ドクター・ストレンジ:マルチバース・イーター 作:ルルルだ。
宇宙の果て、無法地帯「ノーウェア」。
かつて首を斬り落とされた太古の神、セレスティアルズの巨大な頭蓋骨が漂うこの場所は、銀河中のならず者たちが集まる採掘コロニーとなっていた。
だが、今日のノーウェアは静寂に包まれていた。
ネオンサインは消え、採掘ドリルは止まっている。
代わりに響くのは、巨大な樹木が頭蓋骨をきしませて成長する「メリメリ」という音と、紫色の雷鳴だけだった。
シュンッ!!
ノーウェアの広場に、星型のポータルが開いた。
そこから、スティーヴン・ストレンジ、アメリカ・チャベス、スパイダーマン、アベンジャーズ(サム、ローディ、リリ)、そして両面宿儺が転がり出てきた。
「酸素は……あるな」
ストレンジがヴォルトの杖を突き、肩で息をする。
「ノーウェアには人工大気が維持されている。だが、空気が重い。……呪いのせいだ」
彼らが見上げた先。
セレスティアルズの巨大な頭蓋骨に、マンハッタンから転移してきた「呪胎樹海」が深々と根を張っていた。
赤い根が、頭蓋骨の眼窩や鼻腔から飛び出し、まるで神の脳髄を啜る寄生虫のように脈打っている。
「うわぁ……。写真で見たことあるけど、実物はもっとグロいね」
スパイダーマンがマスク越しに顔をしかめる。
「しかも、なんか動いてない? あのデカい頭」
「動いている」
サムが盾を構えた。
「死体のはずなのに、生体反応がある。……リリ、分析できるか?」
「無理です、キャップ!」アイアンハートが悲鳴を上げる。
「センサーが『未知のエネルギー』で真っ赤! 放射能と呪力が混ざって、ガイガーカウンターが壊れそう!」
その時。
彼らの周囲を、数機の小型宇宙船と、重武装した異星人たちが取り囲んだ。
「動くな、地球人ども! そして……変な刺青の男!」
ジェットブーツで降下してきたのは、赤いジャケットの男。
スター・ロード(ピーター・クイル)。
その隣には、アライグマのロケット、巨漢のドラックス、そして樹木型ヒューマノイドのグルート。
「ガーディアンズ!」
ストレンジが手を挙げる。「待て、クイル! 我々は敵じゃない!」
「ドクター・ストレンジか?」
クイルがマスクを解除し、呆れた顔をした。
「お前、また魔法で何かやらかしたのか? 俺たちの基地(ノーウェア)がいきなり『お化け屋敷』になったんだが」
「I am Groot.(なんか嫌な感じがする)」
グルートが、頭蓋骨に絡みついた赤い樹を見て震える。
「俺も同感だ」ロケットが重火器を構える。
「あの樹、ただの植物じゃねえ。……俺たちの採掘場から『脳』を吸い上げてやがる。このままだと、このコロニーごと干からびちまうぞ!」
「説明している時間はない」
ストレンジは、頭蓋骨の「額」にあたる部分を指差した。
「あそこに敵の中枢がいる。羂索という男だ。奴は、この神の死体を『呪いの器』として再起動させようとしている」
「神の死体を再起動?」
ドラックスがナイフを抜く。
「つまりゾンビか。俺はゾンビ映画が好きだ。頭を潰せばいいんだな?」
ズズズズズズズ……!!!
ノーウェア全体が激震した。
頭蓋骨の巨大な目の穴に、ドス黒い紫色の光が灯る。
それは照明ではない。
死んだはずの神経回路に、膨大な呪力が流し込まれ、強制的に「開眼」させられたのだ。
『オオオオオオオオオ……』
真空の宇宙空間に、思念波としての咆哮が響き渡る。
ノーウェアの口が開き、そこから何千体もの「呪霊化した採掘作業員」や「異星人の亡霊」が溢れ出してきた。
「うわッ! エイリアンゾンビだ!」
スパイダーマンがウェブを撃つが、数が多すぎる。
「ロケット、弾幕だ! グルート、道を空けろ!」
クイルがクアッドブラスターを乱射する。
「地球の魔術師! あいつ(宿儺)は何なんだ? 敵か味方か?」
クイルが指差した先。
両面宿儺は、襲い来る異星人の呪霊の群れの中を、退屈そうに歩いていた。
彼が指を振るうたびに、数十体の敵がサイコロ状に解体されていく。
「……味方ではない」
ストレンジが苦々しく答える。
「だが、今は『猛獣』として利用するしかない」
宿儺は、眼前の雑魚には目もくれず、頭上で脈動する「脳」を見上げていた。
「デカいな」
宿儺がニヤリと笑う。
「あの巨大な頭蓋……切り甲斐がありそうだ」
ノーウェアの大脳皮質。
かつて採掘指令室だったその場所は、今は肉と機械と呪いが融合した、グロテスクなコクピットに変貌していた。
羂索は、神経ケーブルに自らの脳を接続し、恍惚としていた。
「素晴らしい……! これが宇宙の神の視点か!」
彼はモニター越しに、必死に抵抗するアベンジャーズやガーディアンズを見下ろす。
「天元との同化はリスクが高かったが、死んでいるセレスティアルズなら抵抗もない。……空っぽの器に、私が集めた『全人類の負の感情』を注ぎ込めば、どうなると思う?」
羂索がキーボード(と呪符)を操作した。
「孵化だ」
バクンッ!!
ノーウェアの頭蓋骨が割れた。
そこから、巨大な「脳みそ」のようなエネルギー体が、羽化するように立ち昇る。
それは物理的な脳ではない。
「特級仮想怨霊・コスミック・マコラ」のような、適応と進化を続ける怪物。
「ギャハハハ! 見ろ! 新しい神の誕生だ!」
「なんかデカいのが出てきたぞ!?」
サム(キャプテン・アメリカ)が、空を覆う影に絶句する。
出現したエネルギー体は、背中に巨大な「法陣」を背負い、手には星をも砕く「対魔の剣」を持っていた。
「なんだ...?」
ストレンジが解析する。
「あれは羂索の術式で再現された、セレスティアルズの『抗体システム』だ! 呪力で動く防衛本能そのものだ!」
「要するに、あいつをぶっ飛ばせばいいんだな!」
ロケットが重力爆弾を装填する。
「グルート、俺を投げろ! ゼロ距離で撃ち込んでやる!」
「I am Groot!(了解!)」
グルートが腕を伸ばし、ロケットを射出する。
同時に、アイアンハートとウォーマシーンが全弾発射で援護する。
しかし、怪物の背中の法陣が「ガシャン」と回った。
カッ!
ロケットの重力爆弾も、リリのビームも、すべて無効化された。
「適応された!? 早すぎる!」
怪物が剣を振り下ろす。
ノーウェアの地表が消し飛ぶ威力。
「させない!」
アメリカ・チャベスがポータルを開き、剣の軌道を逸らす。
「先生、私のパンチも効かないかも!」
「物理もエネルギーも適応されるなら……」
ストレンジは、隣に立つ男を見た。
この場にいる唯一の「規格外」。
「宿儺! 貴様の出番だ!」
両面宿儺は、瓦礫の上に座り込み、頬杖をついていた。
「……俺に命令するなと言ったはずだが?」
「奴は『適応』する怪物だ! 貴様の斬撃すら、一度見れば無効化するぞ!」
ストレンジは挑発した。
「それとも、呪いの王の斬撃は、宇宙の神には通じないか?」
宿儺の眉がピクリと動いた。
彼はゆっくりと立ち上がり、着物をはだけた。
「……面白い」
宿儺の全身に、禍々しい紋様が走る。
彼は地面を蹴った。宇宙空間に近い低重力を利用し、一瞬で怪物の眼前に到達する。
「適応する前に、塵に還せばいいだけの話だ」
宿儺が両手を合わせた。
領域展開ではない。
彼が羂索の「死滅回游」を通じて学んだ、異界の概念を取り込んだ新技。
「『竈』・恒星」
宿儺の手のひらに、小さな太陽のような炎が生まれた。
それはただの炎ではない。ノーウェアの採掘エネルギーと、宿儺の呪力を核融合させた、擬似的な恒星フレア。
「燃え尽きろ」
宿儺が炎の矢を放つ。
ズドォォォォォン!!!!
ノーウェアの上空で、太陽が爆発したような閃光が走った。
「抗体システム」の怪物が、適応の法陣を回す暇もなく、超高熱で蒸発していく。
「すっげぇ火力……!」
クイルがサングラスを押さえる。
「まだだ! 本体(羂索)は脳幹にいる!」
ストレンジが叫ぶ。
「サム、ピーター、行くぞ! 中枢を叩く!」
怪物が消滅した隙を突き、ヒーローたちと魔術師は、セレスティアルの頭蓋骨の割れ目――脳内へと突入した。
そこで彼らを待ち受けていたのは、神経ケーブルと一体化した羂索と、彼の周りを固める「特級呪物・コズミックキューブ」の防壁だった。
「よく来たね」
羂索は、余裕の笑みを崩さない。
「だが、同化は完了した。……今からこのノーウェアは、私の体だ」
ノーウェアの内壁から、無数の「手」が生え、ヒーローたちに襲いかかる。
最終決戦は、神の脳内で行われる。