現代社会にTS転生したら才能の上限値と成長曲線を可視化できる目を持っていたのだが私には呪いとなった   作:TSと曇りと才能論好き

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06. 昼休みに屋上で初ゲーム

 

「――はっ!」

イヤな夢を見た気がする。

睡眠の質が良くなければ、陰気な私は更なる陰オーラを放ってしまうというのに。

寝る前は楽しいことを思い浮かべて寝なくては。

いるだけで周囲を明るく楽しませる存在になる! ⋯⋯とまでは思えないが、周囲も空気を闇に引きずり下ろすことはしたくない。

 

といっても昨日の筋肉の疲れも目による脳の疲れも残っていない。

健全に保たれた若さの回復力は偉大なものだ。

前世の頃とは比べ物にならないほど、ふつふつとエネルギーが湧いてくるのを感じる。

大人になる過程で自分のエネルギーの投下先を見つけられたら、良い人生を送れるのだろうか?

そんな詮無いこと、もう戻らない過去に意識が向く。その意識を打ち切るために身体を動かす。

 

「うーーーーんっ」

部屋の床でストレッチや倒立をして身体を起こし、朝の支度をする。

女子の身体も17年目となると、長い髪の扱いにも慣れたものでブラシで梳かし、諸々の処理に甘いところがないかチェックする。

今日も軽めのスクールメイクで終わらせる。

 

スカドミのソフトとゲーム機を忘れないようにカバンに入れておく。

 

朝ごはんは中学生の妹が当番の日で、用意してくれていた。

二人で一緒に食べ、それぞれの学校へ向かう。

昨夜、母は帰ってこなかったらしい。母、私、妹のグループLINEにその旨が朝方に入っていた。

 

今日は昼休みに一緒にゲームをするのだ。

私の存在を雨宮くんの世界の中で大きくし、心理的に近くても自然なポジションを掴みたいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイス? 今日、そんなに暑くないけど、アイス好きなの?」

雨宮くんが昼休みに第三校舎の屋上に現れた。今日も快晴で青空が広がっているが、日差しはそこまで強いわけでもない。朗らかな陽気と言えるだろう。

 

「いや、何となく食べたくなっちゃって。お昼ご飯前なのにね」

「ふーん、いちごミルクソーダ味? 不思議な組み合わせ。さ、ゲームの前にお昼ご飯を先に食べましょう」

「篠崎さんはアイスはあまり食べない?」

「たまーに妹や友達に付き合って食べるくらいね」

何かしらの心境の変化だろうか。

昨日の放課後、アイスケースの前にいる彼を見かけていたことは、気付かれていないようだし伝えていない。

 

 

ご飯を食べながら雑談をする。

「男子が話題にしてたんだけど、篠崎さん、昨日バドミントン部で練習試合で先輩に圧勝してたって本当?」

「えぇ、まぁ。でも周囲が見るほどには実際に差があるわけではないわ」

「すごいね⋯⋯。この学校のバドミントン部って強豪でインターハイも過去に何度か出てるって話だったけど、それでも篠崎さん、先輩に勝てちゃうんだ」

 

最後に称賛と同時に妬みの声色が微かに滲んでいた。

この発言に続く言葉は、『(普段練習もせずに勝てるなんて)才能があるんだね』だろう。それを出さないのは配慮なのか、彼自身が才能に苦しんでいるからか。

 

(実際にはあなたには私が人生で見たことないほどの才能があるんだよ)

そう言えたらとも思うが、『目』のことは誰にも言う気がない。言っても信じてもらえないだろうし、明らかに『ズル』だから。

 

「⋯⋯ありがとう」

今まさに、広範囲において成長曲線的に伸びない時期を迎えている彼に、『私は本当は才能ないし早熟なだけ』と伝えるのは、嫌味にしかならないだろう。

だから、無難に感謝の意を返す。

ただ、この会話の流れはチャンスかもしれない。私の能力について聞かれたのだから、称賛を返す流れで彼について聞ける。

 

「でも、雨宮くんだって、この学校の編入試験通ってる分、最初からいる人のほとんどより学力高いでしょう? それに音楽の選択授業でピアノも上手だったわ。うちのクラスはピアノできる人少ないから、きっと合唱コンクールでは推薦されると思うわ」

「いや、うーん⋯⋯、そうだね、人よりは多少できるのかも。ありがとう」

「自信もったらいいのに。少なくともピアノは正確性の高さがすごいと思ったわ。いや、ごめん、私が判断することではないよね」

「ううん、そう言ってくれて嬉しい」

「ならよかったわ」

「「⋯⋯⋯⋯」」

会話が萎んでいってしまった。私という話下手がうまい誘導なんて仕組めるはずもなかった。

むしろピアノを褒めることによって、張り付いた笑顔に暗い表情だ。

 

どうしよう。

話題を探せ、前世持ち。男子高校生を前に沈黙しているコミュ障は私だ。

今世では相手から話しかけられることがほとんどだから、相手に話をする能力値が上がっていないということにあまり自覚的でなかった。人に積極的に関わっていくことへの恐れも刻まれている。

 

そうして、内心あたふた、外見では鍛えられた体幹による無駄に良い姿勢でお弁当を丁寧に口へ運んでいる。

たまにチラチラ見て、たまに雨宮くんと視線が合い、「あっ」となり曖昧に笑う。

 

 

雨宮くんにとっても、若干の緊張がありそうだ。

自殺未遂を阻止してきた人間とご飯を食べることになり、次の日には一緒にゲームをすることになった。

それも、それまでは関わりがなかったクラスメイトの女子と。

どういう態度を取るのか、決めかねている。

 

ただ、その状況を打破するために、ゲームを使って親密度を上げるのだ。

 

 

 

 

 

ご飯を片付け、ゲーム機を取り出し、横にいる雨宮くんの方へフレンド登録の画面を見せる。

 

「スカドミだけど、昨日、初心者向けチュートリアルで、基本的な操作は覚えてきたわ。プレイ動画も見たから最低限の立ち回りもできると思う」

「篠崎さん、昨日の今日でそれは早いね。結構複雑だったでしょ」

 

「まぁ昨日は割と時間が取れたのよ。あと、覚えるのは得意なの。」

例によって、『目』のおかげだ。脳の長期記憶とワーキングメモリはあらゆる学問や知識習得に基礎的で便利そうだったため、昔かなり鍛えてあった。

 

「さすが。全国模試でも上位常連って話だしね。」

「ありがとう、勉強はちょっと得意なの」

高校生レベルの学力、それも大学受験という暗記ゲームのための模試くらいであれば、

私の学問の才能が大したこと無くても、解法とパターンの暗記で解けてしまうのだ。答えがある問題を作らないといけない先生方の苦心が伺える。

 

頭の良さの才能は、大学院で答えがない問題――人類で誰も解いていない問題――を研究するところからが勝負であり、私の才能はそこまで飛び抜けていないことは既にわかっている。

 

だから、奨学金を取って国立大学に入るために学力も維持しているだけだ。ひとり暮らしを親に説得するために、日本の最高学府を通っておこうという思惑もある。

 

 

彼の表情を見て、志望校の話を振ることはやめた。

まずは一緒に居て楽しいことから。

 

 

「準備できたわ」

「じゃあ、まずは低いランク帯でやろっか。僕と篠崎さんはペア組もう。昼休みの残り時間的に、雰囲気を掴むために数をこなすの優先で短めのステージで回そうか」

スカドミはバトルロワイヤルFPSで、本来なら3人1チームだが、今回は見知らぬ他人を入れずに二人で組む。何十チームもいない、短めに終わるステージも狭い簡易戦だ。

「わかった、お任せします」

 

START!!

と画面に表示され、私と雨宮くんのアバターがスカドミのバトルエリアに召喚される。

周囲を見ると、SFで出てきそうな三角錐やS字に曲線を描いたタワーが立っている。地面は硬質なガラスか水晶張り。足音が響きやすそうだ、と感じる。

 

「篠崎さん! 動いて!」

おぉグラフィックも良いな、と携帯ゲーム機の性能とソフトウェア会社の技術力に関心していると、隣に座っている雨宮くんから焦った声が聞こえてくる。

 

「あっ!」

私のキャラが被弾をする。どこから飛んできた?

 

「こっちへ!」

雨宮くんから方向指示のマークが現れる。

 

回避行動として横跳びを交えながら移動していく。

既に雨宮くんは敵の射線を切る遮蔽物へ移動していたらしい。

 

「ごめんちょっと削られた!」

「大丈夫!」

飛び込む。おかげで削られきらずに済んだ。

雨宮くんがリズミカルに空に向けて牽制射撃を行ってくれている。

 

「これ使って! チュートリアルでも使ったと思う」

「ありがとう!」

サブマシンガン――近距離で制圧する銃だ――の中でも初心者が使いやすい武器を渡される。

先に拾っておいてくれたらしい。

 

「あのタワーで三階から撃ってきている相手を牽制しながら削るから、篠崎さんは突入して! 僕は後から行く!」

「OK!」

まず私が慣れるためでもあるので、遭遇戦は避けない方針を取っている。

私は後衛の雨宮くんの援護によって射撃が散発的になったエリアを駆けていく。

しかしタワーに突入する前に出てきた相手チームの前衛と撃ち合いになる。

遮蔽物に隠れ、そこから撃ち、また隠れ、繰り返しが数度行われる。

 

この間に私は『目』を使って自身のスカドミ用の才能を効率的に伸ばしていく。

初心者の私がいきなり立ち回りや戦略で上回れるとは思っていない。

だから、私の元々の身体操作の延長、指先の細かい制御を活かすべきだろう。

エイム性能、反動制御、移動とフィジカル寄りのプレイヤースキルの才能を見ながら、私はそれぞれの行動を微細に変えながら行い、脳に経験値が入るようにしていく。

 

遮蔽物から出て別の遮蔽物へ移動しながら撃つ。最初は射線がずれ、弾幕がばらつく。二回目もばらつく。三回目もばらばらだ。しかし、私の目はそれがもうすぐ脳の中で学習結果として統合され、スキルが伸びることが見えている。

だから安心して無駄に思える行動も取れる。

 

「あっ!」

と、そうはいっても最初に無抵抗に被弾した分、ダメージの蓄積があり、相手に押し切られてしまった。

ダウンになり、そのままキルされてしまった。

そして、雨宮くんも数的不利のまま狩られる。

 

「雨宮くん、ごめん、最初の被弾がもったいなかった」

「どんまい! 上からの射線は最初見つけにくいよね」

「言い訳がましいけど、動画見てるのと実際にプレイするのは違うわね⋯⋯悔しいわ」

 

そうだ。

初見では上空から降ってくる弾丸に対応できなかった。

ここ最近助っ人をするバドミントンでもサッカーでも野球でも、上空にある死角を気にすることはあまりなかった。

新しい視点だ。

 

「いやいや、1回目なんだから、冷静に動けてるだけですごいよ。僕なんて1回目は何もできなかったって」

「ありがとう、次はもっとやれると思う」

 

 

『――常在戦場、君が負けた時、守るべき人が死ぬ』

厳かな声が脳内に響く。

『新しい視点を得られた』『次は』、なんて呑気な思考に水を指すように。

 

私が過去にあった武術家の先生――その『達人の身体』に憧れて繊細な身体操作の方面の才能を伸ばすキッカケになった先生――が、今の私の体たらくを見たら⋯⋯。

考えるだけで恐ろしい。

 

「篠崎さん? どうしたの?」

ぶるっと震えた後に、首を横に降って思考を飛ばす私が奇妙に映ったのだろう。雨宮くんが声をかけてきた。

 

「いや、なんでもないわ。ゲームだもの、現実で死ぬわけじゃあるまいし、何度もやりましょう」

「うん? そうだね? 次やろう」

 

要は、敵の弾に当たらずに敵に当てる、を戦略と戦術と戦闘レベルでどう作るか、だ。

私はこのゲーム固有の戦術や戦略は身体に入っていない。なので、まずは私の過去に向上させた身体操作で下駄を履ける戦闘レベルで最適化をしていこう。

 

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