ドクター・ストレンジ:マルチバース・イーター   作:ルルルだ。

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25話 両面宿儺

マンハッタン、路地裏の影。

瓦礫の山から立ち上がった男――伏黒恵の肉体を得た両面宿儺は、気だるげに首を鳴らした。

 

「……なるほど。羂索め、面白い余興を用意したな」

 

彼は、夜空に浮かぶコガネが投影した「死滅回游」のルールを見上げ、口元を愉悦に歪めた。

次元の裂け目が不安定になったことで、最も呪力の強い魂が引力に引かれて転移したのか、あるいは羂索が意図的に「招待状」を送ったのか。

 

「まあいい。暇つぶしにはなる」

 

宿儺は一歩踏み出した。

その瞬間、路地裏に潜んでいた数体の低級呪霊が、彼の発する圧倒的な覇気に触れ、恐怖で消滅した。

 

「まずは……手頃な『羽虫』から掃除するか」

 

 

タイムズスクエア。

戦況は一方的だった。

 

「うわあああっ!!」

スパイダーマンが、ウェブで瓦礫を盾にしながら吹き飛ぶ。

カースド・エレクトロの放つ「黒い雷」は、絶縁体であるはずのクモの糸すら伝導し、ピーターの神経を焼き焦がしていた。

 

「無駄だ、スパイダーマン!」

エレクトロが空中浮遊しながら嗤う。

「俺の電気は『痛み』だ! 絶縁スーツなんて意味ねえんだよ!」

 

「マックス、君の理論は物理学の教科書には載ってないぞ!」

ピーターが着地するが、そこへドクター・オクトパスの呪霊アームが殺到する。

鋭利な牙を持つアームが、ピーターの脇腹を食いちぎろうとする。

 

ガキンッ!!

 

「ドクター!」

間一髪、スティーヴン・ストレンジが『ヴォルトの杖』でアームを受け止めていた。

だが、杖から放出される魔力は微々たるものだ。ストレンジの腕が軋む。

 

「ぐぅ……! 力が違いすぎる……!」

ストレンジが歯を食いしばる。

「ピーター、避けろ! こいつらの狙いは捕食だ!」

 

「捕食? 僕を食べる気!?」

「呪霊化したことで、生物としての本能が暴走しているんだ!」

 

ドック・オクのアームがさらに力を込める。

「魔術師の脳みそ……美味そうだ……!」

 

ストレンジが押し潰されそうになった、その時。

 

「『鵺』」

 

静かな声が、戦場の喧騒を切り裂いた。

 

バチチチチチッ!!

 

夜空から、ビルほどの大きさがある巨大な「怪鳥」が降下した。

鵺の纏う電撃は、エレクトロのそれとは質が違う。より神聖で、より破壊的な純粋な呪力。

鵺の一撃がドック・オクのアームを粉砕し、エレクトロを地面に叩き落とした。

 

「な、なんだアイツ!?」

スパイダーマンが空を見上げる。

 

ビルの屋上の看板に、ポケットに手を突っ込んだ男が立っていた。

黒髪。伏黒恵の姿。

だが、その顔には幾何学的な刺青が走り、瞳は冷酷な光を宿している。

 

「伏黒……くん?」

スパイダーマンが目を細める。「いや、雰囲気が違う。前に会った時より、なんか……怖い」

 

ストレンジの「第三の目」がカッと見開かれた(魔力はなくとも、知覚機能だけは生きている)。

「違う、ピーター! 近づくな! あれは伏黒恵じゃない!」

 

ストレンジは冷や汗を流した。

かつて渋谷(アース-JJK)で虎杖悠仁の中に見た、あの禍々しい魂。

それが今、伏黒恵の肉体を完全に乗っ取っている。

 

「『呪いの王』……両面宿儺だ!」

 

「……ハッ」

宿儺は、眼下のヴィランたちを見下ろして鼻で笑った。

 

「なんだその粗末な呪いの使い方は。見ていて反吐が出る」

 

「誰だテメェ!」

エレクトロが激昂し、最大出力の黒雷を宿儺に向けて放つ。

「俺様は神だ! 邪魔するなら消し炭にしてやる!」

 

宿儺は動こうともしなかった。

雷撃が彼に直撃する寸前、彼はただ手をかざした。

 

「『解』」

 

ヒュン。

 

雷そのものが「切断」された。

物理現象としての電気が、不可視の斬撃によって霧散する。

それだけではない。

エレクトロの両腕が、肩から先ごときれいに滑り落ちた。

 

「え……?」

エレクトロが自分の腕を見る。痛みを感じるよりも先に、血が噴き出す。

「ギャアアアアアッ!!」

 

「弱すぎて話にならん」

宿儺は視線をドック・オクに移した。

 

「そこのタコ。貴様のアーム、呪霊との融合素材としては悪くないが……美しさが足りん」

 

ドック・オクが恐怖に駆られ、四本のアーム全てで宿儺に襲いかかる。

「黙れ! 私の研究を愚弄するな!」

 

宿儺は、襲い来るアームの上を軽やかに駆け抜けた。

まるで散歩でもするかのように、アームを足場にして本体へと接近する。

 

「『捌』」

 

宿儺がドック・オクの顔面に掌を当てた。

無数の細かい斬撃が、一瞬にしてオクタビアスの背中の機械アームを「解体」した。

呪霊部分だけを切り刻み、オクタビアス本人は無傷で地面に転がす。

 

神業。

ストレンジたちが苦戦していた強化ヴィランを、わずか数秒で無力化した。

 

「すっげぇ……」

スパイダーマンが呆然とする。「味方……なの?」

 

「違う!」

ストレンジが叫ぶ。「逃げろピーター! 奴はヴィランよりも質が悪い『災害』だ!」

 

「素晴らしい!!」

 

高笑いと共に、グリーン・ゴブリンがグライダーで宿儺の前に降り立った。

「君、何者だね? その力……私の血清よりも純度が高い!」

 

ゴブリンは、宿儺に向けて手を差し出した。

「どうだ、私と手を組まないか? このニューヨークを支配し、弱者どもを蹂躙しよう! 君なら私の最高傑作になれる!」

 

宿儺は、差し出された手を見つめ、そしてゴブリンの顔を見た。

まるで、言葉を喋るゴキブリを見るような目だった。

 

「……誰に口を聞いている」

 

ズンッ!!

 

宿儺の覇気が膨れ上がった。

ゴブリンの乗るグライダーが、重力に押し潰されたように地面に墜落する。

「ぐっ……!?」

 

「群れるのは嫌いだと言ったはずだ」

宿儺はゴブリンの前に降り立つと、彼の胸ぐらを掴み上げた。

「それに、貴様からは羂索の臭いがする。……あの男の使いっ走りか?」

 

「は、離せ! 私には『100点』の価値があるんだぞ!」

ゴブリンが暴れ、隠し持っていた呪胎爆弾を起爆しようとする。

 

「小賢しい」

宿儺が指を振るう。

ゴブリンの手首が切断され、爆弾が転がり落ちる。

 

「ドクター! 爆発する!」

スパイダーマンがウェブを撃ち、爆弾を空中でキャッチして上空へ投げた。

ドォォォン!!

遥か上空で呪いの花火が炸裂する。

 

宿儺は、スパイダーマンの動きを目で追った。

「ほう。……あの赤と青の虫、動きだけは悪くない」

 

彼はゴブリンをゴミのように投げ捨てると、興味の対象をスパイダーマンとストレンジに移した。

 

「魔術師。貴様、魔力が枯渇しているな」

宿儺がニヤリと笑う。

「その状態で俺と踊れるか?」

 

ストレンジは杖を構え、冷や汗を拭った。

「踊るつもりはない。……だが、君がこの街を壊すというなら、相手をするしかない」

 

「いい度胸だ」

 

宿儺が印を結ぼうとした、その時。

 

 

 

ニューヨークの空――『帳』の外側から、凄まじい衝撃音が響いた。

 

ガガガガガガガッ!!

 

結界の天井部分に、巨大なドリル……いや、回転する「盾」が突き刺さっていた。

そして、赤と金の流星が、結界を無理やりこじ開けようとビームを照射している。

 

『こちらアイアンハート! ニューヨーク、応答せよ!』

外部スピーカーからの声が、結界内に漏れ聞こえる。

『変な黒いドームに閉じ込められてる? 安心して、今こじ開けるから!』

 

さらに、別の声。

アベンジャーズ(サム・ウィルソン版キャプテン・アメリカ、アイアンハートなど)が、外側から結界突破を試みていたのだ。

 

「救援か!」

スパイダーマンが明るい声を上げる。

 

だが、宿儺は空を見上げて、つまらなそうに舌打ちをした。

「……チッ。次から次へと、騒がしいハエどもが集まりおって」

 

宿儺は右手を空に向けた。

「全員まとめて、膾にしてやる」

 

「『解』」

 

彼が放ったのは、目に見えない巨大な斬撃。

それは結界内の空気を切り裂き、天井を突き破ろうとしていたアベンジャーズの方へ飛んでいく。

 

「やめろッ!!」

ストレンジが絶叫する。

 

その斬撃がアベンジャーズに届く直前。

空間が歪み、一人の少女が飛び出してきた。

星型のポータルと共に。

 

「させないよ!」

 

アメリカ・チャベス。

彼女はポータルを開き、宿儺の斬撃を「別の場所」へと転送した。

 

ズバァァァン!!

転送された斬撃は、無人のハドソン川の水面を真っ二つに割り、巨大な水柱を上げた。

 

「……ほう?」

宿儺が目を細めた。

「空間使いの小娘か。……面白くなってきたな」

 

役者は揃った。

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