担当ウマ娘は頼めばやらせてくれる   作:カランコエ(Kalanchoe)

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サトノクラウンは頼めばやらせてくれる

「や……あ、やめてっ……トレーナー…!」

「クラウン」

「そ、そこは……だめっ……んんっ…!」

「クラウン」

「ひぅ…!うぅ…!いじわる…!」

「……まだマッサージ始めてないんだけど?」

 

 先ほどまでの淫靡(いんび)な顔とはうってかわって、ちろりとサトノクラウンはイタズラっぽく舌を出した。

 場所はトレーナー室。ある種の日課となってしまった全身マッサージの時間。まだベッドに寝かせて脚に触れただけである。

 

「どうかしら?それなりには(・)し(・)た(・)な(・)く(・)できたと思うのだけれど」

「そうだね。は(・)し(・)た(・)な(・)い(・)からやめて欲しいかな」

 

 最近のクラウンはいつもこうだ。

 つい先日、彼女が俺の顔を見ながら『好(ホオ)』とつぶやいたことに俺が聞き返してしまったのが発端だ。

 

「やめて欲しいということは効いているのよね?」

「単に担当ウマ娘には節度を守って欲しいというだけだよ」

 

 もともとクラウンが俺に好意を抱いているのは知っていた。知っていながら気付いていないように振る舞っていたのだが、仕事中にあまりにも自然につぶやかれた言葉に思わず聞き返してしまったのが悪かった。

 好意が明確にバレてみるみるうちに赤くなったクラウンはひとしきりごまかそうとして墓穴を掘りまくったあげくに、照れ隠しと反省をした後に開き直った。

 好意を一切隠さずに、やたらと過激なアプローチを仕掛ける方向に。

 

「ふふっ♪あなたにだけよ。こんな私を見せるのは」

「そりゃあ、トレーナー冥利(みょうり)に尽きるな」

「男冥利に尽きるの間違いじゃないかしら?」

 

 顔色ひとつ変えていない自信はある。だが、クラウンも余裕の表情を崩さない。

 大人の余裕で躱(かわ)しているように見せかけていて、その実、クラウンの方が常に優勢である。

 

「ねえ、あなたになら私はどこを触られたって構わないわ」

「……女の子がそういうこと言わないの」

 

 一瞬俺が言葉に詰まったことをサトノクラウンは見逃さない。きらりと綺麗な瞳が光り、上機嫌に尻尾が揺れる。

 

「果然(やっぱり)。こういう無防備な言い回しが好みなのかしら?」

「……黙秘させてもらう」

 

 黙秘と言った時点で答えているようなものだ。それに加えて、動悸が激しくなっている。ウマ娘の耳なら十分に聞こえる距離だろう。

 開き直ったクラウンは過激なアプローチを通して俺の好みを探る方向に舵(かじ)を切ったらしい。このマッサージ中に喘(あえ)ぎ始めたのも、隙だらけのセリフ回しもおそらくその一端。

 

「尻尾の裏なんてどう?ウマ娘のパートナーじゃないと触れないわよ?」

 

 上機嫌に揺れていた尻尾をゆるりと持ち上げ、わざとらしく臀部というか尻尾が強調される。こちらを煽るように本来は秘されている裏側が見え隠れしている。

 ため息を吐き渋面を作る俺とは対照的に、クラウンはご機嫌な笑顔で笑いに喉を鳴らしている。

 

「そのパートナーは頭に"生涯の"と付くはずだろう」

「あら、知ってたのね」

「ウマ娘によっては下着を脱ぐよりも恥ずかしいとまで言わしめる部位だぞ。中央のトレーナーなら誰でも知ってる」

 

 ウマ娘によっては性感帯でもあり、親しい家族であっても触ることは滅多に無い場所だ。ウマ娘のトレーナーとして、年端のいかない学生たちの指導者として知らない訳が無い。

 そして、クラウンが信頼ではなく親愛の証として、尻尾の裏を提示したのだろう。もちろん将来の伴侶へのと枕詞が付くが。

 

「あなたになら、どこを触られてもいいわよ?」

 

 弾んだ声でクラウンはそう続ける。

 いかにも今の調子に乗ったクラウンが言いそうな台詞であり──その言葉を俺は待っていた。

 

「……どこでも?」

「ええ。もちろんそれなりの覚悟はしてもらうけれど、ね?」

 

 つまりは変なところ触ったら責任取ってもらうから、という意味だがそんなことはどうでもいい。

 ベッドに寝そべるクラウンの脚を押さえるようにのしかかる。

 

「い、意外と、大胆なのね…?」

 

 そのまま彼女の体操服のハーフパンツに手をかける。

 

「こっ、こ、こういうのは順番が、あ、あるんじゃ、ないかしら…!い、いえ、あ、あなたがしたいのなら、いいぃぃのだけれどっ…!」

 

 そして、

 

「いっ…!?い、痛っ!?痛い痛い痛いっ!!」

「やっぱりオーバーワーク気味だね。ここは梨状筋なんだけど──」

「とれっ、いっ!?ト、トレーナー!!ちょっ…!まっ…!」

 

 最初からマッサージが目的で、クラウンから許可も貰った。遠慮する理由が無い。もちろん私情とお灸も多分に含まれている。

 

「この様子だと疲労で股関節も固まってそうだな。太ももからほぐしていくぞ」

「や、あっ…!トレーナーの、いじわるっ…!」

 

 催促するようにクラウンの尻尾が揺れ俺の腕を撫でるが、彼女が期待しているようなハ(・)プ(・)ニ(・)ン(・)グ(・)など起こるはずもない。彼女はまだ学生である上にサトノグループの令嬢で、一方の俺はれっきとした成人で中央トレセン学園のトレーナーとはいえ一介のサラリーマンにすぎない。

 

「上半身もマッサージしていくぞ」

「……おっぱい?」

「違う」

 

 痛い痛いと喘ぐクラウンを意図的に無視して肩甲骨から小胸筋にかけて指圧を加えていく。こっちは家業のデスクワークによる凝りだろうか。

 

 倫理的にも社会的にも俺がクラウンに手を出すことは無い。それをクラウンも承知の上で誘惑してくる。だからこそ、クラウンの本気度合いが透けて見える。

 それほどまでに好きなのだと。

 いざ問題になれば手段も選ばずに処理するのだろうと。もしくは、そもそも問題が発覚することすらないのだろうと。

 

「今日はこれで終わり」

「……触ってくれても、揉んでくれても良かったのに」

「未婚の女性がそんなこと言わない。それに俺はそんなことしない」

 

 あくまでも固い言葉遣いで明確に否定する。

 こうでもしないと間違いなくクラウンはわざと勘違いして外堀を埋めてくるだろうから。

 

「……もう。トレーナーのLady Killer、万人迷(マーヤンマイ)、人たらし」

「はいはい。どうせ俺はた(・)ら(・)し(・)だよ」

 

 クラウンの罵倒混じりの挑発にも慣れてきた。

 言ってしまえば、他の女性に盗られるんじゃないかという不安をそのまま言葉にしているだけである。

 

 日課のマッサージで際どい場所ばかり触っているおかげで、思い切りの良いクラウンが派手なことを起こしていないとも言える。

 要するに、俺が言外に込めている意味は十分に伝わっていて、でもやっぱり既成事実にしておきたいというところだろう。

 

「ねえ、トレーナー」

 

 ごろりとクラウンが仰向けになる。

 潤む目元。少し上気した頬。吊り上がる口元。汗で湿った体操服が貼り付き、少し透けている。

 

 ……猛烈に嫌な予感がする。

 

「まだ、こっちがマッサージされてないのだけれど」

「そっちはする訳ないだろ」

 

 そうしてクラウンは媚びるように、誘うように体を動かし、胸を、お腹を、脚をアピールしてくる。

 そして俺は目を離せない。豊かな丘陵。裾から覗くキメの細かい肌。しなやかな脚。ゆらゆらと誘うように揺れる尻尾。わずかに見える尻尾の裏の肌と毛の境界線。

 

 俺の視線を誘導するようにクラウンが自身の正中線をなぞっていく。顎の下から胸骨、鳩尾(みぞおち)、わざとらしくお臍(へそ)を強調し、そして──

 

「私の弱点、いくつ見つけられるかしら?」

 

 ……人の気も知らないで本当にこの娘は…!

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