ヴァリアント・サーガ   作:ちゅずめ

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宇宙世紀0079年12月。戦場は、重力から解き放たれた無慈悲な真空――宇宙(そら)へと移った。地球連邦軍の「星一号作戦」が発動し、ジオン公国の最終防衛ラインである要塞ソロモンが、連邦軍の放つソーラ・システムによって白熱していた。


ソロモン、真紅の閃光

「……まだだ。まだこの機体は、死に場所を選ぼうとしない」

サラミス級巡洋艦の外部デッキ。減圧された薄暗い空間で、エドワード・ケインは、異様な進化を遂げたジム・ヴァリアントの前に立っていた。

宇宙(そら)に上がったヴァリアントは、もはや「ジム」の原形を留めていなかった。脚部はパージされ、代わりに大破したボールの駆動ユニットと、撃沈されたサラミスの機銃座から剥ぎ取ったスラスターが、蜘蛛の脚のように歪に結合されている。

 

「エドワード軍曹、発進準備を。貴様の『ゴミの塊』に割けるデッキはない。船外からそのまま出撃しろ」

 

通信機越しの整備兵の言葉には、侮蔑と、それ以上に「正体不明の化け物」に対する畏怖が混じっていた。エドワードは無言でパイロットスーツのヘルメットを閉じ、コックピットへと滑り込んだ。

ハッチが閉まると、周囲の喧騒は消え、機体から伝わる微かな「鼓動」だけが、シート越しに彼の背骨を震わせた。

 

 

 

ソロモン宙域。戦場は、無数のジムやザク、そして爆散した艦艇の残骸が漂う、鉄と血の墓場となっていた。

エドワードは、センサーが捉えた「光」に目を剥いた。

 

「速い……! 冗談じゃない、あれは彗星か!?」

 

黒い闇を切り裂く、鮮烈な「赤」。

一機の高機動型ザクIIが、物理法則を嘲笑うかのような鋭角的な機動で、連邦軍のミサイル群を紙一重でかわしていく。その機体が動くたびに、連邦のパイロットたちが断末魔を上げる間もなく消えていった。

 

「――見つけたぞ。戦場に不似合いな、歪な影を」

 

通信回路に、傲岸不遜だが確かな気品を感じさせる声が割り込んだ。

「真紅の稲妻」ジョニー・ライデン。彼が操るザクのモノアイが、ヴァリアントの翡翠色の瞳を捉えた。

 

「来るか、エースが……!」

 

ジョニーのザクが、ジャイアント・バズを掃射する。

エドワードは直感した。今の装備では、この男には届かない。

 

「ヴァリアント……お前の本気を見せろ! 魂を……パーツを喰らえ!」

 

コマンドが入力された瞬間、ヴァリアントの全身から爆砕ボルトが射出された。

装甲が、武器が、そして予備のバランサーが次々と虚空へ放り出され、機体は剥き出しのムーバブル・フレームのみへと「削ぎ落とされた」。

そして、ヴァリアントは周囲を漂っていた「サラミスの主砲の冷却筒」と「破壊されたボールの姿勢制御バーニア」を、電磁ワイヤーで強引に自身へと手繰り寄せた。

 

「なんだ、あれは……機体をバラしながら……加速しているのか!?」

 

ジョニーの驚愕。

質量を極限まで減らし、即席の大出力ブースターを得たヴァリアントは、エメラルドグリーンの光の尾を引いて爆発的に加速した。

Gによってエドワードの視界が暗転しかける。だが、機体と直結した感覚が、敵の「先」を指し示した。

4. ヴォルテックス・ブレイカー・オーバーロード

ジョニーのヒート・ホークが、ヴァリアントの肩をかすめる。

しかし、エドワードは回避を捨てた。

 

「これでおしまいだ……ッ!」

 

右腕に換装された、高熱のエネルギーが逆流するヴォルテックス・ブレイカー(強化型槍)。

エドワードはブースターを自爆させ、その爆発の反動を全て刺突の推進力へと転換した。

真空の宇宙で、音のない激突が起きた。

翡翠の閃光が、赤い稲妻の軌道を力任せに弾き飛ばす。

 

「……はは、面白い。連邦にも、これほどまでの執念を燃やす兵士がいるとはな」

 

ジョニーのザクは左腕を損傷し、戦線から離脱していく。

一方のヴァリアントも、過負荷により右腕が爆散し、漂流を余儀なくされていた。

だが、その翡翠色のバイザーは、まだ消えていない。

次なる戦場、ア・バオア・クー。

そこには、この機体が求めて止まない「最後のパーツ」が待っているのだ。

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