ドクター・ストレンジ:マルチバース・イーター   作:ルルルだ。

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22話 相殺

暗黒次元の空を覆い尽くす、紫色の巨顔。

ギャラクタス。

その威容は、神というよりは自然災害そのものだったが、今の彼は明らかに異常だった。

顔の半分が黒いシミのように変色し、口からは涎のように無数の呪霊が溢れ出している。

 

「おいおい、冗談だろ……」

トニー・スタークが、HUDに表示されたエネルギー数値を凝視した。

「コズミック・パワーが汚染されてる。純粋なエネルギー体が、ウイルスに感染したみたいに暴走してるぞ」

 

「ああ、理屈は単純だ」

五条悟が、瓦礫の上に座り込んだまま、まるで授業でもするかのように指を立てた。

「こいつ、デカいだけで『呪力』がないんだよ。僕たちの世界じゃ、呪いは呪いでしか祓えない。つまり、こいつは呪いに対する免疫(抗体)がゼロの状態で、特級クラスの呪いの塊を口にしちゃったわけだ」

 

スティーヴン・ストレンジが、呪具化した斧を構えて補足する。

「羂索の仕業だ。奴はギャラクタスの『飢え』を利用した。エネルギーだと思って食らいついたのが、毒入りの餌(特級呪物)だったということだ」

 

『飢エタ……モット……呪イヲ……!!』

 

ギャラクタスが巨大な手を伸ばした。

その指先から放たれたのは、惑星を崩壊させるコズミック・ビーム――ではなく、ドス黒い呪力の奔流だった。

 

「来るぞ! 散開!」

 

ズゴォォォォォン!!

 

暗黒次元の浮遊大陸が一つ、消滅した。

物理的な破壊ではない。空間ごと「腐り落ちた」のだ。

 

「チッ、避けるのが精一杯かよ!」

デンジが、チェーンソーを回転させながら飛び回る。

「デカすぎてどこ斬りゃいいかわかんねえ!」

 

「しょうがないから...今だけ協力してあげる」

マキマが前に出た。

彼女は、ギャラクタスの圧倒的な質量を見上げても、その表情を崩さない。

「どんなに大きくても、生物なら『支配』できるはず」

 

マキマは指鉄砲の形を作り、ギャラクタスの眉間に照準を合わせた。

彼女の背後から、支配された悪魔たちの力が集束する。

 

「『服従』」

 

不可視の鎖が、ギャラクタスの脳天に向かって伸びた。

だが。

 

バヂィンッ!!

 

鎖はギャラクタスの肌に触れる寸前で、弾け飛んだ。

「……え?」

マキマが初めて目を見開く。

 

「無駄だ、マキマ!」

ストレンジが叫ぶ。

「奴は生命体ではない。宇宙のシステムそのものだ! 台風や地震に『お手』ができるか!?」

 

ギャラクタスはマキマの干渉など蚊ほどにも感じていない。

彼はただ、目の前にある高エネルギー反応――つまりドルマムゥに目をつけた。

 

『美味ソウナ……火ダ……』

 

ギャラクタスがドルマムゥの燃える顔面に手を伸ばす。

捕食者が、被食者を見つけた瞬間だった。

 

「チャンスだ!」

トニー・スタークがスラスターを全開にする。

「奴の狙いはドルマムゥだ。両手がふさがった今なら、懐に飛び込める!」

 

「プランBってやつか?」

五条悟が立ち上がり、首を鳴らした。

「要は、あのデカブツの口の中に、ドルマムゥを無理やり押し込んで、腹の中で爆発させるんだろ?」

 

「その通りだ。だが、ドルマムゥも抵抗する。誰かがドルマムゥを『弾丸』として固定しなきゃならない」

 

「僕がやります」

静かな声が響いた。

乙骨憂太だ。

彼は刀を構え、背後の特級過呪怨霊・里香を完全に顕現させた。

 

「里香ちゃん、いける?」

『ユウタノ……タメナラ……ナンデモ……!!』

 

「よし、行こう」

乙骨は、ドルマムゥの正面へと疾走した。

 

「援護する!」

クレアが魔法陣を展開し、ドルマムゥの動きを縛る鎖を生成する。

ストレンジも斧を振るい、空間を切断してドルマムゥの逃げ道を塞ぐ。

 

『小賢シイ……虫ケラドモガァァァ!!』

ドルマムゥが暴れるが、五条悟の「無下限」による空間圧縮と、マキマ(しぶしぶ協力)による「銃の悪魔」の砲撃が、彼を一点に押し留める。

 

「今だ、憂太!」

 

乙骨が跳躍した。

「純愛の力を、舐めるな!」

 

「術式コピー・『呪言』!!」

 

乙骨の口元に、狗巻棘の紋様が浮かび上がる。

彼は拡声器を作り出し、ドルマムゥに向かって叫んだ。

 

「『動くな』!!!」

 

強烈な言霊が、次元の王を金縛りにする。

ドルマムゥの動きが完全に止まった。

 

「ナイスだ、少年!」

トニー・スタークが、胸のアーク・リアクターを最大出力で発光させた。

同時に、ストレンジと五条もそれぞれの最大火力を準備する。

 

「デンジ、お前もだ! ありったけの力で、ドルマムゥの背中を押せ!」

「おうよ! 喰らいやがれ!」

 

「せーのっ!」

 

「虚式・『茈』!」

「ユニビーム!」

「ヴィシャンティの聖斬!」

「チェンソー・スラッシュ!」

 

全方向からの攻撃が、ドルマムゥの背中(空間的な背面)に着弾した。

乙骨の呪言で固定されていたドルマムゥは、玉突き事故のように弾き飛ばされた。

 

その先には――

大口を開けて待つ、ギャラクタスがいる。

 

『グオォォォォォ……!?』

ドルマムゥが悲鳴を上げる間もなく、彼はギャラクタスの口腔内へと吸い込まれた。

 

ガブッ。

 

宇宙魔神が口を閉じた。

次元の王が、飲み込まれた。

 

一瞬の静寂。

 

ゴボッ……ゴボボボボボ……!!

 

ギャラクタスの巨大な体が、風船のように膨張を始めた。

ドルマムゥという、純粋な魔法エネルギーの塊。しかも、マキマやモルドによって「呪い」や「支配」の概念が混ざり合った劇薬。

それを、既に呪霊汚染で消化器官がイカれているギャラクタスが飲み込んだのだ。

 

結果は、火を見るより明らかだった。

 

『グ……ガ……ア……!? 腹ガ……熱イ……!!』

 

ギャラクタスが苦悶の表情で腹を抱える。

体内で、コズミック・パワーと暗黒次元の魔力、そして特級呪力が化学反応(メルトダウン)を起こしていた。

 

「逃げるぞ! 吐き出す気だ!」

ストレンジが叫ぶ。

「どこへ!?」クレアが問う。

 

「奴の故郷へ送り返す! ここで爆発されたら暗黒次元ごと消し飛ぶ!」

 

ストレンジは、斧の柄に嵌まった宿儺の指に、最後の命令を下した。

(呪いの王よ……貴様の指一本分の価値、見せてみろ!)

 

彼は斧を全力で投擲した。

斧はギャラクタスの胸に突き刺さり、そこに「特級レベルの空間亀裂」を生じさせた。

それは、ギャラクタスを元のマーベル・ユニバース(あるいは何もない虚無の空間)へと強制送還する穴だ。

 

『オノレェェェェ……!! 覚エテオレ……呪術師ドモ……!!』

 

ギャラクタスは、腹の中で暴れるドルマムゥと共に、空間の裂け目へと吸い込まれていった。

 

シュンッ……!

 

巨大な質量が消滅し、あとには静まり返った暗黒次元だけが残された。

 

「……終わった、のか?」

トニー・スタークがマスクを開け、荒い息をついた。

「今までで一番ひどい『アベンジャーズ・アッセンブル』だったな」

 

「だね」

五条悟が、空中で伸びをした。

「でもまあ、楽しかったよ。異世界のヒーローさんたち」

 

乙骨憂太は、里香を解除し、刀を納めた。

「疲れました……。あんなデカい相手、初めてです」

 

デンジは、チェーンソーの変身を解き、地面に座り込んでいた。

「腹減った……。なあ、ここコンビニねえの?」

 

戦いは終わった。

羂索(モルド)は、ギャラクタスの消失に巻き込まれて行方不明になった(おそらく生きてはいるだろうが、この場からは消えた)。

マキマもまた、状況の不利を悟り、いつの間にか地獄へと撤退していた。

 

残されたのは、ストレンジ、クレア、トニー、五条、乙骨、デンジ。

 

「さて」

ストレンジは、地面に落ちていた「呪具化した斧」を拾い上げた。宿儺の指は黒く炭化し、力を失ってボロボロになっていた。

「これで『鍵』も壊れた。……君たちを元の世界へ送り返す手段を探さねばならんが」

 

「必要ないよ」

五条が指差した。

ギャラクタスが消えた空間の歪みが、自然と修復されつつあるが、その隙間から懐かしい「渋谷」の空気が漏れ出している。

 

「あっちの世界(JJK)との繋がりが切れる寸前だ。今なら帰れる」

 

「そうか」

ストレンジは少し寂しげに微笑んだ。

「短い間だったが……君たちは最高の戦友だ」

 

「アンタもな、ドクター」

トニーが親指を立てる。「今度こっちに来たら、シャワルマでも奢るよ」

 

「じゃあね、変な前髪のおっさん!」

デンジが手を振る。

 

「お元気で」

乙骨が礼をする。

 

「また会う日まで」

五条がヒラヒラと手を振る。

 

呪術師たちとチェンソーマンは、光の裂け目へと飛び込み、元の世界へと帰還していった。

裂け目が閉じ、暗黒次元に静寂が戻る。

 

クレアがストレンジの肩に手を置いた。

「やったわね、スティーヴン」

 

「ああ。……だが」

ストレンジは、炭化した宿儺の指の残骸を見つめた。

「貸し借り(縛り)の精算は、これからだ」

 

彼の魔力が戻るまで、あと47時間。

そして、ニューヨークにはまだ、フィスクや他のヴィランたちが残っている。

だが、今の彼には恐れはなかった。

 

異界の英雄たちと共に戦った記憶が、何よりの武器となることを知っていたからだ。

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