ドクター・ストレンジ:マルチバース・イーター   作:ルルルだ。

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28話 規格外の猛獣

宇宙の果て、無法地帯「ノーウェア」。

かつて首を斬り落とされた太古の神、セレスティアルズの巨大な頭蓋骨が漂うこの場所は、銀河中のならず者たちが集まる採掘コロニーとなっていた。

 

だが、今日のノーウェアは静寂に包まれていた。

ネオンサインは消え、採掘ドリルは止まっている。

代わりに響くのは、巨大な樹木が頭蓋骨をきしませて成長する「メリメリ」という音と、紫色の雷鳴だけだった。

 

シュンッ!!

 

ノーウェアの広場に、星型のポータルが開いた。

そこから、スティーヴン・ストレンジ、アメリカ・チャベス、スパイダーマン、アベンジャーズ(サム、ローディ、リリ)、そして両面宿儺が転がり出てきた。

 

「酸素は……あるな」

ストレンジがヴォルトの杖を突き、肩で息をする。

「ノーウェアには人工大気が維持されている。だが、空気が重い。……呪いのせいだ」

 

彼らが見上げた先。

セレスティアルズの巨大な頭蓋骨に、マンハッタンから転移してきた「呪胎樹海」が深々と根を張っていた。

赤い根が、頭蓋骨の眼窩や鼻腔から飛び出し、まるで神の脳髄を啜る寄生虫のように脈打っている。

 

「うわぁ……。写真で見たことあるけど、実物はもっとグロいね」

スパイダーマンがマスク越しに顔をしかめる。

「しかも、なんか動いてない? あのデカい頭」

 

「動いている」

サムが盾を構えた。

「死体のはずなのに、生体反応がある。……リリ、分析できるか?」

 

「無理です、キャップ!」アイアンハートが悲鳴を上げる。

「センサーが『未知のエネルギー』で真っ赤! 放射能と呪力が混ざって、ガイガーカウンターが壊れそう!」

 

 

その時。

彼らの周囲を、数機の小型宇宙船と、重武装した異星人たちが取り囲んだ。

 

「動くな、地球人ども! そして……変な刺青の男!」

 

ジェットブーツで降下してきたのは、赤いジャケットの男。

スター・ロード(ピーター・クイル)。

その隣には、アライグマのロケット、巨漢のドラックス、そして樹木型ヒューマノイドのグルート。

 

「ガーディアンズ!」

ストレンジが手を挙げる。「待て、クイル! 我々は敵じゃない!」

 

「ドクター・ストレンジか?」

クイルがマスクを解除し、呆れた顔をした。

「お前、また魔法で何かやらかしたのか? 俺たちの基地(ノーウェア)がいきなり『お化け屋敷』になったんだが」

 

「I am Groot.(なんか嫌な感じがする)」

グルートが、頭蓋骨に絡みついた赤い樹を見て震える。

 

「俺も同感だ」ロケットが重火器を構える。

「あの樹、ただの植物じゃねえ。……俺たちの採掘場から『脳』を吸い上げてやがる。このままだと、このコロニーごと干からびちまうぞ!」

 

「説明している時間はない」

ストレンジは、頭蓋骨の「額」にあたる部分を指差した。

「あそこに敵の中枢がいる。羂索という男だ。奴は、この神の死体を『呪いの器』として再起動させようとしている」

 

「神の死体を再起動?」

ドラックスがナイフを抜く。

「つまりゾンビか。俺はゾンビ映画が好きだ。頭を潰せばいいんだな?」

 

 

ズズズズズズズ……!!!

 

ノーウェア全体が激震した。

頭蓋骨の巨大な目の穴に、ドス黒い紫色の光が灯る。

それは照明ではない。

死んだはずの神経回路に、膨大な呪力が流し込まれ、強制的に「開眼」させられたのだ。

 

『オオオオオオオオオ……』

 

真空の宇宙空間に、思念波としての咆哮が響き渡る。

ノーウェアの口が開き、そこから何千体もの「呪霊化した採掘作業員」や「異星人の亡霊」が溢れ出してきた。

 

「うわッ! エイリアンゾンビだ!」

スパイダーマンがウェブを撃つが、数が多すぎる。

 

「ロケット、弾幕だ! グルート、道を空けろ!」

クイルがクアッドブラスターを乱射する。

「地球の魔術師! あいつ(宿儺)は何なんだ? 敵か味方か?」

 

クイルが指差した先。

両面宿儺は、襲い来る異星人の呪霊の群れの中を、退屈そうに歩いていた。

彼が指を振るうたびに、数十体の敵がサイコロ状に解体されていく。

 

「……味方ではない」

ストレンジが苦々しく答える。

「だが、今は『猛獣』として利用するしかない」

 

宿儺は、眼前の雑魚には目もくれず、頭上で脈動する「脳」を見上げていた。

 

「デカいな」

宿儺がニヤリと笑う。

「あの巨大な頭蓋……切り甲斐がありそうだ」

 

 

ノーウェアの大脳皮質。

かつて採掘指令室だったその場所は、今は肉と機械と呪いが融合した、グロテスクなコクピットに変貌していた。

 

羂索は、神経ケーブルに自らの脳を接続し、恍惚としていた。

 

「素晴らしい……! これが宇宙の神の視点か!」

 

彼はモニター越しに、必死に抵抗するアベンジャーズやガーディアンズを見下ろす。

「天元との同化はリスクが高かったが、死んでいるセレスティアルズなら抵抗もない。……空っぽの器に、私が集めた『全人類の負の感情』を注ぎ込めば、どうなると思う?」

 

羂索がキーボード(と呪符)を操作した。

 

「孵化だ」

 

バクンッ!!

 

ノーウェアの頭蓋骨が割れた。

そこから、巨大な「脳みそ」のようなエネルギー体が、羽化するように立ち昇る。

それは物理的な脳ではない。

「特級仮想怨霊・コスミック・マコラ」のような、適応と進化を続ける怪物。

 

「ギャハハハ! 見ろ! 新しい神の誕生だ!」

 

 

「なんかデカいのが出てきたぞ!?」

サム(キャプテン・アメリカ)が、空を覆う影に絶句する。

 

出現したエネルギー体は、背中に巨大な「法陣」を背負い、手には星をも砕く「対魔の剣」を持っていた。

 

「なんだ...?」

ストレンジが解析する。

「あれは羂索の術式で再現された、セレスティアルズの『抗体システム』だ! 呪力で動く防衛本能そのものだ!」

 

「要するに、あいつをぶっ飛ばせばいいんだな!」

ロケットが重力爆弾を装填する。

「グルート、俺を投げろ! ゼロ距離で撃ち込んでやる!」

「I am Groot!(了解!)」

 

グルートが腕を伸ばし、ロケットを射出する。

同時に、アイアンハートとウォーマシーンが全弾発射で援護する。

 

しかし、怪物の背中の法陣が「ガシャン」と回った。

 

カッ!

 

ロケットの重力爆弾も、リリのビームも、すべて無効化された。

「適応された!? 早すぎる!」

 

怪物が剣を振り下ろす。

ノーウェアの地表が消し飛ぶ威力。

 

「させない!」

アメリカ・チャベスがポータルを開き、剣の軌道を逸らす。

「先生、私のパンチも効かないかも!」

 

「物理もエネルギーも適応されるなら……」

ストレンジは、隣に立つ男を見た。

この場にいる唯一の「規格外」。

 

「宿儺! 貴様の出番だ!」

 

両面宿儺は、瓦礫の上に座り込み、頬杖をついていた。

「……俺に命令するなと言ったはずだが?」

 

「奴は『適応』する怪物だ! 貴様の斬撃すら、一度見れば無効化するぞ!」

ストレンジは挑発した。

「それとも、呪いの王の斬撃は、宇宙の神には通じないか?」

 

宿儺の眉がピクリと動いた。

彼はゆっくりと立ち上がり、着物をはだけた。

 

「……面白い」

 

宿儺の全身に、禍々しい紋様が走る。

彼は地面を蹴った。宇宙空間に近い低重力を利用し、一瞬で怪物の眼前に到達する。

 

「適応する前に、塵に還せばいいだけの話だ」

 

宿儺が両手を合わせた。

領域展開ではない。

彼が羂索の「死滅回游」を通じて学んだ、異界の概念を取り込んだ新技。

 

「『竈』・恒星」

 

宿儺の手のひらに、小さな太陽のような炎が生まれた。

それはただの炎ではない。ノーウェアの採掘エネルギーと、宿儺の呪力を核融合させた、擬似的な恒星フレア。

 

「燃え尽きろ」

 

宿儺が炎の矢を放つ。

 

ズドォォォォォン!!!!

 

ノーウェアの上空で、太陽が爆発したような閃光が走った。

「抗体システム」の怪物が、適応の法陣を回す暇もなく、超高熱で蒸発していく。

 

「すっげぇ火力……!」

クイルがサングラスを押さえる。

 

「まだだ! 本体(羂索)は脳幹にいる!」

ストレンジが叫ぶ。

「サム、ピーター、行くぞ! 中枢を叩く!」

 

怪物が消滅した隙を突き、ヒーローたちと魔術師は、セレスティアルの頭蓋骨の割れ目――脳内へと突入した。

 

そこで彼らを待ち受けていたのは、神経ケーブルと一体化した羂索と、彼の周りを固める「特級呪物・コズミックキューブ」の防壁だった。

 

「よく来たね」

羂索は、余裕の笑みを崩さない。

「だが、同化は完了した。……今からこのノーウェアは、私の体だ」

 

ノーウェアの内壁から、無数の「手」が生え、ヒーローたちに襲いかかる。

最終決戦は、神の脳内で行われる。

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