ドクター・ストレンジ:マルチバース・イーター   作:ルルルだ。

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30話 観測者の介入

宇宙の無法地帯、ノーウェア。

その巨大な頭蓋骨の内部で、物理法則が静かに、しかし確実に書き換えられていた。

 

マキマが羂索の頭を踏みつけた瞬間、周囲の空間を埋め尽くしていた赤黒い呪力と、セレスティアルズの黄金のコズミック・パワーが、渦を巻いて彼女の背中へと吸い込まれていく。

 

「バカな……許容量を超えているはずだ……!」

羂索は、うめきながら、信じられない光景を見ていた。

「人間の器で、神の力と特級呪力を同時に取り込めば、自我が崩壊する!」

 

「人間?」

マキマは小首を傾げた。

彼女の背後に浮かぶ「光輪」――無数の悪魔の死骸と星々が圧縮されたリングが、神々しく輝き始める。

 

「私は『支配の悪魔』。……私にとって、この力は『食事』に過ぎない」

 

ゴウッ……。

 

吸収が完了した。

マキマの姿に大きな変化はない。スーツ姿のままだ。

だが、彼女の存在感が変質していた。

彼女がそこに立っているだけで、ノーウェアの人工重力がひれ伏し、空気の流れが彼女の呼吸に合わせて止まる。

彼女は今や、このセレスティアルズの死体そのものと神経接続し、宇宙規模の「支配者」へと昇華したのだ。

 

「……さて」

マキマは、眼下のアベンジャーズとガーディアンズ・オブ・ギャラクシーを見渡した。

 

「皆さん。悪い人たちと戦ってくれてありがとう」

彼女の声は、真空の宇宙空間に直接響いた。耳ではなく、脳の「服従中枢」に直接語りかける声。

 

「でも、もう戦わなくていいの。これからは私が管理してあげる」

 

「ふざけるな!」

スター・ロードがブラスターを向ける。

「お前が何者か知らねえが、俺たちを指図できると思ったら大間違いだ!」

 

クイルが引き金を引こうとした。

だが、指が動かない。

「なっ……!? 体が!」

 

「『武器を捨てなさい』」

 

カラン、カラン。

クイル、ロケット、ドラックス、そしてサムやローディの手から、武器が滑り落ちた。

彼らの意思とは関係なく、筋肉が命令を拒絶できない。

 

「サム! スーツが制御不能だ!」

アイアンハート(リリ)が叫ぶ。

「システムがハッキングされてる!? いや、違う……AIが『彼女に従うのが合理的だ』って判断してる!」

 

「生物だけじゃない」ストレンジが呻く。

「彼女はセレスティアルズの力を得て、『物質』や『プログラム』に対しても支配権を強制執行しているんだ...」

 

「『座りなさい』」

 

ズンッ!!

 

見えない巨大な手が、ヒーローたちを地面に押し付けた。

「ぐあぁぁぁ……!」

サムが膝をつく。スパイダーマンが這いつくばる。

彼らの目から、徐々に抵抗の光が消え、マキマと同じ「渦巻き状の瞳」へと変わり始めていた。

 

「いい子だね」

マキマは微笑んだ。

「争いのない世界を作りましょう。アベンジャーズも、ガーディアンズも、私の犬として平和を守るの」

 

 

 

 

その静寂の中で、ただ一人、膝をつかない男がいた。

 

「……下衆が」

 

両面宿儺。

彼は全身の骨が軋むほどの重圧を受けながらも、仁王立ちしていた。

その額には青筋が浮かび、目には血走った殺意が宿っている。

 

「俺を見下ろすか、女」

 

「あれ?」

マキマは少し驚いたように宿儺を見た。

「さすがは呪いの王。精神の強度は規格外。……でも、ここは私の『胎内』だよ」

 

マキマが指を鳴らす。

ノーウェアの頭蓋骨内壁から、無数の神経ケーブルと呪いの血管が伸び、宿儺の体に絡みついた。

 

「『伏せ』」

 

ドガァァァン!!

 

セレスティアルズの全質量に匹敵する重力が、宿儺一点に集中した。

「ぬ、ぐゥゥゥ……ッ!!」

宿儺の膝が震える。地面が陥没し、彼は腰まで瓦礫に埋もれた。

 

「貴様ァ……!!」

宿儺が印を結ぼうとするが、血管が腕を拘束する。

「殺す……! 必ず殺して、その臓腑を喰らってやる!!」

 

「威勢がいい」

マキマは冷めた目で見下ろした。

「でも、あなたはもう『檻の中』。……少し頭を冷やしていなさい」

 

宿儺は、圧倒的な出力差とフィールドアドバンテージによって、物理的に封殺された。

 

 

「終わりだ……」

ストレンジは、ヴォルトの杖を支えにして立っていたが、視界が霞み始めていた。

魔力はない。頼みの綱の宿儺も封じられた。アベンジャーズは洗脳されかけている。

マキマの視線が、最後にストレンジに向けられた。

 

「ドクター・ストレンジ。あなたの知識は役に立ちそう。私の参謀になりなさい」

 

マキマの手が伸びる。

ストレンジの自我が溶かされそうになった、その瞬間。

 

『――そこまでだ』

 

時間が止まった。

いや、ノーウェアの空間そのものが「切り取られた」。

 

ストレンジの目の前に、輝くプリズムの壁が出現した。

その壁の向こうに、スキンヘッドに巨大な襟を立てた巨人――ウォッチャーの姿が浮かび上がった。

 

「な……なんだ、お前は……!?」

ストレンジが息を呑む。

ドーマムゥとも、サノスとも違う。圧倒的な「高次元」の気配。彼の魔術知識のどこにも該当しない未知の存在。

 

『緊急事態だ、スティーヴン・ストレンジ』

巨人の声は、宇宙の深淵から響くように重々しく、しかし焦燥に満ちていた。

『彼女(マキマ)は一線を超えた。セレスティアルズの力を得た彼女は、やがてこの宇宙の「外側」すら認識し、私(観測者)をも支配しようとするだろう』

 

マキマが動きを止めた。

彼女はプリズムの壁の向こうにいる巨人を見上げ、ニッコリと笑った。

「見つけた。……そこにいたのね、覗き魔さん」

 

『干渉させるものか』

巨人が手を掲げる。

 

フッ。

 

ストレンジ、スパイダーマン、アメリカ・チャベス。

そして、拘束されていた両面宿儺と、瓦礫になっていた羂索(の脳が入ったコズミックキューブ)。

「支配」が完了していない、わずかな「異分子」たちが、光の粒子となってその場から消滅した。

 

「あら、逃げられた」

マキマは残念そうに呟いたが、すぐに興味を失った。

彼女の足元には、完全に瞳のハイライトを失い、彼女に跪くキャプテン・アメリカやスター・ロードたちの姿があった。

 

「まあいいわ。……まずは地球(アース-666)を『整地』しましょうか」

 

マキマの命令に従い、ノーウェアがゆっくりと回頭し、地球への進路を取った。

 

 

光のトンネルを抜け、ストレンジたちが辿り着いたのは、クリスタルの破片が浮遊する不思議な空間だった。

物理法則が適用されない、純粋な概念の世界。

 

「ここは……?」

アメリカ・チャベスが周囲を見回す。「マルチバースの隙間? でも、すごく静か」

 

「その通りだ」

巨人の姿を人間サイズに縮小した男が、彼らの前に降り立った。

「ようこそ、アース-666の守護者たち。そして……異界の客人よ」

 

宿儺は、拘束から解放されると、不快そうに肩を回した。

「……チッ。あの女に一泡吹かせる前に、場所を変えられるとはな」

彼は目の前の男を睨んだ。

「おい、デカいハゲ。ここはどこだ。貴様は何者だ」

 

「言葉を慎め、宿儺」ストレンジが制するが、彼自身も警戒心を露わにして杖を構えた。

「私も同意見だ。君は誰だ? 味方なのか、それとも新たな侵略者か?」

 

「私はウアトゥ。……『ウォッチャー』と呼ばれる者だ」

男は静かに答えた。

「私は本来、干渉しない。ただ全ての現実を見守るだけの存在だ。だが……今回は例外だ」

 

「観測者……?」

ストレンジは眉をひそめた。カマル・タージの蔵書にも、そんな存在の記録はない。だが、この男から発せられる力は、確かに宇宙の理そのものだ。

 

「マキマはセレスティアルズの力を用いて、現実を『彼女の都合のいい物語』に書き換え始めている。物理的な攻撃も、魔法も、今の彼女には通じない」

ウアトゥは空間に映像を投影した。

そこには、地球へと向かうノーウェアと、ひれ伏すヒーローたちの姿があった。

 

「じゃあどうすればいいんですか!」

スパイダーマンがマスクを脱ぎ、悲痛な叫びを上げる。

「キャップも、みんな操られちゃった! 僕たちだけでどうやって勝てっていうのさ!」

 

ウアトゥは静かに頷いた。

「君たちだけでは勝てない。……だから、呼んだのだ」

 

ウアトゥが手を振ると、空間に二つの「窓」が開いた。

 

一つ目の窓の向こうは、アース-JJK(呪術廻戦の世界)

荒廃した渋谷の街。暗黒次元から戻ったばかりの白髪の男が、瓦礫の上で伸びをしていた。

「あーあ、疲れた。硝子に頼んでマッサージでも……ん?」

五条悟。彼は再び空間が歪むのを感じ、うんざりした顔をした。

 

二つ目の窓の向こうは、アース-CSM(チェンソーマンの世界)

ボロアパートの一室。

暗黒次元から帰還した少年が、食パンに最強のジャムを塗ってかじりついていた。

「……夢だったんか? 宇宙行ってた気がすんだけどよぉ」

デンジ。彼は自分の胸をさすりながら、首をかしげている。

「ま、腹減ったしどうでもいいか。……うおっ!?」

 

「彼らだ」

ウアトゥは告げた。

「マキマの『支配』という概念を打ち破れる唯一の可能性。……『無限』を持つ最強の術師と、『概念消滅』の力を持つ悪魔」

 

「五条悟と、チェンソーマン……!」

ストレンジが目を見開く。

 

「彼らを再び召喚する。……これが最後の賭けだ」

 

ウォッチャーの瞳が輝き、二つの世界から「特異点」を引き抜く。

マルチバース最強のドリームチーム、結成の時が来た。

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