「……まだだ。まだこの機体は、死に場所を選ぼうとしない」
サラミス級巡洋艦の外部デッキ。減圧された薄暗い空間で、エドワード・ケインは、異様な進化を遂げたジム・ヴァリアントの前に立っていた。
宇宙(そら)に上がったヴァリアントは、もはや「ジム」の原形を留めていなかった。脚部はパージされ、代わりに大破したボールの駆動ユニットと、撃沈されたサラミスの機銃座から剥ぎ取ったスラスターが、蜘蛛の脚のように歪に結合されている。
「エドワード軍曹、発進準備を。貴様の『ゴミの塊』に割けるデッキはない。船外からそのまま出撃しろ」
通信機越しの整備兵の言葉には、侮蔑と、それ以上に「正体不明の化け物」に対する畏怖が混じっていた。エドワードは無言でパイロットスーツのヘルメットを閉じ、コックピットへと滑り込んだ。
ハッチが閉まると、周囲の喧騒は消え、機体から伝わる微かな「鼓動」だけが、シート越しに彼の背骨を震わせた。
ソロモン宙域。戦場は、無数のジムやザク、そして爆散した艦艇の残骸が漂う、鉄と血の墓場となっていた。
エドワードは、センサーが捉えた「光」に目を剥いた。
「速い……! 冗談じゃない、あれは彗星か!?」
黒い闇を切り裂く、鮮烈な「赤」。
一機の高機動型ザクIIが、物理法則を嘲笑うかのような鋭角的な機動で、連邦軍のミサイル群を紙一重でかわしていく。その機体が動くたびに、連邦のパイロットたちが断末魔を上げる間もなく消えていった。
「――見つけたぞ。戦場に不似合いな、歪な影を」
通信回路に、傲岸不遜だが確かな気品を感じさせる声が割り込んだ。
「真紅の稲妻」ジョニー・ライデン。彼が操るザクのモノアイが、ヴァリアントの翡翠色の瞳を捉えた。
「来るか、エースが……!」
ジョニーのザクが、ジャイアント・バズを掃射する。
エドワードは直感した。今の装備では、この男には届かない。
「ヴァリアント……お前の本気を見せろ! 魂を……パーツを喰らえ!」
コマンドが入力された瞬間、ヴァリアントの全身から爆砕ボルトが射出された。
装甲が、武器が、そして予備のバランサーが次々と虚空へ放り出され、機体は剥き出しのムーバブル・フレームのみへと「削ぎ落とされた」。
そして、ヴァリアントは周囲を漂っていた「サラミスの主砲の冷却筒」と「破壊されたボールの姿勢制御バーニア」を、電磁ワイヤーで強引に自身へと手繰り寄せた。
「なんだ、あれは……機体をバラしながら……加速しているのか!?」
ジョニーの驚愕。
質量を極限まで減らし、即席の大出力ブースターを得たヴァリアントは、エメラルドグリーンの光の尾を引いて爆発的に加速した。
Gによってエドワードの視界が暗転しかける。だが、機体と直結した感覚が、敵の「先」を指し示した。
4. ヴォルテックス・ブレイカー・オーバーロード
ジョニーのヒート・ホークが、ヴァリアントの肩をかすめる。
しかし、エドワードは回避を捨てた。
「これでおしまいだ……ッ!」
右腕に換装された、高熱のエネルギーが逆流するヴォルテックス・ブレイカー(強化型槍)。
エドワードはブースターを自爆させ、その爆発の反動を全て刺突の推進力へと転換した。
真空の宇宙で、音のない激突が起きた。
翡翠の閃光が、赤い稲妻の軌道を力任せに弾き飛ばす。
「……はは、面白い。連邦にも、これほどまでの執念を燃やす兵士がいるとはな」
ジョニーのザクは左腕を損傷し、戦線から離脱していく。
一方のヴァリアントも、過負荷により右腕が爆散し、漂流を余儀なくされていた。
だが、その翡翠色のバイザーは、まだ消えていない。
次なる戦場、ア・バオア・クー。
そこには、この機体が求めて止まない「最後のパーツ」が待っているのだ。