ラキアの所持ゴチゾウはプリンテとザクザクチップスのみです。
チップス君には重要な役割があるので、その日までお待ちください。
それではどうぞ。
『……というわけで、ラキアに助けられて命からがら逃げてきたも……』
「というわけ……じゃないも!!」
アヴァリティア商会・会長執務室。バーンの怒号が爆発した。
内心は荒れ狂う暴風雨どころの騒ぎではない。部屋にあるもの全て、ひいては目に入るノポンや商人全員を叩き潰しかねない凄まじい怒気だ。
お抱えの踊り子たちもその恐ろしさに青ざめ、執務室の隅で身を寄せ合って震えている。
「お前はアホかも!? どうしてきっちり死んでこないも!! 後で返金しろとか怒鳴り込まれたらどうするつもりも!!」
『え? そ、それはどういう意味ですも……?』
通信機に映し出されたプニンへ、怒声を発し続けるバーン。対するプニンは言葉の真意が理解できず、モニター越しに首を傾げた。
その間抜けな表情と声がさらにバーンの神経を逆撫でし、顔はみるみる朱に染まり、機嫌は加速度的に最悪の底へと突き落ちていく。
「お前は何も知らなくていいも! 黙ってるも!!」
いつになく荒れ狂うバーン。普段なら踊り子が色仕掛けで擦り寄れば鼻の下を伸ばして上機嫌になるものだが、今日の怒りには何をどう足しても火に油を注ぐ結果にしかならない。
激昂を抑えきれず、バーンは肉厚な手で勢いよくデスクを叩きつけた!
(まったく、全て順調に事が運んでいたのに、とんでもない面倒になったも! ラキアの奴……珍しい風貌と腕を買って雇ってやったのに! 金の匂いがしたから今まで目をかけてやってきたのに……恩を仇で返しやがって、最悪の気分も!!)
ぐぎぎ……! と歯を剥き出しにして噛み締めるバーン。
(あの連中から受け取った前金はもう懐に入れたも。誰にも渡さないも! だいたい、部下の失態は部下の責任だも! いざとなったら全責任を背負わせて、のこのこ戻ってきたアイツらを切り捨ててしまえばいいんだも!)
『あ、あの……バーン会長……?』
「うるさいも! 黙ってるも!!」
『ひぁっ!?』
ついぞ堪忍袋の緒が切れ、バーンはデスクの上の資料や小道具を一気になぎ払った! バサバサと書類が舞い、高価な調度品が床に落ちて割れる。
多少散らかして息を荒らげた後、バーンはプニンを睨みつけた。
「……で、ラキアとそのブレイドはどこへ行ったんだも?」
『ラ、ラキア達を乗せたアルスは、トルネア海から南に逃げて……その後は行方知れずですも……』
「わからない、も?」
『はい……急な暴風雨も激しかったもので……』
「で、お前たちはのこのこ手ぶらで逃げ帰ってきたんだも?」
『は、はいも……』
「こ、この……!」
『も?』
「この役立たず!! お前は底ぬけの役立たずも!! なぜ速攻でラキアの後を追わなかったも!!」
『そ、そう言われましてもぉ……』
「言い訳は聞きたくないも!」
バーンは再び激怒し、拳で何度も机を連打する。
「く〜っ! とっとと戻ってこいも! 次の仕事が山積みになってるも! 今回の損失分を帳消しにするまで、給料が出ると思うなも!!」
『そ、そんなぁ……!』
「うるさいも! うだうだ言うんじゃないも! これ以上文句を言うならクビだも! お前の代わりなんていくらでもいるのを忘れるなも!!」
感情のままに怒鳴り散らしたバーンは、愕然とするプニンの顔を無視し、一方的に通信を途絶させた。
荒い息を吐き出すバーンだったが、苛立ちが収まる気配は微塵もない。
「ウズシオにも保険をかけてたってのに、これじゃあ大損だも……。ラキア・アマルガ、本当に余計なことをしてくれたも!」
苛立ちが限界を突破したバーンは、ラキアとの雇用契約書をビリビリに破り捨て、紙屑にして床へぶちまけた。
「もう二度とアヴァリティア商会の恩恵を受けられると思うなも!!」
事実上のクビ宣告。だが当然、ここに居ないラキアが知る由もない。
そしてバーンは腐っても商会の会長を張る大物ノポン。すぐさま頭を切り替え、この損失をどう補填し、さらに利益を叩き出すかへと思考を巡らせた。
「……トルネア海から南に向かったとすれば、今の潮の時期ならグーラに向かった可能性が高いも。おい、そこのお前!」
「は、はいようでしょうか!?」
「グーラのモーフ領事を呼び出せも! 急げも!」
「は、はいぃ!」
秘書官が慌てて通信機を操作し、グーラ領のトップを呼び出す。
モニターに映し出されたのは、豚のような鼻をした高慢そうな男───モーフ領事だった。
『これはこれは、バーン会長。先立っては大変お世話になり……』
「前置きはいらないも。今日は手短に本題に入るも」
『おや、随分と荒だっておられるご様子で。一体どのようなご用件でしょうか?』
「……『天の聖杯』の目覚めだも」
『なんと……!?』
「それから、ラキア・アマルガという子生意気な男に関する情報だも。この話……高くつくも~?」
強欲なノポンの企みが、アルストの混乱と争いの渦をさらに激しく掻き回そうとしていた。
♢♢♢
一方、夜が明けた朝方。
ラキアたちは静かな森の中で出立の準備を整えていた。
「ここは……『グーラ』だったのか」
「うん、そうだよ」
昨夜は暗闇で気づかなかったが、ここはラキアも足を踏み入れたことのある土地だった。
現在地が判明し、一行の道筋が少しだけ明確になる。
「ラキア、グーラに来たことあったの?」
「二度な。フリーのサルベージャーで生計を立てていた頃、トリゴの街に獲物を売りに行っただけだが」
「あの時は街のすぐ近くに接岸したから、ここがグーラだとは気づかなかったのう」
「あの時は色々あったからな……」
「何があったんですか?」
「サルベージした品を盗まれたんだ。少し目を離した隙にな」
かなりの大損だった。盗まれた品は───
『かんぺき測距センサ』
『ビヨンコネクタ』
など、希少価値の高い機械部品ばかり。
「あの時俺の荷物をくすねたノポンの顔は、今でも忘れてないからな」
「根に持っておるのう……」
「当たり前だ。商売が一つ白紙になったんだからな」
「よくノポンの顔が見分けられるね……。ま、そんなことより行くんだろ? トリゴの街に」
「ん? ああ……そうだな」
街へ向かう道中、ラキアは頭の中で冷徹に状況を整理する。
(メツたちはホムラを回収し、目撃者を始末して情報の出所を完全に潰そうとした。そこまで徹底していた奴らが、天の聖杯の情報をわざわざ公に広めるとは思えない。……今の懸念はむしろ────バーンの方だ)
ラキアの思考が研ぎ澄まされていく。
(俺たちをメツに売り、プニンに監視させていた以上、バーンはホムラの存在にも気づいている。商会の網なら……トリゴのような大きな街にはバーンの息がかかった奴が必ずいるはずだ。金に目敏いあのノポンが動かないわけがない。……刺客を雇うか、あるいは領事あたりの有力者に情報を売って利益を得るか。どっちにしろ、街に入るリスクは高い)
だが、街へ行ってアルス船を調達しなければ『世界樹』や『楽園』を目指す術がないのも事実。足踏みをして後手に回れば、追撃に追われる羽目になる。
(爺さんが飛べれば話は早かったんだが……無い物ねだりをしても始まらないか。はぁ……だる)
気乗りはしないが、前進するしかない。
「……よし。一先ずはトリゴの街を目指すぞ」
ラキアの言葉を受け、一行はトリゴの街に向けて足を踏み出した。
ニアの案内により、森を抜けて平原へと続く登り道を進む。道中、野生のモンスターに襲撃される場面もあったが、手際よく退けながら順調に距離を詰めていく。
「おい、爺さん。一つ聞きたい」
歩みを進める中、ラキアはビャッコの背に乗る小さなセイリュウへ問いかけた。
「なんじゃ?」
「……『レックス』という名前の子供を知っているか?」
「……ッ!?」
セイリュウは一瞬驚愕に目を見開いた後、キュッと口を固く結んで黙り込んだ。
「黙るってことは、知ってるんだな」
「……すまんが、レックスの件はまだ話せん」
「理由があるんだな」
「コルレルと決めたことじゃ」
「コルレルの婆さんと……?」
「そうじゃ。この先、イヤサキ村へ帰った時、コルレルと共にレックスの話をしよう。それまでは待っておれ」
「……わかった」
「……やけに素直に引き下がるのう」
「事情があるんだろ。無理に聞き出す気はない。話してくれるなら待つさ」
「すまんのう……」
「あいつらのことも、いい」
「レックスはともかく、なぜじゃ? メツやシンのことも聞かぬのか?」
「……ホムラがな」
ラキアは、前方でニアと話しながら歩くホムラの背中に視線を向けた。
「訳ありだろ。聞かれたくない過去くらい、誰にでもある」
秘密のない奴なんていない。知られたくない過去の傷や、言いたくても言えない事情。
ラキア自身が、それを一番よく知っている。
「……お主の、"あの力"のようにか?」
「……見てたのか」
「少しだけな。ニアを抱えて船の外壁からぶら下がっておったろ。あれはエーテルの力でも、天の聖杯の加護でもない……見ればすぐにわかったわい」
「伊達に長生きしてないな」
「異質な力かそうでないかくらいは見分けがつく。……ラキア、お主がどういう存在なのかは知らんが、お主が聞かんかったように、ワシも野暮な追求はせん」
「ああ……今はそうしてくれると助かる。ありがとな、爺さん」
「……じゃがな、いずれ『その時』は来るぞ」
セイリュウの瞳が、真剣な色を帯びる。
「明日かもしれんし、もっと先かもしれん。……ただ、後悔だけはするでないぞ? 言わぬまま『最悪』を迎える可能性もある。お主が進もうとする道は、そういう過酷な道じゃ」
───言われなくても、分かってるさ。
アルストへ流れ着く前、世界の境界で死を覚悟した。
一度は捨てたはずの命を今度はホムラに救われた。
分かっている。
コメルが帰ってこなくなった家を飛び出したあの日から、俺はずっとその道を歩いているんだから。
「……やらなきゃならないことがある。放っておけない奴らもいる。もう死ぬ気はないさ」
全てを果たし、必ず『楽園』に辿り着くまでは。
「それはそれとして……もう二度と、あんなふざけた真似はするなよ。次やったら……」
「やったら……なんじゃ?」
「ビャッコのエサにする」
「食べませんよ!?」《/xbig 》
なんだ、食べないのか。
上層の勾配を登りつめ、一行は進む。
ニアの案内は極めて的確で、この地域の地形を熟知しているようだった。小さな池を越えると、視界が一気にひらけた。
青々と広がる『トリゴの平原』。その遥か先には、目的地であるグーラ領・トリゴの街がはっきりと見えた。
だが、街を目の前にして、ニアが急に足を止めた。
「……ここがグーラのアルス上層右半身。さてと、アタシはここでお別れだね」
「あんな奴らの元に戻る気か?」
「……うん。アタシは戻らないと」
苦しさと切なさを張り付かせた、痛々しい作り笑いを浮かべるニア。
ビャッコは主であるニアの意思を尊重し、静かに目を伏せている。
「お前を利用して、殺そうとした奴らだぞ?」
「……日は浅くても、仲間だったからさ」
「メツがお前に何をしたか、お前自身が一番分かってるだろ」
「そりゃ……メツのしたことは許せないっていうか、どうかと思うさ! でもさ、シンだって……何かきっと理由があって……!」
自分に言い聞かせ、現実から目を背けようとする言い訳。
泳ぐニアの瞳を見て、ラキアは察した。ニアは過去の居場所に固執し、そこにしか自分を受け入れてくれる場所がないと思い込んでいるのだと。
「……そうか」
他でもないお前自身が選んだ道なら、好きにすればいい───なんて言うと思ったか。
───ひょいっ。
「……ふぇ!?」
ラキアは問答無用でニアを担ぎ上げた。
米俵のように肩に担がれたニアは、手足をバタバタさせて猛反発! ラキアの背中をポカポカと叩きながら叫んだ。
「おいっ! 何するんだよ!」
「暴れるな。だるい」
「放せよ!」
「お前がその気なら、無理矢理にでも連れて行く。あんな奴らのところに返すわけないだろ」
「はあ!? アンタに何の権利があるっていうんだよ! 放せってば!」
「……」
「無視するな!」
「行くぞ、ホムラ、ビャッコ」
「は、はいっ!」
「ビャッコ、なんとかしなさいよ!」
「……申し訳ありません、お嬢様」
「おいぁぁぁっ!」
「さっさとトリゴの街に行くぞ」
「話を聞けぇぇぇっ!!」
ジタバタと暴れるニアの姿に、ラキアはふと懐かしい感覚を覚えた。
バカみたいに騒ぐこの感じ───絆斗(バカ)にそっくりだ。
「……ああ、バカか」
「誰がバカだっ!!」
「安心しろ。俺の知ってる限り……お前はマシな方のバカだ」
「ムキーッ! なんだとぉ!!」
「バカをバカと言って何が悪い、バカ」
「バカって言った方がバカなんだよ!!」
「だる。お前の方がバカだ」
「ムキーッ! バカ!!」
「バカみたいに騒ぐなバカ。バカがうつる」
「うつるか! バカ!!」
「ハッ……やっぱりバカだな」
「っ~~~! なんだとぉ~! バカにしやがって~! うにゃあぁぁぁっ!」
ニアはさらに暴れ狂い、ラキアの背中で頭をふり乱す。
呆れて首を振るセイリュウ、なぜか嬉しそうに口角を上げるビャッコ、そして慌てふためくホムラ。
見かねたホムラが、恐る恐る二人の間に割って入った。
「あ、あのっ! バカバカ言っちゃいけないと思います! 二人ともバカに────」
《xbig》「誰がバカだ!」
「ええぇっ!?」
「ホムラ、こんなバカと一緒にするな」
「なんだとお~! 許さん! 引っ掻いてやるぅぅ!」
「ホムラよ、戯れ合っておるだけじゃ。放っておいて問題ないぞ。あれでラキアも楽しんでおるからのう」
やれやれ。
「……だる」
つづく
読みやすい文字数を教えてください
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2000〜3000
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3000〜4000
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5000〜6000