葬送のフリーレン - 短編集 Memorial in Journey - 作:rvr75_raiden
帝都アイスベルク
建国祭で賑わっている最中の帝都に入った瞬間、ゼンゼとファルシュに捕まり
その場で一級魔法使いの大規模任務の説明を受けたフリーレン一行。
そのまま、一度指示された宿へ向かう事になったのだが、先を行くフェルンとフリーレンとその後ろについてくるシュタルクの距離が妙に遠い。
「シュタルクー。もうさっきの話はいいからこっち来なよー」
というフリーレンの言葉にも苦笑いで手を降って答えるシュタルク
というのも、先程の会議の中で大魔法使いゼーリエは最強の魔法使いである一方で必ずしも対人戦において無敵であるわけではない事の説明をした際
フリーレンはシュタルクの戦士としての射程範囲について述べた。
『この距離でシュタルクに不意打ちされたら私たち2人は何も出来ずに命を落とす。
どうしても魔法の発動が間に合わないからね』
フリーレンは純粋に戦士としての力量を評価した客観的事実を述べたのだが
その時にフェルンが冗談で少し怯えた仕草をしたため、シュタルクがその事を随分気にしている様だ。
フェルンも流石にやりすぎたと謝罪をしたのだが、シュタルクは少々納得してない様子。
「フェルン、シュタルクがいつもいい反応するからって今日のはちょっと可愛そうだったと思うよ、例に出した私も悪かったけど」
「……反省しています。一応謝ったつもりだったんですけど」
珍しく素直に謝るフェルン。どうやら本当に今回は反省しているようだ。
そのまま引っ張る男もちょっと面倒くさいなとも思うが、シュタルク側に非もないので攻めるのは可愛そうだ。
「宿についたら仲直りしなよ。ラダールクラスの使い手が来たらシュタルクとの連携しないと私達の命に関わる」
「はい……」
身に染みて感じる。本当に危なかったのだ。
そして、今までどれだけあの赤い背中に守られていたのかも、頼りにしていたのかも痛感してはいた。
シュタルクはいつも表向きでは泣き言を漏らしながらも、一度たりとも自分たちの前から退いたことがない。
そんな彼に対してあの態度は冗談にしても悪ふざけが過ぎた。
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予定の宿についた後は少し時間を空けてから、建国祭で賑わう露店で情報収集と周辺の調査に出る予定だ。
少々行動が大胆に過ぎるが、フリーレン曰く
『隠密の別働隊が動いているなら、こちらの行動は少し目立つぐらいでいい。
それに流石にあちらも町中で騒ぎを起こす訳にもいかないでしょ』
ということだ。普段通りの行動が大事だということなので……シュタルクとの喧嘩……というわけでもないが
とにかく拗れた状態はとても良くない。
「――良くはありませんよね……」
シュタルクの部屋のドアの前で胸元に片手で拳を握りしめて一人うなづいて自らを鼓舞する。
正直、一度謝ったうえで気にされてしまっているのでフェルンにはこれ以上どう言葉をかけるべきかいまいち作戦がない。
ドアをノックすると「どうぞー」という反応が帰ってきた。
「シュタルク様、失礼します」
ドアを開けて部屋の中に入ると、シュタルクはベッドに腰掛けながら斧の手入れをしているようだった。
「何?どうしたの?」
何やら少し怪訝な顔をしながらドアとは向かって逆側の壁に手入れの終わった斧を立てかけようとシュタルクは後ろに下がる。
「いえ、もうすぐ露店を回りながら町の周辺の調査に出かけると、フリーレン様が」
「判った。準備してすぐ行くよ。フェルンは先に行っててくれよ」
シュタルクの足元を見ながら遠のいてしまった距離を感じてフェルンは一歩シュタルクの方向に近づく。
「フェルン?」
シュタルクは壁に背にフェルンから離れる方向を探しているようだった。
「シュタルク様」
名前を呼びながらまた一歩距離を詰めると、シュタルクはそれに反応する様に壁沿いに右手に移動した。
「どうして逃げるのですか?」
「いや、フェルンこそなんで追い詰める様に近づいてくるの?」
「それはシュタルク様が離れるから……」
先程の話が尾を引いていることなんて説明しなくてもお互い判っていることだ。
確認を取るまでもないなら本題から話すのが筋だろう。
「先ほどの件、私はシュタルク様に謝りました。私にはあの場であれ以上の答えがわかりません。
どうすればシュタルク様に許してもらえますか?」
「……フェルンはなにも悪くないよ。悪いのは俺だ」
そう言いながらもシュタルクは壁つたいにジリジリとフェルンから距離を取ろうとしている。
とはいえ、宿の狭い一人部屋だ。限界はあり、本気で拒むならそもそも同じ宿に泊まらなければいい。
まだ、シュタルクの中に迷いがあるのだろうとフェルンは察した。
「どうして、シュタルク様が悪いなんて話になるんです?」
「フリーレンが説明した時否定しなかったろ?フェルンとフリーレンが成すすべ無く斬られる距離」
魔法使いが魔法を発動して放つにはフリーレンに最速と謳われるフェルンのゾルトラークですら構えて発動させるのに一瞬という訳には行かない。
しかし、その一瞬はという時間はシュタルクや名だたる剣士や戦士にとって距離を詰め抜刀することを可能とする時間だ。
「戦士はどんな状況でも相対した人物に対して、戦闘中の一挙手一投足を見て、そういうのを測っちまう。
でも俺達はパーティだし、やっぱり考えるべきじゃないんだ。そういう所でフェルンを不安にさせたのなら直しておきたい」
なるほど。自分の動きを見て「これぐらい動きならどれぐらいの距離と時間で制圧できるか?」を考えられていたのなら確かに気分が良いとは言えないのかもしれない
だが、しかし
「お話はわかりました。」
その言葉を聞いてシュタルクはやや安堵した表情でを見せるが、顔にはありありと「なら退いてくれるよね?」と書いてあるように見えた
「じゃあ……」
「――ですが、それはシュタルク様が私達から距離を取る理由にはなりません」
きっぱりと言い放つと、一瞬で困り果てた表情へと変わる。
シュタルクがここまで抵抗する理由もフェルンにはなんとなくわかってしまった。
「いや、でも、想像の中だとしても斬りかかられる想像をされるのは……フェルンは怖くないのか?l
「……怖くありません」
案の定だと、どうしてこんなに拗れてしまったのかと少し苦笑する。
拒否されて臆病風に吹かれたのだろうか、とも考えたのだが近いようで少し違う。
「見ず知らずの人間ならいざ知らずですが
シュタルク様は、私を傷つけることなんて絶対にしないじゃないですか」
何のことはない。シュタルクはいつかの約束を守って彼なりのやりかたで優しくありたいのだ。
本当に不器用な人だ。けれどそれが彼の美点であり、フェルンが日頃から彼の側にいる理由でもある。
「そりゃ、そんなことはしないけど……」
ならば――自分がするべきは――きっと彼を肯定して受け入れる事なのだろう。
「シュタルク様。あの距離は、日々の研鑽により身につけたシュタルク様の間合いなのでしょう。
それは、シュタルク様が誰よりも早く手の届く距離なのだと私は思います」
「……まあ、それは、そうだけど」
「だから、それは誰かを不意打つ間合いではなく、戦士であるシュタルク様が誰かの命を守れる距離です」
「……」
シュンとしつつも大人しく話を聞いているシュタルクが妙に可愛く見えてフェルンは少し笑ってしまう。
「だったら……そうであるなら。シュタルク様の手の届く距離に……私のすぐ近くにいてくれないと
あの距離以上私達から離れたら駄目じゃないですか?」
その言葉を聞いたシュタルクはゆっくりと視線を上げてフェルン方に顔を向ける。
「これから任務で危険な場所に行くのです。何があるかわからないのですよ。
他の誰よりもシュタルク様が傍にいなくてどうするんですか」
「フェルン……」
一歩、二歩とフェルンのいる方二歩を進ませたシュタルクは
フェルンの眼前までやってきてそのまま頭を下げた。
「ごめん。そうだよな。前衛の俺が一番近くにいないと、守れないよな」
本当は……
近くにいたい理由も、隣を歩きたい理由も、その手に触れたい理由も
守ってほしいからだけじゃないけれと。今はまだこれでいい。手を伸ばした先に彼がいるなら。
「これから、周辺探索も兼ねてフリーレン様が露店巡りをするそうです。
街は人通りが多いですが、どんな人が紛れているかわかりません。だから……」
そう行ってフェルンはシュタルクの方に手を差し出す。
「しばらくは私の側にいてくれますか?」
差し出された手をみたシュタルクは一瞬驚いようにも見えたが、すぐに表情を゙崩して「判った」と答えて
その手を取った。
✧ ✧ ✧ ✧
フェルンにシュタルクとの仲直りを命じてから30分ほど。
ロビーで魔導書を読んでいたフリーレンはようやくフェルンとシュタルクがこちらに向かって来ている事を魔力の動きで感知する。
訂正、魔力で感知する必要すらなかった。バタバタとこちらに慌てて走ってくる音が聞こえる。
「おまたせしました、フリーレン様」
「悪い、フリーレン。俺のせいでゴタゴタさせちまった」
どうやら問題は解決したようだと安堵のため息と供に魔導書をパタンと閉じて二人を見たフリーレンは
「んん?」
と大きく目を見開いた。
「……さっきとは一変してずいぶんと仲直りしたんだね。まあ、いいことだとは思うけど」
「フリーレン様?」
すっとフリーレンが指を指す先は、部屋を出る前に握った手と手。
あまりに収まりが良く、少し皮膚が硬くて温かく、大きな手に安心感を覚え、フェルンは離すことも、繋がっていることすらも忘れていた。
シュタルクもどうやら言われてやっと気がついたようで
「あっ!ご、ごめん!フェルン」
そう言ってすっと握った手を解いて一歩下がる。
フェルンは手が離れた瞬間「あ……」と声が出そうになり思わず口元を抑えた。
まるで自分が寂しがっているみたいだとシュタルクとフリーレンに思われたら面倒だと瞬間的に思ったのであろう行動だが
そんな様子を見ていたフリーレンにはモロバレしている。
「べつに、繋いでいたいならそのままでも露店は回っても良かったんじゃない?
シュタルクはフェルンのことしっかり守ってもらわないとだし」
フリーレンにそう言われてシュタルクは慌てて手を横に振りながら訂正する。
「いやいや、フリーレンのことも守るし、片手が塞がってたらいざという時に動けないから」
「そっか、ならいいや。ちゃんと私のことも守ってよね。
ラダールクラスの使い手がいた時、シュタルクがいないと私も死んじゃうから」
「……はい、全力で頑張ります。なぁ、フェル……ン……さん、なんで膨れてるの?」
「むぅ――」
シュタルクの言っていることは概ね正しい。手を握っていたら片手が塞がるし、フリーレンも守るべきだ。
正しいけど、さっき約束した手前なんだかそれは腹立たしい。
「痛、いたい、何でだよ、辞めてフェルン、ねえ、止めてよフリーレン!」
そんた2人の様子を見てなんだか少し上機嫌になったフリーレンはそのまま宿の出入り口へと歩き出す。
「ほら、2人で遊んでないで、いくよー」
「わかった、わかったって。片時も離れないから!」
そのまま、胸元に当てようとしていたフェルンの右手を左手で受け止めたシュタルクはそのまま握りしめて
フリーレンのいる方へ駆け出す。
「ほら、行こうぜフェルン!フリーレンも待ってる」
そうして夜の露店へと3人は向かうのだった。