オホーツクの暁鐘 ~アイヌと極寒の諸民族を導き巨大連邦国家を創る~   作:サウス

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第19話:春の雷鳴と、黒き砂の産声【1660年 春】

 凍てつく冬が終わり、サㇽ・ペッ(沙流川)の分厚い氷が溶け出し、森が芽吹きの喜びに包まれる1660年の春。

 内陸のニプタイ(二風谷)の広場は、外の喧騒とは全く違う、歓喜と活気に満ち溢れていた。

 

 「ハルコル様、ペカンクㇽ様! 各地へ向かっていた使者たちが、無事に雪解けの道を越えて戻ってきました!」

 

 長旅を終えたウタやソウカたちの誇らしげな声が響き渡る。

 彼らは全道四方向の大コタンへ赴き、無事に『エモ』の種芋を届け、その栽培方法を伝授するという大役を果たして帰還したのだ。

 

 「おお、よく無事で戻った! して、向こうの首長たちの反応はどうだった?」

 

 ペカンクㇽが身を乗り出して問うと、口の達者な若者の一人が笑顔で答えた。

 

 「ええ! エモの驚異的な収穫量と、雪の下でも腐らない強さを知った首長たちは皆、目を丸くして喜んでおりました。特にトカㇷ゚チ(十勝)やイシカㇼ(石狩)の首長からは、『来年も引き続き、正しい栽培の指導に来てほしい』と強い要望を受けております!」

 

 ハルコルとペカンクㇽは顔を見合わせ、深く頷いた。

 これで、エモを媒介とした全道を繋ぐ太い情報・物流のパイプが、確実に機能し始めたのだ。

 

 「……だが、ソウヤ(宗谷)へ向かった者の姿が見えないな」

 

 ハルコルの問いに、ペカンクㇽは北の空を仰ぎ、重々しく首を振った。

 

 「ソウヤは遠い。このサㇽよりも雪解けは遅く、道もさらに険しい。あそこは大陸の者たちとの『山丹交易』の拠点でもあるからな。何か面白いものでも探しているのか、戻るにはまだしばらく時間がかかるだろう」

 

 「……そうですか。無事だといいのですが」

 

 ハルコルは北の空を見つめ、まだ見ぬ最北の地へ思いを馳せた。あの大陸と繋がる地から、何がもたらされるのか。その予感は、まだ微かな期待に過ぎなかった。

 

 「それと、約束通り各地の地層から『硬い石』をかき集めてきました。西のヨイチ(余市)に向かったソウカは、海辺でこんな白く透き通った綺麗な石ころも拾ってきてます。さらに……トカㇷ゚チの使者からは、ハルコル様が言っていた『燃える黒い石』も、少しですが見つけて持ち帰りましたぜ」

 

 使者たちが背中の荷を下ろすと、そこには色とりどりの見慣れぬ硬い石の欠片や、ガラスのように白く透き通った石、そして少量の真っ黒な石炭がゴロゴロと転がり出た。

 

 それを見た野鍛冶のカニタは、煤けた顔にニカッと白い歯をこぼした。

 

 「こいつはすげえ! お前ら、これだけ各地の石の標本をいっぱい持ち帰ってきてくれたんなら、俺の工房で片っ端から鉄に打ち付けて色々と試してやらあ!」

 

 

 

 

 

 

 そして数日後。

 堅牢な空堀と巨大な土塁に守られたニプタイは、再び静寂に包まれていた。

 村の中心から遠く離れた、山際の端に作った隔離工房である。

 

 「……ハルコル様。言われた通り、冬の間にあの『焙烙(ほうろく)』を十個ばかりこしらえておきやしたぜ」

 

 熱気と煤(すす)にまみれた村の若き腕利きの野鍛冶・カニタが、ゴロリと重い素焼きの壺を土の床に転がした。

 カニタは、和人から入ってくる鉄器の修理で村の生活を支えてきた男だが、最近はハルコルと共に全く未知の兵器開発にのめり込み、技術者としての血を激しく沸き立たせている。

 

 彼が床に置いたのは、直径は握り拳より一回り大きい程度の陶器の壺。上部には、小指の先ほどの小さな穴が空けられ、そこから硝石の汁を染み込ませた麻の紐(導火線)が伸びて、木の栓で硬く塞がれている。

 

 「ありがとう、カニタ。完璧な仕上がりだよ」

 

 ハルコルは壺を手に取り、そのずっしりとした重みを指で確かめた。

 中には、前世の黄金比率で調合された『黒色火薬』と共に、使えなくなった鉄の鏃(やじり)の欠片、鋭い小石、そして粘り気のある『ヒグマの脂』が隙間なくギッシリと詰め込まれている。

 

「だがハルコルよ。そんな割れやすい土の壺を、一体何に使うのだ? 武器にするなら、貴重な鉄を使ってでも槍の穂先や鏃を打った方がよほど役に立つだろうに」

 

 工房の入り口で太い腕を組んでいた父・ペカンクㇽが、訝しげに眉をひそめる。

 

 「貴重な鉄の塊を、使い捨ての武器にする余裕は今の僕らにはないからね。だから、外の殻は安くて量産できる土の壺でいいんだ。……その代わり、中身が『雷』になる」

 

 ハルコルは、完成した恐るべき兵器――『焙烙火矢(ほうろくひや)』を手のひらで転がした。

 

「雷……? これを敵に投げつけるというのか?」

 

「百聞は一見に如かずだよ。父さん、カニタ。雪も溶けたことだし、少し離れた岩場へ行こう」

 

 

 

 サㇽの森のさらに奥深く。人を寄せ付けない険しい渓谷の岩場。

 ペカンクㇽ、カニタ、そして護衛として同行したカントたち巡回部隊の者たちは、ハルコルの指示で巨大な岩の陰に身を潜めていた。

 

 「絶対に、岩から頭を出さないでね。飛び散る破片に当たれば大怪我をする」

 

 ハルコルはそう真剣な顔で念を押すと、十数歩離れた場所にある、岩の裂け目に向かって歩み寄った。

 そして、手元の火打ち石を叩き、壺から伸びる麻の紐(導火線)に火をつける。

 

 チリチリチリッ!

 

 火花を散らしながら、凄まじい速度で紐が燃え進んでいく。

 ハルコルはそれを岩の裂け目の奥深くへと力いっぱい投げ込み、自らも全速力で岩の陰へと飛び込んだ。

 

 「耳を塞いで、口を少し開けて!!」

 

 ペカンクㇽたちが、ハルコルの切羽詰まった声に従って両耳を塞いだ、次の瞬間。

 

 ――ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!!

 

 春の森を、天地がひっくり返るような凄まじい轟音が揺るがした。

 

 「な、にぃっ!?」

 

 ペカンクㇽは思わず目を見開いた。

 岩の裂け目から、真っ赤な閃光と漆黒の噴煙が間欠泉のように噴き上がり、強烈な爆風が周囲の木々の葉を根こそぎ吹き飛ばしたのだ。

 ドンッ、バラバラバラッ! と、空高く吹き飛ばされた無数の岩の破片や、壺の中に仕込まれていた鉄の破片が、恐るべき速度の『散弾』となって雨のように彼らの頭上の木々に降り注ぐ。

 

 「カムイフㇺ(雷の神の鳴き声)だ……! カムイがお怒りになったんだ!!」

 

 カントの部下の若者たちが、恐怖のあまり地に這いつくばり、ガタガタと震え出した。

 

 「怒ってなんかいないよ。見てごらん」

 

 噴煙が晴れた後。ハルコルに促されて恐る恐る顔を出したペカンクㇽとカントたちは、その光景に息を呑んだ。

 壺が投げ込まれた強固な岩の裂け目は、内側から完全に粉砕され、黒い焦げ跡とともに無残な大穴を開けていた。周囲の木々の幹には、壺に仕込まれていた鋭い鉄片や小石が、まるで蜂の巣のように深く突き刺さっている。

 さらに恐ろしいことに、幹に突き刺さった鉄片の周囲には、高温で引火した『ヒグマの脂』がへばりつき、真っ黒な煙を上げて執拗に燃え続けていた。

 

 「……なんという、凄まじい破壊力だ」

 

 歴戦の長であるペカンクㇽの声が、微かに震えていた。

 

 「これが、あの安っぽい土の壺一つが起こした力だとでもいうのか。もしあの中に、人がいれば……」

 

 「ただではすまないね。分厚い鎧を着た和人の武士であっても、この全方位へ飛ぶ鉄の散弾と、水でも消えない燃える脂の前には、戦う力を失うだろうね」

 

 ハルコルは、突き刺さった鉄片を指で撫でた。

 

 「弓の腕前も、鍛え抜かれた肉体の強さも関係ない。火をつけて敵陣に投げ込むだけで、誰でも『雷の神(カムイ)』と同じ力で敵の陣形を面ごと制圧できる。……これが、和人たちが独占してきた火薬の正体だ」

 

 圧倒的な暴力の結晶。

 アイヌの歴史上、誰も手にしたことのない『近代の兵器』が、今まさにこのサㇽの森で完成したのだ。

 

「すげえ……ハルコル様、ただの土の壺が、とんでもねえ悪魔に化けやがった……!」

 

 カニタは恐怖よりも技術者としての圧倒的な興奮に身を震わせ、砕けた岩肌を食い入るように見つめている。だが、ふと職人としての現実的な懸念がその顔をよぎった。

 

 「だがよ、ハルコル様。こいつはすげえ破壊力だが、自分の手で火をつけて投げなきゃならねえ。もし手元で暴発したり、投げるのが遅れたりしたら、味方ごと吹き飛んじまうぞ」

 

 「その通りだ。だから、扱うには特別な訓練が必要になる」

 

 ハルコルはカントの方を向いた。

 

 「火をつけてから爆発するまでの『導火線の長さ(時間)』を完璧に体で覚えること。そして、敵陣の奥深くへ安全に投げ込むために、アイヌの猟師が使う『投石紐(スリング)』のような、遠心力を使う道具を組み合わせるんだ。そうすれば、敵の弓矢が届かない安全な距離から、この雷を降らせることができる」

 

 「なるほど……。狩りの投石の要領でこいつを遠くへぶっ飛ばすのか。それなら味方が巻き込まれる危険も減るな」

 

 カニタがニカッと白い歯を見せて笑うと、カントも「俺たちの腕の見せ所だな」と頼もしく頷いた。

 

 「これを、量産できるのだな?」

 

 ペカンクㇽの目に、恐怖をねじ伏せた『統治者』としての恐ろしい冷光が宿った。

 

 「うん。でも、問題が二つある」

 

 ハルコルは慎重に言葉を継いだ。

 

 「一つは、取り扱いの難しさと保管だ。少しでも火の粉が落ちれば、味方ごと吹き飛ぶ。カントたちの『投擲(とうてき)の訓練』が完璧に終わるまでは、絶対に地下の工房から外へは出せない。数年は、ひたすら慎重に作り溜め、訓練に費やす時間になる」

 

 ペカンクㇽは一つ頷き、「妥当な判断だ」と同意した。

 

 「もう一つは、原料だ。津軽商人から手に入れた硝石と硫黄はまだ山のように地下蔵にあるから、百個や二百個の『焙烙』は作れる。でも……津軽の商人との裏の交易路がいつ絶たれるか分からない以上、いつか必ず『硝石』が底を突く。和人と対等に渡り合うには、この白い粉を、僕たち自身の手でゼロから作り出せるようにならなきゃいけない。硫黄の方は考えがあるけど……」

 

 「あの白い粉を、我らの手で作れるというのか?」

 

 「作れるよ。だけど、とてつもない『時間』がかかる」

 

 ハルコルは足元の土を軽く踏みしめた。

 

 「ヨモギなどの枯れ草、村の便所から出る糞尿、そして囲炉裏の灰。それを混ぜ合わせて雨の当たらない小屋の下に積み上げ、ひたすら何年もかけて発酵させるんだ。そうすれば、土の中に火薬の命である『硝石』が自然に結晶化してくる。……『培養硝石(ばいようしょうせき)』の巨大な床(土の山)を、作るんだよ」

 

 土と灰と便所の尿から、和人の恐れる雷(火器)が生まれる。

 突拍子もない話に聞こえたが、眼の前の凄まじい大穴と燃える脂を見せられたカニタやカントたちは、目をギラギラと輝かせて頷いた。

 

 「やりましょう、ハルコル様! 俺は鉄を打つだけじゃねえ、その雷の粉作りも俺に任せてくだせえ!」

 

 「何年もかかる、か」

 

 ペカンクㇽはニヤリと笑い、ハルコルの肩を力強く叩いた。

 

 「何年かかろうが構わん。エモのおかげで、我らにはそれを待つだけの『時間』も『飯』も、有り余っているのだからな」

 

 「そうだね。……今すぐ始めよう」

 

 

 

 

 

 

 数日後の午後。ニプタイの広場には、戦う力を持たない難民たちや、老人、そして村の子供たちが大勢集められていた。

 彼らの前に立っているのは、白木の板と炭の筆を握りしめたミナである。

 

 「聞いて! 今日から、この村の『便所』の仕組みを完全に変えます!」

 

 ミナの凛とした声が響き渡った。

 

 「これまでは村の外れで済ませていたけれど、今日からは新しく掘った『共同の厠(かわや)』だけを使うこと。そこには大きな桶を置いて、尿を一滴残らず集めます。集めた尿は、雨が絶対に当たらないように新設した『発酵小屋』へ運ぶこと」

 

 村人たちがざわつく中、ミナは炭の筆で板を叩いて静まらせた。

 

 「それだけじゃないわ。各家の囲炉裏から出る『灰』も、これからは絶対に捨てないで回収します。さらに、子供たちと足腰の強い老人たちは、春の森に入ってヨモギの葉を根こそぎ刈り集めてきてちょうだい!」

 

 「ミナ。そんな汚い尿や、燃えかすの灰なんか集めてどうするんだ?」

 

 老婆の一人が尋ねると、ミナは背筋を伸ばし、力強く答えた。

 

 「それらが、この村を……アイヌモシㇼを守る『最強の武器』に変わるの。男たちが剣や弓を持つように、私たちにしか作れない武器よ。今日から、この村の尿も灰も、決して捨てていいゴミじゃない。すべてが計算された『資源』になるの」

 

 広場の隅でその様子を静かに見守っていたハルコルは、彼女の頼もしい背中に目を細めた。

 (……いいぞ。共同の厠を一箇所にまとめて管理するのは、火薬の原料を集めるためだけじゃない。村のあちこちで無差別に用を足す習慣をなくすことで、地下水や川の汚染を防ぎ、村の『衛生環境』を劇的に改善できる。疫病や寄生虫が蔓延すればコタンが全滅しかねないこの時代において、実はこの公衆衛生の徹底こそが、目に見えない最大の防衛策にもなるんだ)

 

 ハルコルが描いた突拍子もない構想を、ミナという類稀な実務者が完璧な『村のシステム』へと落とし込んでいく。

 誰一人遊ばせない。無駄なものを一切出さない。

 こうしてニプタイで、ヨモギと土、灰、そして尿を何層にも重ねた巨大な『培養硝石の床』がいくつも築き上げられた。それは、強烈なアンモニア臭を放ちながら、いつかの反撃に向けた「砂」を静かに産み出し始めたのである。

 

 

 

 

 

 

 ニプタイが、来るべき戦いに向けて異様なまでの泥臭い熱気に包まれていた同じ頃。

 サㇽの森を抜け、潮の香りが漂うサㇽ川の河口――海沿いのシャクシャイン陣営の防衛線では、全く別の空気が支配していた。

 

 「がははっ! 見ろ、この見事なサクラマスを! サㇽの川の恵みは、我がシペチャリ(静内川)の本拠地に次ぐ圧倒的な規模だ!」

 

 「春の雪解け水に乗って、丸々太った川魚がいくらでも遡上してきやがる! この豊かな川を完全に押さえた以上、今年の秋の鮭漁も我がシャクシャイン軍の独壇場だぜ!」

 

 サㇽ川の河口に築かれたシャクシャイン軍の前線拠点。ハルコルのニプタイ陣営が「西のオニビシに対する防波堤」として彼らを駐留させているその砦では、真っ昼間から盛大な宴が開かれていた。

 広場の中央では赤々と焚き火が燃え上がり、串刺しにされた大ぶりのサクラマスやウグイが極上の脂を滴らせている。

 

 「おい、もっと和人の酒を持ってこい! 腹が減っては戦はできんからな!」

 

 「へへっ、戦なんて起きやしねえよ。西のオニビシの狂犬どもは、冬の飢えで骨と皮だけになっちまってるって噂だ。この頑丈な丸太の砦に、飢えた死に損ないが攻め込んでこれるはずがねえ!」

 

 前年の秋からこの地を押さえ、冬の間もニプタイからの「食料の支援」を受けて飢えを知らずに過ごしてきた彼らにとって、この強固な柵と見張り櫓(やぐら)を備えた砦は、絶対の安全圏に思えていた。

 物見櫓の上に立つ見張り兵たちも、手に持つ槍をだらりと下げ、暗い海や西の森を警戒するどころか、背後から漂ってくる美味そうな焼き魚の匂いと、仲間たちの陽気な笑い声ばかりを振り返っていた。

 

 大軍勢と、強固な拠点、そして目の前に広がる尽きることのない川の幸。

 東の覇王・シャクシャインの威光を笠に着た彼らの心には、致命的なまでの『慢心』と『油断』が根を張っていた。

 

 

 

 「……ひどい有様だな」

 

 河口から少し離れた森の木の上。周囲の偵察に訪れていた遊撃隊長のカントは、深い溜め息を吐いた。

 カントたちが冬の間、猛吹雪の中で凍傷ギリギリの雪中訓練を重ねていたというのに、最前線を任せているはずの同盟者は、ただ春の陽気と食料に酔いしれ、完全に牙を抜かれていたのだ。

 

 「隊長……。あいつら、見張りの数も冬の半分以下に減らしてますぜ。もし今、オニビシの軍勢が死に物狂いで攻めてきたら……」

 

 部下の若者の言葉に、カントは険しい顔で首を振った。

 

 「あんな緩みきった空気じゃ、奇襲をかけられれば一溜まりもねえ。……嫌な予感がする。すぐに報告だ」

 

 カントの胸に去来したその不吉な予感は、この数日後、最悪の形で現実のものとなる。

 南の海沿いで、ハルコルが恐れていた「歴史の津波」が、いよいよニプタイの要塞へと牙を剥き始めていた。




第19話をお読みいただき、ありがとうございます!

おまけの解説コーナーです。

【てつはう(鉄砲/震天雷)と焙烙火矢(ほうろくひや)】
鎌倉時代の「元寇(モンゴル帝国による日本侵攻)」の際に、元軍が実戦投入した世界最古クラスの「手投げ爆弾」が『てつはう』です。歴史の教科書などでおなじみの絵巻物『蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)』にも、空中で破裂して炎と轟音を上げる様子がはっきりと描かれています。これをルーツとし、日本の戦国時代に村上水軍などが使用した手投げ爆弾が「焙烙火矢」です。
史実のこれらは、主に陶磁器の中に黒色火薬(とスクラップ等)を詰めて導火線に火をつけて投擲するもので、爆音で敵をパニックに陥らせ飛び散る破片で殺傷する恐ろしい兵器として猛威を振るいました。長崎県の海底遺跡からも当時の現物が引き揚げられています。

【アイヌとモンゴル帝国】
実は、元軍は九州だけでなく、北の樺太(カラフト)にも侵攻し、アイヌの人々と激しい戦争を繰り広げていました。当時、海を渡って大陸方面へ進出していたアイヌ(中国の記録では骨嵬/クイと呼ばれます)に対し、元(モンゴル帝国)は軍勢を派遣。アイヌの戦士たちは、世界最強の大陸帝国を相手に数十年もの間、地の利を生かしたゲリラ戦で頑強に抗戦を続けたという史実があります。
もしかすると、当時のアイヌたちも大陸の部隊が使う『てつはう』の恐るべき轟音を耳にしていたのかもしれません。

【培養硝石(古土法)】
天然の硝石鉱山を持たなかった日本において、戦国時代などに行われていた硝石の自己生産技術です。雨の当たらない床下に、ヨモギなどの草、土、そして人間の尿(窒素成分)や囲炉裏の灰(カリウム)を何層にも積み重ねて数年間発酵させると、バクテリアの働きによって土の中に「硝酸カリウム(硝石)」が結晶化します。文字通り、ウンコとオシッコから雷(火薬)を生み出す魔法のような、しかし非常に泥臭く時間のかかる化学技術です。


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