現代社会にTS転生したら才能の上限値と成長曲線を可視化できる目を持っていたのだが私には呪いとなった   作:TSと曇りと才能論好き

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03. 屋上でのランチ

篠崎碧。

 

容姿端麗、品行方正、文武両道と、クラスメイトに話を聞けば聞くほど、現実離れした才女。

 

僕――雨宮悠真――には関係がない違う世界の住人だと思っていた。

 

転校初日、初めて教室に入った時、彼女だけがクラスで別の生き物かと思った。

スポットライトがそこだけ当たっている、感覚。

 

窓際の前方の席に座り、入ってくる太陽の光を金色の髪で受けてきらきらさせた彼女は、すらっとした手足を狭そうに机の下に折りたたんでいた。

女性らしい身体つきをしながらも猫のように柔らかでしなやかな動きができそう。

何よりその茶色い瞳は、なんだろう、自分が吸い込まれるようで目が離せなくなる。

 

だから不思議だった。

 

僕の顔を初めて見た篠崎さんが、大きな目を真ん丸にして驚愕の声を出したことが。

 

その理由を聞ける日は来るのだろうか?

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

次の日、彼――雨宮くんが学校に来てくれていたことに安堵する。

夜のやり取りの後、再び、そして永遠に消えてしまう可能性もゼロではなかったのだから。

 

教室では何事もないかのように友人たちと会話している様子が目に取れた。

たまに私の方をチラッと見てきてなにかあったのかと勘付かれないか心配だが、男子が私のことをちらちら見てくるのはこの教室の日常なので大丈夫か。

――――容姿が与える影響を抑えることは難しい。

人を惹きつけてしまう、呪いをかける魅了をしないように、これ以上美容に関する才能を伸ばさないように、髪の毛や肌、爪のケアは最低限――女子コミュニティで排斥されない下限――にしているが、それでも影響は出てしまい、周囲の目線を集める。

そもそも日本人ばかりの学び舎に祖母からの遺伝で金髪が一人居たらそうなるのも宜なるかな。

 

雨宮くんとLINEでは既にやりとりをしている。

『第三校舎の屋上にお昼ごはん持参でお願い』

 

よくご飯に誘ってくれる莉乃には「今日は先約がある」と伝えてある。

「えぇー!!」と可愛らしく純朴なリアクションをオーバーに返してくれた。

莉乃は私以外にもたくさん友達がいるし、私はお手伝いで昼休みいないことも多い。それなのに残念がってくれる、その意を外に出してくれるのは嬉しいことだ。

ノンバーバル・コミュニケーションの豊富さが彼女の処世術か。

 

 

午前の授業終了のチャイムが鳴った。

一緒に向かうところを見られると余計なさざ波が起こると考え、別々に出る。

どちらにしろ彼は学食で購入するようなので、妹と作ったお弁当を持参した私とはタイミングがずれる。

 

徒歩で10分弱、先に第3校舎の屋上で準備して待っていると、

「あ、待ったよね。お待たせ。」

雨宮くんが扉を開けて屋上にでてくる。彼の視線がフェンスから空へ向かっていき、私もその視線を追った。若干の雲があるが爽やかな春の空だ。

フェンス越しに校庭や中庭、植物園を見渡す。向こうからはこちらはほぼ見えないだろう。

 

「ううん、大丈夫。元気そうで良かった」

 

顔色も悪くない。昨日の焦点があっていない表情とは別物で安堵する。

あまり目立たない顔つきだが、清潔感もある。ここは進学校なのだし、勉強もできるとなれば女子にモテるのも時間の問題なんじゃないだろうか。

 

というのも私の身体、私の中の高校生女子の女性性が少し反応しているからだ。

自身と異なる骨格をしている異性との二人きりというシチュエーションに、そわそわしているのを検知する。

 

 

女性コミュニティを通して、少女漫画やドラマでの女性性の望む文化パターンが、私の身体にもしっかり刻まれているのがわかる。

前世の男性の魂が女性性を抑圧している分、身体のレベルで女性性が成熟していないというか、『うぶ』なのを久々に思い起こされた。ベタベタなシチュエーションに勝手に反応してしまう。

それを精神で抑え込む。

 

 

そして私の悪癖だが、彼のあまりに突出した『破壊する才能』に注目が行く。

なんなのだろう、これは。常人の才能があるレベルの100倍はある。

私はかのアインシュタインの才能を直接は知らないが、アインシュタインの科学や物理学的直観の才能の数値に匹敵するのでは、なんて推測している。

 

 

「篠崎さん、寒くないの?」

私は学校指定のシャツとスカートだ。

春先で風もあるため肌寒く感じる人もいるかもしれない。カーディガンかブレザーを上に着ている女子が多いから気にしてくれたのか。

 

「大丈夫。寒いの得意なの。さ、こちらへどうぞ」

彼を私の隣に案内する。

 

実際に、私の身体は寒さに強く、真冬でも半袖で生活できる。

才能の上限値と成長曲線を見る『目』。その解析対象にはその人のホメオスタシス――恒常性維持機能――の働き方も入っている。

サブカテゴリにどれだけの代謝を行うかの項目があるのだが、私はそこを上げている。健康のために便利そうだということと、トップアスリートたちはその項目が極めて鍛え上げられていることを知り、滝行や寒冷曝露、擬似的な高地トレーニングによって負荷を掛けて成長させていた。

そのために過酷な環境でも平常通りに活動できる。

 

もっとも、やる気がなくなっている私にとっては無用の長物であり、鍛錬を怠っているために徐々に下がってきている。

周囲の目に合わせて、服装もできる限り普通にしている。

真冬に半袖で動き回る女子高生なんて、浮いてしまうだろう。周囲の人間関係――家族や女友達のコミュニティ――は私に対して心配やオシャレのために気を焼いてしまうだろう。

 

よって常識の範囲内の薄着に抑えている。

生足に靴下も短めのものを好む。熱放射を重視しているためだ。

 

 

「あ、ありがとう」

彼が靴を脱ぐ時に彼が持っている購買のお弁当を一旦受け取る。

少し驚いたようだったが、私が敷いたレジャーシートの上に胡座をかいて座る。

 

「今日は来てくれてありがとう。さぁ、いただきましょう」

お昼休みは希少だ。早速食事に入る。

自由時間であり、ご飯を食べた後運動をする生徒もいれば、お喋りなど社交の場でもある。学校という閉鎖空間は、1回1回の選択――つまり誰と食事をするのか、誰と話すのか――といったことの繰り返しで集団、もしくは群れとしての構造ができあがる。個人でいうと群れの中での立ち位置が決まる。

 

その1回を、しかも転校して一ヶ月も経たない彼が放棄することの意味は大きい。

行動権を私との時間に使ってくれたことは、昨夜のこと――踏切での介入――があったとはいえ、嬉しいことだ。

 

 

「「いただきます」」

と、唱和し、お弁当箱を開ける。私は運動をする妹の食事制限に合わせてタンパク質――植物性も動物性も――多めで女子らしくないお弁当かもしれない。彼は購買のラップチキンだ。それだけで足りるのだろうか。

青空の解放感と暖かな太陽の光の温もりの中に、高低2つの声が共鳴する。

 

「ふふっ、綺麗にハモったね。」

声質的に相性がいいのかも、なんて微笑んでいた。

声の質から推測して、彼の身体と精神状態も良いということだ。

 

そこからはご飯を食べつつ、何気ない雑談をしていた。

 

「部活何か入るの?」

「いや⋯⋯。放課後忙しくて、難しいかなぁ」

「そっか、そうだよね。たくさん頑張ってるんだよね」

放課後忙しいことはあまり詮索されたくないようで、ちょっと影のある表情が出た。

「まぁ、うん。――篠崎さんは入らないの? 複数の大会で関東大会や全国大会も出てるって聞いたけど⋯⋯助っ人のままって、本当? すごすぎだよ」

正直そんな人聞いたことないよ、と、アハハと乾いたような笑いをしてくる。だが、目は理解できないものを見る目が隠せていない。

 

「おかしなことしてるってわかってるわ。受験もあるし、部活動の助っ人も高2の夏には全部辞めようと思っているし、大学でもやる気がないの。そんなの本気の人には失礼でしょ? うちは部活動も活発だもの」

「うーん、そういうもの、なのかな⋯⋯? 勿体ない気もする」

「去年はそう言って勧誘も熱心にしてもらったけど、今は私のスタンスを尊重してもらえて、たまに助っ人で呼んでもらうくらいに収まっているの」

「なんだか大人っぽいね、篠崎さん」

 

私の『目』にとって高校の部活動は、一般人レベルの才能を効率的に伸ばしたら到達できるものに過ぎない。そして最短効率で伸ばせる私は、すぐに頭打ちがくる。ただの早熟で、トップアスリートには届かない。才能があって本気で取り組む意欲があり、指導者や練習の環境が整って更に怪我もしない天才には、後から抜かれていくのだ。

 

だから、助っ人として受け入れてでも勝利したい、または自分たちを成長させる糧として捉える人たちの熱意に同調して一緒にやることはあれど、人生の柱にする気はない。

 

 

クラスに慣れたのか、今度の体育祭では何をやりたいのか、どの先生が好きか、なんて他愛もない話を、地雷を踏まなさそうなところから投げかけていく。

決して否定せず、感情に共感の意を示す。

そして私は去年の学校の話をして、彼がこの学校に馴染めるように話していく。

 

過去のこと、習い事、予備校、家族のことには触れない。雨宮くんが自身で話してくれるまでは。

そもそも昼休みは大して時間もない。

 

 

 

 

「えっ! 篠崎さん、スカドミ(Skyline Dominion)知ってるの!?」

「うん、兄がやってるのを見てたわ。私はやったことはないのだけど」

望外の収穫もあった。

彼がゲームを好きなこと、そしてそのゲームは父と別居している兄が好きだったので携帯ゲーム機を私が持っていることだ。

 

3人1組のバトルロイヤルFPSで、近未来都市を舞台にしていたはず。

 

「見てて楽しそうだなって思ってたんだよね。明日さ、ゲーム機持ってくるから教えてもらえない?」

これなら共通の話題、かつネット対戦などで繋がりやすいと脳裏で計算が走る。

私の提案に早口になりかけていた彼は口を開けたまま、少し止まる。

「え、いいの?」

「いいのって、私が教えてもらう立場だよ? 変なの」

驚いている彼の顔を見て、おかしくてくすくすと笑ってしまう。

結果、明日の昼休みに持ち寄ってやることになった。

 

うちは校則は緩く、休み時間であればゲームは許可されている。

進学校ということもあり皆当たり前に学問に励むので信頼されているのか、裁量は大きい。

 

その後すぐ、昼休み終了の予鈴が鳴り、お開きとなった。

 

 

 

午後の授業が始まるため、理科室へ移動する準備をしながら思考を整理する。

(よし、第一段階は突破できた)

 

人間は現状維持を願うものだ。

いや、全ての生物がそうかもしれない。安全な巣から外へ行きたいと願う生物はいない。外へ狩りに行くにしても未知への探索は相当な負荷をもたらすものだ。

 

そしてその現状というものは、縦に揺れ動く。私の体温が36度から36.5度と幅があるように、その現状の中で調子がいい時と悪い時は確率論的に動く。

今は、彼の現状の下限付近に、死への誘惑が存在している。それは彼にとって自死の可能性が常にあるということで、放っておいたらサイコロは振られ続けるのだから、どこかで最悪の目を引き当ててしまうだろう。

 

だから、死神が彼を連れて行ってしまわないように、確率論的に悲劇の尤度を下げるために、雨宮くんにとっての現状を、死への境界がある地点と被らないように、ずらしていく必要がある。

 

おそらくはだが、父親との関係性の元で、習い事と勉強で雁字搦めといった昨日までの現状。

そこに、私、篠崎碧という存在が、強引に入り込んだ。

私自身が言うのはなんだが、私は容姿、学校での立ち位置からして、目を惹きつけざるを得ない異物だ。

 

彼の今は、昨日までの今とは異なっている。

彼にとって非日常が訪れている。その間に、新しい日常を固定化するのだ。

私との交流が死の境界線を越えなくなるくらいには良いものとなるか、定期的にやってくるスクールカウンセラーに相談をすることなのか、何が良い固定化をもたらすかはわからない、だから手当たり次第だ。

 

(目の前、手の届く範囲でこぼれ落ちる命を見たくない。プロでなくても、できることを、する。)

 

まずは、彼の精神状態の常に動く振り幅が、一番下に落ちたとしても、自然な選択肢として死に向かわない、そのような現状へ移行させる。

 

 

 

 

 

 

(ふわぁ)

理科室の机で、あくびが出そうになる。

誰かに集中的に接するのはいつぶりだろうか。また、彼の尖った才能は私の『目』にも分析が難しく負担となっており、脳の疲労が込み上げてくる。

午後の授業は眠気との戦いになった。

 

莉乃がじっと見てくるのに何も言ってこないことも不気味だった。

 

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