ドクター・ストレンジ:マルチバース・イーター   作:ルルルだ。

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エルデンリングの世界が登場するのは今回です。浅い知識で作りました。


10話 エルデンリングとアース-969

黄金の粒子が舞う、静謐な夜。

見上げれば、空を覆い尽くすほどの巨大な樹が、黄金色の光を放ちながら世界を照らしていた。

 

「……信じられない。美しいけれど、どこか悲しい光だ」

 

アメリカ・チャベスが息を呑んで呟いた。

彼女とストレンジが放り出されたのは、湿った草地の上だった。遠くには霧に煙る湖と、断崖の上にそびえる古城が見える。そして何より、あの圧倒的な存在感を放つ「黄金樹」が、この世界の理そのものであることを無言で主張していた。

 

スティーヴン・ストレンジは、痛む体を引きずりながら立ち上がり、周囲の魔力を探った。

「ここも地球じゃない。物理法則は似ているが……魔力の質が重厚だ。『ルーン』と呼ばれる概念が、大気そのものに刻まれている」

 

彼は、先ほどの東京での戦いで消耗した魔力を回復させようとしたが、この世界のマナは彼が知るものとは異なり、容易には従わなかった。

「祝福」と呼ばれる微かな光の導きだけが、彼らにとって唯一の安らぎのように感じられた。

 

「逃げ切れたのかな?」

アメリカが不安げに空を見上げる。

「一時的にはな。だが、彼女は執念深い。いずれこの世界の『匂い』も嗅ぎつけるだろう」

 

その時。

彼らの背後の空間が揺らぎ、青白い光の粒子が集束し始めた。

冷たく、しかし透き通った声が響く。

 

「……異邦人か。珍しい客人が迷い込んだものだ」

 

現れたのは、四本の腕を持つ青い肌の人形――その身に霊体を宿した「魔女」。

雪魔女の帽子を目深にかぶり、その奥にある瞳の片方には、深淵のような知性が宿っていた。

 

月の王女、ラニ。

 

「ここは『狭間の地』。黄金の律に縛られ、砕け散った世界。……お主ら、何者だ? ただの褪せ人ではあるまい」

 

ストレンジは警戒しつつも、敵意がないことを示すために両手を広げた。

「我々は旅人だ。ある強大な脅威から逃れている。……君はこの地の魔術師か?」

 

「魔術師、か。フフ……」

ラニは小さく笑った。

「私はラニ。かつて神人(かみびと)であった者。……お主らの身に纏わりつくその赤き残り香、ひどく不快だ。外なる神の干渉とも違う、もっと生々しい『執着』を感じる」

 

「それが俺たちを追っている怪物だ」ストレンジは言った。「名はスカーレット・ウィッチ。彼女は現実を書き換え、あらゆる力を奪おうとしている。この世界の『律』も狙われるかもしれない」

 

ラニの表情がすっと冷えた。

「律を……? 私の『星の世紀』を阻むというなら、捨て置けぬな」

 

ズズズズズ……。

 

ラニの言葉が終わらぬうちに、黄金樹の輝きが明滅した。

空の色が変わる。

美しい夜空に浮かぶ星々が、赤黒い霧に覆い隠され、黄金樹の幹に血管のような赤い亀裂が走り始めたのだ。

 

「来たか!」

ストレンジが叫ぶ。

 

空が裂け、そこから深紅のドレスを纏ったワンダ・マキシモフが、ゆっくりと降下してきた。

彼女の背後には、東京で取り込んだ呪霊たちの残滓と、この世界の「死に生きる者たち」――スケルトンや亡者たちが、彼女の魔力によって強制的に従えられ、軍勢となって浮かんでいた。

 

「あら、素敵な場所ね」

ワンダは黄金樹を見上げ、うっとりとした表情を浮かべた。

「生命と、魂と、律。全てが一つに循環している。……この樹、私の庭に植え替えたいわ」

 

「戯言を」

ラニが冷徹に言い放ち、四本の腕を優雅に掲げた。

 

『――冷たい夜を』

 

空間が凍てついた。

ラニの背後に、巨大な「暗月」の幻影が浮かび上がる。

絶対零度の魔力が奔流となってワンダを襲う。それは物理的な氷結ではなく、魂さえも凍らせる「死」の冷気だ。

 

「冷気魔術? ……懐かしいわね」

ワンダは微笑み、片手をかざした。

カオス・マジックの熱量が、ラニの冷気を正面から受け止める。

ジュウウウウウウッ!!

空間が悲鳴を上げ、水蒸気爆発が起きる。

 

「ほう。神人の魔術を防ぐか」

ラニは感心したように目を細めたが、攻撃の手は緩めない。

「ブライヴ!」

 

影の中から、巨狼の戦士ブライヴが飛び出した。

「ラニ様に仇なす賊め!」

大剣を振りかぶり、獣のような咆哮と共にワンダへ跳躍する。

 

「野蛮な犬ね」

ワンダが一瞥すると、ブライヴの体が空中で静止した。

「お座り」

ドォォォォン!!

見えない重力がブライヴを地面に叩きつけ、巨大なクレーターを作る。

 

「ブライヴ!」ラニの声に焦りが混じる。

 

「この世界の『律』は面白いわ」

ワンダは空中で指を指揮者のように振った。

「『エルデンリング』……砕け散ったルーンの破片。それらを集めれば、世界を好きな形に作り変えられるのね?」

 

彼女の手元に、遠くの城や地下深くに眠る「大ルーン」たちが共鳴し、引き寄せられ始めた。

ゴドリックのルーン、レナラのルーン、ラダーンのルーン……。

デミゴッドたちが持つ力の結晶が、ワンダの強大な引力に抗えず、光の筋となって空へ昇っていく。

 

「馬鹿な……大ルーンを強制的に徴収しているのか!?」

ストレンジが驚愕する。

「彼女はもう魔女の域を超えている! この世界そのものを『編集』しようとしているんだ!」

 

「させぬ!」

ラニが杖を掲げ、全力の魔術を放つ。

『滅びの流星』

無数の青い魔弾がワンダを襲うが、ワンダはそれらを赤い花びらに変え、散らせてしまった。

 

「概念防御……。ならば」

ラニは空中に浮き上がり、自らの運命である「星」の力を呼び覚ます。

だが、ワンダの方が速かった。

 

「あなたの運命も、私が書き換えてあげる」

 

ワンダが『ダークホールド』を開く。

禍々しい呪文が、狭間の地の空気を汚染していく。

黄金樹が赤く染まり、その枝から滴る雫が、生命の水ではなく、腐敗した血へと変わっていく。

 

「まずい、この世界が崩壊する!」

アメリカが叫ぶ。

「スティーヴン、どうすればいいの!?」

 

ストレンジは決断した。

このまま戦っても、この美しい世界がワンダの実験場になるだけだ。

彼に必要なのは『ヴィシャンティの書』。それがある場所への手掛かりは、この神秘に満ちた世界で微かに感じ取れた。

次元の「裂け目」――あらゆる宇宙の中心点に近い場所への座標。

 

「ラニ! すまないが、我々は行く!」

ストレンジは叫んだ。

「彼女の狙いは我々だ。我々が消えれば、彼女も追ってくる! この世界の崩壊は免れるはずだ!」

 

ラニはブライヴを助け起こしながら、ストレンジを睨んだ。

「……逃げるか、異邦人。だが、賢明な判断だ。この厄災、私が引き受けるには少々荷が重い」

彼女はフッと笑い、杖を一振りして、空間に青い道を作った。

「行け。星の彼方へ。……二度と戻ってくるな」

 

「恩に着る!」

 

ストレンジはアメリカを連れ、ラニが開いてくれた「星の道」を利用して、再びポータルを開いた。

今度の行き先は、魔力の羅針盤が指し示す場所。

マルチバースの監視者たちが集う、文明と魔法が高度に融合した世界――アース-969。

 

「逃がさないと言ったでしょう!」

ワンダが激昂し、大ルーンの力を放棄して二人を追おうとする。

その背後から、ラニが最大火力の冷気ブレスを放ち、足止めをした。

「私の夜を乱した報いだ。少し頭を冷やすがいい、赤き魔女よ」

 

ワンダの絶叫が遠ざかる中、ストレンジとアメリカは光の渦へと飲み込まれた。

 

 

 

光が収束する。

次に二人が足をついたのは、清潔で、幾何学的な美しさを持つガラス張りのバルコニーだった。

 

眼下に広がるのは、緑豊かな未来都市。

空飛ぶ車が行き交い、建物には植物が絡みつき、自然とテクノロジーが調和している。

そして、街の中心には、サンクタム・サンクトラムに似ているが、遥かに整備された巨大なドーム状の施設が鎮座していた。

 

「ここは……?」

アメリカがきょろきょろと見回す。

「さっきの場所とは全然違う。すごく……近代的で、きれい」

 

ストレンジは安堵の息をついたが、すぐに表情を引き締めた。

目の前に、浮遊する銀色のドローン――ウルトロン・セントリーが現れたからだ。

機械的な音声が響く。

 

『侵入者ヲ検知。識別……スティーヴン・ストレンジ。ドクター・ストレンジ』

 

「ウルトロンか。トニーのやつ、この世界では成功させたのか?」

ストレンジが呟く間もなく、セントリーたちが彼らを取り囲む。

 

『イルミナティノ本部ヘ同行ヲ命ズル』

 

「イルミナティ?」

ストレンジは眉をひそめた。その名前には聞き覚えがある。秘密裏に世界を動かす、ヒーローたちの極秘結社。

 

「抵抗はしない」

ストレンジは両手を挙げた。

「話を聞いてくれ。我々はマルチバースの脅威を伝えに来た。スカーレット・ウィッチが来る」

 

セントリーたちは無機質に彼らを拘束し、連行していく。

連れて行かれた先は、光あふれる円形の広間だった。

 

そこには、数個の玉座が並んでいた。

その一つに座る男――屈強な肉体に、黒いコスチューム、そして額に音叉のような意匠を持つ男が、重々しく口を開いた。

 

「我々の宇宙へようこそ、アース-666のドクター・ストレンジ」

 

ブラックボルト王。

その隣には、キャプテン・カーター、キャプテン・マーベル、そして……車椅子に乗ったスキンヘッドの老人。

 

チャールズ・エグゼビア教授が、穏やかな、しかし全てを見通すような瞳でストレンジを見つめた。

「君の心には、深い恐怖と混乱が見えるね。……そして、君が連れてきた『嵐』の気配も」

 

「教授、時間がない」

ストレンジは必死に訴えた。

「ワンダ・マキシモフが来る。彼女は今までのどのヴィランとも違う。呪術、悪魔、異界の神々の力を取り込んだ、破壊の化身だ。あんたたちの準備じゃ止められない!」

 

「我々を侮るな、魔術師」

モルド(この世界の至高の魔術師)が冷ややかに言った。

「我々はサノスさえも退けた。スカーレット・ウィッチ一人、我々の総力を持ってすれば制御可能だ」

 

「制御? 無理だ!」

ストレンジが叫ぶ。「彼女は『概念』を食っているんだぞ!」

 

その時。

施設の警報が鳴り響いた。

モニターに映し出されたのは、エントランスホールに現れた赤い霧。

そして、無惨にスクラップにされていくウルトロン・セントリーたちの姿だった。

 

ワンダ・マキシモフが到着した。

服はボロボロで、煤と血にまみれているが、その瞳の輝きは以前よりも増している。

狭間の地で吸収し損ねた大ルーンの代わりに、彼女は次元移動の摩擦熱さえも力に変え、怒りを増幅させていた。

 

「邪魔な鉄くずね」

モニターの中のワンダが、指先一つでセントリーの首をもぎ取る。

そして、カメラ越しにイルミナティのメンバーを見据えた。

 

『スティーヴン・ストレンジを渡しなさい』

彼女の声は、施設のスピーカーだけでなく、エグゼビア教授のテレパシー回路にも直接響いてきた。

『さもなくば……この世界を、私の新しい遊び場にする』

 

イルミナティのメンバーたちが立ち上がる。

「交渉の余地はないようだな」とブラックボルトが立ち上がる。

「彼女を止める」とキャプテン・カーターが盾を構える。

 

ストレンジは絶望的な顔で彼らを見た。

「やめろ……行くな! 君たちじゃ勝てない! 彼女は今、全マルチバースで最も危険な存在なんだ!」

 

だが、自信に満ちた異界のヒーローたちは、その警告を聞き入れず、出撃していく。

それが、彼らにとっての「終わりの始まり」であることを知らずに。

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