ヴァリアント・サーガ   作:ちゅずめ

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宇宙世紀0079年12月31日。連邦軍の最終攻勢「星一号作戦」の終着点、宇宙要塞ア・バオア・クー。宇宙はもはや戦略も戦術も無意味な、ただ「命」を「死」へと換装し続ける巨大なシュレッダーと化していた。


亡霊たちの共鳴

「……起きろ、ヴァリアント。ここが、俺たちの終わる場所だ」

エドワードの声は、ヘルメットの中でかすかに震えていた。

ソロモンでの死闘を経て、ジム・ヴァリアントは文字通りの「骸」だった。右腕は肩口からねじ切れ、スラスターは片肺を潰したように火を噴いている。酸素供給システムは沈黙し、コックピットを維持しているのは、エドワードが機体各所に突き立てた予備のバッテリーケーブルのみ。

だが、ヴァリアントのバイザーは、消えていなかった。

戦場に漂う夥しい数の残骸――ジムの盾、ザクの胸部装甲、ゲルググのビーム・ナギナタの残熱。それらが放つかすかな磁場に、ヴァリアントのOSが狂おしく反応し、翡翠色の輝きを増幅させていく。

 

「……そうか。お前には、こいつらが『パーツ』に見えるんだな」

 

エドワードが強制再起動のレバーを引くと、機体は「鳴いた」。金属が軋む悲鳴が、神経を逆撫でするような共鳴音となってエドワードの脳内に直接流れ込む。

 

 

ア・バオア・クーのSフィールド。要塞の防壁を突破しようとするエドワードの前に、ジオンの防衛部隊が立ちはだかる。しかし、ヴァリアントの動きは、もはや「操縦」の域を超えていた。

 

「システム、無差別換装(レゾナンス)……開始!」

 

エドワードが叫ぶと同時に、機体から電磁ワイヤーが放射状に放たれた。

それは周囲を漂う「戦死者たちの遺品」を強引に引き寄せる触手だった。

 

• 右腕: 撃破されたばかりのゲルググの右腕が、火花を散らしながら接合される。

• 背面: 破壊されたジオン軍巡洋艦の小型ミサイルポッドが、装甲を貫いて固定される。

• 全身: 各所にジムの増加装甲が、まるで鱗(うろこ)のように重なり合い、異様なシルエットを形成していく。

 

 

「バカな……連邦のMSが、ジオンのパーツを喰って……再生しているのか!?」

 

ジオン兵の恐怖は、そのまま断末魔へと変わった。ヴァリアントは、敵の攻撃を「装甲をパージして受け流す」のではなく、「破壊された部位を、その場にある敵の残骸で補いながら前進する」という、生物の自己修復にも似た狂気の機動を見せた。

 

「……エドワード……いかないで……」

 

「……地球は、青いか……?」

 

コックピットに、電子音ではない「声」が響き始める。

ヴァリアントが取り込んだパーツ、その一つ一つに刻まれたパイロットたちの残留思念が、OSを通じてエドワードの意識に逆流してきたのだ。翡翠色の光は、今や機体から溢れ出すほどに強まり、要塞の闇を青白く照らし出す。

 

「分かっている! 恨みも、未練も、全部この俺が背負ってやる! だから今は……この『勇敢なる者(ヴァリアント)』に力を貸せッ!!」

 

エドワードの咆哮に呼応し、機体のリミッターが完全に崩壊した。

継ぎ接ぎの怪物と化したヴァリアントは、要塞の内部へと突入する。その姿は、連邦でもジオンでもない。ただ「生き残る」という執念だけが形となった、宇宙の亡霊そのものだった。

要塞内部のメインシャフト。そこには、一年戦争の最後を締めくくるにふさわしい、圧倒的なプレッシャーを放つ機体が待っていた。

ジョニー・ライデンのゲルググ。

だが、その背後には、ジオンが秘匿していた「もう一機のヴァリアント」の影が見え隠れしていた。

 

「……来たな、エドワード・ケイン。その汚らわしくも気高い魂、私のすべてを懸けて、今ここで断ち切ってやろう!」

 

ジョニーの声に、もはや侮蔑はない。あるのは、一人の戦士としての最大の敬意。

要塞が爆発の衝撃に揺れる中、翡翠の亡霊と真紅の稲妻が、最後の舞台で対峙した。

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