守護の騎士が至る道 作:匿名希望
ついに登場です。
「貴様ら、そこを動くな!!」
グーラ人の少年が走り去った直後、入れ違いのように路地裏の前後からスペルビアの甲冑兵たちがぞろぞろと現れた。
完全に挟み撃ちの形で取り囲まれる。
「むむ。こやつら、帝国軍じゃ……! ラキア……っ」
「ああ、分かってる」
完全に油断していた。スペルビア兵たちの素早い包囲網を前に、ラキアたちは取り囲まれる。
「そこの者、帝国に仇なす反逆者『イーラ』の者だな!」
先頭のスペルビア兵が、ニアをビシッと指さして大声を張り上げる。
ニアは「しまった……」と自身の軽率な行動を後悔した。自分が手配されている身であるにもかかわらず、表立って街中を歩きすぎてしまったから…。
「“元”だろ? なあ、ニア」
「え? あ……」
ラキアの不意の助け船に、ニアは一瞬戸惑い、胸を張って「そうだ!」と言い切ることができなかった。
「ま、それを聞いてくれるような話の分かる相手じゃなさそうだがな」
「何をブツブツと! 白き獣を連れたグーラ人のドライバー! 手配書の人相書きともそっくりではないか! 言い逃れはできんぞ!」
「……ふっ。人相書きと……そっくり……?」
ラキアは先ほど掲示板で見た、あの『ビャッコの顔が合体した酷すぎるニアの人相書き』を思い出し、耐えきれずに吹き出してしまった。
「笑うな!!」
ニアが顔を真っ赤にして声を荒らげる。
「それで? その“瓜二つ”の手配書がどうしたって?」
「シャアーッ!!」
猫のように威嚇してラキアに爪を立てようとするニアをスルーし、ラキアは兵士たちを冷ややかに見据えた。
すると、兵士は今度はラキアへと視線を向けた。
「そして貴様だ! ラキア・アマルガ!」
「俺……?」
「『天の聖杯』のドライバーである貴様と、そこの翠玉色のコアクリスタルを持つブレイド───『天の聖杯』には、領事閣下から確保命令が出ている! 大人しく投降しろ!」
帝国の目的はニアの身柄だけではない。ラキアと、そして天の聖杯であるホムラまでもが最初から標的だったのだ。
スペルビア兵からの告発に、ラキア以外の面々が息を呑む。
「な、なんでラキアの名まで……!?」
「随分と情報の出回りが早いですね……」
「ホムラだけでなく、ドライバーであるラキアの名まで知れ渡っておるとはのお……」
仲間たちが動揺を見せる中、ラキア一人だけは一切の焦りを見せず、冷静に思考を巡らせていた。
(天の聖杯の情報はやはり出回ってるか……)
驚きはない。最初から予想していた範囲内だ。
ラキアは頭の片隅に置いていた推測を確信に変え、答えへと辿り着く。
(……だる。バーンか)
内心で忌々しく毒づく。
アヴァリティア商会の会長であり、情報と金の亡者であるバーンならば、スペルビア軍やグーラの領事と裏で繋がって情報を売り飛ばしていても何ら不自然はない。
だが、今は細かいことを考えている場合ではない。
まずは目の前の障害をさっさと蹴散らして姿を消し、世界樹へ向かうための船を調達するのが先決だ。大ごとになる前に片付ける。
「どうやら、全員まとめて狙われてるみたいだな」
ラキアは背中合わせの体制をとると、隣のニアに低く語りかけた。
「自分だけの問題なら、自分一人で解決する……そう考えてただろ?」
「なんでもお見通しってか?」
「そんなんじゃない。ただ……」
ラキアの脳裏に、かつて共に戦った───優しすぎるが故に、一人で抱え込んで傷つこうとしていた『ショウマ』の姿が不意に思い浮かぶ。
「……ニアみたいに、なんでも一人で抱え込む……お人好しな奴を知っていた。ただそれだけだ」
「……っ」
自分の孤独や痛みを完全に見抜いている…そんな風に思わせるラキアの言葉に、ニアは言葉を詰まらせるのだった。
「正面は俺とホムラが引き受ける。ニアとビャッコは後ろを頼む」
「分かったよ!」
「心得ました」
「行けるよな、ホムラ」
「もちろんです!」
ホムラはしっかりと頷き返し、ラキアは手に握った天の聖杯の剣を強く構える。
「じいさんは、その辺で寝てろ」
「ワシをなんだと思っとるんじゃ、貴様は!?」
「いくぞ……!」
ラキアが聖杯の剣を前に掲げ、ニアが両手にツインリングを構える。
その明確な敵意を受け、取り囲むスペルビア兵たちも一斉に銃口を向けた。
「反抗する気か! 構わん、制圧しろ!!」
その怒号を合図に、戦いの火蓋は切って落とされた───が。
結果はあまりにも一方的だった。
ラキアとニアの二人は、迫り来るスペルビア兵を瞬く間に圧倒してみせたのだ。
大勢の数で勝っているはずのスペルビア兵たちは、ラキアの鋭く無駄のない剣筋とニアの流れるようなリング捌きの前に何もできず、次々と路地裏へ叩き伏せられていく。
「つ、強い……っ! 一人はガキだと侮っていたが、やはりイーラのお尋ね者……! 片や『天の聖杯』のドライバーか……! 格が違いすぎる……!!」
悲鳴を上げる隊長の周りには、すでに数多くの兵士たちが横たわり、意識を失っていた。
残っているのはほんの数人。今が抜け出す好機だとラキアは踏んだ。
「数が減った。引き際だ」
ラキアの短い合図に、仲間たちは無言で力強く頷く。
「今だ!」
ラキアたちは踵を返し、来た方向とは真逆の路地へ向かって一目散に駆け出した。
───だが、次の瞬間。
ズォォッ……!!
凄まじい熱量とともに、路地の出口に『青い炎の壁』が噴き上がり、彼らの行手を無情に塞いだ!
「騒がしいですね……束の間の休暇を満喫していたというのに」
背後から響いたのは、凛とした静かな女性の声。
振り返ったラキアたちの視線の先に立っていたのは、一人の美しきブレイドだった。
揺らめく炎を思わせる神秘的な青い髪をなびかせ、青を基調とした優美な衣装を纏っている。その両手には、二対の剣が握られていた。
その姿を見たスペルビア兵たちが、激しく狼狽しながら背筋を正す。
「カ、カグツチ様……!!」
恐る恐る名を呼ぶ兵士たちを意に介さず、彼女は静かに佇んでいる。
「この気配……」
戦いに慣れてきたラキアは、相手の気配の違和感にすぐさま気づいた。
「……ブレイド」
「ええ、ご名答…と言っておくわ」
「一人だけか」
優雅たる立ち姿で見下ろす彼女へ、ラキアが呟く。
「私のドライバーはある重要任務で遠征中です。今は私一人」
「ふははは! こちらにおわすお方こそ、帝国最強のブレイドと名高い『帝国の宝珠』───カグツチ様だ!!」
隊長の高笑いと『帝国の宝珠』という異名に、ラキアは聞き覚えがあった。
「帝国の宝珠って、確か……」
ラキアは隣で警戒露わに身構えるビャッコへと視線を向ける。
「ええ、間違いございません。スペルビア帝国最強のブレイドです。まさかこのような形で相まみえることになろうとは……」
アヴァリティアの商会船でビャッコが語っていた人物だ。あの時は関わることもない遠い存在だと思っていたが、まさかこうして直接拝む羽目になるとは。しかも、敵として。
「カグツチ様! そこのグーラ人はイーラの手の者です! そして、そこの赤毛のブレイドは───」
「……天の聖杯」
カグツチの顔が静かにホムラの方へと向けられた。
「その翠玉色のコアクリスタル……」
静謐な佇まいのまま、ホムラを見つめるカグツチ。
対するホムラは、どこか悲しげな表情でカグツチの顔を見つめ返していた。
「……ご存知でしたか」
「ええ。ですが、この件に関しての報告は受けていません。パスク警備長……後でゆっくりと事情を聴かせてもらいましょうか」
「は、はいっ……!」
「殺生は禁じます。必ず彼らを生かして捕えなさい」
「はっ!」
カグツチが静かに一歩踏み出すと、両手に携えた細剣の刀身が青い光を帯びて輝いた。
今すぐ引き下がりたいところだが、相手は帝国最強のブレイド。ドライバー不在とはいえ、簡単に振り切れる相手ではなさそうだ。
───やるしかない。
ラキアは意を決し、聖杯の剣をカグツチに向けた。
つづく
短めで申し訳ないです。
次も新たなキャラクターの登場です!