「よお、ラキアじゃねぇか」
階段を下り一階へ戻ったラキアが、武器の調達へ向かおうとした矢先、周囲を柄の悪い連中が囲んできた。
数は六人。普段からラキアに毒を吐き、事あるごとにくだらないちょっかいを出してくるサルベージャーの先達連中だ。
「聞いたぜ? バーン会長から直々に美味しい仕事を貰ったそうじゃねぇか」
その中の一人が、ねっとりとした薄笑いを浮かべて近づいてくる。
この商会での歴は浅いものの、サルベージャーとしての勘と腕をバーンやプニンから高く買われているラキアは、こうしてよく僻みややっかみの対象にされていた。
普段なら無視して適当にあしらえば引き下がるのだが、今日に限って奴らはしつこかった。
「おい! 無視してんじゃねぇ!」
関わるだけ時間の無駄だと通り過ぎようとするラキアの前に、一際顔のくどい男が立ち塞がる。
人間の顔などどいつも同じに見えるが、こういう底意地の悪い鬱陶しい顔は嫌でも覚えてしまう。ラキアは心底面倒そうな顔で足を止めた。
「だる……。何の用件だ。お前らと違って忙しいんだ。邪魔だからさっさと失せろ」
バーンの前で見せていた処世術など微塵もなく、敬意の欠片もない辛辣な態度で突き放す。
その言葉に、先達たちの顔が怒りで赤黒く染まった。
「てめぇ、新人風情が調子に乗りやがって!」
我慢の限界に達した男が胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてくる。だが、ラキアはそれを避けることすらせず、無造作にその手首を掴み、捻り上げながら引き寄せた。
「痛っ、ててててっ!」
「ったく……ほんとにだるいな。お前らみたいなバカの相手は」
締め上げたまま男の膝裏を蹴り払うと、男は無様に地べたへ転がった。
「やりやがったな!」
「やっちまえ!」
ラキアの態度が火に油を注ぎ、逆上した男たちが一斉に凄む。
騒ぎを察知し、周囲の人やノポンたちが野次馬となって輪を作り始めた。その人混みの奥には、シンとメツの姿もある。
「おいおい、ラキアの奴また絡まれてるのかよ」
「腕がバツグンだからなぁ、妬まれて嫉妬されてんだろ」
「態度の問題もある。もうちょっと軟化しないもんかねぇ」
「良い奴なんだけどな……女でもできりゃ丸くなるんじゃねぇか?」
顔馴染みのサルベージャーであるガラムやピットマンが、遠巻きに呆れ顔でそんな会話を交わしていた。
「このヤロー!」
取り囲んだ六人が一斉に殴りかかろうとした、その時。
一匹の白い獣が野次馬の頭上を飛び越え、乱闘寸前の輪の中へふわりと舞い降りた。
「お前……」
「ビャッコと申します。ラキア様」
メツたちと一緒にいたブレイドだ。
「んだテメー!……ッ!?」
ビャッコが鋭い眼光で一瞥すると、凄んでいた男たちはその威圧感に気圧され、思わず数歩後ずさった。
「やれやれ。アンタらさ、いい大人が寄ってたかって恥ずかしくないわけ?」
呆れたような声とともに野次馬の中から現れたのは、黄色い衣服を纏ったビャッコのドライバー──ニアだった。
「なっ、まさかこいつ!」
「ブレイド……! それにドライバーか!」
本物のドライバーとブレイドの登場に、周囲の空気が一変する。
「ちっ、ガキのくせに!」
「そのガキにコテンパンにされてみるか? あ?」
「調子に乗りやが───ッ!?」
挑発に乗って拳を振り上げるも、ニアの背後で低く唸り声を上げるビャッコの迫力を前に、男たちは言葉を詰まらせた。
「アンタっていつもこんななの?」
「まあ、な。それにしても今日はいつにも増して鬱陶しいが」
「で、アンタら……。やるならアタシも相手してやるけど?」
ニアが不敵に笑って挑発すると、先達たちは悪態をつきながら、そそくさと尻尾を巻いて逃げ出していった。
「助かった。追い返す手間が省けた」
「へ〜、追い返す気だったんだ。てっきりアタシは、徹底的にぶちのめす気かと思ったよ」
「俺を何だと思ってる。そこまで野蛮じゃない。……アイツらが度を超えた時は、やってたかもな」
「結局やるんじゃないか。それより……」
ニアは、依然として自分たちに向けられる野次馬の視線を気にしていた。
「ほらほら、見せ物じゃないんだ! 散った散った!」
しっしっ! と手を振って適当に野次馬を散らす。
「アタシはニア。こっちは……って、もう改めて自己紹介はいらないか」
「ああ、ニアとビャッコだろ。助かった、ありがとう」
「へ〜、なんか意外だな。もっと冷血漢かと思ってたよ」
「だから俺を何だと思ってるんだ、お前は……ま、いいか。じゃあな」
「って、どこ行くんだよ?」
「お前らの依頼の準備だ」
歩き出したラキアだったが、背後から足音が二つ、ついてくる。
「で、なんで着いてくる?」
「依頼主様だぞ? 雇った奴がちゃんと仕事できるか見極めてるんだ」
「だる……」
「だるって何だよ! だるって!」
「だるいもんはだるい」
シンやメツに言われての監視……というわけではなさそうだ。
(意図があるのかと思ったが……単純にこいつの気まぐれか)
それなら放っておいても問題ない。それに──。
(こいつからは、悪い感じがしない。それどころか……なんだか、コメルと一緒にいる時のような、不思議な感じだ)
出会ったばかりで素性も知らない。コメルに似ているわけでもないのに、なぜかそう感じる。
(まあ、いいか……悪い気はしないしな)
「デンデン、いるか?」
ラキアが訪れたのは、ゴルトムントの鍛冶屋を営むノポン族・デンデンの店だ。
「ラキア、用事も?」
「ああ。使えそうな武器をくれ」
「それなら、前に要望があったやつを作ってみたも! あんなのラキアくらいしか頼まないから売れ残ってるも。責任取って買うも」
「作ってたのか」
まさか冗談半分で伝えた要望を、本当に形にしているとは思わなかった。
「何だそれ」
「弓と鎌が一体となった武器とは……初めて見ました」
ニアとビャッコが、デンデンの持ち出した武器を興味津々に覗き込む。
それは、ラキアの記憶にある『ヴラムブレイカー』をモチーフにした、鎌と弓の混合武器だった。
「矢の最大常備数は七本。背面を下げて引っ張れば鎌が降りる。逆の動作をすれば鎌が上がる仕組みも。どうも?」
ラキアは実際に武器を手に取り、機構を確かめる。
「上出来だ」
「でもラキアの言う『回転する鎌』というのは無理だったも……一生の不覚も」
「感触は悪くない。値段は?」
「44000ゴールドで手を打つも」
「高いな」
「高っか!」
ラキアとニアの声が重なった。
「文句言うなも! 刃の部分には雲海から滅多に取れない希少金属を使ってるも。加工にもかなり苦労したも!」
「……仕方ない。ほら」
「毎度ありも! またご贔屓にも!」
『刃弓(はゆみ)』と矢筒を背負い、これで準備は整った。
だが、その前に一つ確認しておきたいことがあった。
「一つ聞きたいんだが」
「ん? なんだよ?」
「お前の仲間のメツとかいう奴といたブレイドだが……」
「ザンテツ?」
「ああ。ブレイドってのは、あいつみたいな姿が多いのか?」
「姿ね……うん、結構多いよ。ビャッコみたいな獣タイプもいれば、空を飛ぶ人型タイプ、腕がたくさん生えてるのもいる」
ニアが視線を送ると、ビャッコが一歩前に出た。
「ラキア様、僭越ながら私が説明いたします。ブレイドはその能力によって姿が大きく異なります。例えば炎を操ることに特化した外見など、多種多様ですが、二足歩行の人間タイプや四足の獣タイプが多いですね」
「そうそう」
(なるほど……)
それなら、案外グラニュートの姿で行動してもよかったのか?
だが、すぐにその考えを打ち消す。
(ブレイドはドライバーと一心同体。仮に俺が元の姿で生活していたら、どう見ても悪目立ちする。それに……)
イヤサキ村の連中が、あの姿を見たら怖がるだろう。
万が一にも、あの姿は見せない方がいい。
「それから……知れた名を挙げると、スペルビアには『帝国の宝珠』の二つ名を持つ最強の炎のブレイドがいると耳にしたことがあります」
「なるほどな。人からかけ離れた姿でもアリ、か」
この世界に長くいるが、まだまだ知らないことは多い。"帝国の宝珠"とやらに関わる気はないが、知っておいて損はない。
(あとはマクシムのところだな)
運び屋のマクシムに頼み、残った手付金のほとんどをイヤサキ村へ送った。
自分がいつどうなるかわからない。いざという時、あの村の子供たちが困らないようにしておきたかった。
コメルには、何もしてやれなかったから。
「それじゃあ、また後でな」
ラキアは、ニアの頭をポンポンと叩いた。
「おい! 子供扱いすんな!」
「は? 子供だろ」
「ムキーッ!」
「まあまあ、お嬢様。良いではありませんか」
「良くない!」
騒ぐニアを背に、ラキアは船着場へ戻った。
停泊しているセイリュウに、事の顛末と依頼の話を伝える。
「……美味い話には裏があるというが、胡散臭い話を受けたもんじゃの。して、その連中とは……」
「ああ、妙な連中だった」
「妙? ようお主が言えたものじゃの」
「うるさい」
「して、どんな連中じゃ?」
獣の耳、白い仮面、黒い鎧の大男。特徴を並べるにつれ、セイリュウの顔色が変わっていく。
「ラキア、そやつらの名前は……?」
「ニアとシン。それからメツだ」
「なっ!? ──シンじゃと!? それにお主、メツと言ったか!?」
セイリュウがここまで目を見開き、狼狽えたのは初めてだった。
「あのいけ好かない奴が知り合いか?」
「ああ……ニアという名に聞き覚えはないが、メツとシン……その二人は知っておる」
「その顔から察するに、かなりの訳ありみたいだな」
「……ラキア。悪いことは言わん。お主はこの依頼から手を引け。お主の手には負えん。危険すぎる連中じゃ」
「悪いが、それは出来ない」
ラキアは即座に突っぱねた。
「何故じゃ?」
「……放っておけなさそうな奴がいた」
脳裏に、怒って食ってかかってきたニアの姿が浮かぶ。
「──ニアという名の"グーラ人"か」
「知らないんじゃなかったのか」
「獣の特徴はグーラ人の証じゃ。伊達に長生きはしとらん」
「年の功ってやつか」
「……ラキアよ、どうしても行くのか?」
「ああ。止めても無駄だ」
その目を見て、セイリュウは深く息を吐き出した。
「なら好きにせい。ただし、警戒は怠るなよ。特にメツに対しては絶対に隙を見せるな。よいな?」
「わかった。それにしても随分と物分かりがいいな」
「止めたところでお主がワシの言うことを聞くとは思えんでな。強行されて事が拗れるよりはマシじゃ」
「ふっ、そうか。戻ってきたら詳しく説明してもらおうか」
「……こうなっては仕方がない。わかった」
「それじゃあ、行ってくる」
ラキアは指定された右舷の桟橋へと歩き出した。
その背を見送りながら、セイリュウは低く呟く。
「メツの目的は『アデル』の……『天の聖杯』で間違いあるまいが。むう……運命が絡み合ったというわけか。ラキアを中心に、何かが起ころうとしておるのか……?」
つづく
自分がこれは違う…と思ったところは即修正入れます。
読みやすい文字数を教えてください
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