。今日はもうだるい」
「アンタ、だるいだるい言い過ぎだって。はあ、まあいいや、アタシもだるい…疲れたよ」
「おやすみください。お嬢様」
一行はそのまま森の中で野営。各々複雑な心境を抱えながらも、戦いの疲労と負った傷を癒すために早々と眠りに着いた。
そんな中、ホムラは1人野営地から離れ、近くの水場へ赴いた。その後をセイリュウも静かに追いかけた。
「…」
ラキアは起きていた。が、離れていった2人の後を追う事はなかった。
焚き火の近くで天を仰ぎ寝そべるラキアは、隣でパチパチと燃える焚き火の火を見て、ホムラを連想して思いを積もらせていた。
ホムラの見せた、たった一瞬の表情。仮初の楽園にて、自分に命の半分を託そうとするあの時のホムラの苦悶の表情、あれが頭に焼き付いて離れない。あの顔を知っていたから。
あの顔は、大切な誰かに辛い運命を強いる時に浮かべる葛藤の表情。罪悪感に歪められた辛そうな顔。
ホムラのあの表情が、思い返すほど忘れられなくなる。
(ホムラにも抱えているものがあるんだな)
それがどれほど大きな物なのかは、今は想像もできない。でも、今ホムラにしてやれる事があるとすれば、それは一つだけ。
(楽園に連れて行ってやる、か)
彼女の願いを果たす。そうすれば、ホムラの表情は少しはマシに晴れるのだろうか。
「楽園、行く理由が増えた…か」
小さな呟きが、夜空へと消えていった。
一方その頃、ホムラとセイリュウは、水場の近くで話をしていた。
空気は若干重く、どんよりとしていた。
「ラキアの胸に光るコアクリスタル…何事かと思ったが…そんな事情があったのじゃな。ラキアに命を分け与えてくれた件、礼を言う」
「いえ、私にもやらなければならない事がありますから」
「メツとシンか」
「はい」
ホムラの重く苦しそうな表情を見たセイリュウはラキアを思い浮かべた。
そして、託すと決めた。
「ホムラよ、お主のドライバーとなったラキアを信じるんじゃ。彼奴はそう簡単に折れるような軟弱な男ではない。腕っぷしも立つしの」
優しく言葉を投げかけた。
セイリュウの言葉にホムラは微笑む。
「そして何よりも優しい男じゃ。口ではあーだこーだと言うやも知れんが、必ずやお主らの力となる」
「そうですね。話してみて、少しですがわかりました」
誰かの為に立ち上がり、怒り、必死に守ろうとするあの姿と大きな背中。それは目覚めて間もないホムラの目に焼き付いていた。意を決したホムラは、抱いていた疑問の1つをセイリュウに尋ねる。
「セイリュウさん、彼は…ラキアはいったい何者なんですか…?」
「さあの、ワシにもよくわからん。いずれ本人が話すじゃろう。…それはそれとして、似とるとは思わんか?」
「あっ、セイリュウさんもですか?」
2人は同じ人物を思い浮かべ、ラキアの顔や姿と重ね合わせた。
「ラキアを見とるとな、ど〜してもアデルを思い出すんじゃ。あのふてぶてしい目と顔、口の悪さなど似ても似つかんはず…不思議なものじゃ」
「私も最初に思ったんです。きっと、もう1人の私も同じように…」
「ほう、そうか。不思議じゃのう…」
「ええ。本当に…」
「これも何かの縁、という事かのお…」
こうして夜は過ぎていく。
つづく
次回はメツやバーンのパートになる予定です。
またよろしくお願いします。