守護の騎士が至る道   作:匿名希望

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1-3「ニアとビャッコ」

 

「よお、ラキアじゃねぇか」

 

 ラキアが階段を下って一階に戻り、これから必要になるであろう武器を調達しようとしていた矢先、ラキアの周りに柄の悪い連中が集まってきた。

 数は6人で、普段から何かとラキアに毒を吐いてはくだらぬちょっかいを出し、目の敵にしているサルベージャーの先達連中である。

 

「聞いたぜ?バーン会長から直々に美味しい仕事貰ったそうじゃねぇか」

 

 その中の1人が何か企んでいるかのようなニヤリとした笑みを浮かべて話しかけてきた。

 歴が浅いながらもサルベージャーとしての腕をバーンやプニンから評価され、高く買われているラキアは、自分よりも歴の長い先達連中からこのようにやっかみで目の敵にされている。

 が、ラキアは意に介していない。普段は無視をして適当にあしらえば引き下がるのだが、奴らは今日はしつこかった。何度無視しても奴らは心底鬱陶しく食い下がってくるので、いつもよりだるい。

 

「おい!無視してんじゃねぇ!」

 

 関わるだけ時間の無駄だと無視を貫き、いつもと同じように通り過ぎようとするラキア。

 その素知らぬ様子は、威張るだけが取り柄の先達連中の癇に障ったらしく、逆上した顔のくどい男がラキアの前に立ち塞がる。目の前に立たれて邪魔されたラキアは、心底嫌そうな顔をして足を止める。

 まったく…人間の顔はどいつもこいつも基本的に同じに見えるが、こういった顔のくどい、尚且つ鬱陶しい男の顔は嫌でも覚えてしまう。

 

「何の要件だ。お前らと違って忙しいんだ。邪魔だからさっさと失せろ」

 

 バーンの前で面を偽っていた時と打って変わり、敬意も尊敬もない辛辣な態度で先達を冷たく遇らうラキア。

 その態度に先輩達は更なる怒りを露わにする。

 

「てめぇ、調子に乗りやがって!」

 

 我慢の限界に達した1人が顔を怒りで歪ませ、胸ぐらを掴もうと手を伸ばすが、逆にラキアは腕を掴んで引っ張り締め上げる。

 

「痛てててて!」

「ったく…だるいな。お前らのようなバカの相手をするのは」

 

 締め上げた男を乱雑に蹴り返すと、男は情けなく躓いて倒れる。

 

「やりやがったな!」

「新人のくせに調子に乗りやがって!」

 

 ラキアの態度は火に油を注ぎ、先達達はヒートアップして声を荒らげる。

 騒がしくなると、周囲の人やノポン達も野次馬となってラキアの周りに集まり始める。人混みから外れた奥には、シンとメツの姿もあり、渦中のラキアを見ていた。

 

「おいおい、ラキアの奴また絡まれてるのかよ」

「所属歴は短いがサルベージャーとしての腕がバツグンだからなぁ。妬みや嫉妬でよく絡まれるんだよ」

「あとは態度だな。もうちょっと軟化しないもんかねぇ」

「良い奴なんだけどなあ…女でもできれば変わるんじゃねぇか?」

「あるかもな」

 

 シンとメツの近くでは、ラキアの顔馴染みの男達、ガラムとピットマンが「仕方ねぇな…」などと言って乱闘騒ぎを見ていた。

 

「このヤロー!やっちまえ!」

 

 取り囲んだ6人がラキアに殴り掛かろうとしたその時、1匹の白い獣が野次馬の頭上を飛び越えて、乱闘寸前の一幕に割って入った。

 

「お前…」

「ビャッコと申します。ラキア様」

 

 あの連中と一緒にいたブレイドだ。

 

「んだテメー!…ッ!?」

 

 ビャッコが一瞥、鋭い視線を連中に浴びせると、連中は怯んで後ずさった。

 

「やれやれ、アンタらさ。良い大人が寄ってたかって恥ずかしくないわけ?」

 

 呆れたような物言いが何処からか聞こえる。

 野次馬の中から現れたのは、黄色い衣服に身を包んだビャッコのドライバー、ニアだった。

 

「なっ、まさかこいつ!」

「ブレイド…!それにドライバーか!」

 

 ドライバーとブレイドの登場に驚きの声が多く上がる。

 

「ちっ、ガキのくせに!」

「そのガキにコテンパンにされてみるか?あ?」

「調子に乗りやが───ッ!?」

 

 挑発されて拳を振り上げるも、ニアの背後から自分らを睨むビャッコの迫力を前に、先輩サルベージャーは何も言い返せずに拳を下ろして悔しそうに押し黙る。

 

「アンタっていつもこんななの?」

「まあ…な。それにしても今日はいつにも増して酷いが…」

「それで、アンタら…やるならアタシも相手してやるけど?」

 

 ニアが威圧すると、たじろいだ先輩サルベージャー達はそそくさと尻尾巻いて逃げ出していった。

 

「助かった。追い返す手間が省けた」

「へ〜、追い返す気だったんだ。てっきりアタシは徹底的にぶちのめす気かと思ったよ。痛い目に遭わせればなんとやら…ってね」

「俺を何だと思ってる。そこまで野蛮じゃない。アイツらが度を超えた時は…やってたかもな」

「結局かよ。それよりも…」

 

 ニアは依然として浴びせ続けられる野次馬の目を気にしていた。

 

「ほらほら、見せ物じゃないんだ!散った散った!」

 

 ニアはしっしっ!と野次馬を適当に蹴散らす。

 

「アタシはニア、こっちは…って、もう改めて自己紹介はいらないか」

「ああ。ニアとビャッコだろ。助かった。ありがとう」

「へ〜、なんか意外だな。もっと冷血漢かと思ってたよ。アンタのこと」

「だから、俺のことなんだと思ってるんだお前は…ま、いいか。じゃあな」

「って、どこ行くんだよ?」

「お前らの依頼の準備だよ」

 

 ニアとビャッコの元を離れるラキアは、今度こそ準備に取り掛かる。

 

「で、なんで着いてくる?」

 

 と、離れたつもりだったのだが…ニアはビャッコを引き連れて、何故かラキアの後を追って着いてくる。

 

「依頼主様だぞ?雇った奴がしっかり仕事ができる奴か見極めてるんだ」

「だる…」

「だるってなんだよ!だるって!」

「だるいもんはだるい」

 

 他の2人に言われての監視…ではなさそうだ。

 

(何かしらの意図があると思ったんだが…単純にこいつの気まぐれか)

 

 この様子だと放っておいても問題はない。それに…。

 

(こいつからは…悪い感じを全く感じない。それどころか…なんだかコメルと一緒にいる時のような…不思議な感じだ…)

 

 こいつの事は全く知らない。最初に会った時、つい先程の言動を見てもコメルとは似ても似つかない筈。それなのに何故…。

 

(別にいいか…。悪い気はしないからな…)

 

 考えても仕方のない事だ、ラキアはこいつの好きにさせておくことにした。

 

「デンデン、いるか?」

 

 ゴルトムントの中、ラキアは鍛冶屋を営んでいるノポン族のデンデンの下を訪れた。

 

「ラキア、用事も?」

「ああ。使えそうな武器をくれ」

「それなら、前に要望があったやつを作ってみたも。あんなの、ラキアくらいしか頼まないから売れ残ってるも。責任取って買い取るも」

「作ってたのか」

 

 デンデンの言葉にラキアは驚いた。

 

「冗談だったも?」

「半分な」

 

 "ヴラムブレイカー"をモチーフにした鎌と弓の混合武器。それをデンデンに話したのは記憶に新しく覚えていたが、まさか鵜呑みにして本当に作っていたとは。

 

「何だそれ」

「弓と鎌が一体となった武器とは…初めて見ました」

 

 ニアとビャッコはデンデンの担ぎ上げている武器を興味津々に見ている。

 

「矢の最大常備数は7本、背面を下げて引っ張れば鎌が降りる。逆の動作をすれば鎌が上がる仕組みも。どうも?」

 

 ラキアは実際に武器を手に取る。

 

「上出来だ」

「でもラキアの言う回転する鎌というのは出来なかったも…一生の不覚も」

「感触も悪くないな。値段は?」

「44000ゴールドで手を打つも」

「高いな」

「高っか!」

 

 デンデンの提示した金額を聞いたラキアとニアは、あまりの金額に声を上げた。

 

「文句言うなも。刃の部分には雲海から滅多に取れない希少金属を使ってるも。加工にもかなり苦労したも」

「仕方ない。ほら」

「毎度ありも」

 

 デンデンはラキアから代金を受け取った。

 

「またご贔屓にも」

「ああ、機会があればまた頼む」

 

 刃弓(はゆみ)とでも呼ぼうか、それと矢筒に入れられた矢を背中に背負って、これで準備は完了だ。

 

(それと…)

 

 ニア、というよりもドライバーとブレイドに確認しておきたい事があった。

 

「一つ聞きたいんだが…」

「ん?なんだよ?」

「お前の仲間のメツとかいうやつと一緒にいたあのブレイドのことなんだが…」

「ザンテツ?」

「ああ。ブレイドにはあいつみたいな姿の奴が多いのか?」

「姿ね…。うん、結構多いよ」

「そうなのか。どんな姿の奴がいるんだ?」

「ビャッコみたいな獣タイプもいれば、空を飛ぶ人形タイプのブレイド、腕がたくさん生えてるのもいるよ」

 

 そう言ったニアがビャッコに目を向けた。

 

「ラキア様、僭越ながら私が説明いたします。そのブレイドに何ができるか、それによって姿はそれぞれ大きく異なります。例えば…炎を使うブレイドだと炎を纏い操る事柄に特化した外見となります。外見は多種多様ですが、二足歩行の人間タイプ、四足の獣タイプが多いですね」

「そうそう」

 

 そうなのか…。

 

(なら俺も…案外グラニュートの姿で行動してもよかったのか?)

 

 多種多様なブレイド姿や力の実態を知ったラキアは、今になって色々と考えるが、途中でその考えを打ち切った。

 

(ブレイドはドライバーと一心同体、共にあるものだと、爺さんからも聞いた。仮に俺が元の姿で生活していたら悪目立ちしてしまうだろうな…)

 

 もしそうしていたら今以上に厄介事が降りかかってきそうだ。やはり波風立たない一般的なこっちの姿の方が都合がいいか。

 

 それに───

 

(イヤサキ村の…あいつらも怖がるだろうな…)

 

 それは…嫌だな。

 

(万が一にも見られたくはないな)

 

 あの姿は、誰にも見せない方がいい。

 

「それから───知れた名を挙げると…スペルビアには"帝国の宝珠"の二つ名を持つ最強の炎のブレイドがいると耳にしたことがあります」

「なるほど…な。人からかけ離れた姿でも…アリなのか」

「そうですね。アリです」

 

 かなり長い間この世界にいるが、まだまだ知らない事は多く、知る事全てが新たな発見と学びとなる。"帝国の宝珠"とやらも、今のところはこちらから関わる気はないが。このアルストで生きている以上、知っておいて損はない。

 

(マクシムのところにも行っておくか)

 

 運び屋のマクシムに頼んで追加でイヤサキ村に仕送りしておくか、これだけ金を持っていても、あまり使い道はないからな。

 

(いざって時、あいつらが身なりや勉強に困らないようにしてやりたいからな)

 

 それに俺自身もこれからどうなるかわからない。当てのなかった俺を拾ってもらった恩返しはやれるうちにやっておこう。

 

(コメルには…してやれなかったからな)

 

 せめて、イヤサキ村のあいつらには…。

 

「それじゃあ、また後でな」

 

 ニアの頭をポンポンと叩く。

 

「おい!子供扱いすんな!」

「は?子供だろ」

「ムキー!」

「まあまあ、お嬢様、良いではありませんか」

「良くない!」

 

 ラキアはニアとビャッコと一旦別れた。

 その後ラキアは、運び屋マクシムの元へ行き、バーンから貰った手付金のほとんどをイヤサキ村へと送った。

 これで当面、イヤサキ村に住んでいる子供らが金銭面で困り果てる事はないだろう。

 

「あとは爺さんに言うだけか」

 

 好きで受けた依頼ではないが…これは小言は避けられないかも知れないな。だる。

 ラキアは船着場へ戻り、バーンからの依頼を停泊しているセイリュウに話した。

 

「───上手い話には裏があるというが…胡散臭い話を受けたもんじゃの…してその連中は…」

「ああ、妙な連中だった」

「妙?ようお主が言えたものじゃの」

「うるさい」

「して、どんな連中じゃ?」

 

 獣の様な耳、白い仮面、黒い鎧の大男と外見の特徴を順にラキアが述べると、話を聞いていたセイリュウの目付きが明らかに変化した。

 

「ラキア、そやつらの名前は…?」

「ニアとシン、それからメツ」

「なっ!?───シンじゃと!?それにお主、メツと言ったのか!?」

 

 ラキアがセイリュウと知り合ってから初めてだった。ここまでセイリュウが目を見開いて狼狽え、激しく声を荒らげたのは。

 

「あのいけ好かない奴が知り合いか?」

「ああ…。ニアという名には聞き覚えはないが…。メツ…それからシンか…。2人は知っとる名じゃ」

「そのあからさまに動揺した顔から察するに、かなりの訳ありみたいだな」

「…ラキア、悪い事は言わん。お主はこの依頼から手を引け。お主の手には負えん。危険すぎる連中じゃ」

「悪いが、それは出来ない」

 

 ラキアは即、セイリュウの忠告を突っぱねた。

 

「何故じゃ?」

「放って置けなさそうな奴がいた」

 

 ラキアの脳裏にニアの姿が思い浮かぶ。

 

「───ニアという名の"グーラ人"か」

「知らないんじゃなかったのか」

「獣の特徴はグーラ人の証、伊達に長生きしとらん」

「年の功…というやつか」

「ラキアよ、どうしても行くのか?」

「ああ、止めても無駄だ」

 

 ラキアの覚悟を知ったセイリュウは、これ以上止めても無駄だと諦めた。

 

「なら好きにせい。但し、警戒は怠るなよ。特にメツに対しては隙を見せてはならん。絶対にじゃ、いいな?」

「わかった。それにしても随分と物分かりがいいな。もっと言われるかと思ってたが…」

「止めたら止めたでお主がワシの言う事を素直に聞くとは思んのでな。強行されて事が拗れるよりマシじゃと思っただけじゃ」

「ふっ、そうか。戻ってきたら詳しく説明してもらおうか」

「…こうなっては仕方のない。わかった」

「それじゃあ、行ってくる」

 

 ラキアは指定された場所へ歩き出した。

 

「メツの目的は"アデル"の…『天の聖杯』で間違いなじゃろうが。むう…運命が絡み合ったという訳か。ラキアを中心に何かが起ころうとしておるのか…?」

 

 

 

 

 つづく

 




自分がこれは違う…と思ったところは即修正入れます。
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