ドクター・ストレンジ:マルチバース・イーター   作:ルルルだ。

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26話 アッセンブル

アメリカ・チャベスが開いた星型のポータルが、宿儺の放った『解』をハドソン川へ逸らした直後。

マンハッタンを覆う黒い結界『帳』の天井部分に、亀裂が走った。

 

パリーン!!

 

結界のガラス片が降り注ぐ中、空から数条の噴煙(コントレイル)が舞い降りてきた。

 

「状況はどうなってる、ストレンジ!」

 

空中で翼を広げ、滑空しながら降りてきたのは、星条旗カラーのスーツを纏った男。

キャプテン・アメリカ(サム・ウィルソン)。

その背後には、重厚なウォーマシーン・アーマーを装着したローディと、新型のナノ・アーマー「アイアンハート」を駆る少女、リリ・ウィリアムズが続く。

 

「サム! ローディ! 無事か!」

ストレンジが声を張り上げる。

「見ての通りだ! 呪われたヴィランどもと、規格外の怪物が一匹!」

 

サムは空中でヴィブラニウムの盾をキャッチし、瓦礫の上に立つ刺青の男――両面宿儺を見据えた。

「あいつが元凶か? 随分と軽装だな」

 

「気をつけろ、キャップ!」

スパイダーマンがウェブでビルの壁面に張り付きながら叫ぶ。

「あいつの攻撃は見えない! 近づいたら切り刻まれるぞ!」

 

「見えない斬撃?」

サムが眉をひそめる。「ナノテクのワイヤーか何かか?」

 

「……ハッ」

宿儺は、降り立ったアベンジャーズを見回し、退屈そうに欠伸をした。

「鉄屑に、羽根付き。……この世界の「ヒーロー」とやらは、道具に頼らねば戦えんのか」

 

宿儺が指を弾く。

サムに向かって、不可視の斬撃が飛ぶ。

 

「サム、回避!」

ストレンジの警告よりも速く、サムは長年のセンスで盾を構えた。

 

ガギィィィン!!

 

凄まじい衝撃音。サムの体が後方へ吹き飛ばされ、アスファルトを削りながらどうにか踏みとどまる。

「ぐぅ……ッ! 重い!」

 

サムは盾を見た。

絶対的な強度を誇るヴィブラニウムの表面に、浅い「傷」が入っている。

 

「ヴィブラニウムを傷つけた!?」

ローディが驚愕する。「物理攻撃じゃない、分子結合を直接切断しようとしてるのか!」

 

「ほう」

宿儺が目を細めた。

「その円盤……面白い強度だ。俺の斬撃を受け止めるとはな」

 

「お喋りは終わりだ!」

ローディ(ウォーマシーン)が、背中のガトリング砲と肩のミサイルポッドを一斉展開した。

「リリ、援護しろ! 弾幕で押し潰す!」

 

「了解!」

アイアンハートがリパルサー・レイをチャージする。

 

ドガガガガガガガッ!!

ズドォォォォン!!

 

数千発の銃弾とミサイル、エネルギービームの嵐が、宿儺の立つ位置へ集中した。

爆炎が巻き起こり、ビルの一角が消し飛ぶ。

 

「やったか?」

リリがモニターを確認する。

 

だが、爆煙の中から、冷ややかな声が響いた。

 

「『蜘蛛の糸』」

 

煙が晴れると、地面一帯が巨大な網状にひび割れていた。

宿儺はその中心で無傷のまま立っている。彼に迫った弾頭やビームは、すべて彼に届く前に細切れに切断され、無力化されていたのだ。

 

「遅い。脆い。芸がない」

 

宿儺が姿を消した。

瞬歩。

次の瞬間、空中に浮いていたウォーマシーンの背後に現れる。

 

「なっ……速い!」

 

「『解』」

 

宿儺がローディの背中のガトリング砲に触れる。

バシュッ。

重厚な武装が、豆腐のように切り落とされた。

 

「ローディ!」

サムがジェットパックで急行し、盾を投擲する。

宿儺は盾を避けることなく、素手で――呪力強化した手刀で弾き返した。

 

ガァン!

盾が弾かれ、ビルの壁に突き刺さる。

 

「肉弾戦なら負けない!」

アメリカ・チャベスが、星型のポータルを利用して宿儺の死角から飛び出す。

「スター・スマッシュ!」

 

宿儺は振り返りもせず、アメリカの拳を片手で受け止めた。

「ぐぬぬ……!」

「良い目だ、小娘。だが……」

 

宿儺はアメリカの手首を掴み、そのまま一本背負いのように地面へ叩きつけた。

ドゴォォォォン!!

「がはっ……」

 

「アメリカ!」

ストレンジがヴォルトの杖から魔力弾を放つが、宿儺はそれをあくびでかき消した。

 

「飽きたな」

宿儺は呟いた。

「この程度か、この世界の英雄(ヒーロー)とやらは」

 

アベンジャーズが圧倒されている。

ストレンジは冷や汗を拭った。力の次元が違う。物理的な破壊力だけならソーやハルクが対抗できるかもしれないが、今のメンバーでは「呪い」という理不尽なルールに対抗できない。

 

「どうすればいい……奴の術式を封じる手立ては……」

 

その時、ストレンジの「第三の目」が、宿儺の体の周囲に奇妙な「ブレ」を捉えた。

宿儺の魂の形。その奥深くに、もう一つの小さく、しかし必死に抵抗する魂の光が見えたのだ。

 

(伏黒恵……!)

 

宿儺の動きが一瞬だけ鈍る瞬間がある。

特に、スパイダーマンやアメリカといった「若者」に攻撃しようとする瞬間、わずかに斬撃の軌道が逸れている。

 

「ピーター!」

ストレンジが叫んだ。

「奴の中にいる『宿主』に呼びかけろ! 奴の肉体は乗っ取られたものだ! 中の少年が抵抗している!」

 

「えっ?ああ、わかった!」

スパイダーマンは、瓦礫から身を起こし、宿儺に向かって叫んだ。

「おい! 聞こえてるか!伏黒君!……負けるな! 体を取り返せ!」

 

宿儺の顔が歪んだ。

彼の頬にピクリと痙攣が走る。

 

「……チッ。鬱陶しいガキだ」

宿儺は自分の胸を叩いた。

「伏黒恵。貴様の魂はもう深淵に沈んだはずだ。まだ足掻くか」

 

「今だ、サム!」

ストレンジの合図で、キャプテン・アメリカが動く。

彼は盾を回収し、ジェットの推力を最大にして突っ込んだ。

「体をお返し願おうか!」

 

サムのシールドバッシュが、動きの鈍った宿儺のみぞおちに入った。

ドガッ!!

宿儺が数メートル後退する。

 

「効いた!」

リリが追撃のミサイルを撃ち込む。

 

しかし、宿儺はすぐに体勢を立て直し、ニヤリと笑った。

「……ほう。魂の格下げを利用するか。悪くない戦術だ」

 

宿儺は印を結んだ。

「だが、遊びはここまでだ」

 

彼の手元から、どす黒い影が溢れ出した。

伏黒恵の術式『十種影法術』。しかし、そのスケールは桁違いだ。

 

「布瑠部由良由良……」

 

ストレンジの顔色が変わる。

その呪詞は、「最強の式神」召喚の合図だ。

 

「させるか!」

ストレンジは、最後の切り札を切る決意をした。

懐から取り出したのは、暗黒次元の戦いでモルドから回収した「チェンソーの悪魔の破片」だ。

 

「毒には毒を。……呪いには呪いを!」

 

ストレンジは破片をヴォルトの杖の先端に突き刺し、無理やり活性化させた。

 

ギュィィィィン!!

杖の先端から、魔力ではなく「チェンソーの刃」が出現し、回転を始める。

 

「食らえ!」

 

ストレンジは魔術で加速し、召喚途中の宿儺に向かって、回転する杖を叩きつけた。

 

ガギィィィィィッ!!

 

チェンソーの刃(恐怖の概念)と、宿儺の影(呪いの概念)が激突する。

マンハッタンの中心で、赤と黒の閃光が爆発した。

 

 

 

 

その混乱を、遠く離れたエンパイア・ステート・ビルの頂上から見下ろす影があった。

羂索だ。

 

「ハハッ、素晴らしい。アベンジャーズの介入で、場の『呪力総量』が跳ね上がった」

 

彼は手元の端末(スターク・インダストリーズのハッキング済みパッド)を操作した。

ニューヨーク全土に展開された『死滅回游』の結界が、赤く脈打ち始める。

 

「宿儺の暴れっぷりで、十分なエネルギーが集まった。……そろそろ『アレ』を起動しようか」

 

羂索がエンターキーを押した瞬間。

マンハッタンの地下深く、かつてアベンジャーズがチタウリと戦った古戦場の地層から、巨大な魔法陣が起動した。

 

ズズズズズズ……!!

 

地面が割れ、巨大な植物のような「呪いの樹」が急速に成長し始めた。

それは、アース-666の「世界樹のエネルギーライン」を強制的に吸い上げ、マルチバースとの同化を果たすための祭壇だった。

 

「さあ、世界を書き換えよう。……このユニバースの歴史を、呪いの歴史へと」

 

巨大な樹木が、宿儺とアベンジャーズの戦場を突き破り、天へと伸びていく。

その枝には、捕らえられた市民たちが「繭」のようにぶら下がっていた。

 

「な、なんだあれは!?」

サムが絶句する。

 

宿儺は杖を受け止めながら、巨大な樹を見上げ、つまらなそうに鼻を鳴らした。

「……羂索め。俺の戦闘を邪魔するとは、いい度胸だ」

 

戦いは、三つ巴ならぬ、世界崩壊のカウントダウンへと移行した。

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