ドクター・ストレンジ:マルチバース・イーター 作:ルルルだ。
ニューヨーク上空。
宇宙の彼方にある「ノーウェア」から放たれた紫色の極大ビームが、マンハッタンを消滅させんと降り注ぐ。
その圧倒的な質量の前に、空気すら悲鳴を上げていた。
だが、その絶望の光に向かって、二つの影が躊躇なく飛び込んだ。
「邪魔だ、失せろ!」
宿儺が、空を駆ける。
彼はビームの直下に入り込むと、両手を広げ、全身の呪力を一点に凝縮させた。
もはや『解』ではない。対象を切り刻むのではなく、空間ごと削り取る「王の調理法」。
「『竈』・開」
宿儺の手から放たれた炎の矢が、螺旋を描きながら巨大化し、紫色のビームと激突した。
ズドォォォォォン!!
熱核爆発のような閃光。
「ほう、少しは耐えるか」
宿儺がニヤリと笑う。ビームは相殺されず、炎を押し潰して降下してくる。
だが、その横からもう一人の「最強」が割り込んだ。
「重いねぇ、神様のゲロは」
五条悟が、宿儺の隣に並んだ。
彼は指を組み、ビームの軌道上にある空間座標をねじ曲げる。
「術式反転・『赫』……いや、面倒だ」
五条は指を弾いた。
「虚式・『茈』」
仮想の質量が射出される。
宿儺の炎と、五条の茈。
呪術界の二大巨頭の火力が重なり合い、コズミック・ビームを真っ向から押し返した。
バリバリバリバリッ!!
空が割れた。
ビームが霧散し、紫色の光の雨となってニューヨークに降り注ぐ。
直撃すれば都市が消える攻撃を、たった二人で防ぎ切ったのだ。
「……チッ。五条悟、貴様が混ぜたせいで威力が落ちたぞ」
「はあ? 僕が押し返したんだけど? 感謝してよね」
空中で火花を散らす二人。
だが、その隙に「本命」が道を切り開いていた。
「道は開いた! 行け、デンジ!」
ソーがムジョルニアを振り回す。
「我が雷をくれてやる! その刃で悪魔を断て!」
バリバリッ!!
ソーの召喚した雷撃が、デンジのチェーンソーに直撃した。
「ギャアアアア! 痺れるぅぅぅ! でも力が湧いてくるぅぅぅ!!」
デンジの刃が、雷を帯びて青白く発光する。
雷神の魔力と、チェンソーの悪魔の概念消滅能力のハイブリッド。
アース-666の科学と魔法、そして異界の呪いが結集した、一撃必殺の形態。
「リリ! スターク!彼を押し込め!」
サムが叫ぶ。
「了解! ロケット噴射だ!」
アイアンマンとアイアンハート、ウォーマシーンが背後からデンジを加速させる。
「うおおおおおおお!!!」
デンジは光の弾丸となり、アベンジャーズ・タワーのペントハウスへ突っ込んだ。
ペントハウス。
マキマは、迫りくる光の弾丸を冷静に見据えていた。
「無駄」
彼女の背後にある「セレスティアルズの光輪」が輝く。
「私は宇宙の理そのもの。……『止まれ』」
彼女が命じれば、物理法則は従うはずだった。
だが。
ギャリギャリギャリギャリ!!!!
デンジは止まらない。
マキマの展開した「概念防御」の壁――「自分より下等な存在の攻撃は届かない」というルールが、デンジのチェーンソーに触れた瞬間、豆腐のように削り取られていく。
「なっ……!?」
マキマの黄金の瞳が揺らいだ。
「なぜ……? あなたは私より弱いはず……!」
「関係ねえよ!!」
デンジが叫ぶ。
「俺はアンタよりバカで、アンタより弱ぇかもしれねぇけど! 今日の俺は……最高に腹が減ってんだよ!!」
ズバァァァン!!
マキマの障壁が粉砕された。
デンジがマキマの懐に飛び込む。
「マキマさぁぁぁん!! 俺と一つになろうぜぇぇぇ!!」
デンジは、マキマを斬るのではない。
彼女の背後に浮かぶ、セレスティアルズから奪った力の象徴――「光輪」に噛み付いた。
ガブッ!!
「やめ……!」
マキマが手を伸ばす。
だが、チェンソーの悪魔の能力が発動した。
「食べたものの存在を消滅させる」力。
デンジが食いちぎったのは、マキマが保持していた「宇宙支配の概念」そのものだ。
バキンッ……!
光輪が砕け散った。
ノーウェアからのエネルギー供給が断たれる。
マキマの体に満ちていた全知全能の力が、風船がしぼむように抜けていく。
「力が……私の支配が……」
マキマが膝をつく。
彼女はただの「支配の悪魔」に戻った。不死身ではあるが、神ではない。
「へへっ……ごちそうさま」
デンジは口元の光の粒子を拭い、変身を解いた。
ボロボロの生身の姿で、マキマの前に立つ。
「マキマさん。もうアンタは神様じゃねえ」
デンジは、膝をついたマキマに歩み寄った。
マキマは、空っぽになった自分の手を見つめていた。
「……そう。また負けるのか、チェンソーマンに...」
彼女の表情には、怒りも恐怖もなかった。ただ、深い徒労感と、どこか安堵したような色が混じっていた。
「私はただ……対等な関係が欲しかっただけなのに」
「俺じゃダメか?」
デンジが彼女の前にしゃがみ込む。
「……デンジ君じゃ、顔がタイプじゃない」
マキマはふっと笑った。それは、初めて彼女が見せた、演技ではない素の笑顔だったかもしれない。
「そっか。残念」
デンジは、マキマをそっと抱きしめた。
殺意ではない。支配でもない。
ただの、少年としての情愛。
「じゃあ、サヨナラだ」
デンジの胸から、ポチタのチェンソーが飛び出した。
ズシュッ。
刃がマキマの心臓を貫く。
契約の代償、不死性の無効化、そして概念的な「死」。
マキマの体が光の粒子となって崩れていく。
日本国民へのダメージ転嫁も発動しない。デンジの攻撃は「攻撃」として認識されなかったからだ。
「……またね、デンジ君」
マキマは光の中に消えた。
残されたのは、静寂と、デンジの腕の中に残った温もりだけだった。
マキマが消滅した瞬間。
空を覆っていた赤黒い霧が晴れ、ニューヨークに本来の青空が戻ってきた。
「終わった……のか?」
スパイダーマンが座り込む。
「ああ。コアが消えた」
ストレンジがヴォルトの杖を下ろした。
上空では、五条悟と宿儺が降りてくる。
「ちぇっ、結局美味しいところは全部デンジくんが持ってったね」
五条がサングラスをかけ直す。
「……フン」
宿儺は興味を失ったように、消滅したマキマの痕跡を一瞥した。
「まあいい。羂索の思惑も潰えた。……これ以上ここにいても退屈なだけだ」
その時。
世界が震えた。
ゴゴゴゴゴゴ……。
「インカージョンが逆再生されている!」
ストレンジが叫ぶ。
「世界が離れようとしているんだ! 異界の者たちは元の世界へ強制送還されるぞ!」
空間に巨大な亀裂が走り、吸い込み始める。
「お別れの時間だね」
五条が、ストレンジに向かって手を挙げた。
「楽しかったよ、ドクター。……君の世界のコーヒー、悪くなかった」
「二度と来るなよ、最強の術師」
ストレンジは苦笑して握手を返そうとしたが、五条の体は既に光になりかけていた。
「デンジ!」
スパイダーマンが叫ぶ。
「ありがとう! 君は最高のヒーローだ!」
「ヒーロー? 俺が?」
デンジは光に包まれながら、鼻の下をこすった。
「へへっ、悪くねえ響きだな! ……あ、そうだ! 誰か食パン余ってねえ!?」
「あっちで食べな!」
アメリカ・チャベスが笑いながら手を振る。
宿儺は答えず、ただ冷笑を残して消えていった。
シュンッ……!
光が収束し、異界の戦士たちは全員、元の世界へと帰還した。
アース-JJK、アース-CSM。
それぞれの物語へ。
残されたのは、アース-666のヒーローたちと、戦いの爪痕が残るニューヨークの街並みだけだった。
結晶の聖域。
ウアトゥは、平穏を取り戻したアース-666を見下ろしていた。
「こうして、多元宇宙を揺るがした『呪い』の侵略は幕を閉じた」
画面には、復興作業に勤しむアベンジャーズや、日常に戻ったスパイダーマンの姿。
そして、サンクタムの窓辺で、コーヒーを啜りながら静かに本を読むドクター・ストレンジの姿があった。
彼の手元には、黒く焦げた「指」の残骸と、小さな「チェンソーの刃」が、封印箱に収められている。
「彼らは知った。自分たちの知らない『理』が、この広い宇宙には無数に存在することを」
ウアトゥの視線が、画面の端に移る。
そこには、日本のどこか(アース-JJK)で、宿儺が計画を立てている姿、地獄(アース-CSM)で新たな支配の悪魔(ナユタ)が生まれ落ちる瞬間が映っていた。
「物語は続く。それぞれの世界で、それぞれの形で」
ウアトゥは目を閉じた。
「だが、彼らの運命が再び交わることは、もうないだろう。……そう願いたいものだ」
「私はウォッチャー。ただ観測する者……」
『ドクター・ストレンジ:マルチバース・イーター』
完結です!楽しんでいたたけたでしょうか?ありがとうございました!....
と言いたいところですが、続きを作ります。(主人公はストレンジから五条悟へ)
この事件から10日後の、アース-JJK(呪術廻戦)が舞台です(TVAが舞台って言った方がいいかな?)。五条悟とTVAの話。ほぼスピンオフ作品です
新規で作りますので、良かったらそちらも見ていただくと幸いです!!