担当ウマ娘は頼めばやらせてくれる   作:カランコエ(Kalanchoe)

4 / 4
マルシュロレーヌは頼めばやらせてくれる

『ト、トレーナーさん!それは、ちょっと強引なんじゃないかなっ!?』

「いやでもマルシュから言い出したことだよね?」

『そうですけど!?わたしにも心の準備というのが必要でして!?』

「いや、さっき大丈夫ってマルシュが言ったところじゃん」

 

 スムーズに手繰(たぐ)っていた布地が急に力強く引っ張り返され、引っ張り合われた布がギチギチと嫌な音を立てる。

 破れないのはマルシュが加減しているのか、それとも素材が良いのか。

 そんな小競り合いもたった数秒。

 

「あっ……」

 

 破れるよりはマシだと思ったのか、諦めたのかはわからないがマルシュが力を緩めた隙に奪い取る。丁寧に。力尽くで。

 

「ぁぅ……」

「マルシュ、ゆっくりでいいよ。焦らないで」

 

 途端に頬を赤く染め、黙りこくってしまうマルシュ。やはり引っ込み思案のマルシュには早かったかもしれない。

 だが、マルシュから望んだことだ。そう自分を納得させる。

 

「マルシュ、深呼吸して」

「ふぅ……ふぅ……」

「……やっぱり早かったかな」

「……っ!」

 

 すでに息の荒いマルシュを前にして思わず漏れた本音に、マルシュの耳が萎れる。言葉は伝わってこないが、それでも『ごめんなさい』という感情は伝わってくる。

 

「マルシュ、君には君のペースがある。落ち着いて、ゆっくりやっていこう」

「……」

 

 ペースというのは大事だ。

 レースだけではなく『せめてトレーナーさんとくらいは、マルちゃん無しでもお話したいんです!』という切実なお願いについても。

 そんな訳でマルシュからパペットを渋々ながら渡してもらったわけなのだが、前途多難だ。

 

 さてどうしたものかと、何気なく、本当に何気なく、さっきマルシュから渡してもらったパペットを手にはめた。

 

「……っ!?!?」

 

 途端に、まるで火が着いたかのように赤くなるマルシュ。

 

「マルシュ…?」

 

 どうした?何か俺がやらかしたか?と考えつつも、手慰みにパクパクとパペットを動かすと、パペットの動きに合わせてマルシュが言葉を紡ぎ始める。

 

『ト、トレーナーさんは、マルちゃんの大事なところに手を突っ込んで、好き放題したかったのですか!?』

「言い方がいかがわしくないかい、マルシュ」

 

 掛かってしまっていますね。

 冷静さを取り戻せるといいのですが。

 

『ラ、ラヴちゃんにも触らせたことないところを、い、今、トレーナーさんが、めちゃくちゃに…!!』

「あー、それは、まあ、俺が悪い。ごめんね」

 

 釈然としないものを感じつつも、無二の親友にすら触らせたことがないと言われると反応に困る。それにしても過剰な反応だとは思うが。

 ただ魔が差したというのだろうか。今の状況ならマルシュの本音が聞けるんじゃないか。とてつもなく掛かっていて、マルシュの生命線のパペットは俺の手の内。

 

 そう思いついてしまったのが運の尽きだったのだろう。

 

「ねえ、マルシュ。どうして急にパペット無しで会話してみたいなんて思ったの?」

 

 ただの疑問。なんとなく尋ねただけ。

 でも明らかな不審点。

 

 俺の知るマルシュは人見知りながら他人の感情の機微に(さと)かったり、引っ込み思案ながら物怖じしなかったりするが、あくまでパペットありき。

 三年間マルシュを担当していた俺相手にマルシュが気後れすることこそないが、会話に関しては未だにパペット越しでないとまともに返事してくれない。

 

 そんなマルシュが自分からパペットを手放すには相当な理由があるはず。それに、誰か──おそらくはラヴズオンリーユーの入れ知恵。

 

 だから疑問を質問にしたのが良くなかった。

 

『だって、好きなんですもん!?』

「……えっ?」

「──……あっ」

 

 予想外の告白に思考を一瞬絡め取られたのも良くなかった。

 

『だって、ちゃんと会話もできないわたしと、三年間もずっと一緒にいてくれて支えてくれる男の人なんですよ!?好きになっちゃうに決まってますよ!!』

「マルシュ」

 

 俺が場を有耶無耶(うやむや)にする前にマルシュが暴走を始める。

 

『だって、わたし、結構いい体してますよ!?どうしてえっちな目で見てくれないんですか!?もう告白するしかないじゃないですか!!』

「マルシュ」

 

 なるほど。パペット越しではなくマルシュロレーヌとして告白したかったんだな、と一人勝手に納得する。

 が、まずは暴走したマルシュを黙らせることからだ。

 

『だって──』

「マルシュ」

 

 すでにパペットは俺の手にハマっておらず、ただ手の内にある。それをマルシュに見せる。それだけ。

 

「──っ!?」

 

 それだけでマルシュは何も言えなくなる。

 あくまでもマルシュはパペットを通じてでないと喋れないから。例え、パペットを動かしているのが俺であろうとも。

 

「マルシュ、深呼吸して」

 

 パペットを取り返そうと手を伸ばしてくるマルシュを軽くいなす。右へ左へ。パペットが行ったり来たり。

 恨めしそうに不満そうに子供っぽくむくれる顔に、少しだけ落ち着きが戻っている。

 

「……ふぅ」

 

 ひと息ついたマルシュの視線が未だ俺の手の中のパペットと俺の顔と、トレーナー室の扉とを何度も往復する。

 冷静になってきて恥ずかしくって逃げ出したいけれど、無二の相棒はまだ手元に戻っていなくて、だから俺が告白に対する返答を一切していないことに言及することもできない、と言ったところだろうか。

 

「あ、あの……」

 

 だから油断していたと言っても過言ではない。

 マルシュが引っ込み思案である以上に、思い切りがいいことは俺だってよく知っていたはずなのに。

 

「──マルシュ?」

 

 音にするならポスンだろうか。体当たりの如く抱きついて腕の中に収まったマルシュに、またしても思考に空白が生まれる。

 昔から想定外の出来事に俺は弱かったな、なんて悠長なことばかりが頭を()ぎる。今はそんなことを考えている場合ではない。そう思うことすら余計だ。

 

 そしてその隙を逃すマルシュではない。

 まずい、と俺が認識するよりも先にマルシュが先手を打つ。

 

「……好き、です」

 

 ……。

 

 ……普通に喋るより告白が先なのか、という感想ばかり浮かぶ自分が嫌だ。そう思うこと自体が嫌で嫌でたまらなくて、笑ってごまかすこともマルシュに声をかけることもできない子供っぽい自分が嫌だ。

 

 今更ながらようやくマルシュが小刻みに震えていることに気づく。 マルシュからすれば一世一代の、それも初めての告白だろう。

 だが、はっきり言って十歳近く年下の少女に異性としての魅力を感じている訳も無く、現実的な話から言っても学生と交際する教師は外聞が悪過ぎる。

 

 そして、まあ自己嫌悪に浸っていた俺の方が当然出遅れる。

 

「……返事、卒業、してからで、いいです」

 

 提案される妥協案。いや、モラトリアムだろうか。

 俺にとってもマルシュにとっても返答までの猶予期間。

 だが俺にだって大人としての矜持がある。

 

「マルシュ、まず俺は君を子供としてしか見れていない」

「……知って、ます」

「これから卒業まで君がアピールしようと、俺が(なび)く保証なんてどこにもないぞ」

「……がんばります」

「いや、諦めろって意味で言ったんだが」

 

 がんばります、という諦める気なんて毛頭無い言葉に思わず語気が荒くなる。

 意図しなかったとは言え強い言葉を使ったにも関わらず、マルシュに動揺の色は見えない。

 

「……がんばります」

 

 はぁ……とわざとらしく溜息を吐く俺を一顧だにせずマルシュは柔らかく微笑んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

(トレーナーさんの)賢さが不足しているようですね(作者:龍角散ガム)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

▼恋心を学んで賢さを重点的に鍛えてみましょう▼


総合評価:676/評価:8.55/連載:5話/更新日時:2026年05月21日(木) 18:35 小説情報

ウマ娘を抱きしめたり抱きしめられたりする話(作者:最後までHEATたっぷり)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

疲れたときには温かさが効く▼※某所で投稿したものをタイトル等修正して投稿▼※pixivにも同時投稿しています


総合評価:226/評価:8.25/短編:6話/更新日時:2026年03月30日(月) 11:34 小説情報

異次元の寂しがり屋(作者:アマシロ)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

 原作に寄せて、とんでもない寂しがり屋でトレーナー大好き勢の精鋭と化したサイレンススズカと、うっかりスズカを変態にしてしまったトレーナーの話。


総合評価:29496/評価:9.03/連載:103話/更新日時:2024年11月07日(木) 21:50 小説情報

チート悪転生トレーナー「お前らさぁ、いい加減卒業してくんない!?」(作者:弥栄実)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

チート転生を果たし、ウマ娘とのうまぴょいを夢見た不純な思いを持つ悪のトレーナー。しかし、三女神はそんな不純な思いを見過ごすわけもなく。▼様々な世代が入り乱れ、2桁年会長を続けるルドルフ。そのようなアプリ水準の誰も卒業しない時空となっているのだった。


総合評価:927/評価:7.47/連載:6話/更新日時:2026年07月29日(水) 12:00 小説情報

とっても天使なウマ娘さん(作者:レース場の散った芝)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

天使は実在するみたいです。▼慈愛に満ちていて、可愛くて、速くて、可愛いらしいです。ウマ娘は皆例外なく可愛いけど。


総合評価:1231/評価:8.96/連載:10話/更新日時:2026年08月29日(土) 06:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>