葬送のフリーレン - 短編集 Memorial in Journey - 作:rvr75_raiden
■未解析の洞窟
山崩れの後から現れたという洞窟、その奥にある規則正しい金属製の形状の遺跡の更に奥。そこには巨大なドーム型の遺物が鎮座している。
フリーレン一行は近隣の街からの依頼でその遺跡の調査をしていた。
なんでも、金属製のゴーレム?のようなものが守っており、通常の調査隊では全く調査が進まなかったとのことである。
フリーレン達はその金属製のゴーレムらしき物を駆除しながら進み、その最奥にある遺物と対面していた。
それは遺跡の最奥にある広い部屋で地面に半分が埋まった様な真球の形をしている。
フリーレンが知る限り、いつの時代の建築技術でもおよそ制作不可能な程の巨大な球体である。
「どうやって作ったんだろう? かなり時間が経過しているけど特殊な金属でできているみたいだ」
フリーレンは遺物に片手を当てながら周辺を回る。
少し大きな一軒家がまるごと中に入りそうなぐらいの大きさがある。
「ここにくるまで襲いかかってきたゴーレムも初めて見る不思議な形状をしていました。魔力的な反応もありませんでしたし、少し戦いにくかったです」
「そうだね、シュタルクがいてよかったよ。魔法に対して抵抗力があったけど、一定威力以上の物理衝撃には弱かったみたいだし」
そう言いながらフリーレンはシュタルクに向き直る。
「まぁ、アレぐらいなら任せてくれよ。けど、どうするんだ?奥にはお宝もなかったけど」
「多分この球体状の遺物自体に意味があるんだと思うよ。
あそこに石碑のようなものがあるね」
フリーレンが刺した先には金属製のパネルが立っていた。
「文字があるね……古エルフ語じゃないけど、かなり古い時代の一般の大陸文字だ。
タイムフラグメント……もうかすれて部分的にしか読めないな」
「かなり古いものなのですね」
「……近傍の世界の断片化……時間位相の異なる世界の……可能性と未来……うーん」
フリーレンはまだ読める部分の文字を読みながら顎に手を当てて考え込む
「なんて書いてあるのですか?」
「わかんない」
「わかんないんですか……」
呆れた目をする弟子の失望顔に慌ててフリーレンは補足する
「いや、全貌がわからないってだけで部分的な情報から推察は出来るよ!なにも判らない訳じゃないからね!」
「それで、わかった事はなんなんですか?」
「ここじゃない他の世界を観測する魔法を発動する装置……ってことらしいね。読める部分の説明からすると」
シュタルクはフリーレンの説明がさっぱりという風に頭をかく
「何だそれ?他の世界を観測してどうするんだ?」
「ここに書いてあるままに推察するなら……時間進み方が違う世界があって、今いる世界に近くて時間が進んだ世界を観測すると……多分、未来が判る」
「大昔に作られた、未来予知の装置……ということでしょうか?」
フェルンは少々驚いた様子でドームを見上げる。
「多分、そうなんじゃないかな。正確には未来じゃないんだろうけど。
ただ、女神の魔法や全知のシュラハトと南の勇者の異能、この世界には確実に時間と空間に干渉する技術は存在している。
太古の人がそれに挑んだ物……と見るべきなのかな?
未だに体系立って解明されていないのに、本当なら偉大な功績だ」
フリーレンとフェルンがそんな会話をしている中、シュタルクはある異変に気づいた。
先程フリーレンがパネルを触ってから、一部分が淡く光だし、ゆるやかながらに球体の一部が回転をしてる。
「なあ、フリーレン……これ、何か起動してない?」
「シュタルク様、何か触ったのですか?」
「いや、何もしてないって!触ってすらいないよ」
門外漢が妙なことをすると碌なことにはならないのは普段の経験から学んでいるため
シュタルクはこういう時に余計なことをしない主義だ。もちろん、手伝えることは手伝うのだが。
「不味いね……この板に触った段階で反応して動いちゃったかも」
「フリーレン様……なんか段々、早く動いていませんか?」
最初は音もなく稼働していた装置は徐々に駆動音を鳴らし始めた
「ごめん。なんか始まっちゃったかも。
フェルン、防御魔法展開しながらシュタルクと待機で」
「判りました」
「この板に、止め方は……書いてないかぁ」
フリーレンがそう言っているうちに球体の光は強く、駆動している箇所の動きはどんどん早くなる。
「これ、爆発とかしないか?」
「わかりません」
「だよなぁ……」
フェルンは真剣な顔で防御魔法の展開面積を増やす。
シュタルクはフェルンの防御魔法を疑っている訳では無いが、最悪の事態も想定し身を挺して庇う覚悟をする。
「これは……ダメだね……」
というフリーレンの言葉と同時に遺跡内の部屋は光に包み込まれた。
✧ ✧ ✧ ✧
真っ白な空間の中に1人、地に足がついてないような感覚。
「フリーレン様! シュタルク様! 誰も居ない……?」
おそらく魔法で幻覚のような物を見せられている。フェルンはそう理解した。
先程のフリーレンの装置の説明思い出す限りだと、これが並行世界の観測魔法が発動したと考えるのが自然だろうか?
そう考えていると目の前に大穴が開く。穴の向こうにはなにかの光景が広がっていおり、どんどんフェルンの方に向かってくる。
穴の中に飲み込まれる!そう思った瞬間にあたり一面がここではない空間へと変わる。
――燃え盛る街、その向こうでは炎の中でシュタルクが大柄の魔族と斧で撃ち合っている。
シュタルクはボロボロで、今にも膝をついてしまいそうな……
それでも彼は、斧を振るって相手に打ち掛かる――
「シュタルク様!!」
そう叫んだ瞬間、広がっていた光景が過ぎ去り、先程の光景が背後に回る。
「今のは……」
これから先起こり得る、未来の光景?
そう思った瞬間にまた新しい大穴が開き、フェルンを包み込む。
――背後に見える巨大な城。数名の魔族と巨大な魔物、そして対峙するフリーレン。
一斉に撃ち合うフリーレンと魔族。そんなフリーレンの側面から巨大な魔物が襲いかろうとする瞬間
「フリーレン様!!」
というフェルンの叫びと供にその光景も過ぎ去っていく。
それからいくつもの光景が現れては過ぎていった。
どれも場所も時間も状況もよくわからない。暖かな光景も、怖い光景も、様々だ。
そして今度は一際光る何かがフェルンのもとまでやってきてまた目の前が真っ白になった。
■可能性との邂逅
今度は様子が違った。
今までは俯瞰的に見えていたのだが、今度の光景は自分がその場にいるような感じだ。
辺り一面は穂が垂れて金色の絨毯のように見える小麦畑。その中にある小道を歩いていいる。
体は勝手に動き、自分の勝手にはならない。誰かが勝手に動いている状態を共有しているかのようだ。
そして両手は小さな手を、それぞれ違った感触の手を握っている。そして……心持ち、いや、かなり体が重い。
(これは……?)
どうも声も出ない。視線も自分では動かせないようだ。
「母さん、足元気をつけて。そこちょっとぬかるんでるから」
そんな声が聞こえたと同時に左側へと視線が向いた先には青紫の髪をした少年の顔。
少しツリ目で三白眼な目つきなのに、不思議と優しげに見える顔はフェルンのよく知る人物を思い起こさせる。
フェルンの思惑とは関係なく、体はくすくすと笑いだしながら口を開く
「流石に目が見えないわけじゃないから判りますよ。でも、ありがとう。優しいのですね」
そう言うと少年は少し照れたように空いていた方の手で頬を掻く。
先程の礼になのか、気を使いすぎた事になのか、あるいは両方かに照れた様子だ。
「兄さまは、ちょっと張り切りすぎているのです。――様に母さまの事をよろしく頼むって言われたから」
声の一部がノイズで聞こえなかったが、右手側には少しくせ毛のようにウェーブが掛かった赤い髪の少女が見える。
表情は薄いが、燃えるように赤い瞳に引き込まれそうな可愛い顔をしている。
「ばっ、……いや普段からこんなもんだろ」
「そうですね。普段から――は優しいですよ。――も、いつもお兄ちゃんには助けてもらっているのですからそんな風に言っては駄目です」
どうやら名前だけが聞こえない様だ。
ただ、幸せそうな親子の光景にフェルンは動けないが胸をなでおろすような安堵を覚え、暫く様子を見ることした。
「……はい」
と少女は答える。
「でも、今日は随分と張り切ってお手伝いしてくれてしましたね、お洗濯物や掃除は助かりました」
「いや、だって今日はみんな居ないし、母さんは……」
と、そう言って少年はお腹の方に視線を向ける。と同時に自分視線もお腹に向く。
(えっ?!)
やけに重いと思ったが、お腹がかなり大きい。
いや、太っているということではない、と思う……体がそんな感じではない。
つまりは、――妊娠している。
「やっぱり、兄さまはいい格好しいです」
「それは普通にお前も手伝えって」
「手伝いました」
「いやいや、仕事量」
「あれはあなたの妹の全力です。恐れおのきましたか?」
「もっと前向きに驚かせて……」
何故か凝らしげに胸を貼る少女とうんざりする様にうなだれる少年。
全く関係性が違うのに、どことなく、誰かとのやり取りを思い起こさせる
そんな二人の様子を見ながら、フェルンにも体の持ち主の口角が上がっていく感覚が判る。
「二人共ありがとう」
そう伝えると、少年と少女の二人は、とても嬉しそうな、幸せそうな笑顔を見せてくれた。
その後程なく歩いた先で少女が正面を指差す。
「帰ってきました。父さま達です!」
少女の指をさす方向を見ると、長身の男性と小柄な女性の姿が見えた
ただ、後ろから強い光が刺し顔がよく見えない
――そこで世界はまた真っ白になる。
■白い空間
再び白い虚無空間に放り出される。今度は自由には動けるようだ……と言っても移動ができる訳では無いが。
先程までと異なるのは、目の前に誰かがいるということだ。
白衣の女性だ。編んで纏めた後ろ髪が揺れている。
「あら、お客様ですか?」
そう言って振り返った女性の顔が見えた、研究者らしくメガネを掛けた優しげな人。
「珍しいですね。人が来るなんて」
「貴方は、誰ですか?」
フェルンは警戒をしつつ問う。
「これの管理人……のような存在、でしょうか」
「この遺物な何なんですか?」
「タイムフラグメントプロジェクト、大昔そう名付けられた計画で作られた装置です。
あらゆる世界を時間という断面で輪切りにし、その断面を可能な限り観測して、時進んだ世界を観測するととで未来予知をする。
貴方も見たのではないですか?貴方自身の可能性の世界を」
フリーレンが語った内容と概ね一致する。つまりはそういうことなのだろう。
「あれらは未来予知なのですか?」
「正確には違います。貴方がいる世界に近い、収束する可能性の近い世界の出来事です。
世界の収束力が高い事象程はっきりと見えたかと思います。
必ずそうなる保証はありませんが、幸せな未来が見えたことを祈ります。どうでしたか?」
つまり、最後に見えた光景は起こる可能性が高い出来事……?
「………」
「きっと、その表情からすると、そう悪いものではなかったのですね。良かった……」
管理人の女性は複雑そうな表情をしている。
「これは当初は人の明日の幸せを望み、より良い明日を掴むために作られたものでした。
しかし、見える世界は何もかもが良いものではありませんでした。
私達は見誤り、見えた不安は不信を産み、観測は当初の理想とは異なる利用のされ方となり
あなた達が見つけた場所へと逃げ隠れる結果となりました」
未来予測というものの危険性は想像に固くはない。
おそらく、これが出来た段階で多くの諍いがあったのであろう。
「もうすぐ、元の空間に出られます。最後にお願いを聞いてくださいますか?」
管理人はこの装置の発動の終焉を告げるとともにフェルンをまっすぐに見つめてくる。
「何でしょう?」
「この装置は、発動させた利用者に命令権が与えられます。
これに、世界から消えろと、そう命令して頂けますか?きっとこれがこの世界にあり続ける事は良いことではありません」
そう、悲しげな笑顔で笑う女性にフェルンは問う。
「貴方はいいのですか?」
「本来の私は随分前に故人となっています。今となっては叶えたかった願いすらも思い出せません。なので、構いませんよ」
笑ってはいるが、その顔は覚悟に満ちている。そう言うならばフェルンに止める権利はないように思えた。
「………判りました。口にすればいいのですか?」
「はい、私にそう命じてください」
また強く周囲が光りだす。おそらく観測魔法の効果が消えるのだろう。
消えゆく光景の中、フェルンは命じる
――貴方が帰るべき世界へ帰ってください
■いつか至る未来
光が消えた瞬間、フェルンが目にしたのはフリーレンの心配そうな顔だった。
「フェルン!良かった。気がついたんだね」
「フリーレン様、ここは……?」
「遺跡の外だよ。遺物が突然消え入ったと思ったら外にはじき出されたみたい」
現在はたしかに遺跡入口前の洞窟にいるようだ。
「私は……気を失っていたのですか?」
「遺物が光った後、フェルンとシュタルクが倒れていて、びっくりしたよ。普通に寝ているみたいだったけど」
「シュタルク様も……?」
「うん。今丁度、目を覚ますみたいだね」
「いつつ……」と言いながらシュタルクは頭に手を当てて起き上がり頭を振る。
そのまま周囲を確認した後、シュタルクはフェルンとフリーレンの顔を見た瞬間、驚いたように目を丸くする。
「フェルン!?」と言った後、座ったまま物凄い勢いで後ずさる
「シュタルク様?」
「いや!何でもない!何でもないんだ……ちょっとびっくりしただけで」
シュタルクのなんでもあるような表情にフェルンは訝しむ。シュタルクも自分と同じ状態で倒れていたらしい。
つまり、装置の影響下にあった……? そして起こり会える可能性の高い事象を見た……のだろうか?
全くフェルンに目を合わそうとしないシュタルクは明らかに気まずそうにしている。
「シュタルク様、何かを……見たのですね?」
「ナニモ、ミテナイヨ……」
明らかに嘘だ。いったい何を見たのだろうか?
どうやら全く、影響を受けなかったフリーレンだけ珍しく置いていきぼり状態になっている。
「二人とも、何の話をしているの?」
✧ ✧ ✧ ✧
調査対象となっていた遺物は消えてしまったため、村に帰る途中。フェルンはフリーレンに見たことを説明した。もちろん、全部ではないが……
「なるほど、大昔に作られたのか、それともここにやってきたのか、何らかの技術で作られた未来に近い世界を見る装置だったんだね」
「その様です」
「フェルンは未来を見たの?」
「……」
「どうして黙るの?
あと、さっきからシュタルク、遠くない?」
洞窟をでてからシュタルクはフェルンに近寄ろうとしない。
つい先程、顔を掴んで無理やり目を合わすと、真っ赤になり器用に振りほどいて逃げてしまったので警戒しているようだ。
もしかすると似たような世界を見たのかもしれない。
「シュタルク様、先程も説明しましたが、見えた光景は確実に起こることではありません。
ちょっとした派手な夢占いぐらいと捕らえている方が良いと思います」
「いや、判ってる。判ってるから……、いや見ちゃったものは見ちゃったっていうか……ごめん」
「本当に何を見たんですか?」
「体は俺なんだけど、動かせなくて……」
どうやらシュタルクもフェルンが見たものと同じような感じの光景を見たらしい。
「俺とフェルンが……その……」
「??」
「ごめん。やっぱり、言えません……!」
そう、うなだれるシュタルクは悪戯がバレた愛犬のような体裁で、流石にこれ以上追い詰めるのも可哀想に思えてきたためフェルンは問い詰めるのを辞めた。
自分と同じものを見たのであれば、こうはならない気もするので……かなり気になるが答えてくれそうにない。
そんな二人のやり取りを見ていたフリーレンは改めてフェルンに声をかけた。
「フェルン、言いたくなかったら言わなくてもいいんだけど、見えた未来の可能性は幸せなものだった?」
そう問いかけるフリーレンの表情の感情は、その場の雰囲気に似合わず複雑なものに見えた。
このまま進んで、フェルンが幸せになれるのか? それを心配しているようにも見えた。
だからフェルンは―――
「そうですね。いつか辿り着ければ……そうなればいいなと、そう思えるぐらいには、幸せそうでしたよ」
―――そう笑って答えると
「なら良かった」
フリーレンもそう笑顔で応えてくれた。
そして、フェルンは夕日に染まる空を見上げて思う。
最後に見た笑顔に、いつか出会える日が―――そこへたどり着く道が見える日まで、今その手にあるものを大切に生きていくしかないのだろうと。