「ふてぶてしいクソ野郎だ」
「お前は心底気に入らない野郎だな」
「言ってくれんじゃねぇかよ! スカした面、叩き斬ってやるよ!」
メツの青き旋棍が、ラキアの首を狩り取らんと空間を切り裂く。
「そのくどい面、ぶん殴ってやる」
売り言葉に買い言葉。ラキアはメツの一撃を受け流し、その最小限の動作のまま鋭いカウンターで聖杯の剣を叩き返した。
一進一退。互いに一歩も譲らぬ壮絶な攻防が繰り広げられる。
(ちっ、こいつの戦い方……面倒極まりねぇ! 瞬時にこっちの隙を見つけてきやがる!)
ラキアのファイトスタイルは型のない我流。だが、無駄な動きが一切ない。攻撃を受け流しながら常に優位な位置を取り、打ち込んでくる一撃一撃の精度と威力が異常に高かった。
新たに天の聖杯のドライバーとなったばかりだというのに、メツの肌に突き刺さるただならない手応え。
(最初に手を合わせた時からまさかとは思っていたが……このクソ野郎、間違いなく修羅場を潜り抜けてきた生粋の猛者だ!)
カウンター狙いの一撃に、一切の迷いがない。
(聖杯の剣だって使い慣れてねぇはずだろうが! もう長剣の特性を把握してやがる……丸腰の時とは訳が違げぇ!)
ここ数百年の間に殺してきた生温い連中とは格段にレベルが違う。
目の前の「壁」を前に、メツもギアを上げた。
「いいぜ……久しぶりに本気で激ってきたぜ! ラキア・アマルガァァァァ!」
咆哮とともに放たれたメツの強烈な一振り。
受け流しきれない重圧に、ラキアは聖杯の剣で防御を余儀なくされる。刃と刃が激突し、その衝撃で腕の骨が軋み、顔を歪めた。
(くっ……力が増した! 受け流すのにも限界がある。この黒ゴリラ……!)
感情が高ぶってパワーが増したのか。だるいな、とラキアは内心で毒づく。
「どうした!? そんなもんかよ! ええ!?」
次々と繰り出されるメツの怒涛の猛攻に、ラキアの足がわずかに後退し、徐々に押され始めていく。
「ラキア!」
見兼ねたホムラが加勢のために走り出すが、その前にメツのブレイド・ザンテツが凶悪な笑みを浮かべて立ち塞がった。
「来いよ、天の聖杯!」
「……っ!」
ザンテツの刃が襲いかかる。ホムラはエーテルの障壁を展開し、決死の覚悟で耐え凌ぐ。
火花が散り咲く激闘を前に、ニアの喉から血を吐くような叫びが漏れた。
「やめなよメツ! なんで……なんでラキアを殺す必要があるのさ!」
戦いを止めようと必死に声を上げるニア。だが、誰も止まらない。止まるはずがなかった。
命を賭して目の前で戦うラキアと、冷酷に刃を振るうメツ。いつまでも覚悟を決められずに足踏みをしているニアの半端さに、メツのイライラが爆発する。
「いつまでもふざけた戯言抜かしてんじゃねぇぞニア! この野郎はとっくに天の聖杯のドライバーだ!」
「天の聖杯の……ドライバー……!? ラキアが……!?」
「お前も自分のすべきことをやりやがれ! 何のためにここにいる!? 自分が何者なのか分かってんのか!?」
「っ……で、でも……っ!」
分かっている───自分が何者で、何を背負っているのか。
それでも、捨てきれない人の心が葛藤し、胸を引き裂く。苦悩に苛まれるニアは、眼前で繰り広げられる惨劇を前に、まだ足を一歩踏み出すことができずにいた。
「ニア! お前を利用したこんな奴の言葉に耳を貸すな!」
戦闘の渦中、ラキアがニアに向かって叫ぶ。
「はっ、利用ねぇ! よく言えた口だぜ!」
「なんだと?」
「それがお前ら人間の所業だと言ってんだよ!」
「そうかよ!」
ラキアはメツの軸足を容赦なく払い、バランスを崩させる。
倒れかけたメツの体勢が崩れた一瞬の隙を突き、ラキアは聖杯の剣をひっくり返した。倒れたメツの頭部目掛けて叩き落とされたのは───刃ではなく、剣の『側面』だった。
メツは身を捩って間一髪でそれを避け、跳ね起きて着地する。直後、不快感で顔を猛烈に歪めた。
「……なぜ斬らなかった。ナメてんのか!」
「だる。お前にわざわざ理由を説明する気はない。自分で考えろ」
「自分が殺されても殺す勇気はねぇってか!? お人好しが!」
吐き捨てたメツは、旋棍を頭上高く投げ上げた。
頭上に躍り出ていたザンテツがそれを受け取る。
「喰らいな!」
ザンテツは空中から、高密度に凝縮されたX字の飛ぶ斬撃をラキアへと振り下ろした。
ラキアが防御の構えを取ろうとしたまさにその瞬間───ホムラが滑り込み、身を挺して障壁を展開!
ドガンッ!!
障壁と超高圧の斬撃が正面衝突し、甲板に暴風のような衝撃波が吹き荒れた。
「ホムラ、助かった」
「どういたしまして! 次、来ます!」
煙を切り裂き、メツとザンテツが同時に迫る。
あまりに壮絶な戦いに、呆然と立ち尽くしていたアヴァリティアのサルベージャーたち。その姿がラキアの視界に入る。
「何やってんだ! お前らさっさと逃げろ!」
ラキアの一喝にハッと我に返った男たちは、大急ぎでウズシオへと走り出した。
だが、メツが逃がすはずもない。
「逃すわけねぇだろ!」
ザンテツから武器を受け取ると、所有権をスイッチ。刀身に莫大なエーテルエネルギーを収束させていく。
「誰も逃がさねぇ……全員ここで死んでいけ!」
船の上部へと一躍したメツは、剣先をウズシオへ向けて研ぎ澄ませた。ザンテツの斬撃を遥かに上回る広範囲破壊攻撃。あの船ごと、全員を塵に変える気だ。
「お前の相手はこっちだ!」
ラキアが聖杯の剣を振り抜き、巨大な炎の斬撃をメツの足元へ叩き込んで強引に狙いを逸らさせた。
その隙にウズシオはエンジンを全開にし、ラキアたちを残して古代船から大急ぎで離脱していく。
「チッ……取り逃がしたか!」
舌打ちするメツ。その隙に、ラキアとホムラは息を合わせる。
「ラキア、合わせていきます!」
「……俺もか?」
「はい!」
「……わかった!」
若干の戸惑いを覚えつつも、ラキアはホムラの誘導に従った。
ふたりで聖杯の剣の柄を握り締め、天高く跳躍する。
雨上がりの空に舞い上がった二人は、炎が燃え輝く大剣をメツへ向かって振り下ろした!
「バーニングソードォ!!」
「ソード……」
凄まじい爆炎が古代船の上部を包み込む。
激しい戦いの真っ最中だというのに、ラキアの頭の中には(技の名前をいちいち叫ぶ必要があるのか……?)という疑問が浮かんでいた。そういえばモンスターと戦った時、ニアたちも……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
────やるじゃねぇか。
燃え盛る炎の中から、神経を逆撫でする男の声が響いた。
爆風が晴れると、そこには無傷のメツと、彼の背後で武器を逆手に構えて完全防御の体勢を取るザンテツの姿があった。
直前に全エーテルを防御に集中させ、ラキアたちの必殺の一撃を完封してみせたのだ。
(これで終わるとは思っていなかったが、無傷か……ブレイドの能力を引き出すドライバーとしての経験の差だな)
と、ラキアは冷徹に分析する。
「シンの言う通り、導かれたってのもこれなら頷けるぜ」
メツは凶暴な笑みを深め、ラキアの顔を凝視した。
「それに……よくよく見てみりゃ、お前のその顔……似てるな」
「似てる? 何のことを言っている」
「教えねぇよ!」
メツは空いている左手に、禍々しい紫色のエネルギーを収束させ始めた。
直感的に『ヤバい』と悟るラキア。だが、滞空中の身体は思うように動かない。
空中戦に不慣れなラキアへとメツの手が振り下ろされようとした瞬間───ホムラが咄嗟にラキアの体を引き寄せ、必死の思いで間一髪の回避を果たした。
甲板に着地したラキアとホムラ。そこへ容赦なくたたみかけるメツとザンテツ。
武器と武器が激しくぶつかり合い、火花を散らして距離が空いた。
「中々のモンだぜ。初見で天の聖杯をそこまで使うとはな。もしかするとアデルに匹敵するかもな」
「使う……?」
天の聖杯……ホムラを『使う』、か。
「はぁ……本当、だるいなお前は」
ラキアは剣を構え直す。
こいつの喋る全てが勘に触る。
(いっそ、こいつらをヒトプレスにでもして……)
自身の本来の力を使えば、この場を打開できるかもしれない。だが───。
(いや、ダメだ。ニアならともかく、俺の舌の速度はそこまで速くない。メツには確実に対応される。それに……あのシンとかいう仮面の男。俺を仕留めた時のあの速さ……あいつに当たるとは思えない)
下手に使えば、一瞬で首を飛ばされるのがオチだ。
(シンのあの尋常じゃないスピード……)
このアルストの世界の人間は、幸果や絆斗たちのいる人間界よりも身体能力が高い。環境のせいだろうが、それにしてもシンの速度は常軌を逸している。
(まさか……あいつは……)
思い返した脳裏に、一つの強烈な疑惑が浮かび上がる。だが、それを確信に変えるにはまだ情報が足りない。
「戦闘中に考え事か!? 余裕じゃねぇかよ!」
しまった、隙を見せた───!
回避は間に合わない。ラキアは咄嗟に聖杯の剣でガードするが、メツの超重量の一撃を殺しきれず、激しくノックバックして膝をついた。
「調子に乗るなよ、クソ野郎!」
メツの左手が、再び気味の悪い紫色の光を放つ。
「特別だ……味わいな!」
メツがニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、突き出された手から絶大な波動が解き放たれる!
「ラキア!」
ザンテツの猛攻を掻い潜りながら、ホムラが悲鳴のような声を上げた。
死の波動が迫る。だが、ラキアの瞳から光は消えていない。
(仕方ない……あまり使いたくはなかったが……!)
本来の『グラニュート』の力を解放し、強行突破を図ろうとした───まさにその時!
「ビャッコ!」
「承知!」
絶体絶命のラキアのピンチに、ついにニアが動いた!
ニアの言葉に応じ、ビャッコが空を突くような咆哮を放つ。その衝撃波がメツの紫の波動と真っ向からぶつかり合い、相殺して掻き消したのだ!
ビャッコの背に乗り、ニアがラキアの前に立ちはだかる。
「ニア……! 何しやがる! 頭イカれてんのかお前は!」
「イカれてんのはそっちだろ!」
「自分の側がどっちか分かってんのか!?」
「分かってるさ! けど……っ!」
「煮え切らねぇな! ああああっ……! めんどくせぇぞニアぁぁ!!」
メツの苛立ちが頂点に達し、血走りそうな目で二人を睨みつける。
「ニア、ビャッコ……助かった」
「お気になさらず。お嬢様の指示ですので」
「そうか。なら……ホムラの援護を頼む」
「ラキアは……まさか、メツを一人で!?」
「ああ。お前の分も一発かましてやる」
ラキアは立ち上がると、無造作にニアの頭をぐしゃぐしゃと力強く撫で、一歩前へ出た。
度重なる激闘の衝撃で、頭のヘルメットはボロボロにひしゃげてしまっていた。もはや防具として、サルベージャーのお供としての役目は果たさない。
ラキアはそれを無造作に脱ぎ捨て、甲板へと投げ捨てた。
(次に会った時、コルレルの婆さんに謝らないとな……)
邪魔な上着も脱ぎ捨て、軽装となったラキア。
彼は腹を括り、大切なものを守るための「覚悟」を決めた。
「頼む。また力を貸してくれ」
ラキアの静かな願いに応えるように、ラキアの背中の陰からひょっこりと現れたプリンテゴチゾウが、その手の中へと飛び込んでくる。
「ラキアン! いくぞー!」
戦場の緊迫感には似つかわしくない無邪気な声に、ラキアの唇がふっと和らいだ。
まるでデンテだな……と、かつての仲間への思いが胸を掠める。
ラキアは聖杯の剣を甲板に突き立てると、自らの『力』を取り出した。
一度は傷つき、ひび割れてしまったそれ。長時間の戦闘には耐えられないかもしれない。
だからこそ───頼むから保ってくれと、心の中で祈りを捧げる。
取り出したのは、重厚な《ヴラスタムギア》。
「僕(デバイス)……?」
「おい待て……なんでお前がそれを持ってやがる!?」
ラキアが掲げた『それ』を目にした瞬間、ホムラとメツの顔色が変わった。
ふたりは、それに極めて酷似した『何か』を知っていた。だからこそ、そのギアが存在すること自体に強烈な驚愕と疑問を抱いたのだ。
「最短で勝負を決める」
『ヴラスタムギア』
ラキアは腰にベルトを装着し、相棒と共に真の力を解き放つ。
『デザート!』『オン!』
『ドロップミー!』『ドロップミー!』
『デッシュアップ!』
『メイキング!』『メイキング!』
足元に出現した煌びやかな取手を一気に引き上げると、甘い旋律とともに、周囲に色とりどりのフルーツと純白の生クリームが絢爛に盛り付けられた三段重ねの巨大なケーキスタンドが姿を現した!
『スイーツ!』『メイキング!』
『メイキング!』『メイキング!』
荒れ果てた戦場に響き渡る、どこかポップで陽気な音声。
スタンドに美しく並べられた鮮やかな果実と、溢れんばかりの甘いクリーム。
あまりにも場違いで幻想的な光景を前に、ニアも、ビャッコも、ホムラすらも「えっ……?」と目を丸くして言葉を失った。
何を見せられるかと警戒していたメツすらも、想定外すぎる事態に開いた口が塞がらず、完全に硬直する。
『スイーツ!』『メイキング!』
乱れた前髪をサッと掻き揚げ、ラキアは静かに、けれど揺るぎない声で言い放った。
「変身」
それは、自分を変える覚悟の言葉。
『Complete!』
ぷるんと震えるカスタードプディングが、極上のフルーツと美しく輝く純白の生クリームで包み込まれ───ラキアの全身を、気高く煌めく銀色の騎士の装甲が覆っていく!
『アラモード・モード!』
『ボナペティ!』
光が弾け、ラキア・アマルガは華麗に、そして力強く変身を遂げた。
弱き者を守り、不条理を打ち砕くため、悲しみを繰り返さない、守るための騎士────。
"仮面ライダー"へと。
つづく
読みやすい文字数を教えてください
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5000〜6000