「っ……くっ……アッハッハッハ!!」
ラキアの装甲───その異様な変身を目の当たりにしたメツは、腹を抱えて盛大に笑い飛ばした。
「何を見せられるかと思えば、とんだ曲芸、お笑いだぜ! それがどういうデバイスかは知らねぇが、ちっとばかり鎧を纏った程度でどうにかなると─────」
───ドガァンッ!!
瞬き一つの間に、メツの巨体が真横へと吹き飛んだ。
甲板を勢いよく転がり、膝をつくメツ。
(っ……!?)
鈍い痛みが走る。右頬が猛烈に熱い。
殴られたのだと、メツは遅れて理解した。あまりの速度に、反応すらできなかったのだ。
「……やっと一発入ったな」
銀色の騎士───ラキアが拳を握り直す。
起き上がったメツは、血走った目で目の前の騎士を睨みつけた。ふざけた余興だと思っていたが、完全な見誤りだった。
「何者だ、お前は……!」
「ヴラム。仮面ライダー……ヴラムだ」
仮面ライダーヴラム───アラモード・モード。
「仮面……」
「ライダー……?」
ニアとホムラが、呆然とその名を呟く。
「そんなデバイスは見たことがねぇ。いや、俺達の知るデバイスの系統とも違うな……小型化されたデバイサーってところか」
メツの瞳に、禍々しい興味の色彩が宿る。
「そんなモノを持ってやがるお前は……一体何者だ!?」
「答える義理はない」
「そうかよっ!!」
狙いを絞らせない不規則なジグザグ移動で間合いを詰めたメツが、旋棍の刃をラキアの首元へ振るう───!
「同じ轍を踏まないと言ったはずだ」
ヴラムは感情を削ぎ落とした静かな声とともに、メツの剛腕から繰り出された一撃を、ただ『腕の装甲』だけで受け止めて見せた。
『スイーツタイム!』
ベルトのレバーを滑らかに操作し、左腕に重厚な輝きを放つ盾《シルヴァディフェンサー》を生成する。
メツが放つ怒涛の追撃を、完璧な精密さですべて叩き落とし、防ぎ切る。
「メツ!」
「ほらよっ!」
メツはザンテツに武器を投げ渡した。攻撃の要をザンテツにスイッチし、連携でヴラムを押し潰す構えだ。
ドライバーとブレイドとして培われた二人の連携。真正面からの力勝負では分が悪いと、ヴラムは冷徹に思考を巡らせる。経験値で優る相手のペースを崩すには、ヴラムとしての『真骨頂』を発揮し、二人を強制的に分断する他ない。
───敵の連携を、自分の土俵で徹底的に砕く。
ヴラムはザンテツの放つX字の飛ぶ斬撃を盾で弾くと、側面から肉薄するメツの動きを完璧に予測し、シルヴァディフェンサーをブーメランのように回転させて投げつけた!
高速回転する銀の刃。一度紙一重でかわされたとしても、それは追尾し、確実に相手の足を止める。
避けたと思った瞬間こそ、シルヴァディフェンサーが真の牙を向く瞬間だ。背後で大きく弧を描いた盾が、メツの無防備な背中へ襲いかかる!
「なに!?」
驚愕したメツは咄嗟に振り返り、蹴り飛ばして盾を弾いたが、その一瞬で完全に足が止まった。
狙い通り、二人の連携は潰れた。
『スイーツタイム!』
その隙に、シルヴァディフェンサーを再び生成。右手に聖杯の剣を強く握り直す。
左手に絶対の盾、右手に赤き剣。その銀色の佇まいは、まごうことなき聖杯を守護する気高き騎士そのものだった。
標的は、メツのフォローに入ろうと動いたザンテツ!
「逃がさない」
地を蹴り、一瞬で間合いを詰めたヴラムが、ザンテツへ向けて聖杯の剣を振り下ろす。
数々の修羅場を潜ってきたザンテツも即座に応戦し、逆手持ちの旋棍で初撃を受け止めた。だが、剣と盾を織り交ぜたヴラムの隙のない怒涛の連撃に、次第に防勢へと追い込まれていく。
そして───ヴラムはザンテツの懐へ滑り込み、その腹部に炎を纏う真紅の刀身を深く押し当てた。
「しまっ────!?」
悟った時には、すでに遅かった。
一閃。ヴラムの残像がザンテツを瞬時に切り抜ける。
「ぐあぁぁぁぁっ!?」
鮮血のようなエーテルを撒き散らし、ザンテツが膝から倒れ込む。
だが、倒れ伏すその土壇場───ザンテツはブレイドとしての凄絶な意地を見せた。己の旋棍を手放し、雨に濡れた甲板の上を滑らせたのだ。
滑り出した旋棍は、メツの足元へとピタリと届く。
たとえ身が滅びようとも、主人であるドライバーに武器を届ける。ザンテツはブレイドとしての全存在を懸けて、自らの役目を完遂したのだ。
「ホムラ!」
メツが旋棍を拾い上げるのと同時に、ヴラムは聖杯の剣をホムラへとパス!
受け取ったホムラがそのままの勢いでメツへと斬りかかった。
足で蹴り上げた旋棍を掴み、メツが猛然と応戦する。刃と刃が激しくぶつかり合い、閃光と火花が散った。
「寝起きにしちゃあ、いい太刀筋をしてるぜ……!」
「……!」
「随分と質の良いドライバーを見つけたじゃねぇか。"500年"────無責任に眠りこけたお前が、今更起きて何をする気だ? いや、"お前達"の目的は分かりきってる。改めて聞くまでもねぇな!」
「……!」
「だが、その姿はどういうつもりだ?」
メツはホムラの瞳の奥を見つめ、その真意を問う。
ホムラは言葉を発さず、ただ力強い眼差しでメツを睨み返した。
「やはり目指すか───『楽園』を!」
「それが……"私達"の望みです!」
ホムラの声には、万感の思いと確固たる意思が宿っていた。
「なら、させるわけにはいかねぇなぁっ!」
互いの譲れぬ信念が真っ向から衝突する。
激しい打撃の応酬が再び交差しようとしたその時───二人の間を、巨大な肉塊が吹き飛んで横切った。
叩きつけられたのは────ザンテツだった。
二人の頭上を跳躍して着地したヴラムが、満身創痍で立ち尽くすザンテツの前に立ちはだかる。
「お前は何故、メツに従う。……殺せと言われれば、命令一つで誰の命でも奪うのか?」
「なにを……言っていやがる! それがブレイドってもんだろ! "俺達(ブレイド)"がドライバーに従うのは……当然のことだ!」
「そうか。……なら、ここで散れ」
ヴラムは腰のレバーを深く押し上げた。
『3』
『2』
『1』
刻まれるカウントダウンとともに、踏み出す足音。
『フルチャージ!』
完成されたエネルギーが集約され、機械音声が戦場に響き渡る。
ヴラムの右足に、高密度の破壊エネルギーが渦を巻いた。
それを肌で感じ取ったメツの眉間が激しく寄る。
(エーテル由来の力じゃねぇ……どちらかと言えば、デバイスの"それ"に近い力だ……!)
「終わりだ」
地を穿ち、空高く躍り出たヴラムの必殺の一撃───『ライダーキック』が、ザンテツの胸元を正確に穿ち抜いた!
『プリンテンペスト!!』
ドゴォォォンッ!!
絶大な衝撃波が弾け飛ぶ。
地に伏したザンテツの身体から、煌びやかな青い粒子が激しく溢れ出していく。
メツの手に握られていた旋棍もまた、脆く光となって霧散していった。
「メ……ツ……」
最期にドライバーの名を呼び残し、ザンテツの姿は光の粒子となって雲海へと消え去った。
カラン……と虚しい音を立てて甲板に転がったのは、光を失い、深く沈黙した一つのコアクリスタルだけだった。
ザンテツを討ち取ったヴラムが、ゆっくりとメツへ視線を向ける。
メツは見たことも聞いたこともない『銀色の騎士』の姿を冷徹に見つめると、不敵な笑みを浮かべた。
「……やるじゃねぇか」
己のブレイドを容易く討ち破った強さを讃えるメツ。だが、その態度はラキアの怒りを静かに逆撫でした。
「……仲間がやられて、それだけか」
「生憎と、感情に浸る生温い感覚は持ち合わせてなくてな」
「お前とは、とことんそりが合わないな」
「お互い様だろうさ!」
再び刃を交えようとしたその瞬間────ヴラスタムギアが激しい警告音とともに過熱し、バチバチと火花を散らした!
「くそ……ここまでか!」
限界だ。これ以上負荷をかければギア自体が不可逆の破壊を起こしてしまう。
ラキアは即座にプリンテゴチゾウを取り外し、変身を強制解除した。
眩い光とともに、銀の装甲が消え去り、軽装のラキアの姿へと戻る。
「あ? なんだよ、もう終わりか……?」
メツの口角が、凶暴に吊り上がった。
「なら、ここで全滅といこうぜ!!」
メツが手を掲げると同時に、古代船の真横に接岸していた巨大戦艦『モノケロス』が不気味な駆動音を立て、無数の砲台を一斉に展開!
そのすべてが、ラキアたちへと照準を合わせた。
「やれぇっ!」
合図とともに、嵐のような砲撃の雨が降り注ぐ!
ラキアは鋭い身のこなしで射線から跳んで回避し、ホムラはエーテルバリアを展開して直撃を防ぐ。だが、モノケロスの圧倒的な物量による連続砲撃は、天の聖杯のバリアすらも容赦なく削り取っていく。
「きゃあぁっ!?」
耐え切れずバリアが砕け散り、ホムラが甲板へ倒れ込んだ。
「ホムラ!」
ラキアが咄嗟に駆け寄り、彼女を庇うように立ちふさがる。だが、無数の砲口が固定され、二人を一網打尽にせんと赤く光り輝いた。
(くそ……かなりヤバいぞ……!)
万事休すかと思われた、その時───。
「やめろぉぉぉぉッ!!」
咆哮とともに、ニアがビャッコを駆り、二人の眼前へ飛び込んできた!
凛とした表情でエーテル障壁を展開し、襲い来る砲火をその身で受け止めるニア。
「ニアぁ……余計な真似を……! 構わねぇ、ニア諸共だ!撃ちまくれ!」
メツの非情な命を受け、集中砲火がニアとビャッコの一点へと叩きつけられる。
どんなに強い意志があろうとも、戦艦の集中砲火に耐え切れるはずがない。激しい爆炎が二人を包み込み、ビャッコのバリアが悲鳴を上げて崩壊した。
「あぁぁっ!?」
激しい衝撃波がニアの小さな身体を打ち据える。
凄まじい爆風に煽られ、ニアの身体が宙へと吹き飛ばされた!
「お嬢様ぁぁっ!」
ビャッコの悲痛な叫びが響く。
甲板の外は、冷たく底知れぬ雲海。投げ出されれば、命はない。
「ニアッ!!」
ラキアの身体が、思考よりも速く動いていた。
(やるしかない……!!)
ラキアは迷うことなく、古代船の淵から雲海へ向かってダイブした!
自分の力を隠したせいで誰かを死なせる───そんな惨めな後悔だけは絶対に繰り返さない。激しい覚悟とともに、ラキアは自らの内に眠る『グラニュート』の力を解き放つ!
異世界の生物たる強靭な脚力で古代船の外壁を力強く蹴り伸ばし、落下するニアの腕を空中でもぎ取るように掴み寄せた。
そのまま小さな身体を抱き抱えるが、このままでは二人まとめて雲海の底へと真っ逆様だ。
───シュルッ!!
ラキアの腕から、水色に透き通った触手が勢いよく伸びた!
触手は鞭のようにしなり、古代船の手すりと外壁の鉄板へ深々と食い込んで二人の落下を繋ぎ止める。
腕の中に抱えたニアを見やると、衝撃で気を失っているものの、目立った怪我はない。
(よかった……間に合った……!)
だが、胸を撫で下ろす隙などなかった。
宙吊りの状態では動きが完全に制限される。モノケロスの砲台が重々しい音を立てて向きを変え、無防備なラキアとニアへと狙いを定めた。
「また妙な力を……何なんだテメェはよ!だが、そのしぶとさもここまでだぁっ!」
(くそっ……せめてニアだけでも上へ放り投げるか……!?)
ラキアが歯を食いしばった、その瞬間───!
───ズガガガガァンッ!!
上空から降り注いだ火球が、モノケロスの砲台群を次々と爆破、炎上させた!
「なに……!?」
驚愕したメツが空を見上げる。
暗雲を切り裂き、巨大な翼を広げて舞い降りてきたその影の正体は───。
「爺さん……!?」
セイリュウだった!
ゴルトムントから全速力で駆けつけた龍が、ラキアたちの窮地に馳せ参じたのだ。
セイリュウは口から高熱の火球を連射し、モノケロスの砲台を破壊していく。その鋭い瞳が、甲板に立つメツとシンをとらえた。
(ラキアから話を聞いた時は耳を疑ったが……本当にメツのようじゃな……)
そして───。
(シンよ……お前は、まだ……)
久しく目にしていない、シンの姿。
だが、感慨に浸っている時間はない。
「乗るんじゃ、ラキア!!」
(やれやれ……年寄りが無茶しやがって……)
「ホムラ! ビャッコ!」
ラキアの叫びに応じ、ホムラを背に乗せたビャッコが俊敏な跳躍でぶら下がるラキアの元へ到達。
「ラキア!」
伸ばされたホムラの手をラキアが強く掴み取り、全員がセイリュウの背中へと飛び移った!
「ラキア! だから言ったじゃろうが、無茶をするなと!」
「だるい。説教は後にしてくれ!」
「老体に鞭打って助けに来たワシにその言い草か!?」
「急げ、爺さん!」
「わかっとる!振り落とされるなよ!」
セイリュウが翼を強く羽ばたかせ、一気に加速する。
「逃すな! 撃てぇっ!」
モノケロス残存の砲撃が空を追うが、セイリュウは巧みな飛行で雲海の彼方へと全速力で離脱していった。
「追撃だ! 船首回頭!」
「無駄だ。すでに射程外だ」
「チッ、奴ら逃げ切りやがった!」
シンの静かな制止に、メツは忌々しそうに吐き捨てた。
セイリュウの影は見る見るうちに小さくなり、やがて空の彼方へ消えていく。
「シン、どうする? 追うか?」
「ヨシツネに捜索させる。……天の聖杯が目覚めたのなら、今はそれでいい」
「へっ、そうかよ」
「ラキア・アマルガ……意志によって導かれた男、か」
「なんだよ、随分とお気に入りじゃねぇか」
「似ている」
「アデルにか?」
「ああ。……だが、奴はまだ何も知らない」
シンは踵を返し、モノケロスの中へと消えていく。
メツは遠ざかった空を見上げ、ニヤリと凶暴な笑みを深めた。
「お人好しのラキア・アマルガ……仮面ライダーヴラム……覚えたぜ」
───ハッ、楽しめそうじゃねぇか。
「"半端な天の聖杯"なんかよりも、よっぽどな……!」
第一章 カラメル出逢い -完-
これにて第一章は完となります。
読みやすい文字数を教えてください
-
2000〜3000
-
3000〜4000
-
5000〜6000