守護の騎士が至る道 作:匿名希望
それと誤字も修正しました。
雲が覆う夜空は不吉の前触れか…?
それとも…。
「ふ〜」
雲海の中、古代船のサルベージを終えたラキアは浮上。釣り上げたばかりの船の上でヘルメットを外し、外の空気を吸った。
初めての共同サルベージ、船を浮上させるタイミングを他者と合わせるのに若干の不安はあったが、まあなんとか上手くいったようで一安心。
一息ついたラキアは船体を見渡す。
それにしてもこの船、薄気味の悪さは全体から感じられるが、古代船という割にやけに形が保たれている。雲海と水の密度はほぼ変わらないとはいえ、もっとボロボロだろうと思っていたからこれは予想外だ。けれど長い間雲海の底に沈んでいた影響か、釣り上げ、固定された船体の色は所々剥げ落ち、鉄柵や装飾は腐食している箇所が目立つ。それでもある程度ではる。
(人間界で見た船とは強度が段違いに違うんだろうな。アルストの方が進んでる)
そう…一見するとこの世界、アルストはラキアの過ごした人間界よりも世界水準が低い様に見えてしまうが、時折垣間見る技術力は人間界やグラニュート界のそれを圧倒的に凌駕しているとラキアは何度も感じた。
それに、よくよく目を凝らして見るとこのアルストと人間界は似通った点、類似する点が多々見られる。人間という種族から食事、言語、物の在り方など、多くが似ているから不思議なものだ。
「世界ってのはわからないもんだな」
ラキアは何気なく呟く、すると。
「いいや、わかりやすいさ、この世界はな」
背後で腕を組んでいたメツが聞いていた。その隣にはシンの姿もある。
そして笑みを浮かべているメツの顔は、ラキアには薄ら笑っているように思えた。
「何がおかしい?」
「結局は見えるモンが全てだってんだよ。だろう?シン」
「………そうだな」
メツの含みのある言葉、ラキアにはメツの真意は読み取れなかったが、シンは理解しているのか、俯きながら静かに答えた。
「それで、お前らはこの船で何を回収する気なんだ?」
ラキアは少々圧強めにメツに問う。
「お前には関係のない事だ。余計な勘繰りせずにさっさと自分の仕事をしな」
やっぱりムカつくな、この見下した目。
「だる。俺はお前らの注文通りやった」
足でガンガンと甲板の床を踏み付ける。
「生意気な野郎だぜ」
「お前はムカつく野郎だな」
「「あ?」」
「そこ、ケンカすんなよな!」
険悪な雰囲気の中、ニアの怒声が響いた。
「お疲れ様、良い仕事だったよ。やるじゃん」
メツとは対照的にニアは、ラキアのサルベージャーの仕事を手厚く労った。
「ああ」
「お前、やっぱ愛想ないな」
などと話していると、甲板から船内へと続く閉じられた中央の出入り口、そこからなにやら大きな物音が響いた。
今は塞がっている扉を内側から勢い良く叩く様な大きな物音に、自然とこの場にいる大勢の注目が物音の方へ集まる。
そして、轟音を響かせて扉を破り出てきたのは、アヴァリティア近海でも目にする事は滅多にない大きさのモンスターだった。
甲殻類のモンスター『キングリター・シース』は、甲板に出るなり、鎌のような爪を立てて、威嚇のような行動をし始めた。
「だる…でかいな」
「門番ってわけか。ご立腹のようだぜ」
恐らくは長い間この古代船を根城としていて、無理やり雲海の上に引っ張り上げられ事に腹を立て、怒って出てきたのだろう。
「ドライバーの力、見せてやるよ。ビャッコ!」
「承知」
ニアは円形の武器、ツインリングを構える。メツも旋棍(せんこん)、ラキアも新たな武器をそれぞれ構え、いざ戦闘を開始。
「ストームエッジ!」
「バタフライエッジ!」
メツとニアはブレイドと連携してアーツを駆使し、モンスターを攻撃する。
ラキアは2人の援護に回り、後方から矢を放って前衛の2人を援護する。
個人技能とは異なり、一つの武器を受け渡しながらアーツを駆使して戦うドライバーとブレイドの連携。これを間近で初めて目の当たりにしたラキアは、こういう戦いもあるのか、と正直驚いた。
仮面ライダーとしてショウマや絆斗と連携して戦った事は何度もあったが、その連携とは全く異なる阿吽の呼吸から繰り出される2人で1人の連携。ドライバーとブレイドは一心同体、セイリュウの爺さんが言っていた言葉の意味がやっとわかった。
「これで、ジャガースクラッチ!」
ニアがトドメの一撃を放ってモンスターは甲板に崩れ落ちた。
正直言って舐めていた。これ程とは。驚いたのは他のサルベージャーも似た様なもので、ドライバーとブレイドの技量、その強さに開いた口が塞がらない様子だ。
「あれがドライバーとブレイド…」
「どっちがモンスターだかわかりゃしねぇ」
驚くサルベージャー達の言い様にニアが鋭い視線で睨み付けると、聞かれた事に焦ってそそくさと足早に退散していった。
「どうだ、見たか」
心なしかラキアの目にはニアの顔が自慢げに見えた。
褒めて欲しいのか、子供か。
「小さいのにやるもんだな」
「何だと!小さい言うな!」
今度はラキアの小馬鹿にした言い様に、ニアは爪と牙を立てて噛み付く。
「おい!クソ野郎、ニア、ガキがなにチンタラやってんだ!さっさと行くぞ!」
「ンだよ、年上が皆エライのかよ…」
ニアはメツの物言いに顔を顰める。
「サルベージャー仲間は"年長者は敬え"とか言うけど。俺は敬わなくていいと思うぞ。自分が尊敬する奴だけ敬っとけばな」
「…アハハ、そうだ。そうだな」
不愉快そうに眉や額の辺りにしわを寄せたニアにラキアが自らの持論を語ると、それを聞いたニアの顔は晴れ、愉快に笑った。
「また吠える前に行くか」
「だね」
ニアはビャッコと共にラキアと古代船の内部へ。
そして、暗がりの中、ひっそりと彼らを監視する小さな影がいた。
アヴァリティア商会のプニンである。
プニンが記録した映像はなんと、直接バーンの元へ届けられていた。
商会長室のバーンは1人ほくそ笑む。
「あのクラスのバケモノを簡単に…。中々の強さ、やはり只者じゃなかったも。これは良い金づるを見つけたも」
もっもっも…と笑うバーン。
「ラキアを手放すのは少々惜しい気がするが、仕方ないも。スペルビアでの大事業も順調だし…何もかも上手く事が進んでるも〜」
事が自分の掌(てのひら)の上で動いてる優越感に浸るバーン。
バーンの思惑が裏で密かに動く中、先行した部隊とメツ達を追う形でラキアが甲板から内部に入る。
暗い古代船の中は、雲海ならではの湿っぽさが充満して、雲海の匂いで満ちていた。
「古代船と言うからにはそれなりの物を期待していたが…拍子抜けだな」
かなり広々としている古代船の中を見たラキアは不満を溢した。散策しながら奥に進めば進むほど、次第に不自然さを強く感じ始めた。
「何もない…」
元の世界では鍬(くわ)を片手に仕事をこなす元作業員、この世界で一応はサルベージャーを生業としているラキア。どちらも現場仕事である。現場に慣れたからこそ、この古代船の違和感に気付いた。
この古代船…広さの反面、何一つとして物がない。無さ過ぎるのだ。長い時を経て雲海へ流れた…という訳でもなさそうだが、これはいったいどういう事だろうか?
「どうしたのさ?」
「何も無さ過ぎる。これだけ広い船なのに積荷を積んであった形跡がない」
「言われれば確かに妙ですね。これだけの船、何の意味もなく…という訳はないでしょう」
「だろうな、誰かは知らんが"意図"が見える」
この船、まるで…"最初から沈める事を前提に考えていた"───と思えてしまう。
「意図…ですか?」
「ああ。(俺の考え過ぎじゃなければな)」
これは多分、アタリだろう。
(これは勘ぐり過ぎ…ではないか)
メツとシン、前を歩き先導する2人は、辺りを詳しく散策する気はない様子。手探りな印象こそあるが、あまり迷っている様子もなく着実に船の遅へ進んでいる。
最初から単なる積荷や宝目当ての小さい目的でないのわかっていたが、この船の中に何があるのか、目的はなんなのか。
(もっとセイリュウの爺さんから聞いておくべきだったな)
しまったと思うも、もう何を思っても時既に遅し。でも間違いなく今言える事は…。
(いよいよ本格的にきな臭くなってきた)
それでもこいつらが何を企んでいようが、乗りかかった船である以上、投げ出さず、最後までやり遂げるしかない。それに依頼を投げ出すなんて事、なんでも屋のアルバイトがする訳にもいかないからな。
「ほっとに…だるいったらないな…」
は〜〜〜〜〜だる。
(『楽園』を目指すのも楽じゃない)
メツは後ろ背に話を聞いていた。
向かい合って目を合わせていなくても、こちらの様子を窺っているのはわかるものだ。
(あの野郎、察しがいいな)
あの勘の良さと腕っぷしの強さ。
(警戒しておいた方がいいな。ラキア・アマルガ、面倒な野郎だ)
ラキアがメツを危険視しているのと同様に、メツもラキアを危険視しつつあった。
一団は更に船の奥へ。
道中、小型の甲殻類系のモンスターは度々見かけるが、その都度それぞれ対処をする形となる。道中、仮面の男────シンだけは一度も背中の長刀を抜くことはなく、戦闘に加わる事はなかった。
ラキアは矢で射抜き、時には刀身で両断しながら船の奥へ進む。見慣れぬ武器にメツも興味を惹かれたのか、ラキアの側へ。
「お前、その珍妙な武器はなんなんだ?」
「特注だ。───やらないぞ?」
「誰がいるか!そんなもん」
そんなこんなありつつも、一同は遂に最深部へと辿り着いた。
「古代船にお宝あり!」と沸き立っていたサルベージャー達は、あまりにも何もない為にがっかりと項垂れて、1人また1人と次々甲板へ戻ってしまい、内部にはもうラキア達しか残されてはいない。
最新部には扉以外には目立った物は何も見当たらない。どうやらこの扉の奥にある"何か"がメツやシンの目当ての様だ。
「見ろよシン、アデルの紋章だぜ」
────アデルの紋章?何を言ってる?
重要な話をするメツとシンの会話に扉を見たまま聞き耳を立てるラキア。すると、シンがラキアの隣へとやってきた。
「その扉を開けろ。その扉はお前達────いや、もう"お前でなくては"開かん」
「あ?おい、シン。どういう────」
「メツ、見ていればわかる」
この状況、シンだけが"わかっている"。
「お前が言うなら────おい!高い金払ってんだ!さっさと扉を開けろ!」
「わかってる。いちいち吠えるな、だるい」
この先にこいつらの狙いがあるのか。
さてと…。覚悟決めるか。
果たして、俺に開けられるのか。
そして…。
「何が飛び出すか、開けてからのお楽しみってか」
ラキアが扉の紋章に触れた瞬間…!
───────待っていたよ。
「!?」
なんと、扉は声と共に開かれ、奥に更なる扉があらわれた。
ラキアは、この声に誰も反応をしない事に気が付いた。おそらく、いや間違いなくこの声は自分にしか聞こえていないんだと。
(この声は…)
扉は二重構造、ラキアが触れた紋章は扉を開くスイッチになっていたらしい。
そしてラキアが次なる扉へ歩んだ時…!
───────待っていたんだ。君が来るのを、ずっと待っていた。
(あの時の声…)
聞こえたのは、俺を楽園に行くように促し、誘った若い声だった。
───────さあ、この先だ。
気が付くと、扉は開いていた。
───────待ってるんだ。ずっと。
(待っている?)
何を言っているんだ?とラキアが疑問に思ったその時、ラキアの前を青いサルベージスーツ姿、小柄な短髪の少年が駆けて先へ進んだ。
今のは誰だ?見覚えのない子供。そう…見覚えはない。でも、俺は…知っている。
(俺は、あいつを…知っている)
────あいつが…声の主か。
ラキアはそう確信を持った。
やれやれ、どんな奴が俺をこのアルストに呼んだかと思えば、どうやら本当に子供だったらしい。
それに俺の着てるサルベージ服は…。
(似てるな、俺が着ているやつに)
細部はかなり異なるが、似ている。ラキアが着ているこれは、イヤサキ村に住んでいるコルレルが仕立ててくれたものだが。
「やはりか」
足を止めてぼーっとしている様子のラキアの姿を見て、シンは1人呟いた。
「おい、先へ進め」
シンの呼び声でラキアはハッ!と現状を思い出し、再び歩みを進めたところ、歩んだ水溜まりの道の中、波紋と光が弾けた。
(これは…罠?)
歩みと同じく光は弾け続ける。
「やっぱりな、仕掛けてあったか」
「ああ」
メツとシンが何かを話している。
そしてラキアは2枚目の扉の前に着いた。
───────頼んだよ。
また、声が聞こえた。
背中に走る軽い衝撃、背中を押されでもしたのか、俺はまた扉の紋章に触れていた。
最後の扉も開錠され、その先に秘匿されていたある物が明らかとなった。
「これは…」
ラキアが立ち入った物々しい部屋の"祭壇"────そこに突き立てられたのは、宝石や類する物を美しいと思う感性に乏しいラキアですら美しいと感じる…翠玉色のコアが埋め込まれた"赤い剣(つるぎ)"。
思わず見惚れてしまう赤き剣の奥、部屋の中心には鋼鉄で覆われ、今も尚稼働している謎の機械。
そして機械の中央、目立つ箇所に組み込まれたカプセルの中にはなんと────
「女…」
赤い女…女性…女の子が眠っていた。
「間違いねぇな、シン」
「『天の聖杯』だ。それよりも…奴だ」
シンがこの期に及んで目を付けていたのは、剣の前に佇むラキアだった。
「あの野郎…?」
ラキアは今、口では言い表せようもない何かを感じている。この剣から感じる何かに不思議と引き寄せられている。
ラキアの手は剣へと伸びる!
「おい待て!それに触れるんじゃねぇ!」
メツの怒鳴り混じりの忠告────それはラキアの耳には届かず、ラキアの指先が祭壇に突き立てられている赤い剣に触れかけたその瞬間、シンが動いた。
刹那、シンは背中に背負った長刀を抜き、目にも留まらぬ速さでラキアに何の躊躇もなく命を取るべく斬り掛かった。
間一髪、戦いを積み重ねた感で何とか察知したラキアは、咄嗟に身を翻してシンの一太刀を避けるが、背負っていた刃弓が両断されて使い物にならなくなってしまった。
「だる。いきなりだな…」
「本気で取りに行ったが、避けたな」
「端から信用なんてしてなかったからな。警戒はしていた」
「そうか」
「悪く思うなよ、お前を殺さなきゃならなくなった」
「ったく…だるいな」
そう易々と殺されてたまるか、とラキアも構えるが、今のラキアには手に取る武器がない。
それにあいつの速度、だるい。
(さっきの一撃、なんとか避けれたが…。勘が働いたのは頭の中に声が聞こえてからだった。モタモタしていたら首まで持ってかれた)
後ろからきます、避けて!と、女の声が聞こえた、気がした、たぶん。
「ここで…死ぬわけにはいかない」
対するメツはザンテツから旋棍を受け取り、ラキアに一方的な斬撃を仕掛けた。
武器を持たない丸腰のラキアは、メツの攻撃を避け続けながら必死で頭を回し、この場を切り抜ける最善の方法を考える。
(イチかバチか、変身するしか…いや、無理だ)
この猛攻の中、ベルトを使う余裕はない。何か、何かないのか、戦う為の武器、この状況をひっくり返す為の武器は。
────あの赤い剣しかない。
ラキアは突き刺さる赤い剣に手を伸ばす。
「させるかよ!ザンテツ!」
「応ッ!」
ラキアの狙いを察したメツはそれだけはさせまいと即妨害に走る。
ザンテツもラキアへの攻撃に加わり、ドライバーとブレイドから攻められ続けるラキアは、劣勢に立たされる。赤い剣を何とか手にしたいところだが、メツの嵐の如く怒涛の攻撃にその隙が見出せず、苦戦する一方だ。
攻撃の手を緩めないメツも、ここぞのしぶとさを見せるラキアへ決定打を打てず、内心イラつき始め、同時に確信を持った。
────こいつは何がなんでも、この場所で殺しておいた方がいい、と。
(この野郎は同調しかけた。万一にもこいつが同調して"天の聖杯のドライバー"にでもなったら…)
想像するだけでも面倒くせぇ。
「ここで死んでもらうぜ!」
メツの剣技────確実にこの場でラキアを殺さんとする意思が乗り、放たれる一刀一撃が頭、首、心臓、肺、体のあらゆる急所を狙ってくる。
青く輝く刃がラキアの体を次々と掠めていく。丸腰で圧倒的不利な状況の中でも、ラキアは諦めない。死んでたまるか!とメツの攻撃を瞬時に見極めて避け回る。
「やめろよ、メツ!なんでラキアを殺そうとするんだよ!」
メツから言葉は返ってこない。
「シン!」
ニアは、ならば隣に立つシンにとメツを止める様に訴え掛けるも、シンは無言。
「…」
シンは戦いを見つめるばかりで、止めようとはせず、ニアの訴えを聞く様子はない。
「やめろよ!メツ!」
ニアの声は冷たい鉄に反響するばかりだ。
殺気渦巻く冷たい鉄の空間に響くニアの声────それを耳にしていたメツは、ラキアをここで始末する為にある行動に出た。
メツは急に攻撃の手を止めたと思えば、ニヤリと笑みを溢した。メツが攻撃の手を止めたと同時にブレイドのザンテツと後ろへと跳ねて後退した。
メツが攻撃をやめた事により、ラキアにチャンスが生まれた。でも、動けない。
この隙にラキアは赤い剣を手に取りたかったが、この不気味な隙、メツはあからさまに何かを狙っている。断言する罠だ。
───どうした?取れよ。剣を。
と目で言っているのはわかった。
(何を企んでる…?)
するとメツの目はニアの方を向いた。
───まさか!
ラキアは気付いた、メツの狙いに。
メツは地面をひと蹴り、あっという間にニアの首を絞めて、掴み上げた。
「ぐっ!」
旋棍の切っ先をニアへと向けた。
「メ…ツ…なにを…するんだよ…!」
「お嬢様!メツ様、何を…!」
ビャッコの叱咤に聞く耳を持たず、メツはラキアの方へもがくニアを突き出す。
「動くんじゃねぇ。動くとニアの首が吹っ飛ぶぜ」
「お前…!」
────ッ。
この瞬間────ラキアは自分の中の何かが切れた音を確かに聞いた。この内側から弾ける音、この音には聞き覚えがある。
ああ…コメル…。
アルストに訪れてから一度もなかった血と肉が焼き付く『怒り』の音。
「貴様…!」
ラキアの顔が憤怒に染まる。ニアを人質に取られてラキアは激怒するも、悔しいかな身動きが取れない。今動けば、メツは宣言通りニアの首を飛ばすだろう。そいう目をしている。ランゴと同じ様に。
─────────終わりだ。
シンの声が聞こえた次の瞬間、痛みが走った。視線を下ろして自らの胸元を見てみると、鮮血に染まった白い長刀が見えた。
「っ…」
背後からの一撃で胸を貫かれた。ラキアが己の顛末を理解したと同時にその太刀は背後から引き抜かれ、ラキアは血の海に沈んだ。
意識が薄れていく…最後に目に映ったのは、倒れた俺の姿を目にし、悲痛な面持ちで何かを叫んでいるニアの姿だった。
ああ──よかった─────
朽ちるラキアの顔に笑みが溢れた。
(ニアは無事だったか───)
こんな奴らとは早く縁切れよ。だるい。
ああ、本当に────────
「だる…」
ラキア・アマルガ──────『死亡』