部屋に入ってきた連中は、どう見ても『普通』ではなかった。一人だけ小さな少女が混ざってはいるが、他の奴らは風貌から顔つきに至るまで、これまで出会った人間やノポンとは一線を画す異質な雰囲気を纏っている。
先頭を歩くのは、獣の耳を生やした銀髪の少女。黄色の衣装を身に纏う彼女の隣には、四足歩行の毛並みの良い白虎が付き従っていた。
("ドライバー"に"ブレイド"か)
少女と、その背後に続く二人をラキアは交互に視線で追う。
次に入ってきたのは、黒い鎧越しにも伝わる体格のずば抜けた大男。黒髪短髪に不敵な笑みを浮かべ、その背後にはトカゲのような紺色のブレイドを従えている。
そして最後に入ってきたのは、全身を白で統一した男。白い仮面、流れるような白髪、そして背には巨大な太刀。
(こいつらが、セイリュウの爺さんの言っていたドライバーとブレイドか……)
セイリュウの話によれば、彼らはこのアルストにおいて特別な存在であり、各国が軍備として厳重に管理しているらしい。
そんな連中が二組も現れ、バーンが20万もの大金を積んで雇う。きな臭いどころの話ではない。ラキアは怪しまれぬよう、静かにバーンへ鋭い視線を向けた。
「依頼内容は、ある物資の引き上げだ。最近の海流変動で発見された未探海域の、かなり深い場所に沈んでいる」
ラキアの察知した緊張感など意に介さず、白い仮面の男──シンが淡々と本題を口にした。
「大規模なサルベージならベテランの精鋭を派遣すると言ったのだがな。そちらが『リベラリタス出身の少数精鋭』を希望したも」
(大規模な回収なら大人数で引き上げるのがセオリーだ……。こいつら、何か別の目的があるな。バーンとグルか、あるいは……)
「だからお前に白羽の矢が立ったんだも! しっかり役に立ってくるんだも!」
「……わかりました」
釘を刺すバーンにお辞儀で応じるラキア。だが、背中に刺さるような視線を感じていた。
部屋に入ってから一切表情を変えず、冷ややかに応対するラキアの姿を、獣耳の少女──ニアが胡乱げな目で見つめていたのだ。
「なあ、シン。こんな無愛想で何考えてるかわからない優男、本当に大丈夫なのか?」
信用に足る男かと尋ねるニアだったが、シンが応えることはなかった。代わりに、黒い鎧の大男が薄笑いを浮かべる。
「ま、ニアの気持ちも分からんでもない」
大男は、品定めするようにラキアに一瞥を投げかけた。
「だったら……なあ?」
「メツ……?」
不穏に口角を上げた大男──メツの意図を測りかね、ニアが疑問符を浮かべた瞬間だった。ふっと場から空気が消える。
「確かめればいいだけだ!」
メツは言葉の終わりを待たず、相棒のブレイドから青く輝く湾曲した刃──旋棍(せんこん)を受け取るや否や、躊躇なくラキアの首元へ斬りかかった!
(こいつ───!)
突然の凶行。ニアが目を見開き、シンは動じることなくそれを見つめる。
目の前に迫る、鋭利な刃。
だが──ラキア・アマルガは、この世界の人間ではない。異世界の種族『グラニュート』としての優れた動体視力をもってすれば、この程度の奇襲、見切るのは容易かった。
ガキィィンッ!!
首を薙ぎ払う一閃に対し、ラキアは間一髪で拳を突き上げ、刃の下側を殴りつけた。
衝撃音とともにメツの旋棍は弾き飛ばされ、天井深くへと突き刺さる。
「ほう……なかなかの身のこなしだな。やるじゃねえか」
「……」
ヘラヘラと余裕を見せるメツの面に、ラキアの不快感が跳ね上がる。
争い事はだるいし、面倒事はごめんだ。だが──売られた喧嘩を黙って買う筋合いもない!
「あいにく、殴られっぱなしは性分じゃない!」
ラキアは踏み込み、メツの顔面へ最速の右ストレートを叩き込んだ。
「っぶねぇな!」
メツがそれを腕で受け止めた瞬間、ラキアの口元がわずかに歪む。
「隙ありだ」
「なにっ!?」
拳に意識を向けさせた刹那、ラキアは右足で力任せの前蹴りを打ち込んだ。
ドカァン!と重い打撃音が響き、鎧越しに衝撃を受けたメツの身体が数歩後退する。
「……へぇ」
一撃食らうとは思っていなかったのか、メツは驚きに目を丸くしたが、すぐにニヤリと口端を上げた。だが、ラキアもまた冷ややかな目を崩さない。
「ったく……だるいことすんなよ」
「ハッ! 粋がってる小僧が。やっと本性を出しやがったか」
(……ちっ、相手の思惑通りか)
不覚にも乗せられたラキアは、心の中で舌を打つ。
ただの脳筋かと思いきや、こちらの動揺や本性を引き出すためのブラフ。動きのキレといい、勘の鋭さといい、一筋縄ではいかない。
(ストマックの連中より厄介かもしれん……はー、だる)
「嘘だろ……"アーツ"も使わずにメツに一撃入れた……!?」
「これは驚きました。まさか素手で……」
メツ以上に顔を見合わせているのは、ニアと白虎だった。
「って、それよりメツ! いきなり何するんだよ!」
「おいおい、この野郎が信用ならねぇって言い出したのはお前だろうが、ニア」
「アタシは殴りかかれなんて言ってない!」
「ハッ、思ってただろ? で、結果は見ての通りだ。やるじゃねえか……見たところドライバーじゃなさそうだが」
メツは怪しむような目つきでラキアを睨みつける。
「それより……お前、本当にリベラリタスの出身か?」
「だったら何だ?」
「質問してんのはこっちだ。どうなんだ?」
「だる……一応な。文句あるか?」
「……本当にか?」
「ああ。リベラリタスの村から来た」
「信じられねぇな、お前───」
「メツ」
追求を強めようとしたメツを、シンの静かな声が制した。
「いい。これ以上は無用だ」
「……チッ」
意外にも、メツはあっさりと引き下がった。シンはそのままバーンへと向き直る。
「おい。こいつのサルベージャーとしての腕は?」
「アヴァリティアでの歴は半年だも。だが……」
「半年だぁ? ペーペーじゃねぇか!」
「話は最後まで聞くも! うちで雇ったのが半年前なだけで、それまではフリーで活動していたも。腕の良いサルベージャーがいると聞いてスカウトしたんだも。腕と勘の良さは確か、成果も商会一だも。そちらの要望通り、精鋭に間違いはないも。文句はあるも?」
「なるほど……いいぜ。文句はねぇ。俺からしちゃクソ生意気な野郎だが……まあ合格だ。おいテメェ、名は?」
「───ラキア・アマルガ」
「聞かねぇ名前だな」
「いい。仕事の腕が確かなら何の問題もない。行くぞ、ニア、メツ」
「ああ。期待してるぜ、ラキア……いや、クソ生意気な"小僧"」
すれ違いざま、メツはラキアの肩をトンと叩いた。その顔には、何を見透かしたのか気味の悪い笑みが浮かんでいる。
"小僧"──その呼び方に引っかかりを覚えつつも、去っていく一行の背中を見送る。
(……ムカつくな、あの態度)
ニヤついた見下すような顔。ストマックのランゴにそっくりで、思い出すだけで腹が立つ。
「もも、何ともやかましい連中だも」
バーンは呆れたように息を吐くと、机の上にジャラリと重い袋を置いた。
「手付金の10万ゴールドだも。これで必要な準備を整えるといいも。終わったら右舷の桟橋に行けも。俺が手配した素晴らしい船が待っているも」
「わかりました。失礼します」
商会長室をあとにしたラキアは、深くため息をついた。
ただでさえ胡散臭いバーンからの依頼。しかも相手は只者ではないドライバーとブレイド。
(念には念を入れて、準備しておくか……)
これまでは素手や蹴りだけで何とかなっていたが、今回はそうもいかないだろう。
(武器がいるな。それに……爺さんから教わったアーツも試しておいた方がいいか)
ゴルトムント一階にあるノポンの武具店『デンデン屋』へ向かおうとしたその時──胸元から、プリンテゴチゾウがひょっこりと顔を出した。
不安そうにラキアを見上げるゴチゾウに、ラキアは苦笑いを浮かべる。
「大丈夫だ、心配するな。いざとなれば……"切り札"もある」
懐から取り出したのは、破損した『ヴラスタムギア』。
この世界に落とされた際の衝撃で亀裂が入っており、とても万全とは言えない状態だった。
(無理に変身しても、耐えられるのはあと一回か……二回が限界か)
この世界で変身ベルトを修理する手段はない。仮面ライダーの力は、本当に追い詰められた時の最後の手段だ。
「とりあえず……爺さんに一言声をかけてから行くか。後から文句言われてもだるいしな」
つづく
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