ドクター・ストレンジ:マルチバース・イーター 作:ルルルだ。
光の粒子が収束し、クリスタルの空間に二つの人影が実体化した。
「……あ?」
一人目は、ボロアパートの畳の上から転送された少年、デンジ。
彼は口にくわえていた食パン(イチゴジャムたっぷり)を、呆然と地面に落とした。
「俺の……朝飯……」
彼は状況を理解するよりも先に、落ちたパンを見て絶望的な顔をした。
「ジャム塗った面が下じゃねえか!! 最悪だ!!」
「やあ。また会ったね」
二人目は、渋谷の瓦礫の上から転送された男、五条悟。
彼は周囲の状況――巨人のウアトゥ、ボロボロのストレンジ、そして不機嫌そうな宿儺を一瞬で視認し、ニヤリと笑った。
「地獄から戻って一息ついたと思ったら、今度は『神様』の御前会議かな? 忙しいねぇ、僕らも」
「五条悟、そしてデンジ……」
スティーヴン・ストレンジが、安堵と緊張の入り混じった息を吐く。
「呼び出してすまない。だが、君たちの力がどうしても必要なんだ」
「あ? 誰だオッサン」
デンジがパンを拾い上げ、ふてくされた顔でストレンジを見た。
「俺は家でテレビ見る予定があったんだよ。帰してくれよ」
「帰る場所がなくなるかもしれない」
スパイダーマンがマスクを脱ぎ、真剣な眼差しでデンジに訴えた。
「君の世界も、僕たちの世界も、あの『支配の悪魔』に書き換えられようとしている。……助けて、チェンソーマン」
「チェンソーマン……?」
デンジは少し鼻を高くした。
「へへっ、俺のこと知ってんの? 有名なんだな、異世界でも」
「時間が惜しい。状況を説明する」
ウアトゥが巨大な手を広げ、空中にホログラムを展開した。
映し出されたのは、地球(アース-666)の上空に停滞する巨大な頭蓋骨「ノーウェア」と、そこから放たれる支配の波動。
アベンジャーズやX-MENといった地球の守護者たちが、虚ろな目でマキマに伏している映像だ。
「マキマはセレスティアルズの全知全能に近い力を得た。今の彼女は、対象を視認した瞬間に『格下』と定義し、概念レベルで支配する」
ウアトゥの重厚な声が響く。
「物理攻撃も魔法も無意味だ。彼女が『効かない』と思えば、現実はそれに従う」
「チッ、面倒な女だ」
宿儺が腕組みをして鼻を鳴らす。
「俺の『解』すら、彼女のルールの中では無効化されかけた。……羂索の小細工より厄介だな」
「だが、攻略法はある」
ウアトゥは、五条とデンジを指差した。
「支配の条件は『認識』だ。彼女が理解し、制御できる範囲内でのみ、その力は発動する。……ならば」
ウアトゥは五条を見た。
「五条悟。君の『無量空処』は、対象に無限の情報を強制する。……全知を得た気になっている彼女の脳に、処理不可能な『無限』を流し込めば、支配のプロセスは崩壊する」
次に、デンジを見た。
「そしてデンジ。君の中にいる『チェンソーの悪魔』は、概念を食らい、消滅させる力を持つ。……彼女が作り出した『支配の理』そのものを、君が食い破るのだ」
「よくわかんねえけど、OKOK!」
「……というわけだ」
ストレンジは、ヴォルトの杖を握り直し、全員を見回した。
「まとまりのないチームだ」
ストレンジは自嘲した。
「ヒーロー、学生、悪魔、そして呪いの王。……アベンジャーズが見たら卒倒するだろうな」
「勘違いするなよ」
宿儺が冷ややかに釘を刺す。
「俺はあの女が気に入らんだけだ。あいつを殺した後、次は貴様らを殺すかもしれんぞ」
「はいはい、怖い怖い」
五条が宿儺の肩に手を置こうとして、避けられる。
「宿儺くん、恵の体で暴れるのは程々にしてよね。……あとで生徒に合わせる顔がないよ」
「五条悟……」
宿儺の目に殺気が宿る。
「貴様とは一度、決着をつけねばならんな。……だが、今は『餌』が先か」
「準備はいいか」
ウアトゥが空間に巨大な裂け目を作った。
それはポータルではない。物語のページをめくるような、次元干渉。
「私は観測者だ。戦いには参加できない。……だが、君たちを『特等席』に送り届けることはできる」
裂け目の向こうに、赤く染まった地球と、鎮座するノーウェアが見える。
「行こう」
ストレンジが先陣を切る。
「これが、最後のマルチバース・ウォーだ」
「っしゃあ! 行くぜポチタ!」
デンジがスターターを引いた。
ブォン!! ギャリギャリギャリギャリ!!
チェンソーマンに変身し、雄叫びを上げて飛び込む。
「遅れないでね、アメリカちゃん」
五条が目隠しをかけ直し、軽やかに飛ぶ。
「クソが」
宿儺も舌打ちしながら続く。
最強たちが、次元の彼方へと出撃した。
アース-666、ニューヨーク上空。
かつてのアベンジャーズ・タワーの頂上に、マキマは優雅に座っていた。
彼女の足元には、ひざまずくキャプテン・アメリカ、ブラックパンサー、キャプテン・マーベルなどのヒーローたち。
そして、上空にはノーウェアが浮かび、そこから垂れ下がる神経ケーブルが地球全体を覆う「支配の籠」を形成していた。
「静か」
マキマは、淹れたてのコーヒーを啜った。
「争いもなく、飢えもなく、恐怖もない。……これこそが、正しい世界」
だが、その平和は唐突に破られた。
ズガァァァン!!
空が割れた。
ノーウェアの支配領域を無理やりこじ開け、五つの流星が降ってくる。
「……懲りない人たち」
マキマはカップを置いた。
「アベンジャーズ、迎撃しなさい」
「Yes, Ma'am.」
サムが、虚ろな目で翼を広げ、空へ飛び立つ。
ソーがムジョルニアを回し、雷雲を呼ぶ。
キャプテン・マーベルが全身を発光させる。
「うわっ!?」
スパイダーマンが空中で悲鳴を上げる。
「ドクター! 僕、キャプテンと戦えないよ!」
「迷うなピーター! 彼らは洗脳されているだけだ! 気絶させれば戻る!」
ストレンジがヴォルトの杖で防御陣を展開する。
「宿儺! 五条! 雑魚は任せた! マキマの本陣へ道をこじ開けろ!」
「雑魚だと?」
宿儺が空中で停止し、迫りくる雷神ソーを見据えた。
「……ほう。この世界の神か。少しは楽しめそうだ」
「『解』」
「マイティ・サンダー!」
宿儺の斬撃と、ソーの雷撃が激突。
ニューヨークの上空で、神話級の衝撃波が炸裂した。
一方、五条はキャプテン・マーベルの光速タックルを「無下限」で受け流していた。
「速いねぇ。でも、当たらないよ」
五条は指を弾く。
「術式順転・『蒼』」
引力が発生し、アベンジャーズたちが一箇所に吸い寄せられる。
「デンジ! 今だ!」
「うおおおおお!! 邪魔だァァァ!!」
チェンソーマンが、アベンジャーズの防衛線を突破し、一直線にマキマの元へ突っ込む。
マキマは立ち上がり、静かに指鉄砲を構えた。
「『ぱん』」
見えない衝撃波が放たれる。
だが、デンジは止まらない。
彼は自分の体を切り裂きながら、その痛みと狂気で「支配」の命令を塗りつぶしていた。
「なっ……!?」
マキマの表情が強張る。
「愛を教えに来たぜぇぇぇ! マキマさぁぁぁん!!」
ギャリギャリギャリギャリ!!!!
チェンソーの刃が、マキマの障壁に食い込む。
最終決戦の幕が上がった。