葬送のフリーレン - 短編集 Memorial in Journey -   作:rvr75_raiden

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リクエスト小説
・フリーレンおばあちゃんが盛大に夫婦げんかの巻き添えを食らう話が読みたく。
・フリーレンがおばあちゃん呼ばわりされて、世界が滅びかけるお話はいかがでしょう(?)

というリクエストからなにかひねり出せるもの…

フリーレンが拗ねる要素が重要そうなので夫婦喧嘩要素は一旦無視する。
アフターオレオールからも外した旅の途中時空で一本という内容です。


エルフの魔法使いと不滅の花

■へそを曲げたお師匠様


 

「フリーレン様!! 出てきてください」

 

部屋のドアをノックしながら訴えるのは、現在の弟子であるフェルンの声。

彼女の師匠であるフリーレンがへそを曲げて宿に籠もってからまる1日。

 

ちょいちょい届けている食事は食べているので、問題ないのだろうけど。

そこにやって来たのは申し訳なさそうな様子のシュタルク。

 

「フリーレンやっぱり出てこないか……」

「はい……」

 

この村にやってきて3日目、そろそろ対応しなければならない。滞在費だって馬鹿にならないし何より依頼された内容もあまり放置はできないらしい。

その事はフリーレンが一番知っているはずだったのだが……完全にへそを曲げてしまった。

 

『そんなことを若くて元気なフェルンがやればいいじゃないか!』

 

……とは言ってないが、開かない部屋のドアはそう訴えている気がする。

 

「フリーレン結構気にしてたから、ああ言われると怒るよなぁ」

「そうですね……三日三晩泣きわめくことはなかったですけど、この状況とは」

 

以前、シュタルクがフリーレンのことを年寄り扱いした時、彼女は3回目のタブーに触れたらそうなるよと警告してきた。

本人曰く「頼れるお姉さん」の所業ではない気はするのだが。

 

「どうしようか?」

「最悪、私が代理でやります。対応中無防備ですのでシュタルク様はその間の事をお願いしますね」

 

とはいえ、今回フェルンとシュタルクが謝ったところで仕方ない。気が晴れるのを待つしかないのだ。

 

というのも、この村に来た2日ほど前に遡る。

 

■古い村と古の祠


 

「ようこそおいでくださいました。貴方様のような高名な魔法使いが来てくださるとは……」

 

村にたどり着いた時に出迎えてくれたのはおそらく村の長老と思しき人物。

彼はフリーレンを見て歓迎の意を示した。

 

「私じゃないんだけどね。依頼を受けたのは此方のフェルンだ」

「はい。魔法協会から依頼を受けてきました。フェルンと申します」

 

そう言ってフリーレンは視線をフェルンに向ける。彼女も軽く会釈をしてから自己紹介をした。

長老はおそらくフリーレンの姿を見て、エルフと判断しての反応だったのだろう。

それ自体はフェルンからしても理解は出来る話だ。

 

魔法協会から使いの鳥が飛ばされてきて、村の近くにある古代魔法の遺跡を調査・場合によっては破壊してほしいという依頼。

村からは個別に依頼が来るのでその報酬は自由に交渉していいということで、物資や路銀の調達も込みで受けることにした。

 

そんな事務的な話をしている裏で……

 

「にーちゃん戦士様なの?」

「ああ、そうだぞー」

「おっきい斧ー!すごい、かっこいいー!」

「おう、ありがとうな」

 

(光の速度で仲良くなってる……)

 

到着して早々に子供に囲まれ、腕にぶら下がる子供達を持ち上げているシュタルク。

こういうところは尊敬してしまう。幼い頃からハイターと二人暮らし、その後フリーレンと三人暮らしで幼少の頃は修行に費やしたフェルンはこういう子供達に囲まれた時にどうしていいかわからなくなる。

 

無邪気な子供達は可愛いと思うのだけれど……こう、どうするのが正解なのかわからない。

シュタルクも聞く限りは子供の頃は似たような境遇のはずだが……精神的に彼らに近いのだろうか?

 

「兄ちゃん、力仕事とかも得意だったりするか? ちょっと手伝って欲しいこともあるんだ。お礼は別途するぜ」

「おう、何でも言ってくれ」

 

とまあ、精神的に子供だという割り切りもちょっと、違う気はする。

 

「フェルン、フリーレン。困ってるみたいだし手伝ってきていい?」

「はい。協会の依頼の方は私達で確認しますので」

 

加速度的にシュタルクが村の人々に溶け込んでいくことは悪い話ではないのでそれは任せることにした。

 

「連れは少し席を外すので私達で要件を伺います」

「わかりました、では私の家に案内します」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

通された村長の家では奥様が紅茶を用意しており、フリーレンと共にそれをいただきながら話を聞くこと30分ほど。

 

「……その、祠の中の魔法陣が突発的に発動して魔物を寄せることがあると……」

「はい、ノルム商会に依頼して騎士団を派遣してもらうこともあるのですが……流石に何度もお願いできるものでもなく」

 

村の近くにあった廃ダンジョンの中に魔法陣がまだ生きており、時々暴走してしまうということだった。

 

「なるほど。よく聞く話だね。ダンジョンの中身は?」

「もう随分前に探索し尽くされたので宝箱などは空ですよ」

 

おそらく、ダンジョン探索したかったのであろうフリーレンが僅かに肩を落とした。

 

「報酬の金額は事前にお伝えしたとおりですが、よければダンジョンから出てきた魔導書も差し上げます。貴方がたが持っていたほうが良いでしょう」

 

そんな村長の言葉にフリーレンは目を輝かせる。

 

「乗った。どんな魔法?」

「はい……たしか……産まれたばかりのヒヨコのオスとメスが判別できる魔法……だったと思います」

「珍しい魔法だ。いいね」

 

ダンジョンから出てきたという魔法の内容にフェルンは一瞬崩れ落ちそうになる。

しかし、いつもの内容からすると普通な気もしなくもないギリギリのラインの魔法だ。

畜産をする村では重宝される魔法だろう。

 

そんな魔法を真剣に研究した人は誰なのだろうか。

 

「よし、じゃあ、フェルン頑張ろうか!」

 

なんにしてもフリーレンが俄然やる気になること自体はいいことだ。

 

「わかりました。では、まずは調査から始めましょう」

 

■無垢な子供とエルフの魔法使い


 

村長の話が済んだのでフリーレンとフェルンは外に出て、シュタルクの様子を見に行くことにした。

 

「こうやってな、叩き切るように振り下ろす時、全身の力で――」

「必殺技だー」

「ひっさつー」

 

木の棒を使って子供達に斧技を教えて(?)いた。

 

「兄ちゃん、子供達の面倒まで見てもらって悪いなー」

 

シュタルクを連れて行った人物の後ろには大きな酒樽が数個並んでいる。

おそらくこれを運んだのだろう。

 

「いいよ。俺も楽しいし」

「そっか。仕事もテキパキやってくれるし、子どもの面倒見もいいし、戦士様で強いならいい旦那さんになれるな、うちの村の誰か貰って住んでくれない?」

「あー、旅の途中だからそういうのはちょっと」

「まあまあ、そう言わずに終わった後とかどうよ」

 

そんなシュタルクはなぜか、村のおじさんに口説かれていた。

 

「フェルン、どうして物陰に隠れるの?」

「いえ、何でもありません」

「その割にちょっと機嫌悪くない?」

「……普通です」

 

こういう村では力仕事ができる男手は重要だろう。

腕に自信がつくとどうしても中央や大きな街に行ってしまう。

そういう有望株はさっさと村の女性と結婚させたがる大人は多い。

 

「あー、一緒にいた魔法使いの女の子と良い仲なのか……そりゃ悪かった」

「いや、そういうのじゃ……」

「分かるぜー。あんまり他人に口出しされたくないよな。よし、今日荷物運んでくれた兄ちゃんのために、歓迎の宴の最中にいい感じの場所で二人きりにしてやるから!

 なんなら個室もつけるぞ!」

 

自分のことが話に出てきて物陰に隠れるフェルンも息を呑む。

歓迎の宴……は初耳だが、いい感じの場所で二人きりにさせられるという話を聞き、一瞬固まる。

 

「いや、いらないから!

 フェルンと二人になってもいつも通り何もないから!!」

 

ところがどっこい……というべきか予想通りというべきか。

シュタルクの相変わらずの応答にフェルンも思わず脱力する。これに関しては……フェルン自身も悪いのだが。

 

「そう言わず、魔法使いの嬢ちゃんと一緒に村で過ごそうぜ」

「結局そうなるのかよ!フェルン怒るから駄目だって」

 

まあ、そうなるよね……とフェルンはため息を付いて立ち上がりシュタルクの方に向かった。

 

「お、フェルン……」

「……シュタルク様、お仕事です。行きますよ」

 

先程まで話していた村の人に会釈をしてからシュタルクの襟首を掴んでそのまま引きずる。

 

「あ、ちょっとまって、フェルン、斧……」

 

杖を出したフェルンは、斧を魔法で持ち上げてシュタルクのもとに引き寄せた

 

「あ、ありがとう」

「……」

「なんだ、もう既に尻に敷かれてるのか」

「ちがうって!!」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

シュタルクを回収したフェルンを後ろから見るフリーレン。

相変わらずフェルンの行動はなかなか難しい。これが年頃の娘を持つ親の気持ちだろうか?

と、しみじみ噛み締めながらも、フリーレンは二人の後を追おうとした瞬間だった。

 

子供達がフリーレンを囲む。

 

「どうしたの? 私達ちょっとお仕事に行ってくるから、また後でね」

「フリーレン様は、1000年以上生きてるってシュタルクから聞いたー」

 

子供達は目をキラキラさせながらフリーレンに質問してくる。

 

「え、うんそうだけど」

「すっげー!!」

「まあ、エルフだからね」

 

フリーレンの肯定の言葉に感激している子供達。

そんな彼らの口から出てきたのは

 

「うちのおばあちゃんより、おばあちゃんだね!」

 

という容赦ない、一言だった。

 

✧ ✧ ✧ ✧ 

 

周辺環境を調査した結果としては、古くから村があるだけあってそこまで緊急性のある危険なことはなさそうだった。

しかし、祠のなかにある魔法陣は、現状なにかの魔法が発動しており周囲から魔力を吸収している様子だ。

 

「いずれ、魔法が起動しますね」

「何が起きるんだ?」

 

フェルンの言葉にシュタルクが当然の疑問を返してきた。

 

「それは調査してみないとどうにも……」

 

という所まで来てふとフェルンは気付く。さっきからフリーレンが黙ったままだ。

 

「あの……フリーレン様?」

「……」

「フリーレン様?」

「あ、うん。大丈夫」

 

かなり上の空だ。彼女にしては珍しい呆けっぷり。

 

「一応、協会からの仕事なので私が対処するべき話ですが……魔導書を受け取る以上、フリーレン様にも協力して頂く必要があるのですが……」

「あー、うん……仕事するする」

「お願いしますよ」

 

そう言いながらフリーレンは魔法陣の周囲を調査し始めた。

「そんなに年寄りに見えるのかなぁ……」などとぼやいている。

 

フリーレンの様子が妙だったので、シュタルクがフェルンに耳打ちしてきた。

 

「フリーレンどうしたの?」

「いえ、わかりませんが……なんか様子が変ですね」

 

その後しばらく魔法陣を調査したフェルンとフリーレンはまずは内容を記録して戻ってから調査することにした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「あの魔法陣は、何らかの召喚儀式の用のものだね。正直言って潰してしまったほうが良いと思う」

「そうですね。魔物が出てくるのは厄介ですし」

 

フリーレンはバッグの中から魔導書を取り出して、魔法陣の内容を確認している。

 

「フェルン、これだ。あの魔法陣の内容までは細かくわからないけど……キャンセルするぐらいはできそうかも」

「では、確認しておきます。

 ちなみに、今夜は村長さん達が歓迎の宴を開いてくれるそうです。先ほどシュタルク様に誘われてこれから行くつもりですが、フリーレン様はどうしますか?」

 

フリーレンは少し考える仕草をしてから「うん、行くよ」と答えた。

 

■宴の席のちょっとした出来事


 

「フリーレン様いかがですか? 楽しんでおられますか?」

 

進められるままにお酒と料理を食べているフリーレンに話しかけてきたのは昼間に会った村長の奥様。

名前は……確かゲルダといったか。

 

「うん、美味しいよ」

「よかったです。私達の村の自慢の料理ですから。お連れ様はあまりお酒は飲まないのですね」

「二人共まだ飲み慣れてないし仕事もあるからね」

 

料理を食べた後、二人は子供達に連れられて村の中央で音楽に合わせて踊っていた。

ダンスと言うより、この近郊の音楽に合わせて見様見真似の民族舞踊という感じだが、二人とも楽しそうだ。

 

「まあ、こういうのも旅の醍醐味かな」

「そう言っていただけると歓迎のしがいがあります。商会の行商人以外はあまり人が来ない村ですので」

 

若者がやって来て、村の歓迎を楽しんでくれているのが嬉しかったのか、ゲルダはにこやかにシュタルクとフェルンの様子を見ている。

 

「祠の魔法陣の方はどうでしたか?」

「あのまま放置はしないほうが良さそうだね。相談してくれて良かった。こういう場所が台無しになると寂しい」

「そうですね。私もそう思います」

 

そんな話をしていると村長がゲルダを呼んでいるのが聞こえた。どうやら調理中の料理が焼けたらしい。

「あらあら、すいません。私はこれで失礼しますね」

「うん」

 

ゲルダはそのまま自宅のほうへ向かった。

気の良い大人たち、無垢な子供達。いい村なのだろう。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「フリーレン様、楽しんでいますか?」

 

そう言ってやって来たのはフェルンだ。先程までシュタルクや子供達と踊っていたので少し汗ばんでいる。

フェルンにしては珍しい姿だ。

 

「楽しんでるけど、フェルンこそどうしたの?シュタルクと好きなだけ楽しんでていいよ。

 なんか、二人きりのいい感じの場所に行くとかじゃなかったっけ」

「……それは、まあ……いいです。今は」

「そう?なんで?」

 

昼間微妙な受け答えだったけど結局は行きたかったんだ……とぼんやり思いつつ、

何の気無しに理由を聞くとムスっと頬をふくらませるフェルン。

 

「???」

 

彼女のその様子にフリーレンが首をひねっていると

 

「おーい。フェルーン。フリーレン」

 

遠くからぞろぞろと子供連れでやってきたのは件のシュタルク。

 

「なー、シュタルクー。俺も強くなりたいー」

「お兄ちゃん明日もいるんですか?私達と遊んでくれますか?」

「明日はお仕事おわったらなー。村からの依頼だから大事なことなんだぞー」

 

子供達に大人気だ。なるほど。フェルンと二人でというのは無理そうな雰囲気ではある。

昼間、『二人きりにしてやるぞー』と言っていた村人の方を見ると苦笑いしながらごめんねポーズを取っていた。

 

「まあ、子供達に罪はないよね……」

 

と言いつつ、昼間の事もありフリーレンもちょっとばかり今は子供達と距離を置きたい。何故ならば……

 

「あー、フリーレン様だー」

「お酒飲んでるの?」

「お酒は大人が飲む飲み物だよー」

 

子供達はシュタルクからフリーレンにターゲットを変えて彼女を囲み始めた。

好奇心の赴くまま。外から人が来る事が少ない村ではエルフの魔法使いなどは特に珍しいので仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

「いや、君達……あのね」

 

心の赴くままに疑問をぶつけてくる彼らにフリーレンは少し困惑しつつ応対をしようとするが……

 

「ばっか。フリーレン様はすごい大人だぞ。1000年以上生きてるんだ」

「そうなのー?それってどれぐらい?」

「えっと千だから……、うちのばあちゃんがこれぐらい!!」

 

そう言った少年は両手の指10本を広げて他の子達に見せる。

実態の年齢を考えるとそれでは全然1000年には足りない上に……言いたくはないが1000年前だとフランメに師事していた時期だ。

フリーレンの年齢と言われると1000年ではそれも足りない。何のフォローにもならないので言わないが。

 

「ちょっと……待って。エルフっていうのはね……」

 

これは良くない流れだとフリーレンが子供達になんとか弁明をしようとするが

 

「すごい! ばあちゃん10人分だー」

「おおお!」

 

謎議論で凄さを表現するのは子どもならではの感覚だが……

子供達にとっては大きいものや強いもの、たくさんあることとは、凄いことなのだろう。

そして致命的な一言。

 

「フリーレン様は凄いおばあちゃんってこと?」

「ぐふっ……」

 

幼い子供の感性は嘘も悪意もない。素直に感じ取った物をそのまま口にする。

 

「お……おばあちゃん……」

 

よろしくない気配を読み取ったのかシュタルクは慌てた様子で割って入る。

 

「ちょっ、お前達、フリーレンはおばあちゃんじゃないからな!

 お姉さんだからな!1000年以上生きてるってだけで。なあフェルン!」

 

フェルンは明後日の方向を向いたまま、フリーレンとシュタルクを見ていない。

何かを我慢するように若干肩が揺れている。

 

「……はい」

「なあ、フェルン……即答しないとちょっと意味が生まれちゃう!?」

 

そして、フェルンとは別に肩をプルプル震わせたフリーレン

 

「……フェルン、シュタルク……」

 

過去、何度かタブーを踏んでしまったシュタルクはなんとなく察してしまう。

これはあんまり良くないやつだなと……

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「フリーレン様!! フリーレン様!!」

 

翌日、フリーレンは宿の部屋に籠もって出てこなくなった。

宴の夜、フリーレンは別に怒りはしなかった。

 

『……いいよもう。好きに言えば良い』

『いや、フリーレンはフリーレンだし見たままと思ってるから』

『そうです、フリーレン様はフリーレン様です』

 

という二人の必死のフォローを無視して、フリーレンはそのままお酒を飲み続けた。

 

が……宿に帰ってから、フリーレンは一人で部屋に籠もってしまった。

ちなみに、フリーレンが宿の部屋のドアを締めてしまっているのでフェルンはその日からシュタルクの借りた部屋で寝ている。

 

『シュタルク様……そちらのお部屋で寝させてもらってもいいですか?

 ……ベッドも大きめですし』

『はぃ……!?』

 

ちなみに「これぐらい広ければ二人で寝れる」というフェルンの提案を断固拒否したシュタルクはソファーで就寝している。

 

あと二人共、若干寝不足気味だ。

なにかしていたわけでもないのだが……野営と違い、整った宿の部屋で二人というのは思ったより落ち着かないものだと痛感した。

 

「大丈夫かと思ったけど……やっぱり怒ってたか」

「怒っているという感じではないですけど……

 ……仕方ありません。今日は引き続き周辺調査と魔法陣の分析をやりましょう。

 幸いフリーレン様からいただいた魔導書はあるので、私が進めます」

 

フリーレンが落ち着くまではそうするしかなさそうだ。致し方ないとシュタルクも渋々と同意する。

 

「しょうがない。今日はできることやるか」

「はい」

 

最後にとフェルンはドアをノックしながらフリーレンに言伝を残す。

 

「フリーレン様。私達は現場に行ってきますのでそれまでに落ち着いてくださいね」

 

フリーレンからの返答はなかったが、そんな感じで宿を出る直前。

シュタルクは念の為にフェルンに確認してみる。

 

「ところでフェルン。戻ってもこの様子だったらもう一部屋借りない?」

 

そういうとフェルンは一拍置いてから、眉をハの字にして答えた。

 

「……お金がないから駄目」

「……駄目かぁ」

 

野営の時は火の番もあるし、屋外独特の物音に紛れるから気にならないんだろうけど

屋内でフェルンの寝息……聞こえるとめちゃくちゃ落ち着かないんだよなぁ。

……と空を仰ぎながらシュタルクはフリーレンが持ち直すようにと女神に祈った。

 

■代役の魔法使いと千年蘭


 

「フリーレン様、宜しいですか?」

 

ノックとともに声をかけてきたのは村長の妻ゲルダだった。

 

「鍵をかけてたんだけど……?」

「あら、申し訳ございません。私ここのオーナーですので」

 

機嫌が悪そう、というよりは、少し元気がないフリーレンに対して、ゲルダは優しい笑顔を向けてくれた。

 

「宿屋の夫婦は別にいたと思うけど?」

「ええ、私の娘夫婦です」

「……まったく、顧客のプライベートってものがあるでしょ」

 

村の中に親類縁者がひしめいている。それは小さな村ではよくある話ではある。

ベッドの上で座り込んでいたフリーレンはため息をついて立ち上がった。

 

「フェルンさんとシュタルクさんからくれぐれもよろしくお願いしますと言われたのです。

 お優しい二人ですね」

「……」

 

誰が保護者なんだか……という顔で見られているような気がする。

 

「フリーレン様、お休み中とはいえお外もいいお天気です。お散歩に出かけませんか?」

 

どうにも……ここでゴネるのは大人のすることでもないなとため息をついたフリーレンは大人しく従うことにした。

 

「……わかった。行くよ」

「ええ、ではお気に入りの場所にご案内しますね」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

ゲルダはフリーレンを連れて村の周囲をグルッと回りながら案内してくれる。

フリーレンから見ても、壮年でありながら上品な雰囲気の彼女は、なかなかに健脚な人だった。

 

夫の村長は少し腰が悪そうな雰囲気があったが彼女はそうではないらしい。

外を歩くだけでも自然と気分が晴れてくるものだ。彼女は村での生活をゆっくりと聞かせてくれる。

 

「この先にある川では魚が取れて、休日には大人と一緒に子供達が釣りをしに行くんですよ」

「そう……シュタルクが好きそうだ。シュタルクが行くならフェルンもついていくかな」

 

フリーレンのそんな様子にゲルダは微笑みながら前を歩いていく。

 

「この先に子供達が遊ぶ広場があって……あら、今日はあまりいませんね」

 

彼女が案内した先にはいくつかの家に囲まれた広場があった。

家が四方に配置されているのは、子供達が遊ぶ場所を保護するためだろう。

 

「穏やかでいい村だね」

子供達はなかなかに食わせ物だったけど……

 

「そうですね。先人達の築いてくれた平和で穏やかな村です」

 

なかなか若い人がいついてくれないのは悩ましいですけどねと少し困った笑顔で言うゲルダ。

 

「……若いと、いろんなものを見たくなるからね。

 でも、そうだね……こういう帰れる場所があるのは良いことだ」

「そうですね。そう思って帰ってきてくれる人もいます。そうして循環しているのでしょうね」

「……」

 

前を歩き続けるゲルダの足が止まった先には、植物園の様な花壇があった。

 

「私の趣味ですが、花壇を作ってみました」

「……すごいね。綺麗だ」

 

フリーレンの素直な感想に彼女は嬉しそうに微笑む。

 

「ありがとうございます。遠方から返ってくる子達が、時々種子を持って帰ってきてくれるので」

「なるほどね」

 

周りを囲った花壇にしているのもなんとなく納得できる。

遠方から来た種子の花はその地にとっては外来種となるため野や山に放つと環境を狂わせる。

 

「ちょうどいい季節に来てくださいました。花が割いている頃合いで」

 

フリーレンの魔法で出せる花畑とは異なる自然の花。

こういうものを作り出せる人間のマメさと勤勉さには魔法使いと異なる尊敬を覚える。

そんな中、ふと気になったものを見つけた。

 

「大きな……草……の葉っぱ?」

「あら……それが気になりますか」

「……いや、なんか花がないなって」

 

フリーレンの言いようが面白かったのかゲルダはくすくすと笑い始めた。

 

「それもきれいな花を咲かせてくれるのですよ。

 植物としては強いのですけどちょっと気難しい子で。サンスベリアという植物です」

「サンスベリア……時々、山道で見かけたことあるような……って気がする」

「そうですね、強い子なので少し乾燥がちな場所に自生しているかもしれません。

 別名は千年蘭とも言います」

 

と言われたあたりでフリーレンはピクっと反応した。

 

「千年……?」

「ふふ、気になっちゃいますか。もちろんこのサイズの植物ですから千年も生きませんよ。けれど強くて長生きな子です」

「そう……」

「強くて、優しく、そしてちょっと気難しい子」

 

聞き方によっては誰のことを言っているのだろうな……というふうにも取れなくもないが。

ゲルダの言い方には含みもないので素直に説明しているのだろう。

彼女はいくつか生えているサンスベリアの中で一本を指差す。

 

「あの子、特に大きい子なんですよ。

 私がここを作った頃に植えたもので、時々花も咲かせてくれます。いま蕾もついていて……」

 

指差した一本を覗き込むとたしかに蕾がついている。

 

「……ご滞在しているうちに咲けば良いんですけど」

「……咲くといいね」

「はい、咲くと良いですね。私も楽しみにしています」

 

そうして、その日のゲルダとフリーレンの静かな散歩は幕を閉じた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「お前ら……危ないからついてきたら駄目だって言ってるだろ」

 

ちょっと困った顔で子供達を叱りつけているのはシュタルク。

 

「だってぇ……」

 

今日の調査を終えたフェルンはその姿を後ろから眺めている。

子供に常に優しい彼が人差し指を立てながら子供達に説教のようなことをしている姿は珍しい。

 

「大丈夫だよ、シュタルク強いんだろ!俺達もこの辺慣れてるし!」

「そういう問題じゃなくて……とーちゃんとかーちゃんにも言われてないか?

 子供だけで森に入るなって……本当に危ないんだからな」

 

懸命に説明するがなかなか好奇心に駆られた子供達は折れてはくれない。

むーと膨らみながら抵抗してくる。

 

「シュタルク大人だから、いいじゃん」

「そうだそうだ、シュタルク兄ちゃんとフェルン姉ちゃんの大人が二人きりで森で何するつもりだったんだよ」

 

1つ返せば3~4倍になって返ってくる。

そして言葉の意味をわかっていっているのかいないのか……

 

「……シュタルク様――」

 

そんなシュタルクに助け舟を出そうとするフェルンだったが。

 

「何って大人がするのは仕事だっつーの。その時は邪魔しちゃ駄目!」

 

はい。そうですね。そのとおりです。二人でしてたのは徹頭徹尾、仕事です。

 

「後で時間出来たらまた遊んでやるから、なっ……帰ろうぜ。

 まったく……元気すぎて困るよなぁ……なぁ、フェル……ンさんはなんでちょっと膨れてるの?」

「……なんでもないです。シュタルク様の仰ることは正論です」

「???」

 

そんな感じで、広場で遊んでいるはずの子供達はシュタルクとフェルンが何をするのか興味津々で村の近くにある祠まで来てしまっていたようだ。

本番時には気をつけなくてはならない。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「フェルンさん、もう一部屋借りませんか?」

「……駄目です」

「やっぱり駄目かぁ」

 

祠の調査の後、シュタルクは村の広場で子供達の相手を、フェルンは村長から村に残る文献を調べた後、やっぱり合流して子供達の相手をしてから宿に戻ってきた後の事。

フリーレンは結局今日も帰ると部屋に籠ったままだった。

宿屋の奥さんに聞いた所、昼間は外に出て少し機嫌が上向いていそうだったということだが……

 

「こういう時、少し頑固なのと……フリーレン様は時間感覚が微妙ですからね。

 最近は私達に合わせてくれていますけれど。一度拗ねたからにはもう少し拗ねたい時間なのかもしれません」

「……なるほど」

 

思い起こすと昔、兄のシュトルツと小さな喧嘩をした時に仲直りを切り出すのにタイミングを見計らっていたなぁ……

此方としては、言い過ぎたかなと思う部分はあったものの一度啖呵を切った以上、すぐにごめんなさいともいえず無意味に逃げ回っている時間はあった。

それのエルフ版だろうか?

 

「いや、子供かよ!!」

「……まあ、村の子供におばあちゃんと言われているのがきっかけなので相殺して普通な感じでしょう」

 

若干フェルンのコメントが適当になってきている。

子供達の鬼ごっこにたどたどしくも付き合ってくれたがほとんど鬼がフェルンとなってしまったので最後ヘロヘロになっていた。

彼女なりに、村の子供達との付き合いに対して真剣に向き合った……のだろう。

 

「フェルン……ちょっと疲れてない? もう一部屋借りたら安眠できるよ」

「……大丈夫です。シュタルク様が寝かしつけてくれたら寝れます」

「だいぶ疲れてるなぁ……」

「膝枕が良いです……」

「……」

 

果たして無理を通すことで道理を引っ込めてしまっても良いのだろうか?

この要求を素直に飲むと今後どうなるのかよくわからない。

しかし、フェルンが頑張らないと魔法陣はどうにもならない。だってシュタルクにとって防衛以外は門外漢だもの。

 

「……今日はちゃんと寝ろよー。深夜に『シュタルク様起きてますか』とか言ってくるの止めてよ。びっくりするから」

 

とりあえず、要求に飲むかは微妙にはぐらかしておいて……

食事後にお風呂を借りた後はまた同じ部屋で眠らなければならないが、後日のことを考えるとちゃんと睡眠時間は確保しておきたい。

いや、野営じゃないのになんで疲れてるんだ……などと思いながらフェルンの手を引く。

 

「……私そんなこと言ってましたか?」

「覚えてないのかよ……」

 

そんな事を言いながら二人はシュタルク用に借りた部屋に戻っていった。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「……」

 

ドアを開けて二人の移動を確認したフリーレンは無言でまた部屋に戻った。

奇しくも、フェルンの言うことはあながち間違っていない……

 

子供におばあちゃんと言われたのは確かにショックだった。

だが、ついつい感情に任せてこうなってしまったものの……

 

(なんか出辛いな……)

 

平気でした……と言いながら舌出して出て行くようなタイミングでもないしキャラでもない。

 

――『強くて、優しく、そしてちょっと気難しい子』

 

村長の妻のゲルダの言葉を思い出す。

彼女はもう見たままに娘夫婦や孫もいるような年齢だが、フリーレンからすると随分と年下だ。

 

「おばあちゃんと言われて拗ねてる子供か……言い得て妙だね」

 

――『……ご滞在しているうちに咲けば良いんですけど』

 

あの時は花のことを言っていたようにも見えたが、なかなか捻ったこと言う。

1000年前、フランメを看取ったあの日から大人になった気でいたのだが……

 

ふうとため息をつきながらフリーレンは自分の部屋のベッドに横になった。

 

■介入者と古の魔法


 

「フリーレン、やっぱり出てこないか」

「……はい」

 

昨晩、フェルンの寝息を聞きつつ、寝づらい夜を過ごしたシュタルク。

フェルンは流石に疲れていたので寝ていた。というか寝るまで膝枕させられていた。

 

寝れないと言っても野営のときよりかは回復しているので大丈夫だろう……多分。

 

「思ったより、拗れちゃったか……」

「仕方ありません。私の方で対応します。昨日調べた限りでは多分大丈夫だと思います。シュタルク様は護衛の方をお願いします」

 

そうなるかと思いつつ……シュタルクは腕と背を伸ばしながら

「了解……」と答えるとフェルンは少し怪訝そうな顔をする。

 

「……シュタルク様、疲れてますか?」

「……いや、行こうぜ」

「本当に大丈夫ですか?」

 

よくよく見ると目の下にくまがある。

自分が寝ていることをいいことに見ていないところで夜更かししていたのだろうか?とフェルンは眉を寄せる……

 

「フェルン一人なら、守り切れるさ……多分ね」

 

……が、小言を言うのは止めておくことにした。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

三日目にもなると勝手知ったる村近くの祠。

あっという間に件の魔法陣の場所まで着いたのだが……

 

「……なんか光ってない?」

「……ええ、光ってますね」

 

言葉通り、魔法陣が活性化している。緑色の光を放つそれは魔力を帯びて中央に何らかの胎動を感じさせる。

 

「え、これ発動しちゃうの……?」

「……過去何度かこういう事態は起きていたそうです。そのたびに魔物が呼び込まれていたと……

 しかし……黙って見ているより無効化を急いだほうが良さそうですね」

 

そう言いながらフェルンは杖を取り出してその柄の先端を魔法陣に打ち付ける。

彼女はそのまま目をつむり自身の魔力を集中させながら杖の先に魔力を集めていく。

 

「……シュタルク様、少し離れていてください。あと、しばらくこれに付きっきりになるので防衛をお願いします」

 

―― がああああああ

 

外で聞こえたのは魔物の咆哮。

話に聞いていた通り、魔法陣の魔力につられて寄せられてやってくるようだ。

 

「……どうやら、見てるだけってわけにも行かないらしいな」

 

シュタルクは背中から戦斧を引き抜き、入口の方向からフェルンを庇うように立ちふさがる。

 

「嫌な予感ってのはよく当たる!!」

 

シュタルクは戦斧を振りかぶり、勢いよく踏み込んだ一撃により祠の入口に入り込んできた魔物1体の頭を潰した。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「……ッ!!」

 

部屋の外で聞こえた喧騒でフリーレンは目を覚ました。

 

「しまった……普通に寝過ごしちゃった……」

 

そう、フリーレンは爆睡していた。シュタルクとフェルンがノックした時も怒っていたのではなく寝ていて気づかなかっただけなのだ。

 

「……やってしまった」

 

それにしても、今日は魔力の流れが変だ。

祠の方から変な気配がする……

 

集中して検知してみるとどうやら魔法陣が活性化しているらしく……その近くには馴染みのある魔力。フェルンだ。

どうやら、解除を試みているようだ。おそらく、この分だと問題なく解除出来る。

 

「だからといって2度寝はできないな」

 

フリーレンは急いで服を着替え、髪を結い、準備を整えていると

慌てた様子で宿のドアが開く音がした。

 

「フリーレン様!おられますか?!」

「なに?開いているよ」

 

外から声をかけてきたのはやや焦り気味のゲルダの声。

落ち着いたいつもの雰囲気とは趣が異なる。

 

「フリーレン様、村の子供達がッ!!」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「うわあああッ!!」

 

魔物の先頭集団を片っ端から駆除した後、シュタルクの耳に届いたのは子どもの叫び声。

しかも一人じゃない。

 

「あいつら……来るなって言ったのに!!

 フェルン……!!」

「……シュタルク様、行ってください」

 

フェルンは頷いてからシュタルクに答える。

「防御魔法を駆使してなんとか時間を確保しながら作業を進めます。

 ただ、一度、作業を開始した魔法陣は中断すると暴発します。極力通りすがりの魔物は駆除していただけると助かります!!」

 

フェルンは魔法陣の対処を始めたときから基本動かずに対応している。

 

「……わかった!行ってくる!」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「ああああああ、ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

地面に腰をついて、泣きじゃくっているのは村の子供達。

魔法陣から漏れ出る魔力につられてやって来た魔物に怯えている。

唸り声をあげるそれは蹄のある巨大な獣、無論、草食獣の様な見た目でも魔物であるため、人を喰らう。

巨大な鹿の様なそれはニィと歯を出して笑いながら子供達を見下ろしている。

 

「お父さん!お母さん!助けて!!」

 

その足で子供達を踏み潰そうと前脚を上げ、叩き下ろそうとした瞬間――

 

「――だから来るなって言ったろ!!」

 

魔物の前足を戦斧の柄で受け止めて子供達を守るように赤い烈風が魔物の正面へとぶつかった

 

「シュタルク兄ちゃん!!」

 

戦斧の柄で前脚を弾くように跳ね返すと鼻息を荒らしながらその魔物は後ろ足で立ち上がる。

魔物は倒れ込みながら両足でシュタルクを踏み潰そうとしてきたが……

 

「遅せぇ!!」

 

シュタルクは倒れ込む前の魔物を頭上高くに振り上げた斧をまっすぐに叩き下ろし、正面から一刀両断した。

中央から割れるように真っ二つになった魔物は地面に崩れ落ちて灰となって消えていく。

 

「……大丈夫か?お前ら」

「僕は大丈夫だけど、転んで足くじいたやつが」

「うっ……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

シュタルクはころんだ子の頭を撫でて「大丈夫だ」と声を掛ける。

 

―― ごおおおおおおおおお!!

 

森の奥から響くような咆哮が響き渡る。

 

「一匹だけじゃねえな……」

 

子供達を連れて村に……それはフェルンが危険だ。

じゃあ、ここで防衛戦……四方を囲まれたら子供達を守り切れない

 

倒すのが目的ではなく、何かを護衛するというのは思ったよりも難しい。

魔物たちも馬鹿ではない。シュタルクと子供が並んだ時、隙あらば子供を狙わない訳がないのだ……

 

一旦魔法陣の近くまで退くか

足をくじいた少女を背負いながらシュタルクは祠の中へと子供たちを連れて帰る。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「シュタルク様!!」

「フェルン悪い、子供達を連れてきた!! 魔法陣の魔力につられて結構来てる。

 入口で全部食い止めるからフェルンはとにかく解除を急いでくれ!!」

 

2箇所の懸念をするぐらいなら一緒くたに護衛したいということだろう。

いい加減付き合いも長くなってきたフェルンは特に理由も聞かずにシュタルクの意図を理解する。

 

「……わかりました。シュタルク様、気をつけてください」

「――ああ、行ってくる」

 

子供達は不安そうにシュタルクを見つめる。

行かないで欲しいという視線を向けられたが、シュタルクはその少年の頭を撫でた。

 

「俺がこの場を離れてる間、お前たちが守ってくれよ。足をくじいてる子は動けないんだ」

「うん……」

 

不承不承にもその少年がうなづいたのを見たシュタルクは「よしいい子だ」と頭をぽんと叩いた。

 

「俺がなんとかするし、そこにいるフェルンは俺よりもっと強いから安心しろ」

 

少年が「うん……」と答える裏でフェルンは「聞こえてますよ……」と嘆息する。

フェルンの言葉に若干の反応を示すも、ここで拘泥しても仕方ないのでシュタルクは戦斧を掲げて祠の入口へと駆け出した。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「子供達は……?」

「いつもの広場にも、村の中でいそうな場所にはどこにも!!」

 

フリーレンも協力してもらいつつ村の子供達を探すが何処にもいない。

今日は森の様子もおかしく魔物が出るかもしれないという話をしていたのに、子供達が見当たらない。村長やゲルダは頭を抱える。

 

そんな彼女を見たフリーレンは顎に手を当てて考え込みながら答えた。

「……シュタルクとフェルン達を追って祠に行った可能性が高そうだね」

「……それ以外の答えはなさそうですね」

 

ゲルダは申し訳無さそうにフリーレンに頭を下げる。

「大変不躾なお願いとなってしまって申し訳ありません。フリーレン様……祠の方へあの子達の捜索をお願いできますか?

 今の状況では我々が行ってもイタズラに被害者が増えるだけです」

 

フリーレンは溜息をついてから答えた。

「……わかった。行ってくる」

 

何でも許せるわけではないが……いい大人のフリーレンが犠牲が出るような事態を見過ごせるわけがない

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

シュタルクが祠の入口に立ちふさがる魔物と戦い始めてから10分ほどが経過した。

震える子供達を背にしながらもフェルンは懸命に魔法陣の解除を続ける。

 

あと少し……

 

これが終われば少なくとも新たな魔物は湧いて出なくなる。はやる気を抑えながらも慎重に作業を進めるフェルンだったが。

 

「うわぁ!!」

 

子供達の悲鳴が聞こえた。

 

「――ッ!?」

 

――ぐぉぉぉぉぉ!!

 

祠の入口とは逆方向、何もなくなったはずの最奥側の通路から数体のアンデッドの様な魔物が現れた。

 

「これは!?」

 

シュタルクは今ここにいない。倒すのは難しい魔物ではない。ゾルトラーク1撃で終わってしまう魔物……

 

だが、今ここで作業を中断すれば……しかし、このままでは村の子供達が――!!

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

「何だ!?」

 

戦っていた魔物たちの様子がおかしい。そう気付いたシュタルクは斧を構えつつも様子を図る。

不自然にガタガタ震えだした魔物たちは何かに操られたマリオネットのような動きをし始めた。

 

「ッ!!」

 

目の光を失ったように次々と脱力していく魔物たちは不自然な形で引っ張られるように祠の奥へと吸い込まれていく。

通すのを防ぐとかそういうレベルじゃない。完全に奥にある何かに吸い込まれてしまっている。

 

「魔法陣側で……なにかあったのか。フェルン!!」

 

シュタルクも慌てて祠の奥へと駆け出した。

 

■千年を生きる魔法使い


 

「フェルン!!」

 

魔法陣があった祠の奥に駆け込むと、そこでは魔法陣が赤く輝きなだれ込んだ魔物たちが魔法陣の上で渦を巻いていた。

 

「なん……だ……これ……」

 

――肉……体……を……欲っす……

 

魔法陣の奥底から響くような声が聞こえた。

だが、そんな事を構っていられない。

 

「フェルン!!どこだ!大丈夫か!?」

「シュタルク兄ちゃん!!」

 

村の少年が声をかけてきて場所に気付いた。何かの物陰に隠れた場所にいる。

暴走している様子の魔法陣の周りを回っている魔物の肉体の破片を避けてその場所に向かった。

 

「大丈夫か!?」

 

そこには、心配そうな顔をした子供達と……腕から血を出しているフェルンがいた。

「……シュタルク様、すみません。失敗してしまいました……」

「フェルン!!」

「お姉ちゃんは……僕らを助けようとして……」

 

どうやら、解除途中に洞窟の奥から襲いかかってきた魔物にフェルンが対応したらしい。

結果的に解除作業を中断することになり、魔法陣の暴発に巻き込まれて怪我をした……様子だった。

 

「ごめん、フェルン。俺が判断をミスったばっかりに」

フェルンを抱きかかえたシュタルクはポケットから布を取り出して、持ってきていた水筒の水ですすいでから傷口を軽く拭いた。

 

「シュタルク様のせいでは……うっ……」

「悪い……少し我慢してくれ」

 

こういう時にザインがいないのは辛い。

とは言え、無いものねだりしても仕方ないものは仕方ない。

フェルンの傷口に布を当てた状態でシュタルクの手に巻いた包帯を彼女の腕に巻き直して固定する。

 

「……応急処置だ。全部片付いたら教会で治療しよう」

「……はい、わかりました」

 

そういうと、フェルンはシュタルクの背に腕を回してしがみついてくる。

 

「え?何……?」

「いえ……割と怖かったもので……」

「何が……?」

「色々です」

 

フェルンは密着した状態から動かない。

 

「シュタルク兄ちゃん、何しているの?」

 

フェルンにしがみつかれた状態のシュタルクはどうしたものだかとワタワタしていると村の少年に突っ込まれた。

落ち着いて咳払いをする。

 

「いや、大丈夫だ…… フェルンも怪我しているし……あれももう止まらないだろうし……」

 

物陰から顔を出すと続々と外の魔物がなだれ込んでその渦の中に引きずり込まれている。

生きていた魔物たちも目の光を失ってその渦の一部となって肉塊となって混ざっていく。

想像の倍くらいはヤバそうだ。

 

「……一旦退いてフリーレンと合流しよう。フェルン、行けるか?」

 

顔をシュタルクの服に密着した状態で呼吸……というか吸引音を上げていたフェルンが顔を上げた。

 

「はい、逃げましょう」

 

思ったよりケロッとしていたフェルンに少し嘆息しつつ、手元にあった拳大の石を適当に投げつけると渦からはみ出た肉塊ではね返された。

 

「やっぱ危ないか……、みんな気をつけて俺の後ろについてきてくれ」

「うん、わかった……」

 

シュタルクはフェルンを抱えたまま移動を始めた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

あれはいつのことだっただろうか?

ヒンメルと一緒に旅をしていた頃の初め、まだ勇者としては駆け出しも良いところで……

無名の4人組だった頃の話だ。

 

「おじちゃん、ありがとう!!」

「ああ、気をつけるんだよ」

 

ヒンメルは自分をおじさん呼びした子供に手を振りながら、救助を依頼した親へと返す。

 

「こらっ!おじちゃんじゃない。お前を助けてくれた勇者様だ」

「そうなの? 助けてくれてありがとう勇者のおじちゃん!」

「ははは……」

 

依頼主から僅かな報酬を受け取ったヒンメル。

子供の父親は何度も頭を下げていたが子供は終始その呼び方をしており、そして、ヒンメルはそれを気にしなかった。

「……おじちゃんかぁ」

いや、嘘。ちょっと気にしていた。

 

「気になるなら怒ればいいじゃない」

「怒るわけないだろ。子供は無垢で正直だからね。あの子にとっては自分より年上はお父さんかおじちゃんなんだよ」

「お兄ちゃんじゃないの?」

 

フリーレンがヒンメルに聞くと彼は苦笑しながらその疑問に答えた。

 

「小さい頃ってそういうの分からないときもあるんだよ、

 君はだいぶ長い間大人だからもう忘れたかもしれないけど、人はそういう時もあるんだ」

「……その割にちょっと気にしてたじゃん」

「そりゃ、まだ僕20になったばっかりだし、おじちゃんと言われる歳じゃないし、イケメンだし」

「……」

 

イケメンは知らないがフリーレンからすると20歳そこそこは若造も良いところだ。

人としては成人しているのだけど……少なくとも中年扱いされると本来なら怒っても仕方ないと思うのだが……なんせ彼はナルシストでもある。

 

だが、ヒンメルは怒る必要すらないという。

 

「子供の悪意のない言葉選びは無垢さの証明だよ。

 その無軌道さを注意するのは彼の親のするべきことだ。僕はあの子の親じゃない。

 そして、自分の体裁を気にして子供に不満を覚えるのは大人のすることじゃない」

 

振り向くと、助けた少年は嬉しそうにまだ大きく手を降っていた。

ヒンメルは笑顔で手を振り返す。

 

「……ヒンメルは大人だったんだ」

「大人でしょ?」

「若造だよ」

「……君ならそう言ってくれると思った」

 

そう言ってヒンメルは笑っていた ――

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

空中で目を開いたフリーレンは、苦笑した。

 

「子供におばあちゃんと言われた程度で……私もまだ若造だったかな」

 

いつも迷うと、決まってヒンメルの思い出は一つの答えをくれる。

それはきっと、彼があのときのフリーレンよりよほど精神的に大人だったのだろう。

 

「いい大人として、子供を助けなきゃね」

 

祠の方向からは濁った魔力を感じる。

かろうじてフェルンの魔力も感じるので彼らはあそこにいる。

 

もしかすると子供達も一緒なのかもしれない。

 

「……行くか」

 

なにかあったのだろう。大人として、指導者として、師匠として、助けに行かないと。

 

■無垢と寛容


 

「はあ、はあ、はあ……」

 

年長の少年は足をくじいた少女を背負いながら、他の少年と共にひた走る。

 

――俺とフェルンで食い止めるから村の方向に逃げろ。魔物はほとんどいないはずだ。

―― きっと村の方向へ進めば必ずフリーレン様と鉢合わせます。起きたことを伝えてください。

 

少年達はその場から逃げ出してしまったのでその顛末はわからない。

それでも、後ろから聞こえてくる衝撃音から凄まじい戦いが行われているのは分かる。

 

「……村に帰らなきゃ」

「きっとフリーレン様が助けてくれるよ」

 

興味本位だった。普段は平和な村で起こることのないスリリングな体験。

美しい魔法使い、立派な武器を携えた戦士。そんなおとぎ話の様な冒険者がどんな活躍をするのか見たかった。

でも、結果は見ての通りだ。村から依頼した魔法陣対処は自分たちのせいで事故が起こって失敗した。

 

「……ごめんなさい……僕が行こうって言ったから」

「走ろう、早く村に帰ろう、フリーレン様に知らせるんだ!!」

 

薄っすらと聞いていた、なにか自分たちが失礼なことを言ってしまって機嫌を崩してしまったと。

 

「……謝ろう。一生懸命謝れば聞いてくれるよ」

「……うん!!」

 

とにかく、話さないと。急がないとシュタルクとフェルンが危ない。

 

―― ぐるるるるるる

 

そんな少年達の前に……

 

「そんな、もういないって――」

 

現れたのは狼のような小型の魔物。かろうじて先の魔法陣の暴走に巻き込まれずにいたらしい。

一匹だけの比較的小型の魔物……しかし、戦闘技術を持たない村人が勝てるはずもない。

 

「誰か……助けて……フリーレン様に知らせないと!」

 

―― があああっ!!

 

牙を向けて襲いかかって来る魔物に少年たちは、その恐怖に身を寄せて震え……そして目をつむるしかない。

 

もう駄目だ、そう思った瞬間

 

「―― 魔族を殺す魔法(ゾルトラーク) ――」

 

声と共に「カッ !!」と光が周囲を包む。魔法の柱が発する光だ。

そんな、上空から降り注ぐ閃光に狼型の魔物は撃ち抜かれ、声もなく絶命した。

 

「……え?」

「村長やお父さん、お母さんから言われなかった。祠にむやみに近づいちゃ駄目って――」

 

銀色の美しい髪をなびかせて上空から降り立ったのは、彼らが探していたエルフの魔法使いのフリーレン。

 

「……フリーレン様!!」

「……大丈夫?怪我はない?」

「うん、でも……この子が、足をくじいて……や、そんなことより!お兄ちゃんとお姉ちゃんが!!」

 

そう言って祠の方向を指すと同時に巨大な爆発音が響き渡る。

そこから飛び出した2つの人影、そしてそれを追う様にでてきたのは巨大でいびつな巨人。

 

「……封じられてたのはあれか……」

「フリーレン様、ごめんなさい!!僕達が失礼なことを言ってごめんなさい!

 ……だから、シュタルク兄ちゃんとフェルンお姉ちゃんを……助けてください!!」

 

年長の少年がフリーレンに向かって頭を下げた。

それを見た周りの子も次々に「ごめんなさい、フリーレン様」と言って頭を下げる。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

謝り倒されるフリーレンは少し困ったように微笑んでいた。

くだらないことにひねくれていた自分が悪いなと思っていたんだが……

子供というのはつくづく不思議な存在だ。

 

「……気にしてないよ。怒ってない。

 シュタルクとフェルンは私の仲間だ。だから任せて」

 

そう言って子供達の頭を撫でる。

10年経っているかいないかぐらいのこの子たちから見れば100倍生きた自分がどう映るかなんて……気にするよりかは態度で見せてあげるものだ。

 

―― 子供の悪意のない言葉選びは無垢さの証明だよ。

 

そうだねヒンメル。

どんな呼ばれ方でも、子供達の言葉にはその見た光景で感じた想いと意思が乗る。

そうであるなら、その無垢な願いに答える背中を見せるべきだ。

 

「頭を上げて。さあ、その子を急いで教会に連れて行ってあげて。

 村のみんなが待ってる」

「はいっ!!」

 

顔を上げた少年は先程までの暗い顔に少し希望と言う名の笑顔が戻った気がする。

 

「だいぶ怒ってるからね」

「うっ……ごめんなさい……」

「それは、君のお父さんとお母さんにいうべきだ。ちゃんと言う事聞くんだよ。

 君達のことを想って怒っているんだから」

「……うん、わかった」

 

フリーレンは「それじゃあ、行ってくるね」と言って魔法で浮遊して飛び立った。

 

「……フリーレン様は本当に凄い魔法使いだったんだ……」

 

その場に残った少年の一人はそう呟いた。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

魔物をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて肉体としている巨大な化け物。

魔法で構成されるということはおそらくゴーレムの類と思われるが……目的は不明だ。

 

とにかく、フェルンとシュタルクに襲いかかってくる。

 

「存在していたであろう宝物庫の番人……ということでしょうか」

「空じゃなかったのか?」

 

シュタルクに抱きかかえられたままのフェルンは魔物の姿を確認しながらそう呟くとシュタルクが素朴な疑問を返してきた。

シュタルクはフェルンを抱えたまま息を切らさずに走り跳び回っている。

 

「魔法陣に宝物庫を守れと命じられていた場合、

 あくまで宝物庫を守るのであって宝物を守るわけではありません」

「……案外融通効かねえな」

 

大振りな攻撃はシュタルクが移動で躱し、時々跳んでくる肉片を飛ばしてくる攻撃にはフェルンが防壁を展開してしのいでいるが……逃げ回っていては終わらない。

 

「私達を追いつつも、なんとなく村を狙っている気配もありますね」

「人間を狙ってるのか……近くに来ていた子供達を狙っているのか……」

「……どちらにせよ、駆除せざるを得ません」

 

少し距離が出来た辺りでシュタルクはフェルンを下ろすことにした。

なんとなく、密着状態から引き剥がす抵抗をフェルンから感じなくもない。

と言っても、抱きかかえた状態だと何も出来ないのでシュタルクは無言でフェルンの腕を首から剥がした。

 

「……フェルン、大丈夫か?」

「……はい、少し痛いですが」

 

生体ゴーレムが唸り声を上げながら此方に向かってくるのが見える。

 

「お互い、終わるまで我慢だなっ!!」

 

正直な所、お互い生傷には慣れっこではある。体制を整えて襲撃に備えた。

 

■再起の魔法使い


 

「おわぁ!!」

 

巨大さというのは個の強さにおけるアドバンテージだ。

攻撃の威力はどうしても重量というものが大きな要素となる。

シュタルクとアイゼンはこれを常に腕力と技術で跳ね返すからこその戦士の極致ではあるのだが……

 

「シュタルク様!そのままで!!」

「重いから!早くして!!」

 

フェルンの魔族を殺す魔法(ゾルトラーク) がシュタルクの背後から生体ゴーレムに向かって放たれる。

 

―― ごおおおおっ!!

 

その一撃は対象の腕から肩口までを打ち抜き身体を崩壊させる。

 

「……どうやら、部位の破壊に意味がないようですね」

 

ゴーレムは飛び散った肉体を周囲から改修しながら再生を始める。

足りない部位には木片や岩が混ざっている。

 

「再生した」

「やはりゴーレムですね、魔法で構成されたコアを破壊しないと意味がありません。

 構成する部品がある限り身体を再生し続けます」

「コアの場所は……、まあ心臓だよな」

 

ゴーレムの胸は不自然なほどに魔物の硬質な部位をかき集められて構成されている。

妙な感じだなと想ったら見た通り弱点なようだ。

 

――カッッ!! ――

 

一度撃ち抜いてみたら?と提案する前にフェルンがその該当の部位に魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)を打ち込んでいた。

 

「……」

 

相変わらず問答無用な彼女の行動に若干の呆れを感じつつも、その様子を見る限り……

 

「流石に簡単には撃ち抜けないようですね」

 

おそらく、シュタルクが一度胸部を物理的に破壊するしかあるまい。

とは言え、この魔物は体の各所から部品にしている魔物の肉や骨を飛ばしてくるのでうまく近づけないのだ……

 

「1手足りねぇな……」

 

手を出しあぐねているとゴーレムの頭部にある口が赤く光り始める。

 

「シュタルク様!!」

 

フェルンの声と同時にゴーレムの口からは魔法のような何かが射出された。

シュタルクの直ぐ側まで跳んできたフェルンが防御障壁を貼る。

 

「くっ!!」

「悪い、フェルン!!」

 

遠距離向けにも強力な攻撃方法を元から持っているのか……フェルンのゾルトラークを学んだのか……

攻防隙のない構成となっている。生物としての合理性を捨てた破壊兵器としての合理性を詰めたような作り。

 

生体ゴーレムの口からは第2波の魔法が蓄積されている。防御障壁で防げるが消費の大きい魔法だ。

このままでは……ジリ貧になってしまう。

 

コアを包む外殻を無理やり破壊しなければ状況は進捗しない。いっそダメージを覚悟で飛び出そうかとシュタルクが思ったその時。

 

「ッ!!」

 

爆発音と共にゴーレムの上半身は巨大な爆発とともにのけぞった。

 

「待たせたね、二人共」

「フリーレン様!!」

「遅刻だぞ!!」

「ごめんね、頑張るから許してよ」

 

先程までの、絶望的な気持ちが不思議と吹き飛ぶ。

 

「……なんとなく状況は把握している。シュタルクの援護は私がやるから、全力でコアの外殻を破壊して」

 

そうだ。戦っていてなにかが足りない感じがしていたが、これだった

 

「わかった!」

 

いつもこうしてきた。

 

「フェルン、コアが露出したら最大出力で撃ち抜いて」

 

やはり、フリーレンはこうでなくては。

 

「わかりました」

 

3人で構えてゴーレムへと対峙する。

 

「行くよ二人とも!!」

 

フリーレンの掛け声と共にシュタルクはこれまで以上の速度で駆け出し

フェルンは防御障壁を展開しつつゴーレムを一撃で仕留めるだけの魔力を蓄積し始めた。

 

■不滅の花


 

「本当に、ありがとうございました」

 

村に戻ると村長とその妻のゲルダは、深々とフリーレンたちに頭を下げてきた

3人の連携により撃破された生体ゴーレムは、祠の上に倒れ込み、そのまま消滅してしまった。

 

「祠、丸ごとなくなっちまったけど良かったのか?」

「はい……ダンジョンとしては機能していなかったものですから。観光資産としてもそんなに意味はありませんし」

 

依頼としては祠の中にある魔法陣の無効化だったので祠の破壊まではやる必要がなかったのだが……

瓦礫を掘り起こして出てきた魔法陣の方はゴーレムと連動していたのか魔力が綺麗サッパリとなくなってしまっていた。

念の為、いくつかの箇所を削り取って陣として完全に破壊したが。

 

「あー、疲れた……」

「最初から一緒にいてくれれば手が足りないトラブルが起きることもなかったのに」

「ごめんて……」

 

ぐったりとするシュタルクとフェルンにゲルダは苦笑いする。

 

「今日はごゆっくりお休みください。そう言えば、部屋が足りなかったと聞きましたが個室が良いですか」

 

そう言われてシュタルクは肯定の意を示そうとしたが

「いえ、路銀も確保しなければなりませんのでそのままで構いません。

 私も休みます。シュタルク様、行きますよ」

 

と、割って入ったフェルンに却下されてしまった。

 

「え、何で……フリーレン部屋から出てきたよね?」

「……わがまま言わないでください。行きますよ」

「……おれ、なにか我儘言ったかな?」

 

あらあらという様子でその二人を見送ったゲルダはフリーレンに向き直ってから「賑やかで楽しそうですね」と伝えるとフリーレンは肩をすくめた。

 

「ああ、そうそう……」といったゲルダは家の物陰から此方を見ていた存在に声をかけた。

「おいで、全部解決してフリーレン様が戻ってこられましたよ」

 

そう言われておずおず出てきたのは子供達の中で年長だった少年。

 

「……あの、フリーレン様」

「うん、どうしたの?」

「……本当にごめんなさいでした」

 

そう言って少年は頭を下げた。

 

「フリーレン様の嫌がることを言ったこと、勝手に祠について行ったこと。僕らが悪かったです」

 

おそらく両親からこっぴどく怒られたのであろう。

なんかほっぺたが赤く腫れている辺りが生々しい。

 

「その件は怒ってないって言ったでしょ」

 

そう言ってまだ少し自分より身長の低い少年に少し腰を落として視線をあわせるフリーレン。

 

「謝るのは、心配をかけさせた村の人達やお父さんお母さんだけでいいよ」

 

まだ少し納得のいってなさそうな少年の顔を見てフリーレンは続ける。

 

「君達を助けた私達にかける言葉は……」

「うん……」

「……ありがとう、でしょ?」

 

フリーレンはそう言って少年の頭を優しく撫でた。

 

「……うん、ありがとうフリーレン様」

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

謝りにきた少年を見送った後、手を振るフリーレンにゲルダが声をかけてきた。

 

「こんな時にと言ってはなんですがフリーレン様」

「うん、なに?」

 

ゲルダの方を向くと彼女は村の花壇の方を指差した。

 

「先日、お見せしたサンスベリアの蕾ですが」

「うん」

 

「今朝方、見た所綺麗に咲いておりました」

「そう……少し興味があるな」

「はい……フリーレン様がいらっしゃる時に間に合って良かった」

 

―― 本当に絶妙なタイミングで咲くものだ。

 

「力強い芯に対して、時折にしか咲いてくれない花」

 

―― 彼女の甲斐甲斐しい世話の結果とも言えるそれは

 

「あなたに見ていただきたいのです」

 

―― とても無垢で美しい色の華なのだろう。

 

✧ ✧ ✧ ✧

 

数日後、準備を整えたフリーレンとシュタルク、フェルンは村の門で村の人達と挨拶を交わした後に出発をした。

 

フェルンは、上機嫌に何かを見ているフリーレンに声をかけた。

 

「フリーレン様、何を嬉しそうに見ているんですか? 花のブローチ?」

「そう言えば、子供達からなにか受け取っていたよな?」

 

フリーレンの手にしていたのは、子供達が今回の事のお礼に

と言って、お小遣いを出し合って村のアクセサリ屋からかってくれた小さなブローチ。

 

「見たことがない花のデザインです」

「サンスベリアの花だよ。千年蘭っていう名前らしい」

 

ブローチを見たシュタルクは「フリーレンにぴったりじゃん」と笑う。

「シュタルク……クソババアって言ったこと――」

「そんな意味で言ってないって!」

「冗談だよ」

 

年齢に関しての話に敏感なフリーレンが随分と寛大な事にフェルンは少し不思議がりつつ彼女に問いかける。

 

「……その千年蘭、子供達は知ってて買ってくれたんですか?」

 

そういうとフリーレンはくすっと笑って答える。

 

「フェルン、そんな訳無いでしょ。小さな子供達だよ」

「はい」

「子供達は、ただ、それが綺麗だから買ってくれたんだよ」

 

フリーレンはそう言ってブローチを優しく撫でる。

 

「その無垢に、嘘なんてないんだ」

 

そう答える師匠の姿は、大人としての寛容さと花のような美しさを持っているなとフェルンは思いつつ

 

「そうですね」

 

彼女に同意して笑った。

 

~ エルフの魔法使いと不滅の花 fin ~

 

 




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