守護の騎士が至る道   作:匿名希望

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突然ですがタイトルを変更しました。
こっちの方がかっこいいかと思ったので。


1-6「命半分、あなたと共に」

 

 何処からか鐘の音が聞こえる。

 ああ…もしかして迎えってやつかな?

 

(俺はあの世に行くのか…)

 

 だとしたら天国に行けるのかな、俺は。

 

(もし俺の罪が許されたなら、俺はコメルに会えるかな…)

 

 もしも会えたら今度こそ…。

 

(なあ、コメル…)

 

 もう、このまま楽になってコメルの元に…。

 

(──────いや、俺は…!)

 

 死ねない。まだ!

 

(まだ死ぬ訳にはいかないんだ!!!)

 

 

 ──────兄ちゃん!!!

 

 

「コメル!!!」

 

 懐かしい声を聞いたラキアは目を開き、薄れかけた意識を取り戻した。どうやら無意識に手を伸ばしていたらしい。でもその手に掴むものはもう何もなかった。既にこの手からすり抜けたのだ、大事なものは。

 

「幻聴か……」

 

 ついにコメルの幻聴が聞こえるようになってしまったか。いや、違う。きっと。

 

「起こしてくれたのか、コメル。……まったくお前って奴は…本当に…」

 

 目頭が熱くなる。ラキアの顔には自然と笑みが溢れる。

 

「優しいなあ」

 

 ずっと、そうだったよな、お前は誰よりも優しかったな。落とし物を拾って届けたり、石を不揃いに割ってしまった時も大きい方を俺にくれたりさ、俺が寝ている時に布団をかけてくれたのも気付いてたよ。

 

「助けられたな。ありがとうな、コメル」

 

 さてと…と、ラキアは立ち上がる。

 

「ここはどこだ…?」

 

 辺りに目を向けるも、似た様な景色が広がるばかり。自然が織り成す鮮やかな青い空と緑の草原だ。

 

(次から次へと…いったい何がどうなっているんだ?)

 

 アルストに来てからというもの、理解の追いつかない事ばかりが起こる。記憶が確かなら今まで居た場所は、古代船の中だった筈。どういう手品かは知らないが、今俺が立っているのは緑の大地だ。

 

(夢じゃないよな…)

 

 悪い夢を疑うラキア。そんなラキアの耳に絶える事なく聞こえているある音がある。

 

「鐘の音…」

 

 ずっと何処から鳴り続けている鐘の音。

 

「行ってみるか」

 

 このままここで突っ立っていても何一つとしてわからないままだ。とりあえずは鐘が鳴る方へと行くしかないと歩みを始めるラキア。すると、前へと進んでいくラキアの目に映ったのは、丘の上に立つ一本の木だった。風吹く草原の向こう側にその木は立っていた。

 丘の上の木の下、そこには"誰か"が居た。

 

「人?」

 

 赤い髪の女の子が丘の上に立っていた。

 

「哀しい音…」

 

 背を向け、丘の上から向こう側を見たまま、女の子はそう静かに呟いた。

 

「止まないの。ずっと…ずっと昔から、この音が鳴り止まないの…」

 

 ラキアは広大に続く景色を見て、鐘の音に耳を傾ける。すると女の子が口を開く。

 

「ここは『楽園』」

 

 そうか、ここが楽園か。散々聞い…え?

 

「遥かな昔、人と神が共に暮らしていた場所。『楽園』───そして"私達"の故郷」

 

 ここが『楽園』…あの世界樹の上にあるとか言われてる豊穣の大地、誰もが幸せに暮らせる理想郷。

 

「は?マジでか」

 

 驚きのあまり普段出ないマヌケな声を思わず出してしまったラキア。素っ頓狂な顔を浮かべ、その顔のまま目の前の女の子と顔を見合わせる。しかしその表情は、彼女の胸元にある"輝く結晶"を見て消える。

 

「お前…」

 

 彼女の胸にあったのは───

 

「"コアクリスタル"」

 

 って事は、こいつは…まさか。

 

「お前、ブレイドか」

 

 ラキアの言葉に女の子は静かに頷く。

 

「私の名前はホムラ」

 

 ホ…ムラ。なんて…。

 

(哀しい…目だ。あの時の────)

 

 自分を呪った、絶望した日の俺の目と同じだ。その瞳は、まるで鏡写しに思えた。

 

「あなたは───ラキア、ラキア・アマルガでしょ?」

「なぜ俺の名前を知っている?」

 

 名乗った記憶はない。

 

「さっき、私に触れてくれた時に知りました」

「……ああ、あの(つるぎ)か」

「はい」

 

 ラキアは赤い(つるぎ)に触れかけたが、触れる前にシンによって阻まれてしまった。しかしあの時、身を翻して攻撃を避けた際、ラキアは背面から(つるぎ)へ触れていた。

 

「ブレイドの力か。───それじゃあ、声で俺を助けてくれたのは」

「はい。私です。あの時は僅かに声を届けるのが精一杯で、すみません。その際で…あなたはシンに胸を刺し貫かれて死んだ」

「っ…!」

 

 言われずともわかってはいた───しかし改めて苦い現実を突き付けられると、ラキアの顔に悔しさが滲んだ。

 

(俺はあいつに───殺された)

 

 殺された、その事実がラキアの心中に荒波を立てる。

 

(言われなくてもわかってんだよ…!)

 

 本当に俺は、あんな所でくたばったのか…!内側から込み上げる悔しさが握る拳に力を与えていく。

 

(冗談じゃねぇ。あんな所で!)

 

 弟の死の真相を探り、仇を討つと誓ったあの日、それを果たせるならこの命、どうなってもいいとすら思った。でも今は違う。

 

(ショウマ、絆斗、幸果、あいつらを残して、何も言わず死ぬわけには…!それに俺は…俺はまだ、コメルやデンテに託された思いを全うしていない。あんな所で終わるわけにはいかなかった。なのに俺は…!)

 

 溢れ出る思いと悔しさが抑えきれない。

 

(爺さんに啖呵を切って、ニアもちゃんと守ってやれないまま…!)

 

 後悔の念が身の底から止めどなく溢れる。

 

(このままじゃきっと、商会のサルベージャー達も殺される。奴等なら口封じするに違いない)

 

 っ!口封じ……っ!

 

(だからか、バーンが妙に羽振りがよかったのは。あいつは金で俺達の命をメツ達に売ったんだな。モノケロスが追ってきてたのも、事が済んだら古代船諸共沈めてそのまま雲隠れする気か…!ふざけやがって…!)

 

 やっぱり最初からグルだったんだな。くそ…!このままじゃ全員メツ達に殺される。でも今の俺には成す術がない。どうすればいい、何か方法はないのか。

 

「くそ!」

 

 何もできない現実に苛立つラキア。そんな風に他者を思い、苦悩するラキアの表情を見て、ホムラはある一つの思いを胸に得た。

 

(この人なら───)

 

 "私達"の望みを叶えてくれるかも知れない。

 

「ラキア。お願いがあります」

 

 神妙な面持ちのホムラは願いを告げる。

 

「お願い?」

「私を『楽園』に連れて行って」

 

 『楽園』…という事は、ここは。

 

「ここは違うんだな」

「はい。この場所は記憶の世界。遠い、遠い、私達の中にある故郷を映した記憶の世界なんです」

「記憶?幻覚とか幻みたいなものか」

「その解釈で間違ってはいません。本当の『楽園』はラキア達が住む世界、アルストの中心に立つ世界樹の上にあります」

 

 導きの声を信じていなかった訳じゃないが、やっとそれらしい確証を得られた。

 

「成る程、楽園伝説は本当だった───という事か。それに…俺に連れて行ってくれと頼むという事は何か方法があるのか」

「私の命を半分あげます。そうすれば、あなたは生き返る事ができる」

 

 死んだ者を生き返らせる。俺からすれば、アルストで語られる楽園伝説よりもそっちの方が胡散臭い。それでも、目の前のホムラが嘘を言っているとは思えない。

 

「本当に可能なのか?一度死んで生き返る…なんて事が」

「はい。私の───『天の聖杯』のドライバーとして生き返る事ができます」

 

 ホムラが真剣な眼差しをラキアに向ける。

 

「ラキア・アマルガ。あなたはどうしますか?」

「やってやるさ」

 

 ラキアの迷いが欠片もない即答にホムラは少し驚いた表情を浮かべた。

 

「だる。自分で聞いておいて驚くな」

「すいません。即答だったもので…つい」

「元々『楽園』には行くつもりだったからな。案内してくれるなら手間が省ける」

 

 有難い話だな…とラキアは言う。それに今は手段を選んでいられる状況ではない。

 

「俺はここに導かれてきた。楽園を目指せって声にな。短髪で俺と似た服を着た子供を知ってるか?」

「いえ、知りません」

「じゃあ何なんだろうな。あいつは、何だって俺なんかに『楽園』に行けなんて言ったのか」

「その人が誰かはわかりません。でも、きっとあなたの様にアルストの未来を案じていたのかも」

「俺のように?」

「はい。私に触れたあの時、流れてきました。この世界、アルストを思うあなたの心が」

「だる。そんな大層なもんじゃない。俺はただ世話になった奴らに少しでも恩を返したいだけだ」

「だから『楽園』に…」

「お前の記憶の中のこの景色が本当なら、アルストの運命、死にゆく大地の呪縛からも解放されるだろうな。アルスが消える。いつか来る未来に怯えずに済む」

「はい」 

 

 ラキアとホムラ、2人の視線が交わる。

 

「わかった。その願い、なんでも屋が引き受けた。俺がお前を連れて行ってやるよ『楽園』に」

「ラキア、ありがとう」

「お前とあの声を信じるさ」

 

 それじゃ、行くか───『楽園』へ。

 

「まずはあいつらに借りを返さないとな。やられっぱなしなのは、好きじゃない」

 

 それ以上にニアだ。ニアとビャッコをあの連中と一緒に行動させてはおけない。商会のサルベージャー達も助けなければ。その後はバーンだ。あいつにもこの件に関してきっちり落とし前をつけさせなきゃ気が済まない。

 

「急ごう」

「はい」

 

 ホムラが目を閉じて念を込めると、胸に輝く翠玉色のコアクリスタルが静かながらも輝きを強め、光を帯びた波紋を放った。

 

「私の胸に手を」

「胸に?」

「はい」

「いいのか?」

「はい。どうぞ」

「…わかった」

 

 コアクリスタルから放たれる翠玉色の光の波紋と重なって、ドクン、ドクンと高鳴るホムラの命の鼓動がラキアに伝わる。

 ラキアは内心少しばかり戸惑を抱きながらも、真剣な面持ちで、そっと指先を伸ばし、翠玉色の輝きに触れた。その瞬間───翠玉色の静かな輝きは、大きな輝きを放つ光の本流へと変わり、ラキアの胸で渦を巻く様にして収束されていった。

 自分の胸の中に感じた事のない何かが宿っていくのをラキアは感じた。光が流れ込んできて、形となり宿る感覚…でもそれ以上にラキアの意識を向けさせるものがあった。

 ホムラだ。目の前にいる彼女が、ラキアから見たホムラの表情が、とても、とても。

 

(なんて顔だ……)

 

 ─────とても辛そうに見えてしまった。

 

 直後、光の奔流は激しさを増し、ラキアとこの空間の全てを一緒くたに飲み込んだ。

 

 目覚めると────ラキアは古代船の中、朽ち果てたあの場所にいた。

 血溜まりは消え、その代わりに天の聖杯の光が舞い、この空間を満たしている。

 

(まさか、本当に生き返れるとは…)

 

 実際驚いたラキアが腰を上げて立ち上がった足元では、プリンテゴチゾウが泣きながら飛び跳ねていた。その様子を見たラキアは酷く心苦しくなった。

 

「心配かけたな。すまん」

 

 相棒に心配をさせてしまったらしい。

 

「俺はもう大丈夫だ」

「ラキアン!」

「行くぞ、ヘルメットの中に入ってろ」

 

 喜ぶプリンテをヘルメットに入れて、再起したラキアは、右手に真紅に輝く(つるぎ)を構えた。

 翠玉色のコアクリスタルが煌めく真紅の(つるぎ)こそ、ラキアがドライバーとなった証。

 

「これがホムラの〈天の聖杯の(つるぎ)〉か。悪くない」

 

 ラキアが試しに(つるぎ)を虚空で振ると、(つるぎ)は燃え盛る炎の刀身を現した。

 こいつはいい、使えそうだとラキアは頷く。

 

「ホムラは…もういないか…」

 

 ホムラの姿がない。シン達、ニアの姿も。もぬけの殻だ。もうホムラを運び出して立ち去ったのだろう。急がなければ、奴らが事を起こす前に。

 

「お前のもう1人の主人の所に行くぞ」

 

 (つるぎ)へと語りかけると、クリスタルの神々しい輝きが増す。まるでラキアの言葉に「応!」と(つるぎ)が力強く答えているかの様。

 しかし、今から来た道を馬鹿正直に引き返していたら絶対に間に合わない。だったら方法は一つしかないと、ラキアの右手に力が入る。

 ラキアは暗く硬い天井を見上げて、天の聖杯の(つるぎ)の切先を天井へ向けた。

 

(時間が惜しい、荒っぽい手でやるか!)

 

 ラキアが両手で(つるぎ)を構え、烈火の如く燃え盛る刃を天井に向けて振るうと、炎が斬撃となって放たれた。轟々と燃え盛る炎は、硬い漆黒の鉄を簡単に焼き尽くし、暗雲垂れ込めた外へ続く道を作った。

 

「待ってろよ…!」

 

 これ以上、あんな奴らの好き勝手にさせてたまるかと、ラキアは炎によって開かれた道をグラニュートの身体能力を使って駆け上り、天から雨が降り落ちる甲板へと炎と共に飛び出した。

 強引に甲板に出た先、既にホムラは解放されてメツと一触即発の雰囲気になっており、ラキアは飛び入り乱入した形となった。

 

「さっきはよくもやってくれたな」

 

 メツらを見るラキアの目の奥は怒りに燃えていた。そしてラキアの胸には、翠玉色に輝くホムラのコアクリスタルの内側半分が現れており、彼自身の変化を象徴していた。

 ラキアがホムラから与えられた"半分の命"は、擬態である仮初の人間の体の情報すらも上書きし、胸にXの形をした翠玉色のコアクリスタルを浮かび上がらせたのだ。

 

「ラキア!?」

「てめぇ…!その(つるぎ)は…!」

 

 目を見開いて驚くニア、狼狽えるメツ。

 

「…」

 

 シンは、ラキアの姿を目にしても何も言葉を発する事はなかった。

 沈黙を貫き、背中の長刀に手を掛けた。

 

 

 

 

 つづく

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