オホーツクの暁鐘 ~アイヌと極寒の諸民族を導き巨大連邦国家を創る~ 作:サウス
パキィン。
また、割れた。
カニタは、薄く伸ばした鉄の板を金床から拾い上げ、しばらく無言でその裂け目を見つめていた。
山丹の銃身を分解して測った厚さに合わせて、ニプタイの自製鉄を叩いて伸ばした板だった。長さは大人の腕ほど。叩いて伸ばし、丸めて筒に近づけ、継ぎ目を鍛接しようとした──その途中で、朝の冷気に冷えた金床に当たった瞬間、板の端が薄く裂けた。何度目だったか。──七度目だ。冬の囲炉裏で、ペカンクㇽ様に「半年か、一年か」と頭を下げた、あの夜から、まだ二月(ふたつき)も経っていない。
工房の天井から、煤の塊がぱらりと落ちてきた。
外は、春の朝。屋根の縁から残り雪の滴が垂れ、軒下の地面に小さな水溜まりをいくつも作っている。日中の陽は日ごとに強くなり、工房の土間にも光が差し込むようになった。だが、明け方はまだ指先が強張る。
「ちっ……」
カニタは、舌打ちを一つ呑み込んだ。
炉の前にしゃがみ込み、両手を火に翳した。指先の感覚が、戻ってこない。煤に汚れた爪の間に、鉄粉が黒く詰まっている。──三十年近く、この手は鉄を叩いてきた。和人の古釘を、買い叩いた地金を、折れた鎌を、欠けた鉞を。飾るような上等な鉄ではない。日々の暮らしの中で、人の手から零れ落ちる鉄ばかりを、もう一度形にしてきた手だった。
その手が、銃身の前で、初めて止まっている。
(俺の鉄は、山丹の銃身の鉄に届かねえ)
ずっと、そう思ってきた。
山丹の鉄砲を分解した時──筒の断面を覗き込んだ瞬間に、腰が抜けた。薄い。硬い。それなのに、叩いて確かめると、奇妙に柔らかい手応えが芯から返ってきた。あの感触は、今も指の腹に残っている。
硬さと粘りの両立。
ハルコル様は、それを「銃身の壁」と呼んだ。
俺は、その壁の前で、ずっと「未熟だ」と思ってきた。──俺の炉の鉄が、まだ山丹の鉄に届いてねえ。だから硬さが足りねえのか、粘りが足りねえのか、そのどちらが足りねえのかを見極めて、足りねえ方を継ぎ足してやれば、いつか届くはずだ、と。
その方角で、二月の間、走ってきた。
走った先が──七度目の、パキィン、だった。
カニタは、立ち上がった。
炉の灰を一つかみ手に取って、割れた鉄の板の上にぱらぱらと落とした。それから、片付けの動作を止めた。
灰の落ちる音だけが、しばらく工房に残った。
「……待てよ」
声が、自分の口から漏れた。
誰に向かって言ったわけでもない。ただ、頭の中で何かが、ゆっくりと向きを変えた。
(俺は、いま、何を作ろうとしてるんだ)
山丹の銃身の鉄に「届かせよう」としている。
──だが、そもそも、俺の鉄は、山丹の鉄に届かなきゃならねえのか?
奇妙な問いだった。
三十年、鉄を叩いてきた職人の頭の中で、その問いは、今まで一度も立ち上がったことがなかった。いい鉄は、より硬く、より粘り、より澄んだ音を出すもの。──それが、俺の中の物差しだった。和人の古釘を叩く時も、津軽の地金を打ち直す時も、ニプタイの自製鉄の音が初めて澄んだあの春の日も。いい鉄という、ひとつの方角があった。
山丹の鉄も、そのいい鉄の頂点のどこかに置かれていた。
届かない頂点。
だが──
カニタは、作業台の隅に置いてあった、山丹の鉄砲の銃身を手に取った。冬の終わりに分解して以来、工房の見本として保管してある一本。鈍い灰色。手の中で、ずしりと重い。
その隣に、自製鉄の塊を置いた。砂鉄団子から取れる、握り拳ほどの塊。表面に薄く油を引いた、最近の出来。
二つ並べて、改めて見比べる。
(……色が、違う)
よく見れば、色が違う。
山丹の銃身は、灰色の中に青みがかった陰影がある。指でなぞると、表面は滑らかなのに、内側にうっすらと木目のような筋が見える──折り返し鍛えた跡か、巻き張りの継ぎ目か。
俺の自製鉄は、灰色の中に黒みが残っている。鉄滓の名残ではない。鉄そのものの色合いが、違う。
(手触りも、違うな)
カニタは、指の腹で両方の表面を撫でた。山丹の銃身は、撫でていると、なぜか掌に吸いつくような感触がある。俺の鉄は、撫でていると、指が滑る。鉄そのものの質感が、違う。
三十年の物差しが、わずかに揺らいだ。
未熟という一言で片付けてきた手応えの、その下に、何かが隠れている気がする。
だが、まだ分からない。
(……手元にある鉄を、全部、並べて、叩いてみるしかねえ)
カニタは、低く呟いた。
炉に薪を足し、熾火を起こし直した。煤に汚れた手拭いを首から外し、額の汗を拭く。──汗をかいていた。天秤鞴を踏んだわけでもないのに、頭の奥が熱い。
工房の隅から、小さな試打ち用の鉄槌を取ってきた。鍛造の槌ではない。火花を見たり、鉄の音を聞いたりするための、軽い槌だ。
そして、棚を見渡した。
(俺の手元にある鉄を、全部、並べてみる)
まず、山丹の鉄砲の銃身。これが一つ。
次に、津軽から手に入れた和人の地金。鉄塊の一つを棚から下ろした。表面に薄く錆が浮いている。
そして、ニプタイの今の自製鉄。砂鉄団子と送風三段階で取れた、安定期の塊。
もう一つ──カニタは工房の奥に向かい、棚の最下段から、油紙に包んだ古い鉄塊を取り出した。
砂鉄団子にする前の、まだ手探りだった頃の、いびつな鉄塊。あの春の三度目、四度目あたり。
(あの頃の鉄は、ずっと「失敗作」だと思ってた。今の鉄より澄んだ音がしねえから、未熟な鉄だと。──だが、今日は、それも改めて聞いてみる)
カニタは、その古い鉄塊を、油紙のまま作業台の隅に置いた。今は触らない。後で叩く。
四つの鉄が並んだ。
だが、もう一つ、足りない気がした。
(和人の刀の鉄が、要る)
山丹の銃身、和人の地金、ニプタイの今の鉄、ニプタイの古い鉄──四つだけでは、自分の物差しを置く土台が足りない。地金よりも上等で、和人の鍛冶屋が極限まで叩き込んだ鉄の音を、一つ知っておきたい。それと比べることで、残りの四つの位置がはっきりする気がした。
そういう鉄が、この村に、一つだけ、ある。
カニタは、しばらく動かなかった。
工房の薪が、ぱちりと爆ぜた。
「……ペカンクㇽ様の、脇差か」
あれは、ペカンクㇽ様が、若い頃の交易で和人から手に入れたという脇差だ。山丹の品が北からヨイチを通って下りてくるのと逆向きに、南からも和人の品が時々こちらに流れてくる。あの脇差も、そうした流れの果てにペカンクㇽ様の手元へ来た一振りだったと聞いている。──以来、長押に掛けたまま、ペカンクㇽ様は一度も鞘から抜いていない、と。
俺ごときが「貸してくれ」と言えるものではない。
だが──
カニタは、額の汗を、もう一度拭った。
(あれの音を聞ければ、四つの鉄の位置が、はっきりする。──土台のない物差しは、ただの棒切れだ)
カニタは、自分の中で、奇妙な順序で考えが組み上がっていることに気づいていた。
仮説などという言葉を、俺が頭に持ったのは、いつからだ?
ハルコル様と一緒に天秤鞴を踏み始めた頃か。ミナが帳簿を持って炉の脇に座るようになった頃か。──いや、もっと前だ。瑪瑙の撃発仕掛けを十四回作り直した時に、俺は「焼き入れの温度が原因だ」と頭で見当をつけた。あれが、たぶん、仮説、というやつだった。
あの時から、俺の頭の中身は、少しずつ、変わっていた。
(俺は、ペカンクㇽ様に、頭を下げに行く)
カニタは、決めた。
◆
昼前。
カニタは、工房の煤を落とし、髭を剃り、襟元を整えた。
チセに上がる前に、入口の前で一度、深く息を吸った。
戸を引き開けると、ペカンクㇽは、奥の囲炉裏の脇で、エゾシカの皮を伸ばす木枠を調整していた。
カニタは、戸口で胡坐をかき、深く頭を下げた。
「ペカンクㇽ様。お願いがあります」
ペカンクㇽが、手を止めた。
「……何だ」
「和人の、脇差を──」
声が、思ったより掠れた。
「二、三日、お貸しいただけねえですか」
ペカンクㇽは、しばらく動かなかった。木枠を膝の上に置いたまま、カニタを見ていた。
「脇差で、何をする」
「鉄の音を、聞きたいのでさあ」
カニタは、頭を下げたまま、続けた。
「銃身の試作で、七度、割っちまいました。届かねえ。……今朝、手元の鉄を並べて見比べてみたら、山丹の銃身と俺の鉄じゃ、どうも性質が違う気がするんでさあ。──だが、それを確かめるには、比べる土台が要る」
「土台」
「俺の手元には、山丹の銃身、津軽の地金、ニプタイの今の鉄、ニプタイの昔の鉄。──四つあるんですが、これだけじゃ、どっちが上か下か、どれが基準か、よく分からねえ。だが、ペカンクㇽ様の長押の脇差は、和人の刀鍛冶が、極限まで叩き込んだ鉄だ。あれの音を一つ聞かせてもらえれば、残り四つの位置がはっきりする」
「刃を、叩くのか」
「めっそうもねえ」
カニタは、慌てて顔を上げた。
「叩くのは刃の棟でさあ。鎬地(しのぎじ)の根元──刃文から大きく離れた、刃ではねえ側を、ごく軽く弾くだけだ。傷はつけねえ。音だけ聞きてえ。それと、表面の艶。──刃には、指一本触れさせねえ」
ペカンクㇽは、しばらく、カニタの顔を見ていた。
炉の火が、ぱちりと小さく爆ぜた。
やがて、ペカンクㇽは、立ち上がった。
長押に手を伸ばした。鞘付きの脇差が、掛かっている。ペカンクㇽは、それをカニタの前に静かに差し出した。
「お前の手なら、貸す」
カニタは、両手で、それを受け取った。
「……ありがとうごぜえます」
「叩かれて鳴る方が、しまわれて錆びるよりはいい」
ペカンクㇽは、それだけ言って、また囲炉裏の脇に座った。木枠を膝に戻し、エゾシカの皮の縁を、再び指でなぞり始めた。
カニタは、もう一度深く頭を下げ、脇差を両手で抱えてチセを出た。
外の光が、目に痛かった。
(叩かれて鳴る方が、しまわれて錆びるよりはいい)
工房までの道すがら、その言葉が、何度も頭の中で鳴った。
三十年、俺は鉄を叩いてきた。──だが、ペカンクㇽ様の言い方は、その三十年を、別の角度から照らしてくる。鉄は、叩かれることで、自分が何の鉄かを思い出す。叩かれない鉄は、何の鉄かさえ分からないまま、しまわれて錆びていく。
俺がこれから叩くのは、長く、しまわれていた鉄だ。
脇差は、俺の腕の中で、冷たく重い。
◆
工房に戻ると、カニタはまず手を洗い、白い手拭いで手を拭き直した。それから、作業台の隅の、一段高い位置に、布を敷いた。脇差は、刃を下ろさず、布の上に静かに横たえる。柄の方も布で包んだ。
残りの四つ──山丹の銃身、和人の地金、ニプタイの今の鉄、ニプタイの古い鉄──は、作業台の中央に並べた。
炉の火を一段強めた。試打ち用の小さな鉄槌を握り直した。
「じゃあ──始めるぞ」
誰に言ったわけでもない。
工房の中には、カニタ一人だった。
まず、一つ目──山丹の銃身。
筒の外側──銃口から離れた、厚みのある根元寄りの部分を、ごく軽く、小さな槌で弾いた。
ゴンッ。
澄んだ金属音ではなかった。重く、低く、芯まで響かずに途中で吸い込まれるような、鈍い音。──三十年、鉄を叩いてきた耳が、何度かこの音に出会ったことがある。和人の古釘の中の、出来の悪い、柔らかい奴。あれと似ている。だが、違う。古釘の柔らかい音は、もっとぼやけた音だった。これは、ぼやけてはいない。鈍いが、芯はある。
もう一度、叩く。
ゴンッ。
(粘る)
槌が当たった瞬間、鉄が少し沈むような感触が、掌に確かに伝わってきた。跳ね返ってこねえ。槌を握る掌に、鉄が槌を吸い込もうとする力が、薄く滲み出てくる。
「……俺の鉄じゃ、こうはならねえ」
声に出した。
次、二つ目──和人の地金。
ガキィン。
カニタは、わずかに眉を上げた。
山丹の銃身より、跳ね返りが強い。掌に来る衝撃が、明らかに違う。だが、跳ね返り方に、底があった。真っ直ぐに跳ね返ってくるんじゃない。途中で、何かが受け止めて、それから跳ね返ってくる。──硬さの中に、粘り。
もう一度、叩く。
ガキィン。
(叩きやすい鉄だ。和人の鍛冶屋が、長い時間かけて練り上げた地金──そういう手応え)
古釘ほどぼやけてはいない、地金の鉄。叩けば形になる。割れにくい。延びる。──和人の野鍛冶が、これを基準に道具を作ってきたのが、よく分かる。
山丹の銃身よりは硬い。だが、山丹の銃身ほど粘ってはいない。
次、三つ目──ニプタイの今の自製鉄。
キィィンッ。
澄んだ音。
工房の天井に、その音が響き渡った。あの春以来、何度も聞いてきた、ニプタイの誇りの音。──和人の古釘とは比べもんにならねえ、と、俺は喜んだ。あの音が、自分の手で生み出した最初の鉄の、いい音だ、と。
もう一度、叩く。
キィィンッ。
(跳ね返りが、強い。──だが)
(粘りが、少ねえ)
今、山丹の銃身のあの「沈む」感触を知った後で叩くと、ニプタイの今の鉄は、槌を弾き返してくる。掌に来る衝撃が、山丹の銃身より、和人の地金より、ずっと真っ直ぐだ。芯の方に沈んで受け止める力が、山丹の銃身ほどはねえ。
硬えだけが、前に出ている。
三十年、俺はいい鉄を、こういう音だと思ってきた。
矢じりを打つには、これでいい。澄んだ音の鉄は、よく刺さる。小刀を打つには、これでいい。澄んだ音の鉄は、よく切れる。鉞を打つにも、これでいい。澄んだ音の鉄は、欠けにくい。
だが──
カニタは、山丹の銃身を、もう一度、隣に置いた。
(こいつにはならねえ)
澄んだ音は、銃身の音ではない。
火薬が爆ぜた瞬間、澄んだ音の鉄は、内側から押される力を沈んで受け止めない。弾き返そうとする。だが、外には逃げ場がない。逃げ場のない力は、鉄そのものを割る。
パキィン、と。
俺が、七度、聞いた音だ。
「……そうか」
カニタは、低く呟いた。
三十年の物差しが、初めて、揺らいだ。
次、四つ目──ニプタイの古い試作鉄。砂鉄団子にする前の、手探りだった頃のいびつな塊。
ゴンッ。
カニタの手が、止まった。
(……鈍い)
もう一度、叩く。
ゴンッ。
(鈍い。そして、粘る)
カニタは、息を呑んだ。
──これは。
──山丹の銃身の音と、似ている。
「……何だこりゃ」
声が、自分の口から漏れた。
もう一度、もう一度、と試作鉄を叩いた。何度叩いても同じだった。鈍く、芯まで響かずに、槌を吸い込むような感触。──山丹の銃身と、ほとんど同じ手触り。
だが、カニタは、まだ「答え」を口にしなかった。
(……分からねえ。どうしてだ。同じ砂鉄、同じ炉、同じ手で取れた鉄が、なぜこんなに違う音をする)
(まだ、もうひとつある)
カニタは、脇差を見た。
最後の、一つ。
手拭いをもう一度かけ直し、白い手拭いで手を拭き直した。柄を布で包んだまま握り、鞘から、ゆっくりと刃を抜いた。
刃が、現れた。
春の工房の薄暗がりの中で、刃文が水に浮いた波紋のように、わずかに光った。よく研がれている。ペカンクㇽ様が、長押にしまったままだと思っていたが、定期的に手入れしておられたんだろう。刃は鏡のように冷たく、棟の方は黒く落ち着いている。──和人の刀鍛冶の仕事だ。何十回、いや何百回、折り返して鍛えたか。鉄の中身が、隙間なく詰まっている、そういう面構え。
カニタは、刃の方には、指一本触れなかった。
刃を金床に対して水平に保ち、棟の根元──刃文から大きく離れた、刃ではない側を、ごく軽く、小さな槌で弾いた。
チィィィンッ。
澄んだ音が、工房を貫いた。
ニプタイの自製鉄の「キィンッ」よりも、さらに長く、さらに高く、さらに細く、尾を引いた。冬の朝の氷が割れる時の音に、どこか似ていた。
カニタは、息をするのも忘れて、その音の余韻を聞いていた。
もう一度、軽く弾いた。
チィィィンッ。
(硬え。──ニプタイの今の鉄より、もっと硬え。和人の地金よりも、はるかに硬え)
(だが、割れねえ)
刃物だ。割れたら使い物にならない。
叩く音は澄んでいる。芯まで一気に響く。鋼の中身が、隙間なく詰まっている、そういう音。
──ニプタイの今の鉄も、澄んだ音を立てる。だが、ニプタイの鉄は、たぶん、もっと脆い。叩けば、ある角度で割れる。脇差は、割れない。
(同じ「澄んだ音」でも、違う)
カニタは、刃を鞘に戻した。
布の上に静かに横たえ、両手で柄を布で包み直した。
それから、長く、息を吐いた。
作業台の上を、改めて見渡した。
五つの鉄が、それぞれの場所にある。
カニタは、しばらく考え込んでから、それらを、自分の中の物差しに従って並べ替えた。
左から──
脇差。
ニプタイの今の自製鉄。
和人の地金。
ニプタイの古い試作鉄。
山丹の銃身。
右に行くほど、柔らかい。右に行くほど、粘る。叩くと鈍い。
左に行くほど、硬い。左に行くほど、澄んだ音がする。割れる紙一重を、刃物だけが、組織の細かさで支えている。
「……俺の炉の鉄は、一種類じゃねえ」
カニタは、声に出した。
誰もいない工房の中で、自分自身に確かめるように、もう一度。
「俺の炉の鉄は、一種類じゃねえんだ」
五つの鉄が、横に並んだ。
その並びを目で追っているうち、カニタの頭の中で、ゆっくりと、一つの絵が立ち上がった。
(脇差は、何度も叩き直された鉄。──和人の刀鍛冶が、鉄を真っ赤になるまで灼いて、何度も折り返して、芯まで均してる。叩く時間が長え。火に晒してる時間も長え)
(俺のニプタイの今の鉄は、砂鉄団子に木炭の粉を練り込んで、炉の中で長く、じっくり、炭に触れさせて取った鉄だ。──炭との付き合いが、長え)
(ニプタイの古い試作鉄は、団子にしてねえ。砂鉄をそのまま放り込んだ。炭は周りに敷いただけで、砂鉄そのものに練り込んじゃいねえ。──炭との付き合いが、短かった)
(山丹の銃身は──ニプタイの古い試作鉄と、似てる。鈍い音、粘る性質。……もしかして、山丹の銃身を作る時も、炭との付き合いが、短かったんじゃねえか)
カニタの口の中が、急に乾いた。
(炭との付き合いの長さで、鉄の性質が変わる)
(炭と長く付き合った鉄は、硬くなる。澄んだ音を出す。だが、粘りが減る)
(炭と短く付き合った鉄は、柔らかい。鈍い音を出す。粘る。曲がる。割れにくい)
手が、震えた。
三十年、鉄を叩いてきて、初めて、この村の炉の中で起きていることが、形を持って頭の中に立ち上がった。
(いい鉄じゃねえ。──炭との付き合い方が違う鉄だったんだ)
だが──それだけじゃ説明がつかねえことも、ある。
同じ団子、同じ送風でも、時々、妙に違う音のやつが出る。春先に取った砂鉄で作った鉄が、他の季節のより澄んでいた気がする。──炭との付き合い方だけじゃねえ、何かがもう一つ、隠れてる。
だが、今日はここまでだ。まず、この物差しを、しっかり据え付ける。
カニタは、しばらく、作業台の縁に手をついて、頭を下げていた。
膝が、少し笑っていた。
三十年。
俺の物差しは、ひとつだった。
いい鉄と悪い鉄。
澄んだ音の鉄が、いい鉄。鈍い音の鉄が、悪い鉄。──そういう、縦に一本の物差し。
だが、今、俺の作業台の上には、横に並ぶ五つの鉄がある。
脇差は、刃物のための鉄。
ニプタイの自製鉄は、矢じりや小刀のための鉄。
和人の地金は、道具全般のための、扱いやすい鉄。
ニプタイの古い試作鉄は──たまたま、銃身に近い性質を持っていた、未熟だと俺が思っていた鉄。
山丹の銃身は、火薬の力を受け止めるための鉄。
(用途にあった鉄の種類が、ある)
(いい鉄、で終わってちゃ駄目だ)
カニタは、両手で顔を覆った。
しばらく、その姿勢のまま動かなかった。
三十年の物差しが、頭の中で、ゆっくりと横に倒れて、もう一本の物差しが、その横に横たわった。──縦の物差しと、横の物差し。
いい鉄と悪い鉄の縦の軸。
何の用途のための鉄かの横の軸。
俺が、今までやってきたのは、縦の軸を上に伸ばすことだけだった。
横の軸は、見えていなかった。
顔を上げた時、外の屋根から、また水滴が落ちる音がした。
「……上等じゃねえか」
カニタは、誰に言うともなく、低く笑った。
「三十年、鉄を叩いてきて、まだ知らねえことがある。──こいつは、上等な話だ」
立ち上がった。
炉に薪を足した。
手拭いで額の汗を拭き直した。
(──もう一回、自分の手を確かめる)
カニタは、ニプタイの今の鉄と、ニプタイの古い試作鉄を、もう一度、両手に握り直した。重さの違い。手触りの違い。色の違い。ひとつひとつ、目を閉じて、指の腹で、覚え直した。
三十年の物差しの隣に、新しい物差しを据え付ける作業だった。
◆
夕刻。
ハルコルが工房に顔を出した時、カニタは作業台の前に立っていた。
五つの鉄が、まだそこに並んでいた。脇差は、布の上に。残りの四つは、左から、ニプタイの今の鉄、和人の地金、ニプタイの古い試作鉄、山丹の銃身、の順で並べ直されている。
「カニタ。──夕方になっても工房から音がしないと聞いた」
ハルコルが、戸口で声をかけた。
「──大丈夫か」
「ハルコル様」
カニタは、振り返った。
顔は煤で黒い。だが、目が、いつもと違っていた。
「報告がごぜえます」
「うん」
「俺は、間違ってた」
ハルコルが、黙って次を待った。
「──いや、間違ってたんじゃねえ。足りてなかったんだ」
カニタは、作業台の鉄を顎で示した。
「俺はずっと、山丹の銃身に届かせようとして、銃身を試作してきた。届かねえのは、俺の鉄が未熟だから、と思ってた」
「うん」
「だが、今朝、山丹の銃身を撫でて、何かが引っかかった。未熟なんじゃねえ。種類が違うんじゃねえか、と。──それを確かめるのに、手元の鉄を全部、叩いて比べた」
「全部、というのは」
「山丹の銃身、津軽の地金、ニプタイの今の鉄、ニプタイの昔の試作鉄。──それと、ペカンクㇽ様にお借りした脇差。五つ」
「父さんが脇差を、貸してくださったのか」
「『叩かれて鳴る方が、しまわれて錆びるよりはいい』と、おっしゃっていただいた」
「……」
「叩いた音と手応えで、硬え順に並べると、こうだ」
カニタは、作業台の鉄を、左から右へ指でなぞった。
「脇差、ニプタイの今の鉄、和人の地金、山丹の銃身。──そして、別に、ニプタイの古い試作鉄。これは、山丹の銃身の隣だ。鈍い音、粘る性質」
「ニプタイの古い試作鉄が、山丹の銃身の隣……」
ハルコルの声が、わずかに止まった。
「同じ砂鉄。同じ炉。同じ俺の手。──だが、砂鉄団子にする前の鉄は、山丹の銃身に近え。砂鉄団子にしてからの鉄は、和人の地金に近え」
ハルコルは、しばらく作業台の上を見ていた。
「カニタ。──何が変わったと、お前は思う」
カニタは、答えた。
「炭との付き合い方だ。炭だけじゃねえ。叩き方も、火の当て方も、混ざりも違う。──だが、その中でも一番大きく違ってたのが、炭との付き合い方だった。」
ハルコルが、戸口の影で動きを止めた。
「団子にする前は、砂鉄が炭に触れる時間が短かった。鉄は炭をあんまり吸ってねえ。だから粘る。──団子にしてからは、砂鉄一粒一粒に木炭粉が張り付いてる。鉄は炭を長く、たっぷり吸ってる。だから硬え。だが、粘りが減る」
カニタは、脇差を顎で示した。
「脇差は、ニプタイの今の鉄より、さらに炭を吸ってる。だが、ただ吸ってるんじゃねえ。和人の刀鍛冶が、何度も折り返して、炭を芯まで均してる。だから、硬えのに割れねえ」
ハルコルは、しばらく、何も言わなかった。
ただ、作業台の上の鉄を、左から右へ、何度か視線で行き来させていた。眉を寄せ、わずかに口を開きかけ、また閉じる。
その表情を、カニタは黙って見ていた。
やがて、ハルコルが、低く呟いた。
「……鉄の性質、か」
「……ハルコル様?」
「……いや」
ハルコルは、首を軽く振った。それから、もう一度、五つの鉄を見渡した。
「カニタ。──正直に言う」
「へえ」
「僕は、鉄は鉄だと思ってた」
「……」
「もちろん、硬いのと柔らかいのがある。叩きやすいのと叩きにくいのがある。それは知ってる。だが、それは、出来の良し悪しの話だと思ってた。いい鉄は硬くて粘る。悪い鉄は柔らかいか、硬すぎて割れる。──お前と同じ縦の物差しで、僕も見てた」
ハルコルは、ゆっくりと作業台の脇に立った。
「炭との付き合い方で性質が変わる──そんな話、気づかなかった。鉄は鉄だ。あとは打ち方の違いだろう、と」
「……」
「だが、お前が今並べた五つを見れば、そうとしか思えない」
ハルコルは、ニプタイの古い試作鉄と、山丹の銃身を、指で順に指した。
「同じ砂鉄、同じ炉、同じ手で取れた鉄が、こうも違う。──しかも、片方は俺らがずっと作ろうとしてきた山丹の銃身に、たまたま近かった」
「たまたま、ですかい」
「うん。──たぶん、銃身を作るための鉄に、最初は意図せず近づいていた。砂鉄団子を始めた時、量産のために炭をたっぷり吸わせる作り方に切り替えたら、その鉄は矢じりや小刀には向くが、銃身からは離れていった。──鉄の質が良くなったわけじゃない。用途が、変わってたんだ」
「……」
「奇しくも、というやつだ」
ハルコルは、独り言のように呟いた。
「奇しくも、矢じり向きの鉄に変わってた」
「……」
「銃身向きの鉄は、もっと炭が少ない方の鉄だった。──昔の試作鉄が、それに近かった。なのに、棚の奥にしまっていた」
カニタは、ハルコルの顔を見た。
ハルコル様の目には、何か、思い出しているような色があった。
「ハルコル様」
「うん」
「何か、思い当たることが、おありで」
「いや」
ハルコルは少し首を振った。
「思い当たる、というほどじゃない。──ただ、和人の鉄砲の銃身の話を、ずっと前に、誰かから聞いたことがある気がする」
「銃身の話、ですかい」
「うん。──和人の鉄砲は、銃身を二重に巻いているらしい、という話を」
ハルコルは、ゆっくりと続けた。
「鉄板を芯に巻いて筒にした上から、もう一枚、帯のような鉄板を巻きつけて鍛接する。二重に巻くことで、筒の壁を厚くして、破裂を防ぐ。──そう作るのが、和人の鉄砲鍛冶のやり方だ、と」
「……二重に巻く、ですかい」
「うん。あくまで、僕がどこかで聞きかじった話だ。詳しいことは、知らない。──だが、和人も砂鉄から鉄を作ってる。同じ砂鉄の鉄だ」
カニタは、わずかに首を傾げた。
「……同じ砂鉄の鉄なのに、二重にしてるんですかい」
「うん。たぶん、和人の鉄砲鍛冶も分かってたんだろう。砂鉄から取った鉄は、撃つたびに内側が薄くなる。──一重じゃ心許ない、と」
ハルコルは、山丹の銃身を手に取った。
「だが、山丹のこいつは──継ぎ目を見るかぎり、一重だ。冬の終わりに分解した時、覚えてないか。中の筒と外の筒が二重に巻かれてる構造じゃなかった」
カニタは、息を呑んだ。
「……ありませんでした」
「うん。──山丹の鉄砲は一重だ。そのかわり、粘る鉄を使って、一重で持たせてる。和人は、同じ鉄を二重に巻いて、壁の厚みで持たせてる。──やり方が違うんだ」
カニタの頭の中で、何かが、勢いよく組み変わった。
(……二重と、一重)
(和人は、砂鉄の鉄で銃身を作ってる。砂鉄の鉄は脆えところがある。だから二重にして、厚みで補ってる)
(山丹の鉄砲は、粘る鉄を使って、一重で持たせてる)
(──だとしたら、俺らも砂鉄の鉄だ。二重にした方がいいんじゃねえか)
「……ハルコル様」
カニタは、低く言った。
「俺らの鉄も、砂鉄から取ってる。和人と同じだ。──だったら、俺らも二重に巻いた方がいい。一重じゃ、撃つたびに薄くなる」
「うん」
ハルコルが頷いた。
「僕もそう思う。──それに、カニタが今日見つけたことを合わせれば、もう一つ先が見える」
「……」
「銃身の内側──芯の筒は、火薬の力を直に受ける。硬いだけの鉄じゃ、弾き返そうとして割れる。──だったら、芯の筒には、炭との付き合いが短い、粘る鉄を使う。粘る鉄なら、筒に丸めても割れないはずだ。そして外側から、今のニプタイの硬い鉄を帯にして巻きつける。硬い鉄は筒に丸めると割れる──帯にして螺旋に巻くなら、筒に丸めるほど曲げなくていい」
カニタは、目を見開いた。
──そうか。芯は粘る鉄で筒にする。外は硬い鉄を帯にして巻く。筒に丸めるのは粘る方だけだ。あの七度のパキィンは、硬い鉄を筒にしようとしたから起きた。
「……和人は同じ鉄を二重に巻いてるが、俺らは、二種類の鉄を使い分けて二重にする、と」
「うん。和人がやってないことを、やれるかもしれないよ。──カニタが今日、炭との付き合い方で鉄の性質が変わると見つけた。それなら、内と外で、別の性質の鉄を巻ける。それは、カニタの発見があって初めてできることだ」
カニタは、しばらく、何も言えなかった。
「……俺は、ただ、叩いただけでさあ」
「いや」
ハルコルが、はっきりと言った。
「叩いて、音の違いを覚えていた。──三十年分の音を、今日、頭の中で並べ直したんだ。それは、誰にもできることじゃない」
ハルコルは、作業台の鉄を、もう一度見渡した。
「カニタ。炭との付き合い方で鉄の性質が変わる。これは、和人の刀鍛冶や、和人の鉄砲鍛冶は、たぶん、知ってるんだろう。彼らはずっと、自分の用途に合わせて鉄を作り分けてる。──だが、誰もそれを僕らに教えてくれなかった」
「……」
「カニタは今日、それを自分の手で見つけた。それは、すごいことだ」
カニタは、目の奥が、少し熱くなった。
だが、泣くわけにはいかなかった。──三十年、鉄を叩いてきた職人が、自分の手で物差しをもう一本見つけた、その瞬間に泣いていては、鉄に申し訳が立たねえ。
頭を下げた。深く、長く。
「ハルコル様、お願いがごぜえます」
「うん」
「ミナに、帳簿を一本、増やしてもらいてえ。──用途別の鉄、という項目だ。矢じり用、小刀用、鉞用、それと銃身用の試作鉄。それぞれ、団子の中身、送風の段階、出来上がった鉄の音と手応えを、別々に書いてもらいてえ」
「いいだろう。──ミナに伝えておく」
「銃身用の鉄は、炭との付き合いを減らす方向で試作する。砂鉄団子に練り込む木炭粉の量を減らすか、団子をやめて別の入れ方にするか。──炭と短く付き合った、粘る鉄を、まず作る」
「うん」
「粘る鉄で芯の筒を作る。その上から、今のニプタイの硬い鉄を帯にして螺旋に巻きつけて鍛接する。──内は粘りで火薬を受け止めて、外は硬さで筒を支える。最初の試作は、それで行きてえ」
「いいだろう」
ハルコルは、頷いた。
「和人の二重は、同じ鉄を二重に巻いて厚みで持たせてる。僕らが試すのは、内と外で性質の違う鉄を使い分ける二重だ。──もしこれが上手くいけば、和人より薄い筒で、和人より丈夫な銃身が作れるかもしれない」
「へえ」
ハルコルは、作業台の鉄を、もう一度見渡した。
「カニタ。──今日、お前は、新しい扉を開けた」
「扉、ですかい」
「うん。いい鉄を作るじゃなくて、用途にあった鉄を作る。──これは、銃身だけの話じゃない。これからニプタイで作るすべての道具に、関わってくる話だ。鏃にも、鎌にも、鍬にも、刃物にも、火皿にも、釘にも。──全部、別の鉄であっていい、ということだ」
「……」
「それを、誰よりも先に見つけた」
カニタは、もう一度、深く頭を下げた。
長い時間、頭を下げたままだった。
◆
ハルコルが工房を出た後、カニタは、脇差を両手で抱えた。
布の上のそれを、慎重に、丁寧に、もう一度包み直した。
明日の朝、ペカンクㇽ様に返しに行く。「役に立ったか」と聞かれたら、こう答えよう。
──長く、しまわれていた鉄が、ニプタイの工房で、自分が何の鉄かを思い出させてくれた、と。
その鉄が、俺の三十年の物差しに、もう一本の物差しを並べてくれた、と。
新しく、別の製鉄炉を作る必要があった。
銃身用の鉄を作るための炉だ。炭との付き合いを減らした粘る鉄を作る、別の作業手順。それを内側に、ニプタイの硬い鉄を外側に巻く、二重の筒。──ミナの帳簿が新しい欄を持ち、俺の頭の中も、新しい欄を持つ。
カニタは、立ち上がり、炉に薪を足した。
外では、屋根の縁から、水滴が落ち続けていた。
春の陽が、日ごとに強くなっている。
五つの鉄。
いい鉄で終わってきた俺の物差しが、今夜、横に倒れた。
第29話をお読みいただき、ありがとうございます!
おまけの解説コーナーです。
【鉄の種類について】
鉄に含まれる炭素の量が変わると、性質がまるで別物になります。
現代の冶金学でいう「炭素量の違いによる鉄の性質の変化」です。
炭素が少ない鉄(低炭素鋼)は、柔らかく、粘りがあり、曲げても割れにくい。叩くと鈍い音がします。現代では建築資材や水道管、自動車のボディなどに使われています。
炭素が多い鉄(高炭素鋼)は、硬く、澄んだ音がしますが、粘りが減って脆くなります。刃物や工具、バネなどに向いています。日本刀の皮鉄(外側の硬い鋼)はこちら側の鉄です。
そして両者の間に、用途に応じた無数の段階があります。
作中に登場させた五つの鉄を現代の分類に当てはめると、おおよそ次のようになります。
脇差──高炭素鋼(炭素量1%前後)。和人の刀鍛冶が何度も折り返し鍛錬し、炭素を芯まで均一に分布させた鉄。硬く、澄んだ音がするのに割れない。組織が極めて緻密だからです。
ニプタイの今の自製鉄──中〜高炭素鋼寄り。砂鉄団子に木炭粉を練り込んで長時間炭に触れさせたため、炭素を多く含む。硬く、澄んだ音を出す。矢じりや小刀には向くが、薄く伸ばして筒に丸めようとすると割れる。
和人の地金──中炭素鋼。和人の鍛冶屋が練り上げた、硬さと粘りのバランスが取れた鉄。道具全般に使いやすい万能型。
ニプタイの古い試作鉄──低炭素鋼寄り。砂鉄を団子にせず炉に入れていた頃の鉄で、炭素をあまり吸っていない。鈍い音がするが粘りがあり、曲げても割れにくい。
山丹(ロシア)の銃身──低炭素鋼。粘りのある鉄で、一重の筒でも火薬の爆発に耐えられる。
日本の火縄銃の銃身が二重巻張りになっている理由も、ここに関わっています。和人の鉄砲鍛冶もたたら製鉄の鉄(砂鉄由来)を使っていました。鉄板で作った芯の筒の上からさらに帯状の鉄板を巻きつけて鍛接し、壁を厚くすることで銃身の破裂を防いでいたのです。
「内側に粘る鉄、外側に硬い鉄を帯にして螺旋巻き」という二重構造は、和人の二重巻張りをさらに一歩進めた発想です。和人は同じ鉄を二重に巻いて厚みで強度を確保しましたが、本作では性質の異なる二種類の鉄を組み合わせることで、内側の粘りで火薬の衝撃を受け止め、外側の硬さで筒の形を支えるという設計を目指しています。
なお、日本刀の「造込み」も同じ原理です。外側を硬い皮鉄で覆い、内側に柔らかい心鉄を入れることで、「折れず、曲がらず」を実現しています。硬さと粘りを一つの鉄で両立させるのではなく、性質の異なる鉄を組み合わせるという発想は、日本の刀鍛冶が数百年かけて到達した知恵でもあります。
最初の製鉄シーンで鉄の音で伏線張ってたのを回収できました。
ロシア製の銃身の厚さの描写も気づいた方はいるだろうか?
鉄に関してはもう一回、発見パートを予定しています。
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